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63話 ルークvsロウ




―――ノア 「冒険者ギルド 訓練場」



 ロウの先程の言葉が脳内をぐるぐると回り、苛立ちが沸き上がってくる。


(アシュリーに『帰れ』だなんて。アシュリーが帰る場所は俺の横だ。何も知らないくせに。ルシファーに対する好き勝手な物言いも……)


 俺は心の中で、ロウに対する苛立ちを吐露する。


 出会った頃から、何かと気にかけてくれていたロウには感謝している。格闘術を学ぶきっかけになったのもロウの助言だった。


 でも、2人をバカにされた事が許せない。


 俺にとって、何よりも大切な物を傷つけた代償は絶対に払って貰う。恩人である事に変わりはないが、それを容認できるほど、俺は出来た人間ではないようだ。


 ルシファーに救われたあの瞬間に、アシュリーを抱きしめたあの瞬間に、いや、あの「追放」の瞬間に俺の頭のネジは飛んでしまったのかもしれない。


「ルーク。本気で行くぞ!?」


 ギルドの裏手にある直径30メートルほどの訓練場に着き、ある程度の距離に向かい合ったロウが口を開いた。



 周囲を取り囲むように無数の冒険者たちがそれぞれ声を上げる。


「早く始めろーー!!」

「頑張れよ、ルーク!!!」

「さっさとぶっ殺されろ、『洗濯』ヤロウ!」

「負けんじゃねぇぞ、ロウの旦那!!」

「お前の『努力』を見せてくれー!!」


 がやがやとうるさい歓声の声の中に、俺を応援してくれる声が混じってる。



 俺はそれを嬉しく思いながらも、目の前に対峙しているロウを見据えると、


「師匠ーー!! 何面白そうな事してるんですか〜!!?? ロウさんなんて、余裕ですよ!! 頑張って下さいねぇー!!」


「ルークさん!! カッコいいです!! もう、めちゃくちゃにして下さい!!」


「ルークさん!! しっかり勉強させて貰います!!」


 と、大声で叫ぶサイモン、イル、ノイヤーの声が聞こえた。俺は「ふっ」と笑いながら集中力を高める。


(相手は『元』とは言え、Sランク冒険者。少しの油断も命取りだ……)


 俺はふぅ〜っと長く息を吐き出し、さらに深く集中する。ロウの挙動に細心の注意を払い、グッと観察する。



「来ないなら、こっちから行くぞ?」


 ロウは呟くと同時に膝を落とし、加速するような姿勢を取る。身構えた俺に、ロウはふっと力を抜き、唱えた。


「『雷撃サンダーショック』!!」


 ロウの右手から雷が放たれる。


(くそ、加速はフェイントだったのか! 『狼人』の脚力は人間とは比べ物にならないし、集中しすぎた事が裏目に出てしまった……)


 寸前のところで横に飛び込み躱しながら、


「『水玉洗濯ウォーター・ウォッシュ』! 8連!!」


 と虹色の水玉を生成し、ロウに放つ。俺の体勢が崩れているので、しばしの時間を生み出すためだけの水玉だが、


「いい反応だが、少し遅いぞ?」


 とロウは俺の背後で呟く。


「『火玉洗濯フレイム・ウォッシュ』! 18連!!」


 俺は咄嗟に自分で生成した虹色の火玉で全身を包み、攻撃を牽制する。


「くっ! ……どんな魔力量してやがる!」


 ロウはそう呟き、距離を取る。両者がまた距離をとった事でポカンとしていた冒険者達から歓声があがる。


「な、なんて戦いだよ!!」

「ルーク! 負けてねぇぞ!!」

「何やってんだよ! ロウの旦那!!」

「見えなかったぜ……」


 みんなの声は俺の耳には届かない。


(後手に回っちゃダメだ。先手を取らないと相手のペースに引き込まれる。距離を詰め、肉弾戦に持ち込んで、『意識洗濯』を……)


 俺が素早く思考を進める。


「『雷斬らいきり』……」


 とロウが呟くと、雷の剣のような物がロウの右手に生成される。


「ルーク。『触れなきゃ』俺は倒せねぇんだろ?」


「……『鑑定』か」


「さぁ? どうする?」


 ロウは楽しそうに俺を見つめる。ロウの『鑑定』は相手の全てを見透かすものなのだろうか?



(さすがに戦い慣れてるな。きっと心理的な揺らぎを誘発するのが目的の発言だろうけど……)



 心の中でロウの戦闘に感心してしまうが、俺も自分の力で帰ってきたんだ。勝てる可能性はゼロではない。いや、俺は負けられない!!



