28話 新たな鎧と謎の女
―――28階層 カタル
ルシファーとアシュリーを連れ歩くのは危険と判断し、すぐに「ロアの宿」に戻り、
「俺が買い出ししてくるから、ちょっと待ってて?」
と2人を預けた。宿の外では、
「おい! いたか!?」
「どこ行きやがった!! あの金髪……」
「おーーい!! 赤髪ちゃーーん!!」
「チィッ! 『洗濯』やろうが……」
などとちょっとした騒ぎになっているので仕方がない。2人とも「一緒に……」と駄々を捏ねたが、ロアナの「ルークに迷惑かけるんじゃない!」と言う一言で渋々留守番を受け入れた。
ロアナにフード付きのコートを借りて、街を歩いた。何だかとても久しぶりに1人になったような気がする。
カイル達といる時はいつも1人で買い出ししていたので、慣れているはずなのだが、少し寂しい気分になる。
(それだけ、2人がかけがえの無い存在ってことなのかな……?)
と心の中で呟き、もうすぐにでも2人に会いたくなってしまった。
とりあえず、衣服を調達する。次に食料。それに時計だ。日にちの感覚がバカになっているので、ノアに帰るまでに矯正しないといけない。
それに、太陽や月を望むルシファーに、最高の景色を見せてあげたい……と考えている。ノアの街は朝焼けが綺麗なので、できればそれに合わせて帰りたいなと密かにサプライズを用意している。
天気ばかりはどうしようもないが、晴れている事を願うばかりである。
それから、俺の『水』はアシュリーからしたら、かなりの毒になるらしく、普通の水も忘れずに準備した。
「神聖魔力」を『洗濯』すれば、飲めると思うのだが、万が一を考えたら普通の水にしたほうがいいだろうと判断した結果だ。
(あとは防具だけど……)
アシュリーは「竜装」があるので、防具を買っても意味がない。ルシファーはそもそも戦闘を禁止してるし、ただ動きにくくなるだけだろう……。
(武器は……)
と考えたが、これも必要なさそうだ。そもそも2人とも優れた力を持つ天使とドラゴンだ。わざわざ武器を持たせる必要などない。
(………結局、俺の武具だけかな? とりあえず簡易的な物を用意して、ノアで改めて装備を整えよう……)
と決意し、武具が売ってある通りへと足を進めた。
「おっ。そこのにいちゃん! 買ってけ、買ってけ!」
「いらっしゃい、いらっしゃい!」
「ここは他所より安いぞー!!」
武具屋が立ち並び、かなり活気づいている。時間が分かりづらいダンジョン内に燦々と魔石の照明が並んでいて、皆が生き生きとしている光景は何かの祝い事でもしてるのか? と錯覚するほどである。
店先から店内を覗くがコレといって目ぼしい物はなさそうだ……。
(アシュリーも加わったし、もう武具はノアの街でいいかな……?)
と諦めかけていると、明かりのついていない店が目についた。
カランッ
俺は吸い込まれるように店内に入る。
「いらっしゃい。こんな店に入るなんて、あんた相当な変わり者ね……」
店員はまだ20代後半の女性が1人だけだ。黒い長髪に銀色の瞳。どことなくアシュリーやルシファーの雰囲気に似ている美人さんだ。
「……人間ですか?」
「……ふふっ。人間に見えないかい?」
「あっ。ごめんなさい! ちょっと仲間と雰囲気が似てたんで……」
「ふふっ。あんたの仲間は人間じゃないのかい?」
「あっ。いや! ちょっと見ていいですか?」
「……あぁ」
店内を見て回りながら、
(かなり失礼な事言っちゃったな……。それにしても綺麗な人だ。……いやいや、ルシファーやアシュリーの方が可愛いよ!!?)
と心の中で2人に言い訳をする。頭を2、3振り、雑念を払うと置かれている武具に視線を移す。
どれも汚れている。店内に明かりはないし、この美人店員は販売する気がないのかもしれない……。
「どうだい? 気に入ったのはあったかい?」
特に興味をそそられる物も無さそうなので、そろそろ帰ろう……と思っていると美人店員が話しかけてきた。
「いや、そろそろ帰ろかなって思ってる所です」
「何でこの店に……?」
「……何ででしょう? 俺にもわかりません」
「ふふっ。ちょっと待ってな?」
美人店員はそう言うと、奥の部屋へと入っていった。
(本当に何でこの店に入ったんだろう……? 何か変な感じだ……)
などと考えていると、美人店員は赤黒い鎧を持って現れた。他の防具同様、全く手入れはされていないようだが、目を惹きつける「何か」がある。
「……こ、これは……?」
「いるかい? 売り物じゃないんだが、あんたにならやってもいい……」
美人店員は試すように俺に笑いかける。銀色の瞳は透き通っていて、綺麗だ。
妖しく光る赤黒い鎧……。鈍い輝きはかなりの重厚感がある。吸い込まれるように目が離せなくなり、鎧にすら試されているような気分になる。
ただの鎧ではない事は直感的に理解している。それほどまでに禍々しい雰囲気を持っているのだ。まるで俺を呼んでいるかのようだ。
耳をすませば聞こえて来そうだ。
(どうする? お前に俺が使えるのか?)
と……。俺はサイズなどを確認する事もなく、「ふっ」と小さく笑い、口を開いた。
「……貰います。いくらですか?」
「ふっ。金なんていらないよ」
「……えっ?」
「その代わりと言っちゃなんだけど……。また妾に会いに来てくれるかい? 待ってるから……」
店員は漆黒の髪を掻き上げながら、銀色の瞳を細め、心底楽しそうに笑って言った。それがあまりに様になっていて、俺は少しポーッとしてしまう。
「……あ、いや、払いますよ!?」
「要らない……。今日はもう店じまいだよ! 早く帰りな?」
「え、あのー、じゃあ、コレで!!」
俺は懐から金貨を5枚取り出し、店員に手渡し、(お金を突き返される前に帰ろう!!)とドアに手をかけた。
「あっ! あんた、名前は?」
「ルークです。ルーク・ボナパルト!」
「わかった。ルークね? 覚えておくわ!」
「じゃあ、ありがとうございました!!」
「また会いに来てくれるの、待ってるよ……。ルーク・ボナパルト!!」
「……? はい! また来ます!!」
今度こそ扉を潜り、手に抱えている鎧を見つめる。
(早く装備してみたいな! ちゃんと似合うかな? 2人とも『カッコいい』って言ってくれるかなー?)
などと、俺は2人の反応を楽しみにしながら「ロアの宿」へと足を進めた。
道すがらルシファーに似合いそうな、金色の石が埋め込まれた髪留めと、アシュリーに似合いそうな赤い石がぶら下がっているネックレスが目につき、衝動的に買ってしまった。
二つとも、金貨10枚の100万ガルムと、なかなかの値段だったが、2人の笑顔に比べれば安い物だと思った。
(ふふっ。喜んでくれるかな?)
俺はカタルの街を上機嫌で走った。
―――
「ルーク・ボナパルトか……。また会えたらいいな……」
美人店員? の『アデウス』は用が終わったと言わんばかりに拳を握った。
すると、明かりのついていない店はパッと姿を消す。
しかし、周囲の冒険者達はその事に気づかない……。強者にしか見る事も、ましてや店に入ることすら出来ない結界が張られていたからだ。
アデウスは「ふふん」と鼻歌を歌いながら、ご機嫌でカタルの街を練り歩いた。
次話「アシュリーの暴走と『クラップ』」です。
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