42話 『追放組』の帰還 ①
―――12階層
サイモン達の賞賛の声は凄まじいものだった。
「師匠!! もぉ!! 師匠!!!!」
「ルークさん! 本当に強すぎますよ!!」
「ルークさん。なぜそんなに美しんですか!!?」
サイモンの語彙力に微笑し、ノイヤーの憧憬の眼差しに困惑し、イルの真っ赤な顔に苦笑した。
ほとんどの戦闘を俺達が引き受けており、サイモン達はただただそれを眺めていた。
Aランクパーティーにじっと戦闘を見られるのは少し恥ずかしかったが、俺、ルシファー、アシュリーの連携はかなり良くなって来たと思う。
サイモン達の賞賛はお世辞半分、本音半分と言った所だろうが、
(嘘でも嬉しいもんだな)
と心の中で呟き、心の底から驚嘆しているような3人に俺は気分を良くした。
それから、「神鎧」は本当に優れていた。まぁ、上層に上がる度に魔物の力量が徐々に弱くなっている事も原因の一つだと思うが、魔物からの物理攻撃を腕で受けても一切ダメージがなかったのだ。
身体にフィットし、装備している事を感じさせず、絶大な防御力を発揮してくれているので、戦術の幅がかなり広がったのは僥倖だ。おそらく、今後のダンジョン攻略でかなりの活躍を見せてくれるだろう。
「神鎧」の力は、35階層主であるギガントミノタウロスの一撃でも大丈夫なのでは? と思ったほどである。
実験の意味も込めて、わざと腕で受けたのだが、ルシファーとアシュリーが血相を変えて、心配してくれたのも、何だか嬉しかった。
1日、ぶっ通しで魔物との格闘はもっとキツいものになるか? と思っていたが、下層での疲労を考えれば全く問題にならないものだった。
あと少しで地上に帰れるが、まだ午前3時。朝焼けまであと2時間もある。
(このままだと早すぎる!!)
とルシファーへのサプライズのため、休憩を頻繁に取っているが、ルシファーに勘付かれるのでは? とヒヤヒヤしている所だ。
「ルーク様。少しは自分の美しさと逞しさ……、カッコ良さを自覚して下さい……」
給水をしている俺にルシファーは口を尖らせる。
「え? 何かしちゃったかな? かなり順調だと思うけど?」
「……私は2人っきりの時の方がよかったのに……アシュリーが来て、さらには関係のないエルフまでも虜にして……」
ルシファーは小さな声で何か言ったようだが、俺には全く聞き取れなかった。
「ルシファー? どうしたの? ごめん。小さくて聞こえなかったよ?」
俺が首を傾げルシファーに問いかけると、アシュリーが慌てたように声を上げた。
「マ、マスターの『力』が凄いって言っただけだよ!! あとちょっとで地上だよね? 最後まで気を抜かずに頑張ろうね?」
アシュリーは少し漆黒の瞳を泳がせながら一息で言い終えると、ルシファーは目を見開きアシュリーを凝視していた。
それに気づいたアシュリーは何やらドヤ顔をしているし、なんだか1人取り残されたようで、俺が首を傾げる事しか出来ずにいると、
「アシュリー!! ルーク様に嘘をつくなど、あなたと言う人は……!!」
「何さ! 自分だけ抜け駆けしようとしても無駄だよ! 僕がそれを許すはずないでしょ?」
「……ルーク様は渡しませんよ!!」
「それはこっちのセリフだよ!!」
と2人のバトルが始まったことに苦笑していると、イルが俺の方に近づいてきた。
「ル、ルークさん。エ、エルフの事はどう思いますか?」
「え? うぅーん、考えた事なかったな。確かとっても寿命が長いんだよね?」
「は、はい!! ずっと若いですよ!!?」
イルは嬉しそうに、キラッキラの笑顔を向けてくるが、俺はイルの考えが全く読めず、
(何でそんな当たり前の事を言っているんだろう?)
