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27話 「可愛い」は「ズルい」



―――28階層 カタル 「ロアの宿」



 目を覚ますと、半裸のルシファーとアシュリーに挟まれている事に気づいた。俺の絶叫に、2人は「うぅーん……?」と目を擦っていたが、その姿すら美しく、俺は更に顔を赤くする事しかできなかった。


「おはようございます、ルーク様……。長らく眠りっぱなしだったので、とても心配しました……」

「おはようー! マスター。起きてホッとしたよー!!」


 2人の挨拶を聞きながら、そんなに眠っていたのか……? と困惑しながらも、自分が起きた時、誰かが声をかけてくれるのが随分と久しぶりで、とても嬉しく、なぜか少し泣きそうになった。


 聞けば、2人のサンドウィッチに耐えきれず、そのまま眠ってしまったようだ。そこからかなりの間、眠っていたようだが正確な時間はわからない。


(確か食事をご馳走になるだけだったはずだよね……? ぉ、お金、どうしよう……)


 と不安にかられる俺の心中など知るよしもない2人は、「ん?」と首を傾げており、寝て覚めても2人の可愛さは変わりなく、ただ悶絶してしまった。



 昂った身体とバクバクとうるさい心臓に鞭をいれながら、ロアナを見つけ声をかけたが、


「そんなもの、気にしなくていいわよ? その代わり、これからカタルに来たら、私に顔を見せに来なさいね?」


 と優しい笑顔で言ってくれたので一安心だ。朝食もしっかりとご馳走になり、これまでの魔石やドロップアイテムの全てを、換金して貰った。


「…………こ、この魔石量は……? ルーク、あんた……」


 と絶句しながらもロアナはとても嬉しそうにギルドと変わらない換金率で買い取ってくれた。手元に入ったのは金貨50枚、「500万ガルム」だ。


(贅沢しなければ、ノアの街で3年は暮らせる……)


 今までは一度の遠征でカイルに銀貨5枚の5万ガルムしか貰っていなかっただけに、この大金には驚いた。


 想像以上のお金に戸惑い、宿代を払おう! と慌てて声をあげたが、


「ルーク……私の顔に泥を塗る気……?」


 と翡翠の瞳を輝かせながらキッと睨まれたので、有り難くもらう事にした。ルシファーとアシュリーの服も買ってあげたいし、俺の武具を揃えるためにもお金はいくらあっても足らない……。


 ロアナと宿の従業員達に別れを告げ、武具や衣服、食料の調達のため、カタルの街を3人で歩いた。


「おい。すげぇいい女だぜ?」

「見た事ないな……」

「なんで『洗濯』があんな女を……?」

「ほら! あの子だぜ! 前に言ってた子!」


 フードで隠れているアシュリーはまだしも、ルシファーは人目につきすぎる。先程から周囲の冒険者達がざわついている。


 街に入った時にもざわざわとしていたが、ここまであからさまではなかった。まぁ気持ちはわからなくもないが、いい気分ではない……。


(……ルシファーは俺のだ……)


 などと、小さな独占欲まで抱いてしまう。これは早急にルシファーにフード付きのコートを購入しないと、また絡まれる事になるのは目に見えている……。


「なんだかマスターの『匂い』がするよ!!??」


 先を急ぎたい俺にアシュリーは八重歯……もとい、牙を覗かせる。


「確かにルーク様の神聖な魔力を感じます!! なんでしょうか?」


 ルシファーも金色の瞳を輝かせ、キラッキラの笑顔で口を開くが、俺は少し苛立ってしまう。


(そんな笑顔を他のヤツに見られたら、どうするんだ!?)


 ルシファーは俺の物ではない事は重々承知しているが、落ち着かない心中に自分でも戸惑ってしまう。


 何も喋らない俺にアシュリーとルシファーは首を傾げる。それすらもルシファーの可愛さを助長させる物でしかなくて、俺はさらに機嫌を悪くする。


「……ルーク様?」


 何も気づかないルシファーにすら、ちょっとした苛立ちを覚える。完全な八つ当たりなのは分かっているが、本当に面白くない……。


「……ルシファー……笑っちゃダメ……」


「……えっ? ル、ルーク様?」


「……ごめん。何でもない……」


 俺は素っ気なく返し、先を急ぐ。自分がこんなに独占欲? というより、嫉妬を抱くとは思わなかった。そもそも嫉妬を抱く事すら初めてだ。


(あげく、ルシファーに八つ当たりするなんて……)


 と反省する。ルシファーは俺の物……と言うより俺の恋人というわけでないし、そもそもルシファーは何も悪いことをしていない。


 それよりも、俺の気配を感知した事を嬉しそうに笑ってくれていたのだ。俺に向けられた笑顔なのにも関わらず、その笑顔を他の男に見られる事にすら、嫉妬するなんて……。


(俺は何様なんだ!!)


