37話 新しい鎧
―――28階層 「ロアの宿」
食事が運ばれて来たのにも関わらず、2人はずっと俺があげたプレゼントを眺めて頬を染めている。
ルシファーはロアナに頼み、鏡でずっと髪留めを見ているし、アシュリーは首にぶら下がっている赤い石をニコニコと見つめていた。
(かなり喜んでくれてる! 買ってよかった)
と、初めは微笑ましくそれを見つめていたが、このままだとせっかくの料理が冷めてしまう……と2人に行動を促した。
食事を始めてからも「ふふっ」と思い出し笑いをしていて、俺は思わず苦笑しながらも美味しい食事を堪能した。
「ルーク様。そういえば、ルーク様の鎧姿を見てみたいです!!」
食事が終わる頃に、ルシファーはパッと弾ける笑顔で声をあげた。
(プレゼントが嬉しすぎて、忘れてたのかな?)
と思いながら、何だかいつも冷静なルシファーが浮かれているようで、とても可愛かった。
「僕も見たい!! きっと、とってもカッコいいんだろうな〜!!」
アシュリーも無邪気な笑顔を浮かべる。
(そんなに期待しないで欲しいけど……)
と思いながらも、先程、変わった武具屋で購入した鎧に視線を移し、
「少し待ってて?」
と言って寝室に向かった。
改めて見ると、本当によく汚れている……。
(慌ててたから金貨5枚も置いて来ちゃったけど、払いすぎたかな?)
と少し後悔したが、赤と黒が複雑に混じり合った鎧は、やはり普通の鎧とは「何か」が違うし、とてもかっこよかったので俺の頬は自然に緩んだ。
見た目の重厚感とは裏腹に、鎧は軽く、装備してもとても動きやすそうだ。
(特殊な素材を使ってるのかな?)
とコンコンっと鎧をノックする。冷たい金属のはずなのにどこか温かく、今まで装備していた鎧とは、まるで違う雰囲気にゴクリと唾を飲んだ。
「『洗濯』……」
俺が呟くと光の粒子がふわふわと浮遊し、鎧に溶け込んでいく。
(あれ? 『汚れ』を『洗濯』したのに、こんなに光の粒子が現れたのは初めてだ……)
と少し困惑しながら、全ての粒子が溶け込むのを待っていると、
ガタッ!!
と扉が開く音が聞こえ、そちらに視線を向けた。
「ル、ルーク様!! その鎧は……?!」
慌てたようなルシファーに首を傾げる。ちょこんと顔を出したアシュリーも、
「……凄い『匂い』だね。その鎧、少し変だよ?」
と、苦笑している。
「ア、アシュリー!! 変ではありません!! こ、この鎧は……」
ルシファーがそう言うと、全ての粒子が溶け込んだようで、綺麗になった鎧が姿を現した。
黒々とした鎧には、濃い赤色が蠢いているように溶け込んでいる。禍々しく、鈍い光を放ちながらも、どこか洗練されていて、とても美しい。
「わぁー……。カッコいい!! すごい!!」
俺は想像以上の鎧の美しさに感嘆の声をあげる。
「こ、これは……やはり……」
「本当だー!! かっこいいね!! 絶対、マスターに似合うよ!!」
驚愕しているルシファーと、俺と同じように喜んでいるアシュリー。俺はルシファーの様子に「ん?」と首を傾げ、声をかける。
「ルシファー……?」
「ふふふっ。いえ、少し驚いただけです……。ルーク様にぴったりの鎧ですね!! なぜこのような場所にあるのか不思議ですが、神の力を持つルーク様に相応しい鎧です!!」
「……えっ? これカッコいいだけじゃなくて凄い鎧なの……?」
俺はルシファーのうっとりとした笑みに、顔が引き攣るのを感じる。
相変わらず、ルシファーは俺を過大評価しているみたいだし、その「過大評価した俺」に「相応しい鎧」と言うことは、尋常ではない鎧と言うことだ。
(き、金貨5枚……50万ガルムじゃ、足りなかったかな……? ど、どうしよう……)
とアワアワと震えてきてしまう。
「……ル、ルシファー。この鎧ってそんなに高価なの……?」
「うぅーん……どうでしょうか……? 値段など決められる物ではないのは確かですね……。それよりも早く装備してみて下さい!!」
「僕も早く、マスターの鎧姿みたいよ〜!!」
(いやいや、値段決めれないって……!?)