と首を傾げた。
「ハハハハッ! イル! 師匠は多分、無理だよ?」
サイモンがイルの後ろから顔を出すとイルはサイモンをキッと睨んだ。
「サイモン、何が無理なの?」
「ふふふッ。師匠はきっと、ずぅーーっとわからないと思いますよ? それよりも、Bランクからですよね?」
「ん? そうだね。俺はサイモンの『師匠』だからね。それに恥じない所までは、すぐ行くよ!」
慕ってくれているのは充分伝わっている。それに恥じない俺でいたい。大丈夫。俺は1人じゃない。きっと行けるはずだ。
当面の目標は45階層主の「サイクロプス」。44階層までは問題なく進めるだろう。ルシファーと2人でも無事帰って来られたのだ。
アシュリーがいるのだからもっと楽に進めるはずだ。
俺はカイル達と戦っていた一つ目の巨人の姿を思い浮かべる。カイル達はかなり苦戦していたが、今の俺ならやれそうな気がする。
ルシファーとアシュリーが居てくれれば、俺は本当に何だって出来そうな気がするんだ。『Sランク冒険者』と言う夢も、『夢の果て』という夢だってきっと叶えられる。
「師匠……。かっこよすぎですよ!!」
サイモンは少し頬を染めて、いつも通りの人懐っこい笑顔を浮かべる。
「師匠達に追いつけるように、俺達も頑張ります!! お互い頑張りましょう!!」
と声を張り上げた。
「ハハッ! サイモンの方がランク上じゃん?」
俺は思ったまま口を開いたが、サイモンはジィーッと俺を見つめる。
「な、なに……?」
「……師匠! それは嫌味にしか聞こえませんよ?」
サイモンは少し口を尖らせて、困惑しつつも、笑いながら口を開いた。そんなつもりは微塵もなかったが、サイモンがそう思ってくれるなら、ありがたい。
「ふふっ。ごめんね?」
と俺は一つ笑ってサイモンに答えた。
最前線で戦っているAランクパーティーのリーダーがそう言ってくれるなら、自信がつく。俺はもう一度「ふっ」と笑ってから、時計をチラリと確認する。
午前3時30分。
(そろそろ行くか……)
俺はふぅ〜っと長い息を吐き、みんなに出発を促した。
―――11階層
「ちょっとは俺達にも働かせて下さい!!」
サイモンはそう叫んで、道を先行して歩き始めたが、
「……ルークさんの前で戦闘見られるなんて、どんな罰ゲームだよ!」
とノイヤーはサイモンに悪態を吐き、
「私はルークさんの戦ってる姿をずっと見ていたかったのに!!」
とイルもサイモンに怒っていたが、いざ戦闘が始まるとノイヤーとイルの実力は相当な物だった。下手したらカイル達よりも強いかもしれない……と思うほどだった。
上層である事を考慮しても、一切の無駄がない動きは感嘆する他なかった。
「へぇ〜!! すごいね!? 流石2年でAランクになっただけあるよね!!?」
と俺がルシファーとアシュリーに声をかけると、2人は呆れ返ったように、引き攣った笑みを浮かべ、口を開いた。
「ルーク様にご自分の戦闘を見せて差し上げたいです」
とため息混じりのルシファー。
「マスターはもっと自信を持たないとダメだよ!!」
と唇を尖らせるアシュリー。
(2人とも凄くあきれてるな。それにしても、俺の戦闘ってどんな感じなんだろう?)
と心の中で呟く。すると、サイモンが大きな声で、「師匠おぉお!!」と叫んだのでそちらに視線を向ける。
「どうですか!? 俺達、『クラップハンズ』パーティーは!?」
サイモンはニコニコと叫ぶと、ノイヤーとイルが慌ててサイモンの頭を叩いた。
「バカ! 恥ずかしい事聞くんじゃねぇよ!」
「や、やめてよ! それにサイモン何もしてないじゃない!」
と2人とも少し顔を赤くして、サイモンを怒っていた。サイモンは頭を叩かれながらも、楽しそうに「ハハハハッ!」と笑っており、サイモンがいい仲間と巡り会えてよかったな……と心底思った。
「ノアの街」はもうすぐそこだ。
次話「『追放組』の帰還 ②」です。
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次話で一章完結です!!
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