22話 勃発! 女達の戦い……
―――28階層 「カタル」
「ルーク様……ダンジョンの中に街があります!! それに魔物の気配がありません!! 凄いですね!!」
ルシファーは無邪気に瞳を輝かせる。
「ルシファーはそんな事も知らないのかい? ここは『カタル』っていう、冒険者達が作った街さ!!」
「わ、私はルーク様に声をかけたのです! アシュリーは黙っていて下さい」
「僕のマスターだからね? ルシファーは少し自重してくれるかな?」
「なっ!! ふざけるのも大概にしなさい! ルーク様は私のルーク様です!! ぺったんこさん」
「むぅー……。脂肪の塊が何だって言うのさ! 僕だってもっと成長すれば……人間には女性ホルモンってのがあるんだ!! マスターに触って貰えば、僕だってすぐに大きくなるさ!!」
「「むぅ〜……」」
2人はずっとこんな調子だ。「やれやれ……」と思いつつも、こんな綺麗な2人が自分を取り合ってくれているようで、悪い気はしない。
とりあえず、ここまで帰って来れた事に安堵しながら、街に漂う食事の匂いに、誤魔化していた空腹が顔を出す。
(とりあえず、魔石を換金しないと……)
所持金はゼロなのだから仕方がない。ギルドに持って行く方が換金率はいいが、背に腹はかえられない……。
ここに来るまでにたくさんの魔石やドロップ品をゲット出来たが、アシュリーがリュックを持って来てくれて本当に助かった。
ポケットに入りきらない分は何個か置いて来ていたが、アシュリーが合流してからは取りこぼしがないので、なかなかの量がある。
それに、アシュリーが盾役を引き受けてくれてから、かなり戦闘が楽になった。アシュリーの動きはかなり優秀だ。
「竜装」と呼ばれる、竜の鱗を纏うスキルは強力で、本人が言っていた通り、この辺りの魔物では傷一つ付けることができない。
ルシファーは俺が戦闘を禁じているため、魔物の感知や視界の確保など、的確にサポートしてくれており、かなりパーティーとしての根幹が出来上がって来ているように思う。
「マスターは、僕の助けなんて要らないくらい強いじゃん……」
とアシュリーは拗ねていたが、盾役がいるだけでかなり楽になったのは事実だ。
そもそも、「誰かに守られる」経験のない俺にとって、すぐそばでサポートに徹してくれるアシュリーが居るだけで、本当に感無量なのだ。
「アシュリーが居てくれるだけで、随分楽になったよ? ありがとうね?」
俺が言うと、頬を染めながら、パッーと弾ける笑顔が可愛かった。アシュリーの笑顔には、こちらまで笑顔になってしまう魅力がある。
ルシファーのように心臓を鷲掴みにされる笑顔とはまた違った物だが、もう可愛らしすぎて、思わず抱きしめてしまいそうになるのを堪えるのに必死だ。
「マスターは僕とルシファー、どっちが大事なの?」
「ルーク様は私とアシュリー、どちらが大切なのです?」
ぼんやりと考え事をしていた俺に2人は顔を寄せて問いかけて来る。
(……なんて綺麗で、可愛いんだ……)
2人のドアップに顔を赤らめる事しかできない。
「ふ、2人ともとっても大事で、大切だよ?」
「「むぅ〜……」」
2人は同時に口を尖らせる。反則級の可愛さに俺はまた一つ悶絶した。
俺の命の恩人で俺を心から信頼してくれるルシファー。父さんと母さんからの最後のプレゼントであるアシュリー。
俺にとっては2人ともかけがえのない物だし、2人に優劣をつけることなんてできない。
「2人とも、俺から離れちゃダメだよ? それに2人とも戦闘禁止ね!! 何かあってからじゃ遅いから。それに仲良くしてる2人が俺は好きだよ?」
「もちろんです!! とっても仲良くなりました。ねぇ、アシュリー?」
「本当だよ!!? 僕、ルシファーの事も大好きになっちゃった!!」
2人はとびっきりの笑顔で大声を出す。ただでさえ目立つ2人なのだから、少しは自重して欲しい……と苦笑したのは言うまでもないだろう。
そうこうしているうちに目的の場所に着く。このカタルの街1番の宿である「ロアの宿」だ。
潤沢な財力と魔石をふんだんに使った店なので、魔石を売るにはここが最適だろう……と言う判断だ。
俺達が入店すると、バタバタと走る音が聞こえ、「ん?」と首を傾げると、いつも涼しい顔をしているこの店の店主「狐人のロアナ」が息を切らして現れた。
「い、いらっしゃいませ! はぁ、はぁ。ルークさん。元気そうで……。わたくし、心から安堵致しました」
ロアナは狐の耳とふわふわの尻尾をフルフルと振りながら、茶色と金色が混じり合った髪を掻き上げ、翡翠の瞳を潤ませる。
「ロアナさん! 俺は元気ですよ! そうやって聞くって事は……カイル達が?」
