100話 トールとの再会
☆祝100話☆
―――26階層
俺達は順調に攻略を進めていた。
途中、すれ違う冒険者達からは尊敬の眼差しを向けられ、コソコソと感嘆の声をかけられる。
(……なんだか恥ずかしいな)
まるで自分が、昔の『カイル』のようになったような気分だ。駆け出しの頃やまだ追放される前は、よくこんな風に他の冒険者達から持て囃されていたのを思い出す。
(あの頃は、カイルに向けられる賞賛を誇らしく思ったりもしてたっけ)
ダンジョンにはやはり思い出が多い。それが嘘だったとしても、カイルの最後に言葉を聞かされた俺にとっては、捨て切れるわけでもない。
28階層の『カタル』を目前に控え、27階層に足を踏み入れると、遠くで戦闘していたパーティーが目についた。
『引き寄せ』て両手のナイフで、オークソルジャーを切り刻む男には見覚えがある。魔導師の男は『雷系』の魔法を使用して援護していて、治癒師の女性が後ろに控えている。
「ルーク様。『あの男』、確か、」
「マスターの友達だよね!? 確か、トグ? ん? トラン? ト、ト、」
「『トール』ですよ、ドラゴン娘! 私がルーク様とお話していたのですよ!」
「別に僕だって話に入れてくれてもいいじゃん!」
「遮る必要はないでしょう?!」
2人のいつも通りの会話を聞きながら、トール達の戦闘を見つめる。
(かなり強くなってるなぁー!!)
確か『磁力』で『引き寄せ』と『反発』させるようなスキルを持っていたはずだけど、なかなかの熟練度に見える。
ドカッ!!
オークソルジャーが倒れて黒い霧に姿を変えると、魔石を落とした。治癒師の治療を受けているトールと目が合うと、トールは驚いたように笑顔を浮かべて駆け寄って来てくれた。
「ルーク! これから『S』への道か!?」
トールはアランを屠りそうになった俺を止めてくれた恩人だ。俺の夢を応援してくれる友達、いや、冒険者仲間だ。
「『トールさん』! 久しぶりだね! 今帰り?」
「ああ! 今回で俺達も『A』だぜ! 見てくれ、これ! ギガントミノタウルスの魔石だ! 36から先は、まだ準備できてないから1度、ノアに帰ってるんだ」
「ふふっ、2人で闘技者達にやられちゃったのが懐かしいね」
「……ハハッ! そうだな! あれから考えると、俺も強くなったろ?」
「うん! 面白いスキルだ。『磁力』だったよね?」
「ああ。俺も身体を鍛えて、両手ナイフにしたんだよ! 剣でカッコつけてたんだけど、向いてなかったんだろうな。やっぱ軽くて機動力がある方が向いてる!」
「そうなんだ! 両手にナイフかぁ! カッコいいよね? 俺も今回から『刀』を使ってるんだ!」
「……ま、まだ強くなる気かよッ!」
「ハハッ! 俺なんてまだまだだよ! 目指してるのは『夢の果て』だしね! まぁ、今回は『46』までの予定だけど……」
「ルークなら大丈夫だ! 俺も頑張るって決めたからよ!! お互い、がんばろうぜッ!」
トールはニカッと微笑み、手を差し出してくる。
「うん! 頑張ろう!」
ガシッと手を取りながら頬が緩む。
(何か、いいな! こういうの!)
