31話 サイモン・ベアルクと『拾ったクズ』
―――28階層 「ロアの宿」
ざわざわとしているロアの宿の玄関。その原因は『クラップ』というスキルを持っている『サイモン・ベアルク』率いる、『クラップハンズ』と呼ばれるパーティーのようだ。
サイモンとは面識がある。紫色の短髪と輝く瞳の持ち主で、1つ年下だ。同じサポーター役だった事もあり、俺に懐いてくれている弟のようなヤツだ。
2年前に所属していたパーティーから追放された時には、
「どうしましょう、師匠……。もう冒険者辞めた方がいいですかね……?」
と、今にも死にそうな顔をしていたが、2年足らずでAランクまで駆け上ってきたルーキーだ。
サポーター役の仕事を教えた事で、俺の事を「師匠」などと呼んでくるちょっと変わってるけど、かわいいヤツだ。
今ではちょっとした有名人だが、根は優しく、身体の弱い妹のために、お金を稼ぐ事を目的に日々頑張っている冒険者だ。
重度のシスコンで、
「師匠は妹に会わせられません!! 師匠に会っちゃうと『ミウ』が師匠の事好きになっちゃうんで!! 『俺のミウ』は永遠に俺と居ればいいんです!」
と意味のわからない事を言っていたのをよく覚えている。
「サイモンか……懐かしいな! 最後に会ったのはいつだっけなぁー……?」
俺の言葉にルシファーとアシュリーはキョトンとしている。
「俺の弟みたいなヤツだよ? ちょっと行ってみよう!」
「うぅー……。僕はマスターが買ってくれたネックレスが早く見たいよ〜……」
アシュリーは俺の服の裾をちょこんと摘んで、上目遣いで言う。
(……は、反則でしょ……?)
アシュリーの可愛さにキュンとしながら、
「……!! わ、わかった!! じゃあ先に、荷物が置いてあるとこに行こうか!!」
と声を上げる。すると、ルシファーが反対の裾を摘んだ。ぷっくりとした唇を尖らせて、無言で拗ねている。
(なんなの……この子……)
またも、可愛さに悶絶しながら、口を開く。
「も、もちろん、ルシファーにもお土産あるよ!!」
「……!! ありがとうございます! ルーク様!!」
ルシファーはかなり驚いたように、目を見開き、弾ける笑顔で俺に抱きついてきた。俺の腕がルシファーの胸に挟まれ、もう俺は顔が熱くて仕方がない……。
パッと視線を前にすると、ロアナがニヤニヤとしていて、更に顔の熱を助長された。
ドドドドドドドドッ
宿の中から「何か」が走ってくる音が聞こえたかと思ったら、懐かしい顔が遠くに見えた。
「師匠おおおぉぉぉおおーー!!!!」
俺の姿を見つけて、さらに加速するサイモンに苦笑していると、ロアナがサイモンに向かって、音もなく超加速する。
ダンっ!!
大きな音を立て、床に転ばされたサイモンとその上に乗るロアナ。
「サイモンさん。他のお客様に迷惑となりますので、少し落ち着いてくれますか?」
「ご、ごめんなさい! ロアナさん!」
「よろしい」
ロアナからの拘束を解かれ、「イテテテ……」と言いながら歩いてくるサイモンに(変わってないな……)と何だか嬉しくなった。
「サイモン。久しぶり! 活躍はよく聞いてるよ?」
「ふふふっ! ありがとうございます! 師匠! それよりも元気そうで安心しました。俺たちが30階層からノアに帰ってる時に、22階層で『拾ったクズ』が、聞き捨てならない事言ってたんで、心配しましたよ?」
相変わらずの口の悪さだ。身内にはとにかく優しいサイモンだが、嫌いな人間に対してはかなり辛辣だ。どことなく少し俺に似ているかもしれない。
「……『拾ったクズ』……?」
「……うぅーん……師匠も『追放』されちゃったんですか……?」
サイモンの言葉にアシュリーとルシファーがピクッと反応する。
「……マスターを侮辱すると、屠るぞ……? この小僧……」
「……ルーク様を不快にさせるなど、死をもって償いなさい……」
「2人ともちょっと落ち着いて! 俺は大丈夫だから! それから、ルシファー!! 気をつけないとダメだよ!? また目の色が変わってるよ?」
「……も、申し訳ありません、ルーク様……」
俺はシュンとしてしまったルシファーの頭を撫でる。ポカーンとしているサイモンはゆっくりと口を開く。
「……師匠のお嫁さんですか? とってもお似合いです! やっとミウを師匠に見せられます!」