「ええ……。2日ほど前に来店されましたが、ルークさんが居られなかったので本当に……。色々とあり、今後は入店を禁止にさせて貰いました……。そんな事より、本当によくご無事で……」
ロアナはカイル達の悪行に顔を顰め、俺の無事に心底安心してくれたように、翡翠の瞳を潤ませた。
(『色々』か……。きっとろくでもない事は確かだ。もう俺には関係ない……。アイツらがどうなろうと俺の知ったことではない。……それにしても2日か。よく何も食べずに動けてたものだ……)
と苦笑しつつも、俺の無事をこんなに喜んでくれるロアナに嬉しくなった。
「マ、マスター……。この狐人は……?」
「ルーク様……。この女狐は……?」
背後から敵意剥き出しの声が聞こえる。
「ロアナさんはここの店主だよ? 元Sランクの冒険者でよく話を聞かせて貰ってたんだ! 俺のお姉ちゃんみたいな人だよ? 2人とも少し落ち着きなよ……?」
「……は、はい……」
「はぁい……」
―――
ロアナは逸る気持ちを落ち着かせながら、冷静に口を開いた。
「あら、こんな可愛らしい2人を連れて、ルークさんも隅に置けないわね……」
「こっちのルシファーは俺が死にかけてる所を助けてくれた恩人! こっちは俺に力を貸してくれるために探してくれてたアシュリー!」
「そうですか……。それはまぁ……。ルークさんを助けてくれてありがとうございました……」
ロアナの鋭い眼光にルシファーとアシュリーは即座に理解する。
((コイツは敵だ!!))
ロアナもまた直感的にこの2人を敵視し、
(せっかくあのクソパーティーから離れたのに、何なのこの美女と美少女は?! ちゃんと信用できるんでしょうね!? 顔にだまされてるんじゃないの!!? もっと慎重に仲間を選びなさい!! ルーク!)
と心の中でルークに悪態を吐いた。
「ルーク様。早く用を済ませましょう。私、食事と言うものを食べてみたいです……」
「そっか! ルシファーは食べた事ないもんね……。どこがいいかな……?」
ルシファーはここに長居する事は危険と判断し、さっさとここから退散するために、口を開く。
「僕も少しお腹すいたかな? マスターは知ってるかな? この街の入り口に凄く美味しいお店があるの……」
「えっ!? 入り口にそんな店あったかな? 俺でも知らないのにアシュリーは凄いね?」
アシュリーも即座にルシファーの作戦に乗っかり、2人は目を合わせ、コクンッと頷いた。
「ふふふっ。ルークさんが無事で、わたくし、とっても嬉しかったので、最高級の料理をご馳走させて下さい……。その『入り口の店』よりも絶対に美味しい料理を作らせます……」
「ええっ!! 悪いよ。ここの料理は美味しいけど……俺、いまお金持ってないんだ」
「構いません!! なんなら一泊してくれても構いませんよ!!」
「うぅーん、じゃあ、」
「ルーク様。私、アシュリーが言っているお店に興味があります……」
「そうだよ!! 僕はカタルに来たら、アレを食べるって決めてるんだ!!」
ロアナvsルシファー&アシュリーが目の前で起こっていることに全く気づかないルークは、
(魔石を換金しに来ただけなんだけどなぁ……)
とぼんやりと思いながら、「入り口にある美味しいお店」を必死に思い出していたが、全く見当がつかなかった。
ロアナは薄く口角を上げ、翡翠の瞳をキラリと輝かせる。
「へぇ〜……アシュリーさん。それは何てお店ですか……? 長年この宿を経営しておりますが、入り口にそんなに美味しいお店があるとは、恥ずかしながら耳に届いておりません……」
少し困ったようにロアナは口を開いたが、
(そんな店ないんでしょう!!?? 2人がルークに相応しいか見定めてくれる!!)
と心の中ではニヤリと勝利を確信していた。
「えっ? ……あ、いや、えぇーっと……何だっけなぁー……」
アシュリーの困惑に、ルシファーは、
(なんでもいいから店の名を言いなさい!!)
と心の中で絶叫したが、その願いは叶わない。
「ルークさん。あちらに準備が出来ましたよ? さぁ、食べて行って下さい……」
「え、いや? ……せっかくだし、お言葉に甘えようか? また上層に上がる時にその店で食べてから行こう! 2人ともそれでいいかな?」
「「……はい」」
女達の戦いはロアナの勝利で幕を閉じた。
(この腹黒、女狐め……)
(狐人、油断できないヤツ……!)
とルシファーとアシュリーは、とぼとぼとルークの背を追った。
次話「ロアナの心情」です。
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