26話 カイル一行の帰還 ②
―――ノア 「冒険者ギルド」
疲労困憊のカイル達を迎えたのは、大勢の冒険者達だった。
「「「うぉーー!! 『二刀流』の帰還だぁー!」」」
「すげぇぜ!! 最短記録!!」
「やるとは思ってたが3年とはな!!」
「オーラが違うと前から思ってたんだよ!!」
すっかり広まっているSランク昇格に、アランは疲れなど忘れ、賛辞を受け入れた。
「当たり前だろ!!?? 俺たちは『夢の果て』を手に入れるパーティーだぜ!?」
アランの言葉に沸く冒険者達。アンはアランの調子の良さにこっそりと悪態を吐いた。
「……本当に今の状況を理解してるの……? バカみたい……」
騒がしいギルドでは誰の耳にも届かなかったが、アンはとりあえず生きて地上に帰れた事に安堵した。
「うるっせぇーーーー!!!!」
カイルの怒号に静まり返ったギルド内。カイルは受付への道がひらいた事を確認し、ニヤッと笑みを浮かべ、ゆっくりと歩き始めた。
「『二刀流』パーティー様。遠征お疲れ様です」
受付嬢のハーフエルフ『ラミル』は明らかに人数が減っている『二刀流』パーティーにひどく動揺していたが、受付嬢としての仕事を全うする。
カイルはアランを一瞥し、行動を促すと、アランはニヤリと笑みを浮かべ、45階層主サイクロプスの鈍い光を放つ赤黒い魔石を取り出した。
今まで見たことのない巨大な魔石に冒険者達はゴクリと息を飲む。
ドンッ!!
カイルは片手で軽々とその魔石を受け取り、受付のカウンターにわざとらしく音を立てて置き、口を開いた。
「鑑定しろ……。これが45階層主、サイクロプスの魔石だ……」
カイルの言葉に騒ぎ立てる冒険者達。
「なんてでけぇ魔石だ!!」
「あんなの見た事ねぇよ!!」
「どれだけデケェ魔物だったんだ!!?」
「すげぇぜ! 『二刀流』!!」
歓声が沸くのも仕方がない。通常の魔物の魔石は手のひらにちょこんと乗る程度の物だ。「A+」の魔物の魔石でも拳程度の物でしかない。
「S+」であるサイクロプスの魔石は拳二つ分程度の大きさなのだから、普通の冒険者達では見ることすら叶わない代物であるからだ。
「……すぐに、鑑定を行います。『ロウさん』を呼んで来て……」
ラミルは『気がかり』を今すぐにでもカイルに問いただしたいのを懸命に抑えながら、ノアのギルドマスターである元Sランク冒険者の『狼人のロウ』を呼ぶように指示した。
「カ、カイルさん……。ルー君は……?」
ロウが来るまでの束の間の時間。耐えきれず口を開いたラミル。
これを逃せば、不確かな「噂」を聞かされる事になるだろう……とルークの安否を直接カイルに聞いたのだ。
「……ふっ。さぁな……。今頃死んでんじゃねぇか?」
カイルはラミルの言葉を鼻で笑い、口角を吊り上げ、愉快そうに口を開いた。頭を鈍器で殴られたかのような衝撃とともに、グッと目頭が熱くなる。
(う、嘘……。ルー君が……? そんなの嘘だよ……。だ、誰か……嘘って言って!!)