サイモンの言葉にボッと顔を赤くする俺とルシファー。面白くなさそうに俺の腰にしがみつくアシュリー。
「んんっ!」と一度咳払いをして、気持ちを持ち直す。ルシファーとアシュリーに「少し、待ってて!」と言ってから、本題に入る。
「で、『拾ったクズ』って……?」
「…………えっとー……」
サイモンは後ろの2人に視線を向け、少し怯えたように言葉を濁す。
「俺は追放されて、下層に置き去りにされたんだ……」
「ええっ!! ……あのクズ……。やっぱり放っておけばよかった……」
サイモンは紫色の瞳に冷酷さを滲ませながら、ギリッと歯軋りをする。サイモンの様子から、ある結論を出すが、何でそんな事になっているのか? はまるで見当がつかない。
「アンか……いや、ジャックだね……?」
「流石、師匠です……。拾ったのはジャック。嫌いでしたけど、師匠のパーティーメンバーだったんで、一応拾って来たんです。片足が切り落とされてて、魔物に殺されそうになってたんですが、助けちゃいました……」
「……なんでジャックが……?」
「詳しくは聞いてないです。とりあえず、またカタルまで潜って、一泊して帰ろうって事になり、これからどうするか決める所でした。それにしても……あのクズ……見殺しにすれば良かったですね……」
「いや、聞きたいこともあるし、言いたい事もあるから、大丈夫……。ありがとう……。サイモン……」
サイモンはビクッと身体を震わせ、心底驚いたように瞳を見開いている。
「し、師匠……? なんだか雰囲気が変わりましたか……? カタルに着いたら、師匠がいるって聞いたんで、走ってきたんですが……」
「ん? そうかな……? ハハッ。まぁ多少は人間不信になったよ? それから……ジャックの事、俺が決めていい?」
サイモンはゴクッと息を飲み、
「も、もちろんですよ!! あっちに居ます……」
と少し声を震わせて言った。
(ルシファーとアシュリーを連れて行くのは危険だな……。ルシファーが激昂したら大変なことになるだろうし……)
俺はそんな事を考えながら、ジャックに会ったら、自分はどうなってしまうのだろう……と考えた。
確かに嫌なヤツだけど3年も一緒に居たんだから、少なからず、情がある。言いたい言葉があるだけだから、あとはもうどうでもいいんだけど……。
「ルシファー、アシュリー……いい子にして待ってて?」
「ルーク様……?」
ルシファーは心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「大丈夫だよ? ちょっと言いたい事があってね……。すぐ帰って来るから……」
「……わかりました……」
「アシュリーもいいね?」
「……はぁい……」
アシュリーとルシファーは渋々返事をしてくれたけど、顔が全く納得していないようだ。まぁすぐ済ませるつもりだし、別に大丈夫かな……?
「ロアナさん、2人を頼むね?」
「……。私にこの2人を止められるとは思えないけど、わかったわ……。ルーク。『バカ』に合わせる事ないわよ……?」
「ハハッ。大丈夫……。またふざけた事を言ってたら知らないけど……」
俺の言葉にこの場にいる全員が、一斉に唾を飲んだのがわかった。
(別に変な事言ってないよね……?)
と首を傾げ、ゆっくりと口を開いた。
「サイモン、連れて行ってくれる? ジャックのとこに……」
「……こっちです!」
サイモンは慌てて、先を歩き始める。
俺の頭の中には46階層でニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべていたジャックの顔が浮かんできていた。
(……ジャック……)
心の中で名前を呼ぶと、身体が震え始める。恐怖などではなく、純粋な憤怒が身体を駆け巡っている。
知らずのうちに握っていた拳から血が流れている事に気づいたが、見て見ぬふりをしてサイモンの後に続く。
(落ち着け……。別に俺は今、幸せだろ?)
俺は心の中で呟き、半ば無理矢理、笑顔を作った。
次話「魔導士 ジャック・コルラ ①」です。
【作者からのお願いと感謝】
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