62話 ロウの思惑
―――ノア 「冒険者ギルド」
「ルーク。よく帰ってきたな……」
ロウはルークに『鑑定』しながら、声をかけ、その結果に驚嘆していた。
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ルーク・ボナパルト 男 18歳
魔力量 鑑定不能
トータルステイタス 鑑定不能
スキル 『洗濯』あらゆる物に干渉し洗い流す力。
装備 『神の鎧』 炎耐性、物理攻撃耐性
弱点 スキル発動時に対象に触れていなければならない。
特筆 観察眼、格闘術、柔軟性
『仲間』に対して執着している。
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(ハハッ。本物の化け物じゃねぇか……。ちゃっかり、無茶苦茶な鎧まで装備しやがって……)
ロウは以前にもルークを鑑定していたが、それはマインとルーナの息子である事や、魔力量やスキルに対してしか行っていなかった。
今回はルークの総力とスキル、弱点などに意識を集中して、改めて『鑑定』を行ったのだが、万物を鑑定可能なはずの自分の赤い瞳に『鑑定不能』の文字が映り込み、苦笑しか浮かんでこなかった。
冒険者達のルークに対する評価は半々。
死地から生還したルークの『力』を認める者。
これまでの努力や優しい人間性に好感を抱く者。
『二刀流』の悪評とともにルークを毛嫌いする者。
未だ『洗濯』は無能と決めつけ、軽視する者。
ロウは後ろでフードを深く被っている2人に視線を向ける。
(うぅーん……、後ろの2人も化け物だな。『天使』に『ドラゴン』か……。魔力総量『SSS』。確か『ドラゴン』は『火剣』のところに居たはずだが……? まぁ理由は知らんが、このメンバーでパーティーを結成して、『夢の果て』に届かなければ、おそらく誰にも到達できないだろう)
ロウはそう考えながら思案する。ルークの『力』を周知の物にし、なおかつルークがもう『二刀流』とは関係ないと大きく知らしめる必要があると考えたのだ。
(ルークの『憂い』を少しでも解消してあげたい)
ロウ自身が諦めてしまった『夢の果て』に、ルークの意識を集中させてあげたいのだ。ロウ自身、自分には届かなかった『それ』を見てみたいのだ。
つまらない難癖をつける冒険者や、カイル達を黙らせておく必要がある。こんな素晴らしいパーティーはもう二度と現れない。きっとルークは仲間のためなら、自分の『夢』すら捨てる事ができるだろう。
もし、万が一、ルークの仲間に危害を加えるようなバカが現れた時、ルークは『罪』を犯してしまう可能性もゼロではない。
『仲間に対して執着している』という特筆は、そういう危険性も考慮しないといけないという事だ。
そのためにも、ルークの『力』が常人とは異なる事を周りに示さなければならない。
『手を出せば、死ぬ』
その事実を周囲に教えてやらないといけない。それは冒険者達を守る事にも繋がるし、きっとルークのためにもなるはずだ。
(ふぅ〜……。一芝居打つか……)
ロウは決意し、ルークに視線を向ける。
「ロウさん! お久しぶりです! 再登録に来たんですが、『B』からで問題ないですか?」
ルークは穏やかな笑みを浮かべているが、この『奇跡の生還者』が再登録するタイミングを逃さない手はない。
「その3人でパーティーを組むのか?」
「はい! そのつもりですけど?」
「ル、ルー君!! 私もパーティーに入れて!!」
ラミルは焦ったように声を上げるが、
「ラミル、仕事に戻れ。いまから大事な話をする」
とロウが凄むと、グッと唇を噛み締めてトボトボと受付に戻って行った。ルークは不思議そうに首を傾げ、小さく口を開く。
「『大事な話』?」
「あぁ。『3人でパーティーを組む』とお前は言ったが、それは出来ない相談だ。その金髪の嬢ちゃんはまだしも、その赤髪の嬢ちゃんを認めるわけにはいかねぇな……」
「……えっ? 何でですか? 俺はこの3人で頑張ってみたいんですけど……」
ロウは困惑しているルークに構うことなく話を進める。
「何でこんな所に居るのか知らないが、そんな危険なヤツを冒険者として置いておくわけには行かねぇ。金髪の嬢ちゃんもかなり危ないが、ギリギリセーフってとこだ」
ロウの言葉に反応したのは、アシュリーだ。
「な、なんでなのさ!? 僕はもう冒険者に登録してるよ? ほら! 『アッシュ』って名前で!!」
