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25話 カイル一行の帰還 ①



―――10階層


 カイル達は急いで地上を目指した。15階層で野営しようとしたが、ひっきりなしにやってくる魔物に休む暇なんてなかった。


「何が、どうなってんだよー!! くそがぁーー!!」


 アランは毎回声を荒げ、叫び散らしている。


(うるせんだよ……。クソが……)


 カイルは心の中で悪態を吐きながらも、気が狂ってしまいそうになるのを懸命に抑えていた。蓄積されていく疲労はとどまることを知らない。


 いつもは体の一部と化している双剣が重たくて仕方がない。こんな事、今まで一度もなかった。原因はわかっているが、認める事を脳が拒絶している。


 無様に震えていたルークを思い返しても、もう笑みは浮かんで来ない……。ただただ苛立ちが募るだけだった。


(ジャックを捨ててよかったな……)


 あの場で足を止めていたら、確実に疲労は限界を迎えていただろう……。他のパーティーが「魔除けのお香」などの魔道具を持っている理由がわかった。


 なぜいままで必要なかったのか?


 など考えたくもない。ただ苛立ちが増すだけだと言うことを、カイルは直感的に理解していた。




「やっと10階層だぜ……」


 ボロボロになっているアランが吐き捨てるように呟いたが、態度とは裏腹に、声色は心底安堵しているように聞こえた。


 駆け出しの冒険者達は『二刀流』パーティーに羨望の眼差しを向けているが、それを気にする余裕は3人にはなかった。


(ノアに帰り、しっかりと準備をして、あとは『ローラ』さえ手に入れれば問題はない……。こんな地獄のようなダンジョンはこれっきりのはずだ……)


 カイルは心の中で呟きながら、違和感を抱く。自分が「誰か」に頼ろうとしている事実に対する違和感だったが、今のカイルにはその違和感の正体は掴めなかった。




「……ルークってすごい力を持ってたの……?」


 束の間の休憩に入り、ジャックを捨ててから黙りこくっていたアンが口を開いた。アンの言葉に、アランは「ただの水」を地面に投げつけ、また声を荒げた。


「ハッ! あの無能にそんな力があるわけねぇ!! お前もよく知ってんだろ?」


「えぇ。で、でも……魔物達は『私には』近寄ってこないわよ……?」


「それが何だよ?! 俺が『ヘイト』を稼いでやってる証拠だろ!?」


「……アラン……。魔物は『私にだけ』、怯えてるように見えるわ……」


「そんなわけねぇだろ!? 魔物に表情なんてねぇんだよ!! 後衛の治癒士はこれだから……。思いつきで、適当言ってんじゃねぇ! ふざけんじゃねぇよ!!」


 アランは勢いに任せて、声を荒げるがアンの言葉は的を射ている。いつもとは違う生き生きとした魔物の攻撃を1番受けている盾役ならではの直感だ。


 これまでは「逃げる事」を前提に動いていたような気すらしている。だが、28階層から上層に上がってからは確実に「殺意」を持って攻撃してきているような気がしていたのだ。


「わ、私の服はルークが『洗濯してくれた』物よ!? 『水』みたいに、特殊な効果が付与されてても何も不思議じゃないでしょ??」


「……何が『してくれた』だ……。じゃあ、俺も鎧を装備してたら、今まで通りだっていいてぇ、」

「ガタガタうるせぇんだよ!!」


 カイルの怒号に2人は会話を辞める。


 カイルはここまで来るのに、散々脳裏にチラついていた言葉を、改めて口に出される事を嫌ったのだ。


「ここまで来れば、もう大丈夫だ……。さっさとギルドに帰って、『Sランク』に昇格するぞ……」


「……でも、みんながちゃんと装備してたら、ジャックだって、」



パンッ!!



 アンの言葉は途中で中断せざるを得なかった。頬がじんじんと痛みを知らせて来るが、アンはただ目を見開いてカイルを見つめている。


「……黙れって言ったろ? 俺が『黙れ』と言ったら黙れ……」


 アンの瞳には涙が滲む。唇を噛み締めながら、


(何でこんな事に……。わ、私は悪くない!!)


 と心の中で叫んだ。今まで散々尽くしてきた男からの張り手に、もう精神が崩壊してしまいそうだ。


 ジャックを見捨てた時から、薄々気付いていた。


 何で自分ではなく、ジャックを置いて行ったのか……?


 初めは自分に少なからず好意があるからではないか? と考えたが、今やっと理解した。


(私が『洗濯』した服を着てるからだ……)


 おそらくカイルは気づいている。このままのパーティーでは、もう46階層……いや、35階層主のギガントミノタウロスすら討伐が厳しくなっている事に……。Aランクパーティーにすら届かない事に……。


 疲労が蓄積されて行く下層での戦闘がどれほど過酷な戦いになって行くのかを……。


 カイルの本音はわからないが、アンはほぼ確信を持ってそう考えた。


 自分に対する好意など一切なく、ただ、「魔除け」の道具として、ジャックではなく自分を連れて来たのだ……と。



「どうしたんだ? 『二刀流』パーティーは……?」

「何か揉めてないか?」

「あれがいま1番勢いのあるパーティーか……」

「魔導士のジャックさんの姿がないな……?」

「銀髪のサポーターもいなくないか?」



 カイルはざわざわと騒ぎ立てる冒険者の群れに、大きく舌打ちをして、


「帰るぞ……」


 と小さく呟いた。


(大丈夫に決まってる。俺は『最強』なんだ。ただの『駒』が口うるさく文句垂れるからこうなるんだ。ギルドで賞賛を浴び、新しいパーティーを結成すればいい……『Sランク』になりゃ、それも余裕だ……)


 カイルは心の中で呟き、また小さな違和感を抱いたが、その理由はまた掴めなかった。




次話「カイル一行の帰還 ②」です。


【作者からのお願いと感謝】


ほんの少しでも、「面白い!」もくしは「次、どうなんの?」はたまた「更新、頑張れよ!!」という優しい読者様。


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この作品を【ブックマーク】してくれた方、わざわざ評価して頂いてた方、本当にありがとうございます!  


ジャンル別1位の壁が高すぎて、震える作者です。

ここまで来れたのは皆様のおかげです!!

引き続き、どうぞよろしくお願いします!

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