39話 師匠の力量
side サイモン
―――23階層
目の前で生き生きと戦闘を行っている師匠に開いた口が塞がらなかった。
(な、なんて強さだ……)
昨日、お酒を飲んでいる時、
「『洗濯』って戦闘にも使えたんだよ!」
と楽しそうに話してくれていたのだが、これほどとは夢にも思わなかった。
師匠の事を疑っていたわけではないが、コレを見て驚かない人間なんて1人もいないと断言できる。
その証拠に俺のパーティーメンバーのイルとノイヤーは呆然と師匠に瞳を奪われている。
魔物の出現がいつもの3分の1程度に減少しているように感じるが、それも師匠の『力』なのだろうか?
俺の『クラップ』という時間を巻き戻すスキルを使う必要なんて皆無だ。
ルシファーさんがとてつもない光の焔で周囲を照らし、アシュリーさんは師匠の背後で師匠の指示を忠実に再現する。2人ともかなり優秀であるのは一目瞭然だが、それを根底で支えているのはやはり師匠だ。
『洗濯』の仕組みはわからないが、師匠が触れ、何かを唱えると、虹色の光がダンジョンに飛び回り、魔物を包んだかと思ったら、パッと消える。
その他にも、虹色の光に包まれた「火玉」や「水玉」の威力は明らかに規格外だ。この2年で、たくさんの魔導士の魔法を見てきたが、あんな風に着弾箇所が一瞬で消滅する魔法なんて、見たことがない……。
(こ、こんなの『最強』じゃないか……)
「な、なぁ、サイモン……。ルークさんって……」
ノイヤーが引き攣った笑顔で小さく呟いた。
「ああ。間違いなく今の冒険者の中で『最強』だ! いや、今までの冒険者も含めてかもしれない……」
「……ルークさん!! 何て素晴らしいお方でしょう!! ねぇ、サイモン!! ルークさんに恋人はいるの!?」
イルの目はすっかりハートの形になっていて苦笑する。
「イル。気持ちはわかるけどかなり険しい道のりだぞ……?」
イルはハッとしたように、顔を顰めた。
「た、確かに、あの2人の美しさはかなり手強いわ。外見だけで言えば足元にも及ばないのは自覚してる! ……び、美人って3日で飽きるって言うよね? ねぇ!? 聞いてる!?」
イルの言葉を聞き流しながら、考察を深める。
強力な『洗濯』や規格外魔法に目がいきがちだが、それらを支えているのは「目の良さ」だ……。
師匠にはおそらく、「少し先の未来」が見えている。俺の『クラップ』のように実際に見ている訳ではないと思うが、「未来」が見えているとしか考えられない。
「アシュリー! 真ん中を潰したら、右のヤツが動く、少し動きを止めてろ! すぐ行く!!」
「はい! マスター!!」
師匠はそう言うと3体のトロールの真ん中に突っ込み、即座に『洗濯』する。虹色の粒子が包み込みパッと姿を消すと、右のトロールがコン棒を振り上げ、そのまま振り落とす。
しかし、アシュリーさんが竜の鱗のような物で難なく受け止めた瞬間に師匠はまたトロールを『洗濯』した。
(アレ? 左のトロールは……?)
と視線を向けると、今まさに虹色の「水玉」が着弾する所だった。
(ハハッ。どれだけ視野が広いんだ……)
「はぁ、はぁ、ルークさん。戦ってる時のギャップが堪らないわ!! 普段はとっても優しくて綺麗なのに……。こんなに勇しくて強い……」
イルはもうすっかり、師匠の虜になったようだ。まぁ気持ちはわかる。俺もドクドクと心臓が脈打っている。まぁ俺の場合は、恋というより、憧れだが……。
(このパーティーは、本当に……)
そう心の中で呟くと、身体がブルッと震えた。俺は病気がちな妹のために冒険者をしているが、夢をみないわけではない。
(『夢の果て』か……)
師匠には悪いけど、夢物語だと思っていた。でも、目の前の光景はどうだろう?
