過去の英雄2
金色の長い髪をなびかせ、騎士の制服を身に纏う、風変わりなお嬢様。
――彼女はさすが神具使い。
俺が四人の襲撃犯たちを倒した時点で、彼女も残りを一掃していた。
彼女は護衛や馬たちを、回復術やポーションを使って救護する。
俺やリリスもまた同じように、護衛や馬たちを救護した。
「すまない、ポーションまで使わせてしまって……ありがとう。
礼に私ができることは何でもしよう。私はローゼン•セントールという者だ……貴殿の名前を聞いてもよろしいか?」
――セントール。
世界一の貴族の名……
俺は驚いたが悟らせぬよう、ぶっきらぼうに返してみせた。
「……名乗る名なんて無い。
助太刀の対価はきっちりもらうが、礼はその子に言ってやってくれ。
俺は隠れてやり過ごす気だったが、その子が助けたいと願ったんだ。」
ローゼンと名乗った女は、次にリリスに話しかける。
「私はローゼンだ、可愛い娘さん。貴女の声は聞こえたよ。本当に、ありがとう。」
騎士の敬礼の形をとって、礼をするローゼン。
それに対しリリスは照れくさそうに、コクコクと首を振って、無言で答えていた。
護衛たちが起き上がり始めたのを見て、俺は襲撃犯たちの死体をまさぐりだした。
「貴殿、いかがした?」
「要求の一つは馬車への同乗でいいか?
――荷物が少し増えそうだ。」
俺は襲撃犯たちの持つ金目の物を物色する。
ポーションに……小さなナイフ程度だが、お目当ての金製武器も手に入った。
それと同時に、死んでいるとわかっていても、死体の首にナイフを突き刺していく。
八人の死体を確認……そのまま林の中に向かうと、そこで護衛の男の一人が、後ろから声をかけてきた。
「こら、貴様! ローゼン様へのなんたる態度! それに死体をまさぐるとは、なんたる不徳か!」
今度は、ローゼンの気丈な声が飛ぶ。
「不徳はお前だ、ガルスよ。恩人に失礼だぞ!」
「しかしローゼン様。あやつ怪し過ぎます!
なぜ簡単に信じるのですか!」
「顔がいいからだ!」
俺は、林の斜面に足を滑らせる。
「――ゼノさん!?」
リリスの心配する叫び――名前はバレた。
「おお、あのお方はゼノ殿というのか!
可愛い娘よ、貴女の名は?」
「あ……私はリリス……」
「そうか、リリス殿か!
リリス殿、私にできることは何でも言ってくれ。できる限り、お礼がしたいんだ。」
なんと言えばいいのか……
あのお嬢様に完全に、ペースを持っていかれてしまっている。
また一人……若い、金の短髪をした護衛が、俺に声をかけてくる。
「ゼノさん、助けてくれてあざーす!
俺はイースです! 何か手伝いますか?」
「お前、死体の首をはねたことはあるか?」
「ひぃい!」
爽やかな笑顔の青年は、俺の脅しに顔を引き攣る――可愛さを感じさせる青年だ。
主がアレなら、従者もアレだな……
彼らは彼らとは真逆の世界が、すぐ側にあることを知っているのだろうか……
林の中の襲撃犯たちの生死を確認しながら、その死体をまさぐっていく。
一人、首の動脈を斬られながら息のあった者がいた。
――若い、平民らしき青年だ。
彼は、息絶え絶えに、言葉を発する。
「既得権益を持つ奴等を、倒して……き、既得権益って……なに?
民衆の……搾取される者たちの幸せを……幸せ? 母さんや、妹……の……」
――涙を流しながら呟く青年。
暗い林の中で、未来ある青年の命が消えかけている。
俺はエリクサーを数滴、青年に飲ませた。
「……え?」
「静かにしていろ。気づかれたら終わりだ。」
意識の戻った青年は、俺の警告に目だけで答える。
「お前、元々この一味じゃないだろう?
