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106話 〜逃亡〜

☆☆☆単行本1巻発売しました★★★



―――数分前



 アシュリーを屠ろうと行動しようとしたミュズウェルは、ただただ立ち尽くしていた。


(なんて男だ……あの銀髪……。流石はアデウス様の"獲物"と言ったところか?)


 ケルベロスを瞬殺したルークに驚嘆しながらも、『この程度』であれば、自分のご主人様には勝てないだろう……と判断する。



『果てしなく強いが、どこかヌルい』


 殺意や憎悪のような殺気がない事に、ミュズウェルはそう判断したが、ケルベロスを失った事は大失態だ。



「バルノフ! 一度引くぞ!!」


 今から"赤髪の小娘"を屠るのは簡単だが、そうなれば『あの男』との衝突も避けられない。


 それはケルベロスを失う事よりも許されない事。


 ご主人様の『獲物』に手を出す事が何よりも重い罰を与えられる事をミュズウェルは理解していたが、



ババババババババッ!!



 強烈な『光の矢』に包まれたカタルに大きく目を見開いた。



(ル、『ルシファー』!! アイツ、なぜここにッ!?)



 最強の堕天使にして、ご主人様であるアデウスを"コケ"にした『傲慢』な天使。



――アスモデウス。なぜ、私があなたの言うことを聞かないといけないのかしら? 



 「殺して」と懇願するアデウスにそう呟いて、戦闘の記憶を奪い、姿を眩ませたルシファー。


 ガタガタと震えながら、その戦闘を見ている事しかできなかった自分を、



「頭が高い……」



 などと一瞬で灰にした張本人。


 アデウスに何度も"破壊と再生"を繰り返されているうちに蘇った遠い日の記憶。



 ミュズウェルはルシファーの姿に絶句し、大気がひび割れるほどの力を解放し始めたアシュリーの"圧"にブルッと身震いした。



(……コ、コイツら!!)



 遠い日の記憶のルシファー。得体の知れない竜のような圧を放つ赤髪の小娘。


 そして『殺意』を持たない銀髪の男。


 ふと、ミュズウェルは小さく首を傾げる。


(なぜ『あの男』なのだ? この中では1番の弱者のように見えるのに……? アデウス様らしくない……)

 

 心の中でルークを軽んじ、


「と、とにかく、逃げなければ……。バルノフ……」



 『死地』にいる仲間を救出せねばと判断するが、



ガッ!!! 



 赤髪の小娘は何の躊躇もなく、バルノフの頭を真っ黒の竜の鉤爪で掴み上げると、そのまま握り締め、頭を破壊した。



グシュッ!!



 頭を潰されたバルノフだが、行動を止める事なく剣を振るう。


 しかし……、


ガキンッ!!


 銀髪の男がその剣を砕き、『光の矢』がバルノフの四肢を貫き、自分の横を猛スピードで駆け抜け、



ドゴォーンッ!!



 背後の壁に衝突する音が響いた。



ガクガクガクガクッ……



 無意識に震える身体。それは過去にトラウマを植え付けた天使でもなく、凄まじい魔力を放った竜女でもない。



ギロッ……



 どこまでも透き通る紺碧の瞳の眼光による物だった。

 吹き飛んでいくバルノフの方など一切確認する事なく、自分に向けられた鋭く冷たい蒼い瞳。



(……ハハッ。ハハッ!! ハハハハハハッ!!!! 流石はアデウス様だ!!)



 瞬時に理解した生物としての格。


 対峙する銀髪の男は最弱種の"人間"とはかけ離れた存在だとはっきりと認識すると同時に、それに挑まんとする自分のご主人様への憧憬を燃やした。



(……ククッ。ルシファーと竜女は私共で上手く処理する。あの銀髪は……ククッ……)



 昔のままではない。


 アデウスに付き従っている年月はミュズウェルが1番長い。常に死線に立ち、幾度となく強者と呼ばれる者に挑み続け、圧倒的な力を手にしたアデウス。


 もちろん、生み出される自分達の力も以前の比ではない。今ならば、一矢報いるくらいならできるはずだとルシファーを見つめる。



「バルノフ……。一度引くぞ! "標的"を見れたのが、今回の収穫。それに……だいぶ弱ってるなぁ? ルシファー……? クククッ……」



「赤髪、殺す……、金髪、殺す。銀髪、孤立。自分はアデウス様の剣」



 超速再生していくバルノフに口角を吊り上げながら、最後に今一度、ルーク達を一瞥し、ミュズウェルは小さく呟いた。



「《カルキノス》……」

 


 ミュズウェル達は"ペットの回路"を使って、35階層に置いていた巨大な化け蟹"カルキノス"の元に逃亡した。



(あの2人を屠るためには、魔獣をもう数匹頂かなくては……)



 ミュズウェルはケルベロスを屠られてしまった失態に少し頭が痛くなったが、ルシファーを屠る事が許されている事に胸を高鳴らせた。




※※※※※




「……逃亡したようです。ルーク様、おそらく下に降りたようですが、討伐に向かいますか?」



 ルシファーはクルリと振り返ると小さく首を傾げる。



「……下に冒険者達は居る?」


「……いえ、この下の2階層分だけですが、不自然なほどに反応はありません。"あの者達"がカタルにくる道中で……既に……」


「……」


 一体、どれほどの被害が出たのだろうか?