いつも綺麗な笑顔で青い瞳を輝かせていた師匠の姿が目に浮かび、なんだか目頭が熱くなってくる。
(よかったですね……師匠……!!)
思わず涙を浮かべてしまった俺に師匠はゆっくりと近づいてくる。
「サイモン、どうしたの? イルちゃんは顔が真っ赤だけど、体調は大丈夫?」
「ルークさん!! 俺感動しました!! 俺にも格闘術を伝授して下さい!!」
「ハハッ。ノイヤー君。またいつでも訪ねてよ。サイモン、平気?」
心配そうな青い瞳が俺に向けられる。
「だ、大丈夫です!! そんな事より師匠!! 完璧な連携と力!! 師匠は絶対、『夢の果て』に届く人だ! って心から思いましたよ!!」
「もちろん、目指すよ。俺の『夢』はそこだからね。ルシファーとアシュリーが居てくれたら、なんだって出来そうな気分なんだ……」
師匠がそう言うと、ルシファーさんとアシュリーさんは頬を染めて師匠を見つめている。
(本当によかった!)
師匠の幸せそうな笑顔が眩しい。俺にも「追放」される辛さがわかる……。俺の場合はダンジョンの中に置いてけぼりなんて鬼畜な事はなかった。
きっと俺以上にきつい思いをしたはずな師匠の、曇りひとつない笑顔が眩しくて仕方なかった。
「師匠!! そういえばパーティーの名前はどうするんです??」
「そっか。名前かぁー……。確かに、あったほうがいいよね? ルシファー、アシュリー。どうしようか?」
師匠は2人に声をかけるが、2人は愛おしそうに師匠を見つめるだけで何も言わない。
「……うぅーん……」
「ルーク様が決めて下されば、どんな名前でも最良の名前ですよ?」
「そうだよ! マスターの力になるために僕はいるんだ! マスターが決めればいいと思うよ?」
「ハハッ。難しいね。あっ! 『追放組』ってどうかな……?」
師匠は不安そうに、2人の顔を見つめる。少し驚いたルシファーさんとアシュリーさんに不安を煽られたのか、師匠はすぐにまた口を開いた。
「俺達はみんな辛い気持ちを知ってる……。『孤独』を知ってる。それが強さにもなれるって、全生物に見返すんだ!! 虐げられる全ての人の指針になるんだ! 追放されても、幸せだって!! そんな俺達を見てみんなの心の支えになれれば……って思うんだけど……」
師匠は照れ臭そうに頬を染める。
「こ、子供っぽいかな……?」
「ふふっ。ルーク様の優しさが詰まった、いい名前だと思います!!」
「そうだよ!! マスター!! 『追放組』がこのダンジョンを制覇するなんて、ロマンがあるじゃないか!」
2人の言葉に師匠は顔を真っ赤に染め、
「あっ。やっぱりなし!! 何か弱そうだし、恥ずかしくなって来ちゃった!!」
と大きな声で2人に声をあげていた。そんな『追放組』を見ながら、俺は自然と微笑んだ。
(『追放組』か。ハハッ!! タイミングが合えば俺も加入したかったな……。『追放』された俺は、条件はクリアしてるよね?)
と心の中で呟いたが、俺が入った所で邪魔にしかならないだろう……と苦笑する。
「さ、サイモン!! 私を『追放』して!! 今すぐに!!」
イルは大きな声でそう懇願すると、ルシファーさんとアシュリーさんがイルの両肩に手を置いて、微笑みかけていた。
イルはその顔に一気に青ざめていて、俺とノイヤーはそれを笑った。「ん?」と何が起きたのか、まるでわかっていない師匠を見ながら、俺は『追放組』の大成を確信した。
次話「カイルと『ローラ』 ①」です。
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