『クラップ』のサイモン達とは親交があるけど、こうして冒険者として頑張る仲間とダンジョンで会うと胸が熱くなる。
ニコニコとしている俺にトールはクスッと微笑み、少し照れたようにポリポリと頬を掻いた。
「……ルーク、ありがとうな! 本当はもう諦めてたんだ。……けど、こうして冒険者として高みを目指そうって思えたのはルークのおかげなんだ!」
「え、ええっ! 俺は何もしてないよ! トールさんが頑張ったからでしょ!?」
「頑張る力をくれたのはルークだよ! 冒険者には腐ったヤツらも多いけど、きっとルークに影響を受けたのは俺だけじゃねぇよ! 変えていこうぜ! 冒険者を!」
少し涙ぐんで俺の肩に手を置くトール。そのボロボロの姿と装備には、絶え間ない努力の痕が残っている。
(かっこいいな……)
冒険者の素行の悪さはまだ全てが改善されたわけではない。中には良くない噂も聞いたりもするけど、やっぱり冒険者はカッコいいと思った。
「がんばれよ。『追放組』! お前達なら、いつか『夢の果て』を……。このダンジョンを攻略するんじゃねぇかって思ってるからよ!」
「ふんっ……ルーク様に不可能などありません」
「マスターは『攻略する』んだ! 思ってるだけじゃないからね! まだまだだぞ? トール!」
ルシファーは俺の後ろからボソッと言葉を返し、アシュリーは俺の前に出てドヤ顔を浮かべている。
「ハハッ! ごめんね。この子達……。まぁ、とにかく……、トールさん! 『A』ランク昇格おめでとう! でも、悪いけど負けないよ? 俺達は今回で『S』を目指すからねッ!」
俺がそう言いながら笑顔を浮かべると、トールはニカッと笑顔を作り、
「俺達、『磁雷』も負けねぇからよ!」
と声を張り上げた。トールの後ろには治癒師の女性と、魔導師の男の人が立っていた。
「アンタが『ルーク・ボナパルト』ですかい。トールに話しは聞いとりますよ。ぜひ1度、手合わせ、」
「あ、あの!! よ、よかったらあ、握手をして貰えませんか!?」
魔導師の男の言葉を遮り、治癒師の女性が俺の前に躍り出る。
「え、あっ、うん。そんな事でいいならいつでも大丈、」
俺が少し照れながら手を取ろうとすると、いつの間にか俺の前にはルシファーが現れ、その女性の手を取り握手していた。
「ちょ、ルシファー?」
「私が握手してあげましょう。あなたは治癒魔法よりも、補助魔法の方を極めなさい。魔力を留めてコントロールするより、相手の弱体化、味方の強化の方が向いてますよ」
「え、あ、は、はぃ……」
「ふふっ。頑張りなさいね。応援してますよ?」
「は、はい……。『ルシファー様』……」
治癒師の女性はルシファーを見つめてポーッと頬を染めて、目をハートにしている。ルシファーはよくこうして、俺が女の子と話していると、その女性を虜にする事がある。
ノアの街には知らぬ間にルシファーを女神と崇める女性達の集団ができているとか、いないとか……。
俺は苦笑しながらアシュリーに目を向けると、俺と目が合ったアシュリーはニコッと笑みを浮かべ、俺の耳に口を寄せた。
「マスター。早く行こう……。もうルシファーは置いて行けばいいよ……! ルシファーは、マスターを他の女に触られるのが許せないだけのモンスターだよ!」
「ふふっ、そんな心配しなくてもいいのにね……」
治癒師への助言をベラベラ説いているルシファーに視線を向ける。
「……ん? ……!! マ、マスター! もしかして、『何か』考えてるの? 嫌だ! 『僕も』忘れちゃダメだよ!」
「……? もちろん、忘れるはずないでしょ? アシュリーも大切な人だよ?」
「う、ぅん……」
何か考え込んでいるようなアシュリーに首を傾げながらも、優しく頭を撫でると、アシュリーは「ふふッ」と頬を染めた。
(……アシュリーは髪がすごく伸びてるな。カタルに着いたら少し整えてあげよう)
可愛すぎる微笑みに頬を緩めながら、そんな事を考えていると、チョンチョンと肩を叩かれる。
「ルーク様? 私もお願いします……」
「残念だったね! もう出発だよ! この『堕天使』!」
「なっ! うるさい! 『異端竜』!」
なんだかツンツンしているアシュリーにまた首を傾げていると、
「ハハッ! モテモテだな! ルーク!」
などとトールに茶化された。
それからしばらく談笑し、休憩しながら《水球》で水を入れてあげると、
「なんだ! これ! うますぎるだろ!」
と興奮していたので、たくさんあげておいた。
「じゃあ、『また』!」
「あぁ! ノアに戻ったら『月光の宴』でな!」
トールに、魔導師の男『ワング』、治癒師の女性『オリーヴ』の新たな『A』ランクパーティーに別れを告げ、再会を約束した。
(ロアナさん、元気にしてるかな!?)
カタルを目前に控えた俺は、久しぶりのロアナとの再会を心待ちにした。
次話「『異変』」です。
100話も書き進められたのは読者様の支えあってです。コミカライズも進行中なので、また告知致しますのでよろしくお願い致します。