11th Sword.
……翌日。
こう見えても、私は一応高校生だ。
山に囲われた田舎の、平穏で平凡な普通科の高等学校。
そんな退屈という言葉がぴったりな場所の、教室という空間に、今私は居る。
「……風音さんは『イレヴン』、まだやってないんだっけ?」
私の前の席に座る女の子が話し掛けてくる。
……風音鈴。それが私の名前。
「あー……、うんっ」
こう返してはいるが、勿論嘘である。
クラスでの会話のネタになると思い、VRゲーム、11th Sword.。
通称『イレヴン』を、こっそりと始めたまでは良かった。
だけど、私は『イレヴン』をプレイしているという事を、クラスの誰にも話せない状況となってしまった。
……それはさておき、私は心の許せる友人になら、自分で言うのも何とも思わない位には承認欲求が強い方だ。
褒めて貰えるのは嬉しい。認められるのが嬉しい。
私という人間に、何かしらの価値を見出だして貰える事が、とっても嬉しい。
だから私は、『イレヴン』で回復職となる事を選んだ。
「やろうよ、楽しいよ?」
「お金に余裕が出来たらね」
「まぁ、ハードは高いしねぇ。一緒に遊べるの、楽しみにしてるよ!」
「うん、ありがとう」
こうして、なんとかこの場をやり過ごす事が出来た。
私はこんな生活を続けて、そろそろ半年になる。
……『イレヴン』は、そのタイトルを表す十一本のレアな剣が存在し、それを求めて冒険するゲームとなっている。
剣を求めるゲームなのだから、当然『イレヴン』では、剣士職が超が付く程に優遇されている。
『イレヴン』の運営が、剣士職でプレイする事を強く奨めている事もあり、『イレヴン』のゲーム内の職業比率は、剣士職が八割を占めていた。
残りは私のような、役に立ちたがりなプレイヤーと、敢えて他の職業を自ら選ぶ物好きで二割が構成されている。
「……秋が近付いて陽が落ちるのが早くなって来た。部活が終わったら暗くなる前に速やかに、気をつけて帰るように」
担任の一言で、今日も無事に、学校生活の一日が終わった。
「……あの、風音さん」
ホームルームも終わり、学生鞄を手に取って席を立った私に、一人の男子から声が掛けられた。
「? えっと……、どうしたの? 都築君」
こうして話すのは、初めてになるんじゃないかな。
確かフルネームは、都築柊だったはず。
「今日、一緒に帰りませんか?」
「うん。私は良いけど」
こうして私は、都築君と二人で学校を後にする事になった。