23話 ロアナの心情
side ロアナ
―――28階層 「ロアの宿」
様々な料理を用意させ、部屋に運ばせる。
「ロアナさん! こんなにいいの!?」
と屈託のない笑顔を浮かべ、綺麗な紺碧の瞳を輝かせているルークを見ながら、荒んでいなくてよかった……と心底安堵した。
あのクソ虫共に、ひどい事をされたのだろう……と思いながらも、ルークの瞳が濁っていない事を確認する。
おそらく、それはルシファーと呼ばれた金髪金眼の美女であったり、赤髪の竜人? のアシュリーと呼ばれた美少女のおかげだろう……と思えば、素直に感謝できた。
―――
初めて会った瞬間に直感的に理解した。
綺麗な銀髪はパーティーは違えど、お互い競い合って来たルーナ・ボナパルトの髪であったし、どこまでも澄んでいる紺碧の瞳はマイン・ボナパルトと全く同じだった。
2人から「息子が生まれたから引退する!」と言われた時にはひどく反対したものだ……。
極東の武器である『刀』と呼ばれる剣を巧みに操り、「時掛け」と呼ばれる、0.5秒ほどの時間を止めるスキルを持ち、獅子奮迅の活躍を見せるマイン。
「聖域」と呼ばれる、自分の思い描く結界を張り、完璧なサポートをこなすルーナ。
2人は間違いなく、ノアの冒険者達のリーダーであったし、どんな強者からも一目置かれるような2人だったのだ。
「ロア! 見てろよ。俺達の息子は絶対に『夢の果て』に手をかけるぞ?」
「ロアナ。私達の息子は『やる』わよ?」
2人とも似たような事を言っていたのが、昨日の事のように感じる。『あの事故』がきっかけで、2人のパーティーはもちろん、自分が所属していたパーティーも解散となり、この「ロアの宿」を始めた。
(いつか来る、2人の『息子』を楽しみに……)
今から2年ほど前だった。ルークがこの宿に現れたのは……。
パーティー内でひどい扱いを受けている事はすぐに分かったが、どこかで、(こんな子供が『夢の果て』を手にするはずがないでしょう?)と落胆してしまったのを覚えている。
2人はただの親バカだったんだ……と納得し、特に名乗り出る事もなく、見守っていたのだが、ルークには特別な才能があったのだ。
『自分で足掻き、努力する才能』
『夢』を追い求め、『冒険を楽しむ才能』
まるで2人の才能を受け継いでくれているようで、目頭が熱くなったのを覚えている。冒険者にとってこれよりも大切な才能はない……。
会うたびに冒険者の顔になって行くルークは、逞しく、不遇と言われた『洗濯』にも負ける事なく、努力を惜しまない姿は本当にかっこよかった。
「ロアナさん! 魔法覚えたんだ!」
「ロアナさん! 格闘術はなかなか使えるよ!」
「ロアナさん! あと少しで一つ目の『夢』が叶う」
パーティー内でどんなにひどい仕打ちを受けても、常に希望に瞳を輝かせ、自分に出来ることを懸命に取り組む姿は惹かれる物があった。
パーティーの悪行には声を荒げ、曲がった事をさせないよう、懸命に諌めていた。それで降りかかる自分への仕打ちにも負けず、これまでやって来たのだ……。
それだけに先日のカイル一行の行動が目についた。すぐにでも下層に潜り、ルークを探しに行こうとしたが、自殺しようとしている従業員を見つけ、それは叶わなかった。
半ばルークの生存を諦めていた私にとって、この再会がどれほど嬉しい事なのか、ルークは気づいていない……。
それもそのはず、2人と背中を預けて共闘した事もあるとは、まだ伝えられない……。『あの事故』の詳細を話す事はまだ出来ない……。
恋情と言うよりも、愛情……。まるで2人の代わりにルークの親にでもなったかのような心境だ。
―――
「ロアナさん! このお肉、最高に美味しいよ!」
ルークの笑顔が見られてよかった。本当に無事でよかった……。
「そぅ。よかったわ……。それより、これからはどうする気なの?」
