40話 カイルと『ローラ』 ①
―――ノア
アンの「躾」を終えて、少し仮眠をとり、昼の12時を少し回った頃、カイルは目を覚ました。
隣で涙の跡を残して眠っているアンを一瞥したが、
(ふっ、『駒』は大人しく盤上に転がってろ……)
と心の中で悪態を吐き、支度に取り掛かった。
昨日の苛立ちを発散できたカイルは上機嫌だった。その要因の一つに、新たなサポーターとして加入が決まっている元Sランク冒険者のローラと会う事も含まれている。
支度を終えたカイルは未だ眠ったままのアンを放置し、ローラが宿泊している「豊穣の宿」に向かう。
「おっ! アレが『二刀流』のカイルか!」
「Sランク昇格おめでとう!!」
「3年は最短記録らしいぞ。……どれだけ強いんだ?」
街を歩くと、住人から声が上がる。昨日の冒険者共の態度にはかなり苛立っていたが、これが本来あるべき姿だと、カイルは愛想よくその声援に応えた。
道すがら、ローラの事を考える。
後方からの弓の支援と『風の精霊シルフ』から寵愛を受けており、サポーター役でありながら、稀有な力を持っているのは周知の事実だ。
しかし、ローラには不明な点が多い。ルークの両親の「鬼姫」のパーティーに所属していたのか、ロウやロアナ達の「獣ロ組」に所属していたのか、情報が曖昧なのだ。
「鬼姫」の2人はすでに死んでいるし、「獣ロ組」の「3人」も、なぜか固く口を閉ざしているのがローラに関して情報が少ない事の原因だ。
パーティー解散と共に、長らく姿を隠していたみたいだが、前回のダンジョン遠征の前にカイルに直接、
「私を『二刀流』のサポーターとして加入させて下さい……」
と言って来た時は、神が自分にダンジョンを制覇しろ! と言っているようにすら感じた。
Sランクを目前に控え、丁度ルークを捨てようとしていた所での、この申し出にカイルは緩む口元を抑える事ができなかった。
カイルはふぅ〜っと大きく息を吐き、ローラの姿を思い浮かべた。
純白の長髪を後ろで縛っており、透き通る白緑の瞳と絶妙にマッチしている。尖った耳に透き通る白い肌。バランスの取れた容姿は不変であり、ずっと美しさを維持しているのは、ローラが長い寿命を生きるエルフだからだ。
(完璧なスタイル。完璧な容姿。完璧な力。ローラはまさに、完璧な俺にぴったりの女だ)
カイルはますます機嫌を良くする。ローラが宿泊している宿へと向かう足が、自然と速くなっているが、それは仕方のない事だ。
『二刀流』の自分に群がってくる女達は無数に居るし、この街に来てから無数に女を喰って来たが、ローラの美貌は別格であり、カイルは生まれて初めての感情を抱いているのだから。
今回、ローラがなぜこのパーティーに加入してくれるのかは、言葉を濁されたが、確実に『二刀流』パーティーの質は向上するし自分の女とする事もできるので一石二鳥だとカイルは考えていた。
(クククッ。経験豊富なローラが加入すれば、あのクソ無能のちんけな『力』など、何の意味も持たねぇ)
ダンジョンから地上への道中、何百、何千と頭を駆け巡った考えが、またカイルの頭によぎった。
(あとはSランク昇格した俺の実力とローラの加入で、どれだけ、強力なスキルを持ったヤツが俺に頭を下げるか? だけだな……)
そんな事を考えていると、ローラが宿泊している「豊穣の宿」に到着した。カイルが店内に入ると、パッと笑顔を作る醜い受付の女。
「いらっしゃいませ! カイル様ですよね? 私、ずっと『二刀流』を応援していたんです!」
「ありがとう。民衆の応援のおかげで、ようやくSランクに辿りついた」
「そんな事ないですよ!! カイル様の実力です!」
カイルはその言葉に作り笑顔で応えた。内心では、
(何を当たり前の事を言ってやがる! 醜いブタが!!)
と冷たく言い放っていたが、ここはダンジョンではない。民意を敵に回せば、生きづらくなる事は重々承知しているが、カイルは息が詰まりそうになる。
(さっさとダンジョンに潜って、すぐにでも『何か』を壊したい……)
「あの日」から、決して満たされる事のない破壊衝動に身体を蝕まれながら、受付の女にはバレないように小さく息を吐いた。
「ここに、ローラが宿泊しているはずだが?」
「……! あの綺麗なエルフさんですね?」
「ああ。呼んで来てくれ」
「……わかりました」
受付の女はあからさまに落胆し、そそくさと階段を駆け上がって行った。
(めんどくさい女だ。お前のような醜い女を俺が相手にするはずがないだろうが)
と苛立ちながら、近くに置かれてある椅子に腰掛ける。
受付の女はカイルに一礼し、受付に腰掛けた。
しばらくすると、コツッコツッと足音が聞こえ、ローラが姿を現した。
カイルはあまりの美しさに息を飲む。
哀しげな表情は儚く、窓から差し込む日差しに純白の髪が透けている。涼しげな目元でカイルを一瞥し、軽く頭を下げる。
(ハハッ。なんていい女だ……)
カイルは心の中で感嘆の声をあげる。白緑の瞳と目が合うと、ドクンッと心臓が高鳴る。今までに感じた事のない動悸にカイルは口角を吊り上げていると、ローラがゆっくりと口を開いた。
「カイルさん。お待たせしました」
「ああ。気にするな」
カイルは少し身体が熱くなるのを感じながら、小さく呟き、経験した事のない感情に戸惑いながらも、笑顔を作った。
次話「カイルと『ローラ』 ②」です。
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