お前と一緒のようなガキは、八人でいいか?」
これにも目だけで答える青年。
「死んでいたら許せ。一応、雷撃で眠らせてあるつもりだ。」
そう言って俺はポーションを、青年の懐に数本隠す。
「貴族どもが去るまで、死んだフリをしていろ。――そして、仲間を連れて故郷へ帰れ。
母親や兄弟を守ると約束しろ。家族がいるのだろう?」
青年は、その茶色い目でしっかりと俺を見て、無言で答える。
答えた青年の首にナイフを刺す真似をしながら、俺はその肩に左手を置く。
「なら、契約だ。」
――そう、契約の刻印を打ったのだ。
物色を終え、ローゼンたちの元へと戻る。
リリスはすっかりローゼンと打ち解けて仲良くしているし、イースという護衛は、俺に気安く話しかけてくる。
「ゼノさん、強いっすねー! ゼノさん、冒険者っすよね!
俺も冒険者でセントールで登録冒険者やってるんす! ゼノさんは何級っすか?」
嬉しそうな笑顔で質問してくる金髪の青年に、俺は戸惑った。
すると、気丈な声が代わりにと答える。
「イース、彼は攻略者だ!」
「攻略者!? マジっすか!?」
俺は訝しく、ローゼンに問うた。
「……なぜ、俺を攻略者だと思う?」
「ハハハッ! 私より強い貴殿だ。攻略者以外あり得んだろう!」
その声に、護衛たちは驚愕した。――ローゼンは、あっけらかんと笑っている。
その澄んだ、彼女の緑の瞳に、俺は毒気を抜かれてしまうのだった…………
さすが貴族の馬車……なかなかの装飾。
その中は豪勢で、前後に対面で座れるようになっている。
俺は前側に座り、ローゼンはリリスを抱いて後側に座る。
リリスは俺と一緒にいるよりずっと、緊張がほぐれていて、可愛い笑顔を見せている。
「――姉妹のようだな。」
つい、思ったことを口にする。
二人はその緑の瞳で見合って、俺へと微笑みを向けてきた。
「ゼノ殿、リリス殿は貴殿の妹ではなかったのか?」
「黒髪黒目の俺が、その子と兄妹に見えるのか?」
「では、リリス殿は?」
「ローゼンお姉ちゃん。私はもう家族がいないの。だからゼノさんが、私を孤児院に連れて行ってくれるって。
でも、ゼノさん。孤児院って、ゼノさんのおうちでもあるんだよね?」
「そうだよ、リリス。血は繋がっていなくても、俺の家族のような子たちがたくさんいるんだ。」
「ほう。ではやはり、貴殿とリリス殿は兄妹ではないか。」
ローゼンは、爽やかに笑う。
「まあ、そうなるな。」
「わ、私はゼノさんの……」
リリスは何かを言いかけたが、俺が目をやると顔を赤くして下を向いてしまった。
そんなリリスの頭をローゼンは優しく撫でながら、自分の目的を語り出す。
「私も家族を探すために、こうして旅をしているところだ。」
「――家族を探す?」
「行方知らずのお祖父様を、この先の宿場町で見かけたと情報を得たのでね。」
「あんた、セントール家の者なんだろ? 爺さんって言やぁ……」
「ああ、ウルゴ•セントールだ。」
『ウルゴ•セントール』
魔神との戦いに、十数名の神具持ちや兵士たちを率いて挑んだ、英雄の名前だ。
戦いに敗れた後の生死は不明とされているが、英雄として語り継がれている。
「生きているのか?」
「――わからない。
ただ、先日ティクトと名乗る青年が我が屋敷を訪ねて、宿場町にその姿を見たという情報をもらってね。」
「ティクトが!」
「ん? ゼノ殿の知り合いか?
銀髪の青年だったのだが……」
「銀髪パーマで情報屋を名乗る、胡散臭いやつだろう?」
「そう! 情報屋と名乗っていた。
お祖父様への手掛かり、藁をも掴む気持ちで、父も私も信じたのだが……」
「アイツは胡散臭いが、情報は確かだ。
へえ、伝説の英雄ね。さすがに俺も会ってみたいな。」
「そうか、信じられる情報か!」
晴れやかな表情をするローゼン。
俺もまた、自分の表情が緩んでいるのに気づいていた。
まさか俺が貴族――しかも神具持ちに、ここまで気を許すとは……
いつか殺し合うかもしれない相手……
そう知りつつも、新しい友人ができたような嬉しさを感じてしまう自分がいた。
――馬車は、心地良く揺れていた。




