第二話 見知らぬ土地
何に対しても興味を持てず、自分自身の価値さえも分からない。抜け殻の様にただ生きているだけ、それが俺月島裕斗と言う人間だ。
そんな生き方をしていれば、人間関係に馴染めないのも当然だろう。現代社会の在り方についていけず、何時しか俺は部屋に引き篭るようになった。一日の大半をネットサーフィンで過ごし、気が向いたゲームに触れてみても長続きせず削除。
そんな日々の中、ふと目に留まったのが [ Liberty hope online ] という オンラインゲームだった。世間では ( リバホプ ) と略して呼ばれている。
どうせ続かないだろう。一時の暇潰し程度にと、俺はリバホプを始める事にした。それから数週間、いつもであれば飽きる頃だが……意外にも続いている。
シナリオに合った世界観や戦闘システム、豊富なエンドコンテンツなど。優れたゲーム性に加え、武具はドロップ入手のため課金圧にも縛られない。札束で殴るのでは無く、費やす時間と腕前が試されるという訳だ。
それ以来俺は、リバホプにすっかりハマってしまった。ひたすらレベル上げや素材集めに時間を注ぎ、時には四日間ほど徹夜する事も珍しくはなかった。
作業の様に感じる事も多々あったが、少しずつ強くなっていく高揚感や強敵を倒した際の達成感を得られるのなら苦では無かった。
その甲斐あってか、気付けば俺はゲーム内でトップの存在となっていた。ステータスを測るランキング表にて、全世界二位のプレイヤーの能力値が四十万ほどに対し、俺の数値は百万を超えている。
優越感に浸りつつも、どんなものであれ努力が結果として表れるのが嬉しかった。
そんな中、SNSや掲示板などで頻繁に見掛けるようになったのが"死神"と言うボスモンスターだ。
少し前のアップデートで実装された期間限定クエストのボスなのだが、はっきり言って無理ゲーに近い。
巨大な鎌による範囲攻撃、低確率で出してくる即死スキル、しつこく重ね掛けてくる状態異常、HPの桁の多さ、更にはHPを減らせば自動回復をし始める始末だ。いくら技術や能力値で補おうとも、運悪く即死してしまっては意味が無い。
何より致命的なのは、このゲーム内には即死耐性のあるアイテムが何一つ無いという事だ。
これほどの鬼畜仕様、明らかにバランス調整のミスか不具合としか思えない。他プレイヤーは勝てないと判断し、運営からの弱体化を待っている状態だ。メンテナンスまで、大人しく素材周回するのが得策だろう。
だが、それでも俺は死神を倒したかった。
期間終了まで残り十三時間、新たに装備の強化や新調をしていては間に合わないだろう。挑むしかない、期間終了までひたすら挑み続けるしかない。食事も睡眠も、全て時間の無駄だ。一秒たりとも欠かせない、相手の動きを覚えるんだ。完璧に、確実に。
勝機はある、────必ず俺が勝つ。
◆
「あれ……なんで外に居るんだ?」
目を覚ました俺は、草原で一人倒れていた。辺りに住宅などは無く、人の気配すら感じられない。
記憶が正しければ、俺は部屋でゲームをしてたはずだったのだが……確か死神を倒し終えて、そのまま寝落ちしたんだっけ。
「だとしたら、夢……?」
状況が上手く飲み込めないが、此処でいつまでも立ち尽くして居るわけにはいかない。
とりあえず、先程から俺の背中を叩く何かを確認するべく振り返った。
「お、スライムか」
そこに居たのは、ゲームなどでよく見掛けるスライムだった。俺を敵だと認識しているのか、地面を跳ねて何度もこちらに向かって頭突きを繰り返している。特に痛みはないが、見ていると可愛い。
リバホプに居たスライムとは少し姿が違うようだが、愛嬌ある顔をしていて倒すのが惜しい。
……………。
「え、スライム!?」
( ゲームのやり過ぎで、危うく現実との区別が付かなくなる所だった! 普通に考えておかしいだろこの状況!)
混乱する中、急にぴたりとスライムの動きが止まった。……いや、大声を発した俺に警戒したのだろう。距離を空けたかと思えば、勢いよく俺に向かって飛んできた。
「いやまてストップ! それ絶対痛いだろぉぉ!!」
たかがスライム、そう思うだろう。しかし、いざ目の前にしてみれば怖い。それにゲームの中で戦っているのは俺ではなくアバターだ。ダメージを負っても、死亡しても、プレイヤーである俺には何一つ影響は無いのだから。
けど、これがもし夢じゃなかったら……?
俺は目の前まで迫ったスライムを反射的に右手で弾く……はずだったのだが。
俺の手が当たった瞬間、スライムはまるで風船が割れるかのように破裂した。いくら何でも脆すぎでは……?
辺りを見回し、俺以外に誰も居ないと分かれば、ひとまず危険が去った事に安堵の息を吐く。
「何なんだよ、一体……ん?」
ここでようやく、俺は身体の異変に気付いた。
( なんか、俺の声変じゃないか? そういえば、いつもより目線が低いような…… )
改めて自分の身体を確認すると、着ている服がいつもの部屋着では無い事が分かった。それともう一つ分かったことがある。
「……な、なんか……胸デカくね?」
見たところ少し膨らんでいる程度だなのが、男の胸板として見ると明らかに異常だ。
( まさか、さっきのスライムから毒でもくらったのか!? )
青ざめた俺は咄嗟に自分の胸を何度か揉んでみた。
「うわっ、柔らか……」
手のひら全体に伝わる感触、癖になりそうな程の柔らかさ。まるでマシュマロのようだ……もみもみ。
思えば、アレの感覚もない。男性特有の……股間についているアレの感覚が。まさかとは思うが……ひょっとして、この身体は女性のものなのでは?
極めつけは今俺が身に付けている服だ。妙に見覚えがあると思っていたが、ゲーム内のアバターに着せていたものと完全に一致する。
(だから、多分、これってつまり……)
「……俺、アバターの身体になってる?」
稚拙な表現も多いと思いますが、少しでも「まあ、オモロいやん」と思って頂けると嬉しいです!
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