52話 ローラの決意
―――ノア 「豊穣の宿」
ローラはシルフに連れられ、あっという間に宿に帰って来た。荷物を全て整理して宿を出たのに本当にすぐ帰って来てしまったので、少し恥ずかしい気持ちを抱えながら、また宿を取り、宿泊していた自室に戻った。
「ねぇ、ローラ。どうするの? 『あの人』……」
シルフは何かに怯えながらローラに話しかける。そんなシルフを見るのは8年ぶりだ。『あの女』に2人を殺された時以来だ。
「何をそんなに怖がっているの?」
「ローラはあの3人の化け物みたいな『力』がわからないの?」
ローラはシルフの言葉に、ルークの無邪気な笑顔を思い出し、頬を染めてしまう。
(あの金髪の美人さん。彼とどんな関係なんだろ……?)
ローラが心の中で2人の関係にモヤモヤしてるとシルフは慌てて声をあげる。
「ローラ!! それどころじゃないよ!!」
「……『私の心は覗かないで』っていつも言ってるでしょ?」
「覗いてないよ!! そんなあからさまに頬を染めて、瞳を潤ませてたら、だいたいわかるよ!」
シルフの言葉にさらに頬を染める。自分にはそんな資格はないとわかっているのに、高鳴る心臓は自分では制御できない。
ローラは「んんっ!」と一つ咳払し、口を閉ざすと、シルフは呆れた様子でまた口を開いた。
「で、これからどうするの? まさかあんなに恐ろしい生物達と『行動を共にする!』なんて言わないよね?」
「……!! それだわ!! シルフ!!」
「う、嘘でしょ……?」
「いや、でも……。私は……」
ローラはシルフの言葉にパッと希望を見出したが、すぐにそれは無理だと悟る。
(彼が私を許してくれるはずがない……。何百、何千回、謝罪したところで、私は彼から大切な人達を奪ってしまった事実は消えない……)
どんよりとした空気が部屋に漂う。シルフはズゥーンッと落胆しているローラに、ふぅ〜っと長く深いため息を吐いた。
(あんな化け物達には金輪際会いたくないけど、ローラがそれを望むなら仕方ないよね?)
もう、500年ほどの付き合いになる親友の落胆の表情にシルフは諦めたように笑みを浮かべ、ローラとの出会いを振り返った。
「あら。可愛い妖精さん。私の瞳と同じ色ね?」
そう言って声をかけてくれたのはローラだけだった。精霊はみんな「孤独」を抱えている。誰の目にもうつらない。誰かと話す事すら叶わない。
「適性」がある生き物と出会わなければ、そのまま他の精霊と傷を舐め合いながら生きていく事しかできないのだ。
初めて『目が合った』生物がローラであり、シルフを外の世界へと連れ出してくれた大恩人に少しでも恩を返すためにシルフは口を開いた。
「ローラ。『村正宗』を『あの子』に渡しに行けばいいんじゃない……?」
「そうね。あるべき場所に返さないといけないわね。私にできる事はそれしかないんだから……」
「ローラ。……『アレ』はローラのせいじゃないよ?」
シルフの言葉にローラは唇を噛み締めた。
(冗談言わないで。私がいなければあんな事にはならなかった。2人が命を落とす事なんて絶対なかったんだから……)
自分がルークに謝罪する事は何だか自己満足のようで、気が進まないが、彼には知る権利がある。そして、それを伝えるのは自分からでないといけない。
ローラは決意を決める。ルークに『合わせる顔がない』と逃げる事を辞める決意だ。
(もしかしたら、私は彼に命を絶たれるかもしれない。彼にはその資格がある)
ローラはゆっくりと口を開いた。
「シルフ。今までありがとうね?」
「……ローラ、君に一生嫌われたとしても、あたしは君を死なせるつもりはさらさらないよ!」
ローラはそれには答えず、つい先程帰ったばかりの宿からマインの愛刀を大事そうに抱えながら一歩を踏み出した。
次話「彷徨うアン」です。
【作者からのお願いと感謝】
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