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20話 カイルの決断


―――22階層


「はぁ、はぁ、はぁ。本当にどうなってやがる……」


 アランはしみじみと呟いた。どう考えてもこれまでとは違う状況に、苛立ちが募る。アンとジャックは魔力切れなどと、今まで一度も陥った事のない状況になっているし、カイルは何やら考えこんでいるようだ。


(クソッ……。何で下層にいた頃より苦労してるんだよ? 普通は下層に行くほどキツくなるもんだろ?)


 心の中で悪態を吐きながらも、めっきりと使い物にならなくなっているジャックとアンを睨む。


「なんだよ? 魔力切れって!! いい加減にしろよ! 今まで一度もなかったじゃねぇか!!」


「うるせぇーな!! こっちだって好きで魔力切れになってるわけじゃねぇんだよ!!」


「あぁ!? 足手まといが何言ってんだ?!」


「テメェは魔法使えねぇだろ? 今まで何度俺に助けられたと思ってんだ!!?」


 確かにそうだ……。今まで、ジャックの魔法に散々助けられて来た。どんな時でも適切に魔法を発動させ、あらゆる場面で活躍して来た。


 それだけに腹が立って仕方ない。ただ逃げ回るだけの魔導士など居ない方がはるかに楽である。治癒士も同様だ。アランからすれば、アンは機動力に欠けるので、余計に足手まといだ。


 アラン自身も、荷物を持たなくてはいけないし、戦闘時の疲労の溜まり方が尋常ではない。それが苛立ちの原因の一つになっている事は確かだが、それ以上の苛立ちの原因は、次々と現れる魔物達だ……。八つ当たりは仕方ない事なのだ。


「何がどうなってんだよ!? ふざけんじゃねぇよ!!」


 アランはダンジョン内の小石を蹴飛ばすが、


「……どう考えても『水』だろ……?」


 とジャックは面白く無さそうに、心底ダルそうに声を絞り出した。しかし、瞳には確実に動揺しているのが伝わってくる。


「……水は水だろ!? い、いつもと変わりねぇだろ??」


 アラン自身も縋るように声を発する。


「てめぇみたいな脳筋にはわかんねんだよ……。あの『水』の……」


 ジャックは最後の言葉を濁したが、それは言わずとも伝わった。


 「あの水の凄さが……」もしくは「ルークの力が……」


 そのどちらかだろうと容易に想像できた。魔力を使わないアランでも、あの『水』に特別な物は感じていた。


 あの『水』を飲めば、身体がすぅーっと軽くなった……。ダンジョンに潜るようになった時から、ダンジョン内では『あの水』しか飲んでいなかったので、


(ダンジョンの中では水すら格別なんだ!)


 などと胸を高鳴らしていたのだ……。きっとジャックとアン。もちろん、カイルも同じだろう……。


(……クソが……。あの『無能』の力だって言いてぇのか……? アイツの『水』には特殊な力が……? ふざけるな……。『洗濯』しか出来ないクソザコだ)


 心の中でいくら否定しても、振り払う事ができない雑念に、アランは小さく「クソが……」と呟いたが、それに反応する元気がある者は、このパーティーにはいなかった。



※※※



(バチが当たったんだ……)


 ジャックは言いようのない不安にバクバクと落ち着く事のない心臓に泣いてしまいそうになっていた。


 あの水が特別である事は、もう確実な物として捉えているし、まだ何か見落としているような焦燥感に思考を進める。


(魔法で生み出した『水』が特別な物なのでは?)


 と試してみたところで、特別な効力は発揮しなかった。ただただ、喉を潤す無味無臭の何の変哲も無い水が出来上がっただけだった。


 ジャックは今になって魔導士の常識を突きつけられる。


『魔導士はMPポーションを常備すべし』


 この周知の事実を軽んじた結果が、今だ。魔力切れで身体が冷たく、戦闘なんて出来たものではない。逃げ回る事しかできず、全身には針を刺されているような痛みが止む事がない。



 他の魔導士達からの、


「さすが『二刀流』の魔導士だ!」

「無尽蔵の魔力を持っているらしいぞ?」

「『魔術・極』はやっぱり選ばれた人間にしか……」

「上級魔法も打ち放題らしいぞ……?」


 と言った賛辞を平然と受け入れ、


「俺は特別だ!!」

「俺は優れている!!」

「俺は強い!!」


 と自信満々で、他の魔導士を侮蔑し、横柄な態度をとって来たバチが当たったのだ……とこの状況を悲観する事しかできない。



 アイツ本人には『何か』の力はないが、アイツが『洗濯』した物や、生み出した物には力が宿るのではないか? という結論を出しながらもそれを口にするような事が出来ない。


「アイツの松明には魔除けの効果が?」

「アイツが『洗濯』した俺のローブにも特殊効果が?」

「アイツの水には魔力回復などの力が……?」


 そう考えると、この大量の魔物の出現や、自分が何も出来ない状況に納得が行く。


 先程からカイルは何やら考え込んでいるようだし、アンはカイルの女だ。アランはまだ動けるようだし、この状況で真っ先に切り捨てられるのは自分だ。


 カイルの暴虐っぷりは理解している。


(俺も『アイツ』みたいに……)


 ゴクリと唾を飲み込みながら、思いもしなかった「死」への恐怖が身体の震えを助長させる。


(し、死にたくない……。もうこのパーティーはダメだ……。どう考えても終わってる。俺達は決してやってはいけない事を……『ルーク』を捨ててしまった……)