ラミルは心の中で懇願しながらルークの笑顔を思い返した。さらさらと綺麗な銀髪……。どこまでも澄んだ綺麗な青い瞳……。
欲にまみれた冒険者達の相手をするラミルにとって、ルークの笑顔は、もう既に生きていくためには欠かせない物となってしまっていたのだ。
「な、なんで……?」
「ククッ。クソザコだったからだろ? 寂しいなら、今晩相手してやるぞ? お前なら大歓迎だ……。クククッ」
カイルはラミルの顎に手を伸ばすが、それは姿を現したロウの手によってはねのけられる。
「カイルの坊主。ウチの受付嬢を泣かせるとはいい度胸だな!?」
ラミルが後ろから姿を見せたロウを見上げると、ロウはラミルに笑いかけてから口を開いた。
「ラミル、安心しろ。ルークの野郎はそう簡単には死なねえさ!」
狼の耳と尻尾がある以外、ほとんど人間と遜色のないロウはニカっと年齢を感じさせない笑顔で言った。カイルは舌打ちしてロウを睨むが、ロウは全く相手にしない。
一方、ラミルはロウの言葉にホッとする。
(ロウさんがそう言ってくれるなら、可能性を捨てちゃダメだ……。きっと大丈夫……。ルー君……無事に帰って来て……)
ロウのスキルを知っているラミルは淡く甘い期待を胸にルークの帰還を願った。
「チィッ! 死んでるにきまってんだろ? どうでもいいから、さっさと鑑定しろ……」
カイルは面白くなさそうにもう一度舌打ちをして、苛立ったように、ロウの行動を促す。
「そう急くなよ。これか……? 『鑑定』……」
ロウが呟くと、ロウの瞳が黒から赤に変化する。
「ふぅーん……。確かに……サイクロプスだな……」
ロウの言葉にカイル達の「Sランク昇格」が決定する。固唾を飲んで見守っていた冒険者達から、今日、1番の歓声があがる。
「カイルの坊主……いまなら辞退してもいいぞ?」
「何を言ってやがる!?」
ロウのスキルは『鑑定』。本来はギルドマスターだけが持つ事を許される鑑定用の魔道具を使用するのだが、ロウには必要ない。
ロウの「鑑定」はどんな物でも鑑定が可能だ。相手の力量はもちろん、弱点やスキルなど、その利便性は多岐にわたる。
つまり、ルークの潜在能力がずば抜けている事を最も早く気づいた人物だ。
しかし、本人に知らせるような事はしない。それを知ってしまったら、『冒険』なんて、一つも楽しくない事をロウはよく知っているからだ。
「気づいていないフリは辞めろよ。みっともねぇ……」
「ハッ!! バカか? 3年でSランクだぞ?」
「『5人』の『二刀流』で3年だ。勘違いするんじゃねぇ」
「ハハハッ!! 俺の力に決まってんだろ? 寝言は寝て言えよ!! 俺は『二刀流』だぞ? お前のその赤い目玉でよく見てみろ!!」
「……後悔しても知らねーぞ?」
「俺は最強なんだよ!! テメェよりも! なんなら今ここで相手してやってもいいんだぞ!?」
カイルの言葉にロウは深くため息を吐き、
(……コイツはもうダメだな……)
と心の中で呟きながら、呆れ返る。周囲の冒険者達も異変に気づいたようで、ざわざわとし始めた。
「わかったわかった。じゃあ、カードを出せ」
カイルは懐から冒険者カードをカウンターに放り投げる。
「さっさと済ませろ……。最高の気分がテメェのせいで台無しだ……」
「坊主、忠告はしたからな……?」
「いらん世話だ!!」
ロウはまた一つため息を吐き、魔道具の上にカイルのカードを置いた。
ギルド内にポーッと淡い光が浮かびあがり、いま正式にカイル達は「Sランク」へと昇格した。
「お、俺も早くしてくれ!!」
アランはカイルとロウのやりとりに内心ヒヤヒヤとしていたが、目の前にある栄誉に、慌てて声を張り上げた。
カイルの時と同様、淡い光がギルドに浮かぶと、
「ハハッ……。Sランクだ……。俺はSランク冒険者になったんだー!!」
と大きな声で叫ぶと、カイルも続けて声を上げた。
「俺がカイル・アレンドロだ!! 最短でSランク冒険者になった『最強』の男だ!! 酒を飲みたいやつは付いてこい!! 今日は俺のおごりだー!!」
カイルの言葉に沸く、冒険者達。そのまま大勢を引き連れ、ギルドからズカズカと去っていく。
(何が『後悔しても知らねー』だ……。俺は選ばれた人間だ……。『二刀流』の凄さがわからねぇなんて、あの狼人もたかが知れてる……)
心で呟きながら、カイルは28階層でのロアナとの事が脳裏によぎる。
(『獣ロ組』は気にくわねぇ……。過去の栄光にしがみつく、人間擬き共が……。いずれ這いつくばらせてやる……)
カイルは心で決意しながら、ノアの街を闊歩した。
―――冒険者ギルド
「ロウさん。本当にルー君は無事ですか?」
「ルークなら大丈夫だ。アイツは俺より強いからな。どこではぐれたか知らねーが、案外1人になった事で『覚醒』してるかもな……」
「…………」
「まぁルークにとっては『あの野郎』から離れられてよかったんじゃねぇか?」
「そ、それはそう思いますけど……」
「大丈夫だ! 何てったって、マインとルーナの息子だからな……。いざって時には男を見せるさ!」
「はい……」
ラミルとロウの会話を聞いた者がただ1人。
「ギルドマスターより、強いって……? ルークが……? 嘘でしょ……?」
未だギルド内で昇格するかどうか? を悩んでいたアンは、半ば無意識に声を上げていた。
次話「「可愛い」は「ズルい」」です。
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