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35話 アンの決断 ①



―――ノア 冒険者ギルド



 受付嬢のラミルとギルドマスターのロウの会話を聞いてしまったアンは、もう何がどうなっているのか、まるでわからなかった。


(『獣ロ組』のリーダーだったロウさんより、ルークが強いって……?)


 驚愕しているアンに気づいたロウはアンに声をかける。


「あれ? カイルの坊主は行っちまったぞ?」


「え、あぁ、はい……」


「アンちゃんだったかな? 早くカードを出したらどうだ? さっさと済ませちまおう!」


 ロウはニカッと笑顔を作りアンに声をかけたが、アンは曖昧に微笑むだけで「まだ自分がどうするのか?」を決められずにいる。


(もう、ルークの『力』は疑いようがない……)


 ロウとラミルの会話はアンの疑念を確信へと変えるには充分な物だった。


『ルークに『洗濯』された衣類を着ていなかったら』


 そう考えるとゾッとする。これまではダンジョンに潜る事など、ちょっとしたお金稼ぎのつもりだったが、『本物のダンジョン』は常に死と隣り合わせだった。


(次からはもっと魔物の数が増えるってことよね……)


 そう考えると、身体がブルブルと小刻みに震えてしまう。


「大丈夫ですか? アンさん……」


 ラミルが心配そうな瞳でアンを見つめる。


「え、えぇ。大丈夫よ……」


「でも、震えて……」

「大丈夫って言ってるでしょ!!!!」


 ラミルはビクッと驚いたように手に口を置くが、アンはラミルの淡褐色たんかっしょくの瞳の中に写っている自分と目が合った。


(ひどい顔……。髪だってボサボサだし……。常に可愛い私で、『カイルにどう見えるか?』を考えて来たはずなのに……)


 アンはそんな事を考えながらも、今の自分にそんな余裕はない……と、すっかり「ダンジョン」に怯えている自分の表情を見ながら思った。


「……ごめんなさい……私……」


「いえ、大丈夫ですよ! ダンジョンから戻ったばかりの冒険者が気が立っているのは当たり前ですから!」


 素直に謝罪したアンにラミルは優しく微笑んだ。その姿を見ていたロウは静かに口を開く。


「アンちゃん。もうダンジョンに潜るのはやめたほうがいい。あそこは一度でも『飲まれたら』、死ぬだけだからな……」


「…………」


 ロウの言葉にアンは返答できない。


 もし、自分で衣類を洗濯する事で、『洗濯』の効果が無くなるのならば……と考えると、今着ている服は二度と自分では洗う事ができない。

 

 優秀な治癒士として、今まで何の疑問を持つ事もなく、賞賛されることを受け入れてきた。


「流石、『二刀流』の治癒士ね……」

「魔力切れを経験した事ないなんて……そんな治癒士に会ったことないわ……」

「身体の破損まで回復させられるなんて……」


 そのような言葉に、


「当たり前でしょ?」

「カイルの横には私くらいじゃないとダメなのよ」

「ふふっ。そんな事も出来ないの?」


 などと高飛車な態度をとって来た。ここに来て、ルークに特別な力があると言われても、もうルークを惨たらしく見捨ててしまったので、もう遅い。


 ダンジョンにだけ恐怖しているわけではない。もしルークが生きていたら、自分にどんな復讐をするのかわかったものではないと言うのも、身体の震えの原因の一つだ。


「私は……。私はもう……」


「アンちゃん。判断を誤れば、待ってるのは『死』だけだ」


「もう……無理です。怖くて怖くて仕方がないの!! 魔物の群れが血走った目で……!! ルークが……私を、私達に……」


 このアンの言葉にピクッと反応したのはラミルだ。


「……どう言うことですか? アンさん!! ルー君に何をしたんです!!?」


「……いや、私は……。ち、違うの!」


「何があったんです!! ちゃんと説明して下さい!!」


 ラミルが激昂している様子に、まだ数人残っていた冒険者達が騒ぎ始める。


「ラミルが怒ってるぞ?」

「どうしたんだ?! 初めて見たぞ」

「あれ、カイルのとこの治癒士だろ?」

「何だ、何だ!?」


 アンは自分が口走った言葉が、自分の首を絞める事にいま気づく。あんな「追放」を誰かに言うわけにはいかない……。


 ましてや、ルークに恋しているラミルに伝えるなど、冒険者ギルドを敵に回す事になる。


「いや、私は……」


「……何をした?」


 ロウの鋭い眼光に金縛りにあってしまう。


「ち、違う。ルークは……」

「アン!! 何やってる!!? 早く行くぞ!」


 後ろからアランが大きな声をあげる。少し息を切らして肩で息をしている。


「アラン……」


「カイルが待ってるぞ? 『理想郷ユートピア』で祝杯だ。ちゃんと昇格したのか?」


「いや、私は……」


 2人の会話を聞いていたラミルの心中は穏やかではなかった。


(そんな事、もうどうだっていいわ!! ルー君に何があったのかちゃんと話しなさいよ!!)


 受付嬢としては失格だが、今まで築いてきた地位など、ラミルにとってはどうでもよかった。今のラミルはルークの事しか頭にないのだから、それも仕方のない。


「早くカードを出せ。カイルを待たしてる。また機嫌が悪くなっても面倒だろ? 早くしろよ」


「……私はいかないわ。もう無理よ。私はもう冒険者を辞める。カイルにもそう伝えて……」


「はっ!? 何言ってんだよ!? やっとここまで来たんだろうが!!」


「……あなただってわかってるでしょ?」


「何がだよ?! アレは疲れてただけだ! しっかり休みゃあ大丈夫なんだよ!!」


 アランの怒号がギルド内に響く。アンはそれに何も言葉を返さず、ゆっくりとギルドから去っていく。


 ラミルは慌てて立ち上がり、アンの足を止めようと声を上げる。


「ま、待って! アンさん! ルー君に何があったんですか!!?? ちゃんと教えて下さい!!」


「チィッ!! うるせぇんだよ! どいつもこいつも、ルーク、ルークって!! あの無能のクソヤロウは46階層に入ってすぐに魔物に殺されちまったよ!! 残念だったな!!」


 ラミルの問いかけに反応したのは、苛立つアランだ。


「なっ……」


 ラミルはふらふらと後退りし、ストンッと床に座り込んだ。


「おい、小僧。ルークはちゃんと死んでたのか? それに、魔導士のヤロウはどうした? 一向に姿を見せねぇが……」


 ロウは静かに口を開くが、アランは少し瞳を揺らすだけで、その問いには答えずに、


「……もう勘弁してくれよ。……待てよ! アン!!」


 とすぐにアンの後を追った。


「どうも『匂う』な……」


 ロウはそう呟いて、黙ってアランの背中を見送った。



 ラミルの激昂から野次馬のごとく、聞き耳を立てていた冒険者達は、ポツポツと口を開いた。


「なんだ? 『二刀流』なんかおかしくねぇか?」

「Sランクに昇格したってのに、どうしたんだ……?」

「ジャックと『洗濯』は死んじまったのか……?」


 ざわつくギルド内はしばらく落ち着かなかった。




次話「アンの決断 ②」です。


【作者からのお願いと感謝】


ほんの少しでも、「面白い!」もくしは「次、どうなんの?」はたまた「更新、頑張れよ!!」という優しい読者様。


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この作品を【ブックマーク】してくれた方、わざわざ評価して頂いてた方、本当にありがとうございます!


たくさんの感想も頂けて、嬉しいです! 更新頑張りますので、これからもよろしくお願いします!!

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