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61話 アランの焦燥


side アラン


―――ノア


 酒の飲み過ぎに、激しい頭痛を感じながら俺は目を覚ました。


 外はすっかり日が昇っている。


(夜まで暇だな。適当に女でも買いに行くか)


 とキラとの作戦会議までの時間を、女を抱く事で潰そうと軽い気持ちで外に出ようとしたところで、金を入れていた巾着がない事に気づく。


 昨日、というより、今日の朝キラに相当量の金を渡してしまっていた事を思い出し、小さく舌打ちをしながらも、貯蓄していた金貨数枚を手に、ノアの街に繰り出した。



 街の異変はすぐにわかった。


 俺の顔を見るなり、コソコソと何かを言っているのがすぐに目に入ったからだ。


「なんだよ!? 文句があるなら前に出ろや!!」


 俺は陰口を叩かれている事に反射的に声を荒げたが、すっかり静まり返ったヤツらに「フンッ!」と鼻で笑って「売られた女達」がいる店へと足を進めた。


(面と向かって文句を言う度胸もねぇくせに、コソコソしてんじゃねぇよ!)


 などと考えながらだらだらと足を進めていると、冒険者の男達が嬉しそうに話している姿が目に入る。



「本当だって!! 帰ってきたんだよ! ピンピンしてたぜ?」

「無理だろ。46階層だったんだろ? それが本当なら『Sランク』って事じゃねぇか!」

「まぁ、信じられねぇ気持ちはわかるけど、すげぇ美人と可愛い子供を引き連れてる所を見たんだよ!」



 俺は上手く聞き取れず、何の話しをしているのかを確認しようと距離を詰め、声をかけた。


「どうしたんだよ? 『Sランク』とか聞こえたが、俺達は『人殺し』なんてしてねぇぞ?」


 冒険者達は俺に気づくと顔を顰め、あからさまに嫌そうな顔をする。昨日の記憶が鮮明に蘇り、沸々と苛立ちが沸いてきてしまう。


「なんだよ!! 文句があるなら言ってみろ!! どうせ、何も言えねえんだろ!?」


 そのまま声を荒げると、その冒険者達は真っ直ぐ俺を見据えて口を開いた。


「テメェの事じゃねぇよ!」


「本当だぜ! テメェみてぇに偉そうな『人殺し』が帰ってきて、こんなに嬉しそうにしてるわけねぇだろ!」


「チィッ!」


 俺は舌打ちして冒険者の胸ぐらを掴み、路地裏に引き込み、適当な壁に押し当てる。


(ここなら、多少無茶してもバレねぇだろ……)


 俺は心の中で呟き、声を上げる。


「いま謝ったら許してやるぞ?」


「な、なんだよ! 別にテメェなんか怖くねぇ!! 俺はもう、ただ震えるのは辞めたんだ!!」


「クソが……。殺されなきゃわからねぇみてぇだな?」


「テメェなんて、カイルの金魚のフンじゃねぇか!! 勘違いしてんじゃねぇよ!」


 男の言葉に、身体の内側で血管が切れるような音が響くのを感じた。


 俺はその男を力任せに殴り飛ばすと、ソイツは口から血を流しながらもグッと瞳に力を宿らせた。


 その姿には見覚えがあった。いくら殴り飛ばしても、決して恐怖を顔に滲ませない銀髪の姿だ。それはことごとく俺の苛立ちを倍増させる顔だが、


(こういう顔のヤツは危険だ。追い詰められば、肩の関節を外される……)


 と苦い記憶と共に、自分の肩がじんわりと熱くなり、わずかばかり、怯んでしまった。


 だが、目の前の男はルークじゃない。格闘術も習っていないだろうし、特殊な力なんて持っていない。いたって普通の冒険者だ。


(クソがッ!! 嫌な事思い出させやがって……。昨日のやつと言い、コイツと言い……俺を舐めくさりやがって……。金魚のフンだと? この俺が? いつも最前衛で魔物と対峙して来た俺が?)


