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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第一部 ――神具の強奪者――
8/51

過去の英雄1


 山越えが終わり、街道へとたどり着こうという手前の林の中で……俺たちは異様な集団を目にした。


 彼らは木々に紛れて、街道を伺っている。


 最初は山賊かと思った……だが、山賊とは雰囲気が異なる。


 おそらくは、ゲリラ戦を得意とする革命軍の一つだろう。



 木々に隠れる彼らの背中を、さらに後ろから見て、俺はリリスとひっそり身を隠す。


 助かったのは、リリスのセンスの良さだ。


 まだ幼い少女ながら、神術エネルギーを見事に抑えて、気配を消してくれている。


 リリスを後ろから抱きしめながら、俺は静かに声を発する。



「リリス、彼らが危険なのはわかるね。彼らが去るまで、隠れておけるかい?」



 そう聞けば、リリスはコクリと首を縦に振った。



 ――馬の足音が響く。


 一台の豪華な白い馬車を、二頭の馬が引いている。


 その横の四頭の馬には、護衛らしき騎士たちが乗っていた。


 革命軍が貴族の馬車を襲撃する……そういったところだろうか?


 革命軍側が二十名弱。


 貴族側が四名の護衛と力の無い御者……馬車の中身はわからない。


 ――革命軍側有利と俺は見立てた。




 ――襲撃が始まる。


 弓矢による不意打ちに、四人の護衛は馬から落とされる。



「――何事か!?」



 気丈な雰囲気の女の声がして、馬車の中から声の主が現れた。


 それは、男が着る騎士の制服を着ていたが、金色の長い髪のポニーテールが、遠目に見ても美しい――女だった。



「おのれ、山賊め!」



 女は叫び、飛びかかる襲撃犯たちに雷撃を放ち、不意打ちによる速攻を止めてみせた。



 ――俺の見立ては間違いだったらしい。


 騎士の制服に身を包んではいるが、お嬢様といった感じのその女。――その実力は、護衛たち以上だ。


 貴族側の戦力も相当なもの。


 勝負はわからない……だが、影からの矢が女の肩を射抜いた。



「……ゼノさん、助けてあげて。」



 抱きしめるリリスの小さな声。


 ――助ける?


 貴族には死んでもらった方が助かるし、この人数の相手は無理というものだ。


 ただ、隠れて見ているのがベスト……そう思ったが、リリスがそれを許さない。


 ――今度は大きな声で、リリスは叫ぶ!



「ゼノさん、お願い!」



 その声に、林の中の襲撃犯たちが一斉にこちらを向いたのだ。


 ――ちっ!


 木の間に一人、二人……全部で十五か。


 そう数えなら、彼ら全員の位置と、それらへと向かう通り道を確認する。


 その通り道に、木々の隙間を縫うように、俺は雷撃を走らせる!


 遠距離かつ精度のいる神術――運良く相手の動きを止められた。


 雷撃だけで倒れ込んでいる者もいる。


 俺はリリスの元を離れ、ナイフを抜き、雷撃を通した道を、今度は自分が駆けてゆく。


 そして木々に紛れる彼らを、後ろから襲うのだ。


 不意打ちに、何もできない者。神術を放つも、木々に阻まれる者。この木々の中で長剣を抜き、自ら動きを鈍らせる者。


 全員が、鍛え上げられた兵士というわけでは無いらしい。


 近づきその顔を見れば、まだ若く、十代後半といった者も多い。


 怯えた若い顔を見て殺すのをためらい、その若者たちを、俺は雷撃で眠らせた。


 元軍人らしき男もいたが、一市民だろう青年が多かった。



 潰れた国領、潰れた貴族領……それらの元兵士による革命軍。


 そこに、平民の若者たちが取り込まれていく……そういった成り立ちか?


 どうやら、自分たちが後ろから襲われる想定は全くしていなかったらしい。


 大した相手にはならず、思いのほか手薄……実力者は街道に飛び出した奴らだろう。


 戦い慣れしていない若者は雷撃で仕留めた。――戦い慣れしていそうな男は、その首をかき切った。


 そうして俺は林の中を制圧。


 そして、街道へと飛び出したのだ。



 矢で肩を射られても、気丈に戦っているお嬢様が、俺を見て叫んだ。



「新手か!?」



 街道に出て、馬車の四方を取り囲んでいた襲撃犯たちも、俺の方を向く。


 俺は女だけを見てナイフを向けて、宣言してみせる。



「俺は、あんたの味方だよ。」



 宣言にお嬢様は目を丸くしたが、笑顔を見せて返してくる。



「そうか、助かった!」



 このお嬢様は、アホなのか?――俺を素直に信用したらしい。


 だが、その緑の瞳は真っ直ぐで、俺が苦手な輝きを放っている。




 ――意志を宿した真っ直ぐな瞳――




 他人をすぐに信用するお嬢様に呆れていたが、すぐに今度は驚かされる。



「は、ああああああああああ!」



 お嬢様が叫ぶと、神術エネルギーが彼女を中心に膨れ上がった!


 その膨れる光に襲撃犯たちは弾かれ、散り散りに飛ばされる。――神具の壁!?


 このお嬢様、神具持ちか!


 お嬢様の持つ長剣……その刃は青白く光り、柄は金製で、埋め込まれた宝石が見えている。――間違い無い!



 女を殺して神具を奪うか?

 怪我人を回復して体制を整えるか?

 八人の襲撃犯のどれから倒すか?


 ――選択肢の多さに行動を迷う。



 そこに、お嬢様が叫ぶのだ。



「林側の四人を頼む!」



 ――多いよ!?


 そう思ったが指示に従い、体は林側の襲撃犯たちへと向かっていた。


 ――長剣相手にナイフは厳しいか?


 一人目は上手く懐に潜り、左手で剣を持つ相手の右手を掴めた。――相手は驚いた顔のまま、俺に首を刺されて死んでいく。


 すぐに、二人目の突きが飛んでくる!


 その突き放たれた剣に、自分のナイフを滑らせながら相手へと近づく。


 そして、相手の胸ぐらを掴み、首にナイフを突き立てた。


 ――三人目!


 少し遠目で振りかぶる相手に、雷撃を当てる……そして真っ直ぐに、彼の心臓にナイフを突き刺した――その瞬間だ!


 ――四人目!


 その突きが三人目の背後から、俺の顔面目掛けて飛んできていた――即死コース!


 不意打ちに死を覚悟したが、その突きは急に軌道を変えて逸れていく――四人目の横っ面に、雷撃を伴ったナイフが刺さる! 



 ――その不意打ちは……?


 四人目の男にナイフを刺したのは、林から飛び出て来た、金色の髪の少女だった。


 男はその攻撃に、地面へと倒れ込む。


 必死だっただろうリリスは、しばらくその倒れた相手を見つめていた……



 俺とリリスは共に息切れを起こしながら、ゆっくりと目を合わせる。


 そして俺は、緑の瞳に礼を告げた。



「――リリス、助かった。」



 そうすれば、少女はニコリと微笑む。


 血と死体の中でも、その笑顔は爽やかに見えた…………



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