「それは俺が居ない時に作られたんだろう。俺がギルドに居たら、絶対に認めていない。大人しく街から去れ。この街はお前の居ていい場所じゃない!」
「なっ! この狼人風情が! 好きに言わせておけば、この娘の事を何も知らないくせに!!」
ルシファーは金色の瞳に力を込め、ロウを威圧するが、ロウは飄々とその言葉に口を開く。
「嬢ちゃんも、本来ここに居ていい『生物』じゃない。さっさと天界にでも帰りな……。ルークの顔に免じて許可してやっただけだ」
ロウの言葉にアシュリーはグッと唇を噛み締め、ルシファーは反論しようとルークの横に出て来ようとするが、ルークがそれを片手で止め、口を開く。
「……ロウさんでも、俺の仲間を傷つけるなら許さないですよ?」
先程とはすっかり雰囲気の変わったルークの圧にロウはゴクッと唾を飲む。
(コイツは……想像以上だな……)
心の中で呟きながらも、挑発が上手く行った事に安堵する。この張り詰めた雰囲気でしか伝わらない物もある。
(冒険者達に食い付かせるためには、俺達が揉めているという雰囲気、いや、事実があった方がいい)
ロウは小さく息を吐き口を開く。
「ルーク、しっかり考えろ。そんな爆弾を手元に置いておく必要はねぇよ。自分の『力』には気づいたんだろ?」
「……もうやめて下さい。冗談で言ってるわけじゃないです。これ以上、俺の仲間を侮辱したら……」
「どうしても、3人で居たいなら、……いいだろう。俺と試合しろ。俺に勝てたら赤髪の嬢ちゃんも認めてやる」
「……俺が勝ったら、2人に謝ってくれますか?」
「ギルドマスターとしての対応をしてるだけだ。『魔物』を野放しにするわけにはいかねぇ」
アシュリーはビクッと身体を震わせ、ゴクリと息を飲む。それを機敏に察知したルークの雰囲気がまた一段と跳ね上がったのを感じる。
「……もう一度言ってみろ」
ロウはルークの真っ直ぐな紺碧の瞳に、マインの姿が蘇る。思わず、目頭が熱くなるが、いま泣くわけにはいかない。
(すっかり立派な『男』になりやがって……)
ロウは心の中でそう思いながらも、懸命に嫌われ役を演じる。
「ハハッ。俺に勝てたら、全てを認めてやる。その代わり、『何かあった時』は全責任は俺がとってやるから心配するな!」
「……それは挑発にしかなってねぇぞ? 『何か』なんて、起こらない。俺の『仲間』だ!!」
「……ルーク。なら、示してみろ。お前の『力』を。訓練場に行くぞ」
「………」
ロウはギルドの裏手にある訓練場へと足を進め、ルークも黙ってその後を追う。
会話こそ聞こえていなかったが、冒険者達はただならぬ雰囲気を醸し出しながら、歩き始めた2人にざわつき始める。
「あんな真剣なロウの旦那は見た事がねぇ」
「46階層から生還したルークと元Sランク冒険者『獣ロ組』のリーダー、『狼人のロウ』か……。これ、どうなるんだ?」
「ハハハハッ。『奇跡の生還者』の化けの皮が剥がれるぞ! これは見ものだぜ!!」
「『洗濯』しかできねぇ無能がロウの旦那に勝てるわけねぇ!! ボロボロになって泣くのがオチだぜ!」
「うるせぇーんだよ!! 確かに、ロウの旦那の方が強いとは思うが、ルークの努力をバカにするんじゃねぇ!」
冒険者達の反応も上々だ。
ロウは無言でついてくるルークに、
(あとは俺がどれだけもつかだな。瞬殺だけは気をつけねぇと……)
と自分が本気で戦闘したところで、ルークに勝てるはずがないが、「せめて善戦するだけだ」と決意する。
「ルーク様……」
「マスター……」
後ろからルークの「新たな仲間」がルークに声をかけた。
「大丈夫。心配するな。絶対、2人に謝ってもらう……」
「心配などしていません! ルーク様の勇ましいお姿にお名前を呟いてしまっただけです」
「心配なんてしてないよ! 僕はマスターが怒ってくれて、嬉しくなっちゃっただけだよ?」
ルークの言葉に2人は信頼の眼差しを向けている。
(いい仲間が出来たじゃねぇか……)
ロウはルークにはバレないように微笑み、(よし……)と気合を入れた。
本音を言えば、ルークにどれだけ自分が通用するのか、少し楽しみにすらなってしまっている。
それは仕方ない。元はと言えば、ロウは『未知に挑み続けていた冒険者』なのだから。
次話「ルークvsロウ」です。
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