 俺は明確に湧き上がってくる殺意を懸命に抑えながら、グッと眉間に皺をつくり口を開いた。



「『金魚のフン』ってのはな……。46階層で俺達にぶっ飛ばされて、ブルブル震えながら、どうする事も出来ず、魔物にぶっ殺された『アイツ』の事なんだよ……。俺は違う!! 『二刀流』を引っ張って来たのは俺だ!! カイルじゃねぇ!! アンでも、ジャックでも、ましてや、あんな『無能』でもねぇ!! 俺だ!! 俺が、ここまでアイツらを引っ張って来てやったんだ!! 舐めてんじゃねぇ!!!!」


 俺の怒号に男は「ハッ」と鼻で笑う。侮蔑、嘲笑の笑みに俺はまた拳を放つが、もう1人の冒険者が横から俺に蹴りを入れる。


「ふざけんな!! どういう事だよ!!?? テメェらが、ルークを殺そうとしてやがったのか!!」


「……うるせんだよー!!」


 俺はソイツにも殴りかかる。自分がバカにされた事に冷静さを欠いて、何も考えずに言ってはならない事を口走った自覚は、随分と遅れてやってきた。


 それを打ち消すように2人の男の顔を殴り続けた。顔がぐちゃぐちゃになりながらも、瞳には力が残っている。



「クソッ! クソッ! そんな目で俺を見るんじゃねぇ!! さっさと死にやがれ!!」


 俺の拳には2人の血が滴り、ポタポタと地面に血溜まりを作っている。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ」


 自分の荒い呼吸だけが裏路地にこだまする。俺は返り血で汚れてしまった上着で全身の血を拭き取り、すぐそばにあったゴミ溜めにその上着を投げ捨てた。


 大きく深呼吸をして、その場から立ち去ろうと歩き出すと、小さな小さな声が鼓膜に届いた。


「エメェらんて、ドゥークにクシュウさでて、じんじまえ……」


 男の呂律は無茶苦茶で、ボロボロの口で上手く言葉を言えていなかったが、なぜかその言葉の意味がはっきりとわかった。


『テメェなんて、ルークに復讐されて、死んじまえ』


 その言葉がぐるぐると脳内に駆け巡る。


(……何を言ってるんだ? コイツは……)


 しばらくその場に立ち止まり、何度も何度も言葉の意味を考えていると、この冒険者達に出会った時の聞き取れなかった言葉の意味を理解した。



「本当だって!! 帰ってきたんだよ! ピンピンしてたぜ?」

「無理だろ。46階層だったんだろ? それが本当なら『Sランク』って事じゃねぇか!」



 俺は最後に見たルークの姿を思い返す。


 ボロボロになりながらも、青い瞳に力を宿らせ、嘲笑した俺達を睨んでいた姿だ。


(無理だ。死んでるに決まってる! 確か魔物の咆哮も響いていたはずだ!! あそこから生きて帰れるはずがねぇ!!)


 俺は咄嗟に振り返り、声を上げた男に声を荒げた。


「おい! なに適当言ってやがる!! おい!!」


 反応しない冒険者の首元を掴み起こすが、どうやら意識を失っているようだ。



(なんだ? 何が、どうなってる? 俺は、俺はどうすればいい!?!?)


 もし、ルークが生きているのなら、絶対に俺達の事を言いふらすはずだ。ただでさえ疑われてるんだ。俺達は終わりだ……。


(カイルどころじゃねぇ!! 早く確かめて、ルークを殺さねぇと!!)


 俺は宿に走った。手早く鎧を装備し、慣れ親しんだ盾と斧を手に取ったが、全く手に馴染まなかった。




次話「ロウの思惑」です。


【作者からのお願いと感謝】


ほんの少しでも、「面白い!」もくしは「次、どうなんの?」はたまた「更新、頑張れよ!!」という優しい読者様。


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アラン無能すぎるな(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] 街中でこんな事をしたら明確に犯罪者に成っちゃうのにね。
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