 カイルやアランの動きにもかなり疲労が見える……。アンは付いてくるのに必死のようだし、自分と同様、魔力切れで震えている。


(……何で……なんで俺が!! 『魔術・極』だぞ? 俺は魔導士の高みに行く存在のはずなのに……)


 心の中でわずかに残っている自負が顔を出した。荒くなる呼吸にギリッと唇を噛み締めると、不意にルークの姿が目に浮かんだ。


「ジャック、俺も魔法を覚えてみたんだけど……。これで少しは役に立てるかな?」


 銀髪をポリポリと掻きながら紺碧の瞳を輝かせ、少し不安そうにしながらも、希望に満ちた表情でルークは言った。


(あの時、俺は何て言ったかな……?)


 記憶を手繰り寄せるが出てこない。確か、最下級の魔法だとわかり、馬鹿にしたはずだ……。


「ザコのくせに調子に乗りやがって……」


 などと言ったはずだ……。冒険者に甘い夢を見ている顔に吐き気がして、殴り飛ばしたんだ……。


 そしてサラサラの銀髪を掴んで……、


「そんなのは魔法って言わねぇんだよ! テメェは黙って『洗濯』してりゃあいい!! 出しゃばってたら殺すぞ!?」


 と言って唾を吐いたんだ……。


(……あぁ。俺は……)


 今まで散々好き勝手やってきた。抱きたいときに女を抱き、気に食わないヤツには平気で魔法を撃った。


(とりあえず、ノアの街に戻るんだ……。そこで俺はもう……)



グオオオオオオオ ギャァギイイイ!!



「クソがッ!! もう来やがった!!」


 魔物の咆哮とアランの声にふぅ〜っと息を吐く。


(早く逃げないと……!!)


 と後方に向かおうとした所でカイルと目が合った。


 カイルは薄く口角を吊り上げ、双剣を手にゆっくりと自分の方へと歩いて来る。


(や、めてくれ……。俺が、俺が悪かったから!)


 心の中で懸命に叫ぶが、カイルの足が止まる気配はない。


「ま、待ってくれ!! 魔力が回復すれば大丈夫だ!! 俺の魔法の力を知ってるだろ? 魔力さえありゃ、この、オークくらい一掃できる!! カ、カイル!!」


「……ジャック……。わかるだろ……? このままじゃ帰れねぇんだよ……? 少しでも体力を残しとかねぇとダンジョンから出られねぇんだ……」


「辞めてくれ! 俺が悪かったから!! なんでもする!! 連れて帰ってくれたら、もっとお前の力になれる!! 俺達、仲間じゃねぇか!!? なぁ、カイル!!」


「……ククッ。ジャック……。じゃあ……『仲間』のために死んでくれ……」


「嫌だ!! 俺は、俺は!! あああー!! おい! アラン!! アン!! 2人からも何とか言ってくれよ!!」


 ジャックは2人に視線を向けるが、誰も自分の方を見ようともしない。


「ふ、ふざけんなよ……。何なんだよ……。はぁ、はぁ、冗談じゃねぇ……」


「悪りぃな、ジャック。こうするしかねぇんだ……」


 カイルの表情は言葉とは裏腹に満面の笑みだ。


「いやだ、いやだ、いやだ……。ルーク……。ルーク!! 助けてくれ!! ルーク!!!!」


 ジャックの頭には弱いくせに、いつもいつも自分達のする事に「やめろ!!」と言っていたルークの真っ直ぐな青い瞳が浮かんでいる。


「ククククッ。アイツはもう死んだだろ? バカな事言ってんじゃねぇよ……」


 カイルは剣を振るう。


グザンッ!!


「あぁあああ!! い、痛ぇ……。俺の足……ふぅ、ふぅ、俺の足が……。あぁああ!!」


 片足を切り飛ばされた……。目の前には魔物の群れ。


「カイルーーー!! て、てめぇ!! アン!! 何してやがる!! 早く治癒しろ!!」


 ジャックは涙、鼻水、涎を垂れ流しにしながら大声で叫ぶが、アンは身動き一つしない。


(誰か……。助けて……)


「ぐぅっ………」


 足の痛みと止めどなく流れる血。


「ジャック。お前は勇敢だったとみんなに言っといてやるからよ……」


 カイルは笑みを堪えながら呟き、


「行くぞ……」


 とジャックを残し上層に向かって走り去った。


「待て!! おい!! アラン!! アン!! 連れてけッ! 俺も連れていけよーー!!」


「……悪りぃな……」

「……ごめんなさい……」


 2人はカイルの背を追った。


「うあああああーー!!!!」


 ジャックの絶叫が聞こえないように、アンは自分の耳を塞いだ。




次話「『追放組』始動!!  VSオークロード」です。


【作者からのお願いと感謝】


ほんの少しでも、「面白い!」もくしは「次、どうなんの?」はたまた「更新、頑張れよ!!」という優しい読者様。


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[一言] なかなかいいな。じわりじわりと追放したやつの能力を噛みしめつつざまぁされていくのはいいな
[一言] 最後の最後で自分の愚かさに気づいたジャック せめて安らかに眠ってくれ
[一言] 主人公はともかく追追放の彼は生き残れない可能性が高いな 極悪PTの逮捕処刑があっても2人目の犠牲者は報われないよな
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