 いまの俺に出来る事。いま俺に『触れられる』物。


 一つの妙案が浮かぶが、試してみた事はない。


(やってみないと、わかんねぇか)


 心の中で呟き、手を広げる。


(対象は俺の周辺以外、直径30メートルの円の中……。イメージしろ……。出来るはずだ)



「『空気洗濯エア・ウォッシュ』……」


 俺が唱えると光の粒子が高速で舞い上がる。ロウは腰を落とし、警戒したように俺を見据えるが、俺はロウに直接攻撃しているわけではない。


 光の粒子がドーム状に形造り、溶け込んでいく。


「カハッ、ハゥッ、ァア……」


 ロウは素早く異変を察知し、苦しそうにしながら超加速して俺に向かってくる。直感的にその場にいる事が危険だと判断したのだろうが、俺の狙いはこれだ。


 一瞬の隙。相手が事態を把握できない、瞬きほどの時間の生成。


 光の粒子が溶け込むと同時に、訓練場以外に漂っていた空気が、なだれ込んでくるが、焦ったロウは不用意に俺に近づいてしまった。


 俺の周辺だけが、安全地帯であると判断し、接近戦をせざるを得ない状況だと錯覚してしまったのだ。


 俺は向かってくるロウをじっくりと観察する。


(右か、左か!? いや、こっちから攻撃すべきだ!!)


 俺はロウに向かって加速し、右手を突き出す。ロウは敏感にそれを察知し、俺の右手の対処のため、雷の剣を振り上げるが、俺は左手でロウの脇腹に触れ、呟く。


「『意識洗濯コンシアス・ウォッシュ』……」


 虹色の粒子に包まれるロウは「ハハッ!」と嬉しそうに笑い、ドサッとその場に倒れた。


 一番、始めにされたロウからのフェイント。「目の良い」ロウにも、充分に力を発揮してくれた。


 右手はブラフ。本命は左手だ。


 あの一瞬の隙の中でも、ロウは「冷静だ」と信じた結果の勝利だ。


(ふぅ。無傷で勝てたのはよかった。本気じゃなかったのか?)


 俺は心の中で呟きながら、最後のロウの嬉しそうな笑顔に違和感を抱いた。


 すると、冒険者達の悲鳴にも似た歓声が訓練場に響き渡った。


「なんなんだ!! あのスキルは!! 『洗濯』じゃなかったのか!!??」

「半端じゃねぇ……!! 強すぎるだろ……」

「……お、おれは、む、『無能』なんて言ってねえ……」

「コイツは本物だぜ……。ロウの旦那が負けちまった!」



「うぉーーー!! 信じてたぜ!! ルーク!」

「さすが、『努力バカ』だぜ!! 一体どれだけの困難に打ち勝って来たんだ!!」

「し、し、師匠ぉおおおおお!!!!」



「「「「「「ルーク! ルーク! 」」」」」」


 いつの間に俺の名前の大合唱になってしまった冒険者達に、


「……これが狙いだったの……?」


 と俺はロウの思惑を察し苦笑したが、それとこれは話が別だ。2人に言われた事を簡単に許せる物でもない。目が覚めたらちゃんと謝ってもらおうと思いながら、


(はぁー……2人には俺がバカにされる時に我慢させて、自分はすぐに熱くなるなんて、ダメだよね……)


 と少し反省しながら深くため息を吐いた。



 俺はロウを抱き上げ、ゆっくりと歩く。


(確か、ギルド長室に休める場所があったはずだ)


「ルシファー! アシュリー! 行くよ!」


 俺が2人に声をかけると、


「ルーク様!!」

「マスターー!!」

「師匠!!!!」


 と焦った表情を浮かべ、こちらに駆け寄ってくる「4人」の姿が目に入る。


 3人の他にも、見知らぬフードを被った女性が、こちらに猛スピードで向かってくる事に気づき、ロウを抱えたまま、腰を落とし、いつでも動ける体勢をとる。


「後ろです!!!!」


 その女性の声に、「ん?」と後ろを振り返ると、大斧がブンブンと音を立ててこちらに向かって飛んできているのが目に入った。



 その刹那で理解する。3年間、毎日かかざす『洗濯』していた大斧である事と、その大斧を投げた犯人を。


(クソっ!)


 ロウを抱え、女性に気を取られていた俺は、一瞬反応に遅れる。もう2メートルほどの距離にまで迫っている大斧。


(大丈夫だ。すぐに躱せば問題ない!! 慌てるのは逆効果だ!)


 俺が全神経を大斧に向けると、パッと視界が遮られる。



グザンッ!!!!



 鈍い音と共に俺の目の前に広がったのは、純白の綺麗な髪と、真っ赤な鮮血だった。




次話「ルークとロウの戦いの裏で……」です。


【作者からのお願いと感謝】


ほんの少しでも、「面白い!」もくしは「次、どうなんの?」はたまた「更新、頑張れよ!!」という優しい読者様。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 正論を言われても腕力で解決完了! スカッとしますね!!
[一言] ルークの性格が変わり過ぎな気がする。
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