と心の中で絶叫しながらも、2人のキラッキラの瞳に、
(た、試しに一度装備するくらいいいよね?)
と鎧に手をかける。一通り装備してみたが、少しサイズが大きいようだ。
「ハハッ。ごめん。ちょっと大きいみたい。高価な物みたいだし、後で返しに行って来るよ?」
「ふふっ。その必要はありませんよ?」
ルシファーはとても楽しそうに笑うと、鎧がガタガタと震え始める。
「えっ、えぇ? 何!?!?」
「マ、マスターー!!」
困惑する俺にアシュリーが慌てた様子で俺の元に駆け寄ろうとするが、ルシファーがそれを制す。
鎧はカタカタと揺れながら、だんだんと俺の体型に合わせて変化していく。
(な、何だ、この鎧……)
俺はかなり戸惑いながらも、だんだんフィットしてくる鎧に感動していた。とても軽く、まるで身体の一部になったかのような、赤黒い鎧。
音が止むと同時に、鎧がグワーッと眩い光を放つ。
あまりの光に、思わず目を細めたが、俺は鎧の仕上がりに、もう開いた口が塞がらなかった。
「……!! ルーク様!! 何て美しい……」
「マ、マスター!! と、とってもカッコいい!!」
ルシファーは金色の瞳を潤ませ、とても色っぽい微笑みで俺を見つめ、アシュリーは驚嘆したように大きな声をあげた。
「……こ、この鎧……すごく身体に馴染んでる……」
俺は2人の反応に照れながらも、それ以上に鎧の仕上がりに驚いてしまう。本当に俺の身体に合わせて作られたオーダーメイドの鎧へと変化したのだ。
「ふふっ。おそらく、その鎧はヘパイストス様が鍛えた鎧でしょう……」
「へ、ヘパイストス……?」
「ふふっ。炎と鍛治の神です……。間違いなく、本物の『神鎧』です。そこにヘパイストス様の刻印があります」
俺はルシファーが指さした場所に視線を向けると、何やらよくわからない文字が炎に包まれているような刻印が目に入る。
「え、えぇー……? 」
「なんてお似合いでしょうか……。美しい銀髪に空の瞳……。暗い色合いの鎧ですが、ルーク様にとてもよく似合っています!!」
「ハ、ハハッ。か、神様が造った鎧……?」
「はい。ルーク様にピッタリです!!」
ルシファーは屈託のない笑みを浮かべる。
(いや、そんな可愛い笑顔で見つめられても……。そ、そんな凄い鎧だったのか? あの美人店員さん、何考えてるんだ!!)
と俺が放心していると、アシュリーが俺の腰にしがみついてくる。
「マ、マスター!! か、かっこいいよ〜……。僕、何かおへその下がキュッてしちゃった……」
「え、えっ? あ、いや……」
「アシュリー!! いい加減になさい! わ、私だって、私も……ルーク様……」
「ちょ、ちょっと、待って!! こ、コレ返しに行かないと!!」
「待てないよ!!」
「ま、待てません!!」
そのまま2人にベッドへと押し倒された。鎧を装着しているので感触は感じられないが、鎧に押し付けられたルシファーの豊満な胸は、視覚が刺激されて、何だかより色っぽく感じた。
アシュリーは俺の股の隙間に自分の柔らかい太ももを割り込ませ、俺の太ももと交わらせている。
(べ、ベッドは、……ベッドでコレはやばすぎるでしょ!!!??)
と心の中で絶叫しながら、急いでサイモンの部屋に避難した。懸命に我慢している俺を、誰か本当に褒めて欲しい……とサイモンの部屋の扉の前で、昂った身体が収まるのを待った。
次話「ノアの街へ」です。
【作者からのお願いと感謝】
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