108話 クロエ・ヴェルーチェ
☆新作のお知らせ☆
『【ピアノ弾き】の冒険者~「戦闘中にうるさいんだよ」と追放された、演奏で《バフ&デバフ》を操る自称『補助最強』の俺は、一緒に追放された笑わない女剣士を英雄にしてやろうと思う~』
よろしければご一読下さい。
※※※※※
「……不思議な人」
遠くからルークたちのやりとりを見つめていたのは、まだ頬を濡らしているCランク冒険者"クロエ・ヴェルーチェ"。
真っ黒のショートヘアに大きな紫色の瞳は、まだ少し潤んでいる。
腰元には自分の名前らしき物しか書かれていない、古びた魔導書。黒と白のワンピースにフード、背中に背負うリュックはいかにもサポーター役の少女だ。
(……あの人が"ルーク・ボナパルト"?)
突如として現れた3つの頭を持つ化け物の出現に、絶望がひしめくカタルに現れた"救世主"。さらさらの銀髪に透き通る紺碧の瞳は、滲む視界の中でも輝いていた。
――綺麗にしても……、君の仲間に少し触れてもいいかな?
クロエは先程のルークの言葉と、光に包まれて綺麗になった親友の亡骸の前に座り込むとギュッとリュックの紐を握りしめ、
「"アンナ"……、起きてよ……!!」
涙声で呟き、また瞳を潤ませる。
――私が一緒に『クロエ』を見つけてあげる!
世界一のゴミ溜め"ダストエンド"で太陽のように明るい笑顔と言葉をくれた親友の亡骸。
『今まで何をしていたのか?』
目が覚めると、一切の記憶のなかったクロエを導いてくれた恩人がアンナだったのだ。
クロエは太陽を失った。
遠くからは冒険者達の笑い声が響いているが、クロエはとてもじゃないが気持ちを切り替える事は出来ない。
――冒険者なら、アンナ達でもなれるみたい!
――ふふっ。クロエは甘えん坊だね?
――ここから抜け出して『自由』になろう!
――クロエ! 行こう?
親に捨てられた過去を持つのに、いつも笑顔を絶やさなかったアンナは、そう言ってクロエの手を引いてきたのだ。
「うっ……うぅ……アンナ。起きてよ……起きて……。クロエを1人にしないで……」
『自分探し』を手伝ってくれていた。姉のように慕っていたアンナの死に、クロエは深い絶望に包まれていた。
こんな事なら……、
(旅になんて出なければよかった……!!)
アンナは死ぬべき人じゃなかった。誰よりも優しくて、誰よりも笑顔が似合う可愛い女の子だった。何もわからない自分を導いてくれる唯一の存在だった。
「……アンナぁ……うぅ……」
瞳を閉じると浮かんで来るのは、アンナの笑顔と、顔が半分焼け爛れていた気味の悪い"化け物"がアンナの心臓を貫いた光景。
口から血を吐きながらもニッコリと微笑んだアンナと、恐怖に包まれ、ただその光景を見ている事しか出来なかった自分。
果敢に挑んで行く冒険者達が斬り捨てられていく絶望。
誰もが与えられるはずの『恩恵』は【翻訳】と呼ばれる物らしいが、これまで役に立った事がない。
なんの力も持っていない自分自身を心から嫌悪する。
(ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……。ごめんなさい……!! なんで、なんでアンナが……、あんなに優しくて強いアンナが……。いや……、いや……!!)
アンナの命を奪った剣士風の化け物に対する憎悪と恐怖。
これでアンナと離れ離れになってしまう事への喪失感にクロエは泣き崩れていたが、ふと頭に"ある物"の存在がよぎる。
(……『夢の果て』……)
誰も手にした事のない秘宝。
このノアの大迷宮に眠っている大秘宝。
(もしかしたら、アンナを生き返らせることも……?)
ゾクゾクッ……
クロエはまだ希望がある事に身震いする。
『"夢の果て"を手に入れて、絶対にアンナを生き返らせる!!』
アンナの太陽のような笑顔を思い返しながら、いま自分のすべき事を考え、1人の人物を見つめた。
(……あの人となら……)
クロエはルークを見つめている。
クロエの涙で濡れた紫色の瞳にはルークだけが輝いて見えていた。記憶の持たない少女は、親友を生き返らせることを心に誓い、一歩を踏み出した。
新キャラ登場です。
今後ともよろしくです。
☆新作☆
『【ピアノ弾き】の冒険者~「戦闘中にうるさいんだよ」と追放された、演奏で《バフ&デバフ》を操る自称『補助最強』の俺は、一緒に追放された笑わない女剣士を英雄にしてやろうと思う~』
少しでも「面白そう」と思って下さった皆様。是非、是非、読んで下さったら泣いて喜びます!!




