18話 ドラゴン幼女の目覚め
―――32階層
意識を奪った幼女が倒れていく所を支え、抱き上げた。この子はおそらく敵ではない。殺気もなかったし、本気で争うと言ったよりも、遊んで欲しそうな感じだった。
「ルーク様。ありがとうございます……。そ、それよりもドラゴンを一蹴するなど……」
「ハハッ。ドラゴンって世界を滅ぼす力を持ってる魔物だよね? こんな子供が……?」
「ルーク様!! その娘はドラゴンですよ!! 嘘じゃありません!! 信じて下さい……」
「ルシファーがそう言うならそうなんだろうね……。別に疑ってはないよ?」
ルシファーは少し拗ねているように金色の瞳を潤ませる。俺はルシファーの頭をポンッと叩きながら、横に寝かせているドラゴン少女に視線を移した。
確かに、かなりの『力』を持っている節はあった。先程の戦闘も本気の5割も出してはいないだろう……。
近くに寄った時の『圧』はこれまでの魔物にはなかった物だ。最後の竜の鱗のような物はとても硬かったし、剣は通らないだろう。
本当に殺意を持っての戦闘であればどうなったかわからない……。
「確かに、まだまだ力を隠してそうだったね……」
「隠していたのではなく、使えなかったのでしょう……。弱体化もあるかもしれませんし、ルーク様の『洗濯』はかなりの短期決戦が約束されています。まぁ実力を発揮した所でどうしようもなく、ルーク様の圧勝でしょうが……」
「うぅーん……、触れなければ使えないってタネが割れて、対策を取られたら、なかなか難しいね。まぁ魔物相手だと意味のない話しだけど!」
「大丈夫です! ルーク様の『観察眼』は最早スキルと呼んでも過言ではありません!!」
「ふふっ。ありがとう!」
「い、いえ! ルーク様なら、と、当然です」
ルシファーは何だか顔を真っ赤にしている。「ん?」と首を傾げると、
「ルーク様の笑顔は、世界で1番美しいです……」
と世界一可愛いハニカミ方でルシファーは言った。心臓が撃ち抜かれるのは仕方ない……。顔に熱が上がってくるのを感じながら、慌ててルシファーから視線を外すと、ゴロッと寝返りの拍子にフードから隠れていた部分が露わになっている幼女が目に入った。
伸びきっている赤髪は手入れされていないにも関わらず、とても艶やかで綺麗だ。赤髪に埋もれているが、小さな角が2本生えており、ルシファーを信じていないわけではなかったが、「本当にドラゴンなのだ……」と少しびっくりする。
綺麗な肌は健康的でまつ毛がクルンっとしていてとても可愛らしい。触るまで気づかなかったが、とても軽かったし、身体は柔らかく、女性であるのがわかった。倫理的に欲情はしないが、かなりの美少女であるのは一目瞭然だ。
「ふふっ。可愛いね? ルシファー」
「……!! ……ル、ルーク様。わ、私とどちらが……」
「えっ? あ、いや、そう言う意味じゃないよ? こ、子供としてって事だよ?」
「むぅー……」
「でも、何で冒険者なんてしてるんだろう……? まぁ『売られなくて』よかったと思うけど……」
「大方、性別を偽っていたのでしょう。早くここに置いて、上に上がりませんか……?」
ルシファーは少し焦っているように口を開く。
確かに早く28階層まで上がり、ゆっくりとしたいと言うのが本音ではあるが、この子をここに置いていくのは可哀想に思える。
ルシファーに対する攻撃で、突発的に意識を奪ってしまったが、そんなに悪い子だとも思えないし、なんだか寂しそうで、何かに怯えているような雰囲気もあった。
かなり感覚的な話しだが、何かに悩んでいるなら助けてあげたい……。
「……ルーク様?」
「うん。まぁ目が覚めるまでは居てあげないと可哀想だよね? 1人で置いていかれる気持ちがわかるから余計に……。それにドラゴンだからってこんな所に倒れてたら他の魔物に何かされるかもしれないし……」
「……ルーク様はお優しいので、そうおっしゃると思っていました。……少し、優しすぎです……。せっかく、ルーク様と2人きりだったのに……」
ルシファーは何だかまた拗ねたようにぶつぶつと何やら言ってるみたいだが、俺には聞こえないように言っている。
(少しだけ『マリー』に似てるな……)
優しくドラゴン幼女の頭を撫でながら、両親が死んでから生活していた孤児院で、俺に懐いてくれていた『マリー』を思い出した。
なぜかいつも俺の後をくっついて来る妹のような物だ。ノアに来てから会っていないけど、元気にしてるかな? と故郷の村を思い出していると、ドラゴン幼女が目を覚ました。
「マ、マスター……?」
幼女は目を擦りながら、俺を見上げてくる。
キラッキラの漆黒の瞳に少しドキッとしてしまったのは秘密だ。幼女らしからぬ妖艶な雰囲気はマリーとちっとも似ていなかった。
「え、あ、いや、お、おはよう……」
「おはようです。マスター……」
(マスター??)
と困惑していると、俺の腹に顔を埋めて甘えて来ている幼女。
(な、なんで? ちょっ、ええ?)
「なっ……!! ルーク様から離れなさい!!」
俺が狼狽えていると、後ろからルシファーが幼女のフードを掴み、俺から引き剥がそうとするが、フードだけが剥ぎ取られ、そこには限りなくゼロに近い布しか身につけていない幼女が現れた。
「天使ちゃんの、えっち……」
幼女はニヤリとイタズラに笑う。八重歯……と言うよりも牙? がよく似合う可愛らしい笑顔だ。
「なっ……!! は、早くルーク様から離れなさい!!」
「ねぇ、マスター……。僕、頭撫でられるの大好きなんだ。よしよしってしてくれる……?」
俺は上目遣いの幼女にキュンとして、半ば無意識で赤い髪に手を伸ばすと、
「い、いけません!」
と割り込んできたルシファーの胸に着地してしまい、そのまま数回撫でてしまう。
「んっ! あっ、んっ……」
ルシファーの甘い声に、正気に戻り、手の感触にアワアワと顔に熱が湧いてくる。
「なっ、あっ! いや、違う! ご、ごめん!! ルシファー!」
「い、いえ……」
紅潮したルシファーに悶絶していると、幼女がルシファーの前に躍り出て、俺にしがみつき、俺の首筋に薄い唇をつけた。
「こ、このドラゴン娘!! な、なんて羨ましい事を!!」
ルシファーに後ろからヒョイと持ち上げられた幼女はぷくぅ〜ッと頬を膨らませ、
「僕のマスターなの!! 天使ちゃんばかりズルい!」
と駄々を捏ねた。
怒涛の目覚めに、俺はもう何が何だか分からず、ただただルシファーの胸の感触と、首筋に残る幼女の唇の感触だけが、熱くなるのを感じていた。
次話「『アシュリー』の告白と救済」です。
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