 あの"異形"なヤツらは何だったのだろうか?


(クソッ……、みんな、無事かな?)


 頭の中には俺の帰還を喜んでくれた冒険者達や、アランを殺してしまいそうになった時、止めてくれたみんなの顔がよぎる。


(まずは、これ以上、被害が出ないように下に行く冒険者達が出ないようにしないと……)


 まだわからない事だらけだ。

 明らかにおかしいダンジョン。

 カタルに現れたケルベロスと"異形"。


 こんな事はこれまで一度もなかった。



「……ルーク様?」


「まずはカタルの立て直し。それから……、ルシファー? 『緊急時だけ』って言ったはずだけど……?」



 今回の攻略開始時でのルシファーの言葉を思い返す。



――ルーク様。私もアシュリーのように戦闘に加えてください。私だってルーク様のお役に立ちたいのです!



 涙目の懇願にすぐにOKしてしまいそうになったが、ルシファーは人を殺めそうになると、じわじわと『黒』に犯されてしまうから、戦闘を禁止していた。


 「相手が"人間"でなければ、大丈夫です!」って泣きそうになってしまったので"緊急時だけ"は戦闘を許可したんだけど……、今回はルシファーの参戦が必要だったかは怪しい所だ。



「……ル、ルーク様……?」


「あの"異形"の2人は魔物じゃないよね? もし、また『黒』に犯されてたら……? アシュリーも……。暴走はきっと"誰かのため"ってわかってるけど、すごく怖かった……」


 ルシファーの力はもちろん知っているし、もちろんアシュリーの力も信用している。でも、2人にはそれぞれの危うさがある事もよく知っているつもりだ。



(ルシファーが46階層より上で『黒』に犯されたら? アシュリーが暴走して、我を忘れてしまったら?)


 

 そう考えるとゾッとする。

 2人を失ってしまう事はどんな物よりも恐ろしく、どんな事よりも怖い事だ。



「え、えっと……あの、わ、私も何かのお役に立ちたくて……。も、申し訳ありません……!! 冒険者達の救助は終えましたし、殺意を向けても息苦しさもありませんでした。それに、アシュリーがなにやら手こずっていたように見えたので……」


「なっ!! 違うよ! 僕もマスターみたいに華麗な戦闘に挑戦してみただけだよ! ルシファーが勝手に飛び出して来たんだよ、マスター!!」


「……そんな事できるはずがないでしょう? 何の冗談かしら? このドラゴン娘は……」


「むぅ!! 何さ! 敵前で放心してたくせにッ! "紛らわしい事"を言って、僕を動揺させて!!」


「そ、それは……! 悪かったです……」


 シュンとしてしまったルシファーにアシュリーは大きく目を見開く。


「……い、いや、僕が暴走して迷惑かけちゃったのが1番悪かったよ……。早とちりしちゃって……! ごめんね、マスターもルシファーも……」


 2人してシュンとしてしまった事に小さく息を吐き、2人の頭に手を置く。



「いや……、ごめん。俺のわがままだよね。2人と離れたくなくて、側にいて欲しくて。2人は俺のためを考えてくれてるのに……」


「い、いえ!! 悪いのは全て私です!!」

「悪いのは僕だよ! マスター!!」

「私です!」

「僕だよ!」


 何やら言い合いを始めてしまった2人に「俺が悪いんだってば!」などと叫んでいると、ダダダッと駆け寄ってくる男が聞こえる。



「師匠ぉぉおおおおおお!!!!」



 猛スピードで駆け寄ってくるサイモンの後ろには、"クラップハンズ"のメンバー、イルとノイヤー、まだ少しだけ残っていた冒険者達、ロイやロアナが立っていた。




 


どこでもヤングチャンピオンにて連載中の「【洗濯】のダンジョン無双」の第1巻が発売開始致しました!!


読者様方には本当に頭が上がりませんね。

皆さまの支えと共に書き続けられている、この作品。

本当に感謝しかありません!


ご一読頂ければ幸いです。

一話は無料で公開されているので、お時間のある方はぜひ!


何卒、よろしくお願い致します!

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