災厄の少女カザネ
「来たぞっ!! 火力姫だぁぁっ!!」
一人の男が唐突に叫び出す。
「皆逃げろぉぉおっ! 攻撃に巻き込まれたら一瞬で死ぬぞっ!!」
男に続くように、別の男も叫んでいる。
その叫び声を聞いた人は皆、声を荒げながら大慌てで逃げて行く。
私も皆の後に続いて逃げるのかと言うと、そんな事は無く、焦るような事は何も無い。
……何故なら、ここに居る皆が逃げている対象は、他でもない私なのだから。
「……うっさい」
「なっ――」
たまたま目の前を逃げ走っていた人間を、私はひと撫でに斬り伏せた。
プレイヤーは何か言いかけていた気もするけど、先にHPの方が無くなったのか、白い光になって消えた。お疲れ様。
「嘘だろ……!? トップ五本指に入る高防御力を持つどみのが、一撃……!?」
へぇ。今のがどみのなんだ。ワンキル最高。
「馬鹿っ!アイツを相手にすんじゃねぇ!HPが何ケタあっても足りねぇよ!」
「あんなのがプレイヤーなのか!? ボスモンスターの間違いじゃねぇのか!?」
降り掛かる声を無視して、私は走り出す。
「……誰にヘイトが向いてるか知らないけど、私が貰うわ。ヘイトも、アイテムも、撃破レコードも……!」
逃げ惑うプレイヤーの波を駆け抜け、時に斬り捨て、私はボスの元まで真っ直ぐに走って行く。
「ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒールッ!!」
私がヒールと唱える度、右手に握った剣がドス黒いオーラを放つ。
「何だよ、あれは……」
……女プレイヤーがワールドボスと戦い、たった一人でボスを圧倒しているその様子を、食い入るように見ながら、女プレイヤーから逃げ惑っていたプレイヤーの一人が言葉を溢す。
「お前は、奴を見るのは初めてか?」
「あ、あぁ」
「あれが、『イレヴン』ぶっちぎりのトッププレイヤー、カザネだ」
「……怖い」
「着ている防具が純白ってのも、不気味だろ?」
カザネという名の女プレイヤーは、ひたすらに″ヒール″と叫びながら剣を振るう。
ここに居たカザネ以外の全プレイヤー総掛かりで十五分掛けて削り、それでも五分の一程度しか減っていなかったボスのHP一億を、僅か七分で″削り切った″。
「くっ……ははははははははは! 最っ……高!」
純白の鎧を身に纏った回復職のプレイヤーが持つ、真っ黒に染まった剣。
それを掲げて一人、狂喜しているカザネを、周囲のプレイヤーはただただ見ているしか無かった。
「……こんなはずじゃ、なかったのにな」
と、カザネは誰にも聞こえない程に小さな声で、そう呟いた。
読んで下さってありがとうございます!
そんな雰囲気は微塵にも感じなかったとは思いますが、一応恋愛ものです
宜しくお願い致します!