接客ではない砕けた口調に、2人の女の子達はピクッと反応したようだ。私は「ふふっ」と笑みを溢しながら、ふわふわの尻尾をルークの腰に巻き付ける。
「ロ、ロアナさん??」
少し赤い顔をするルークにニッコリと微笑んでいると、2人から凄まじいオーラが湧き出てくる。
(なるほど……。金髪も『人間』じゃないわね……)
2人の力を確認し、2人がルークにゾッコンなのも理解した。いい仲間に巡り会えたようで本当によかった……と思いながら尻尾を戻し、ルークに問いかける。
「で、ルーク。どうするの? これから……」
「これから……? もちろん、また始めるよ!」
「『B』から、始めるのね……」
パーティーリーダーから追放された冒険者は基本的に2つのランクダウンからの再スタートとなるので、「S」に昇格するであろう『二刀流』からの追放は「Bランク」スタートと言うことになるだろう……。
「そうだね!! 大丈夫だよ! 心配しないで?」
「まぁ、ここまで帰って来られたのだから、すぐにランクアップできるわよ。そんなに心配はしてないわ……。それより、『二刀流』はどうするつもり……?」
ルークはピクッと眉を顰めて、深いため息を吐き、うっすらと笑ってから質問に答える。
「……うぅーん……どうしようね……」
背中にゾクリッと虫が走る。これまでにはなかった『圧』。強者の風格……。心臓がドキンッと脈打ち、困惑する。
(この短期間で、一体何が……?)
「ル、ルーク……? あなた……」
「ん? どうしたの?」
気のせいではない。キョトンとしたいつも通りの表情の中に、確かに風格が漂っている。獣人に備わる第6感とでも呼べる、生存本能がルークに対して警鐘を鳴らしている。
(……今のルークは私よりも確実に強い……)
そう心の中で呟くと同時に目頭が熱くなる。
「えっ!? ロアナさん?」
泣き始めてしまった私を見てオロオロとするルークは相変わらず可愛いが、いまは涙が止まりそうにない。
ルークの成長が嬉しくて堪らない。成長したルークを2人に見せたくて堪らない……。
(ルーナ……。マイン……。あなた達の息子はあなた達より……)
そう心の中で呟くと、どこからか、
「だから言ったんだ!? ほら見ろ、ロア!」
「当たり前じゃない!? 疑うなんてひどいわ、ロアナ……」
と2人の声が聞こえた気がした。
「大丈夫。ルークが無事で嬉しかっただけよ?」
「……なんだ。急に泣いちゃうからびっくりしたよ!」
ルークはホッとしたように苦笑を浮かべる。私はさらさらの銀髪をそっと撫で、紺碧の瞳を見つめて口を開く。
「頑張りなさい……。私はルークの味方だからね?」
ルークは少し照れたように頷いて、
「うん! 頑張るよ!」
と屈託のない笑顔を浮かべた。
今こそ、2人の代わりに声を大にして言いたい……。
「ルーク・ボナパルトは誰にも到達できなかった『夢の果て』に手をかける」
と……。そして決意する。
ルークがSランク冒険者となったその時に、『あの事故』の事をルークに伝えようと……。
3人で楽しそうにしているルークを眺めながら、そっと部屋から出た。もう一度、深く息を吐きながらルークの無事に安堵した。
(そう言えば『ローラ』はどうしてるかしら……?)
と、『あの事故』を語る上では欠かせない、2人のパーティーメンバーであったエルフの事を思った。
次話「初めてのお泊まり」です。
【作者からのお願いと感謝】
ほんの少しでも、「面白い!」もくしは「次、どうなんの?」はたまた「更新、頑張れよ!!」という優しい読者様。
【ブックマーク】、【評価☆☆☆☆☆】をポチッとお願いします!
この作品を【ブックマーク】してくれた方、わざわざ評価して頂いてた方、本当にありがとうございます!
日間、ジャンル別、5位に上がりました!! 全ては読者の皆様の優しさです!!
これからも頑張ります!!