 心の中で自分に悪態を吐きながらも、「早くルシファーにもフードを……」と足は自然と速くなってしまう。


「マ、マスター……? ルシファーが……」


 アシュリーの声に後ろを振り返ると、今にも涙が溢れてしまいそうな金色の瞳と目が合う。


「えっ? ル、ルシファー?」


「ルーク様。……わ、私、何かしてしまいましたでしょうか……? ルーク様に嫌われてしまったら、私……」


 ルシファーは震える声で俺の目を真っ直ぐに見つめている。


「ご、ごめんね!! 八つ当たりしちゃったんだ!」


「……?」


「え、えっとー……ルシファーが笑ってる所を他の男に見せたくなかったんだ……。ごめんね? みっともない嫉妬だよね? 自分がこんなヤツだって知らなかったよ……」


 俺が慌ててそう言うと、ルシファーは更に泣きそうな表情になる。


「ごめんね? お、俺がルシファーを嫌うことなんて、絶対ないからね?」


 ついに泣き出してしまったルシファーに周囲がざわざわとしだす。俺は慌てて上着を脱いでルシファーの頭に被せる。


(泣かしちゃった……どうしよう!?)


 ルシファーが何で泣いてるのか全くわからない俺は、ただ狼狽えながらルシファーを宥める。何度も謝る俺に、ルシファーは俺の上着の隙間から、濡れた瞳で綺麗に笑顔を作り、口を開いた。


「これは嬉し涙ですよ? ルーク様……。嬉しいのです。少しでもルーク様の気持ちを動かす事ができて……」


「えっ!? いや、……」


「ルーク様の嫉妬など、私にとっては最高のご褒美でございます……。それに……それを言うなら、道ゆく女達はルーク様ばかりを見つめていて、私も少し嫉妬しておりますよ?」


「そ、そんな事ないでしょ!? な、なん……えっ!? いやいや、」


「ふふっ。ルーク様と少しでも同じ気持ちになれて幸せです……」


 ルシファーは頬を染め、うっとりするほどの笑顔を浮かべた。心臓がバクッと跳ね上がりながらも、(この笑顔を見られたら、本格的にやばい!!)と慌ててルシファーを抱きしめた。


 ルシファーも俺の腰に手を回し、


「ルーク様。私、こんなに幸せでいいのでしょうか……?」


 と俺の肩口で囁いた。ルシファーは俺を殺す気なのかもしれない……。顔に火が付いたように熱くなっていると、全ての流れを見ていたアシュリーが口を開いた。


「…………マースーターーーー!? 僕を忘れちゃってるんじゃないのーーー!!??」


 アシュリーの絶叫に、今の状況を再確認し、慌ててルシファーから離れると、ぶっすぅーっとしたアシュリーの漆黒の瞳と目が合った。


「わ、忘れてないよ!? アシュリーはぜぇーーーったい、フードを取っちゃダメだよ??」


「………??」


 アシュリーは「うぅんんーーーん?」と大きく首を傾げる。


(アシュリーのフードが取れたら、大変なことになる……。もうこれ以上、騒ぎになるのはごめんだ……!!)


 心の中で絶叫する俺を他所に、アシュリーはニヤァ〜と悪巧みをする子供のような笑みを浮かべる。


「ア、アシュリー?」


 俺が声をかけると、アシュリーはバッとフードを取った。赤髪がパッと周囲の明かりに照らされる。


「か、可愛い……」

「何だ、あの子は……」

「俺、あっちの子の方が……」

「いや、俺は断然金髪……いや……」


 ざわつく周囲にアシュリーのドヤ顔。


「マスター! 僕も抱きしめて欲しいの!!」


 両手をいっぱいに広げて、愛らしい笑顔を浮かべるアシュリー。それがもう……可愛いのなんのって……。


「…………」


 俺は無言でアシュリーを抱きかかえ、ルシファーの手を引く。


「わぁー!! マスター!?」

「ル、ルーク様!?」


 突然、走り出した俺に2人は困惑の声を上げるが、もうこれは撤退しかない。


「あっ! ま、待て!」

「金色ちゃん!! お名前だけでも!!」

「赤髪ちゃーん!!!!」


 そんな声を背に俺はカタルの街を駆けた。逃げ切った俺は、この後アシュリーに「誘拐されたらどうすんの!?」と叱ったが、アシュリーは満足気にニコニコとしているだけだった。


 その笑顔が可愛いすぎて、すぐに許してしまった。


 「可愛い」って「ズルい」と、心底思った。





次話「新たな鎧と謎の女」です。


【作者からのお願いと感謝】


ほんの少しでも、「面白い!」もくしは「次、どうなんの?」はたまた「更新、頑張れよ!!」という優しい読者様。


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この作品を【ブックマーク】してくれた方、わざわざ評価して頂いてた方、本当にありがとうございます! 


日間総合、10位になりました!! ジャンル別もあと少しで1位になれそうです!!

本当にありがとうございます!!


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