過去の英雄1
山越えが終わり、街道へとたどり着こうという手前の林の中で……俺たちは異様な集団を目にした。
彼らは木々に紛れて、街道を伺っている。
最初は山賊かと思った……だが、山賊とは雰囲気が異なる。
おそらくは、ゲリラ戦を得意とする革命軍の一つだろう。
木々に隠れる彼らの背中を、さらに後ろから見て、俺はリリスとひっそり身を隠す。
助かったのは、リリスのセンスの良さだ。
まだ幼い少女ながら、神術エネルギーを見事に抑えて、気配を消してくれている。
リリスを後ろから抱きしめながら、俺は静かに声を発する。
「リリス、彼らが危険なのはわかるね。彼らが去るまで、隠れておけるかい?」
そう聞けば、リリスはコクリと首を縦に振った。
――馬の足音が響く。
一台の豪華な白い馬車を、二頭の馬が引いている。
その横の四頭の馬には、護衛らしき騎士たちが乗っていた。
革命軍が貴族の馬車を襲撃する……そういったところだろうか?
革命軍側が二十名弱。
貴族側が四名の護衛と力の無い御者……馬車の中身はわからない。
――革命軍側有利と俺は見立てた。
――襲撃が始まる。
弓矢による不意打ちに、四人の護衛は馬から落とされる。
「――何事か!?」
気丈な雰囲気の女の声がして、馬車の中から声の主が現れた。
それは、男が着る騎士の制服を着ていたが、金色の長い髪のポニーテールが、遠目に見ても美しい――女だった。
「おのれ、山賊め!」
女は叫び、飛びかかる襲撃犯たちに雷撃を放ち、不意打ちによる速攻を止めてみせた。
――俺の見立ては間違いだったらしい。
騎士の制服に身を包んではいるが、お嬢様といった感じのその女。――その実力は、護衛たち以上だ。
貴族側の戦力も相当なもの。
勝負はわからない……だが、影からの矢が女の肩を射抜いた。
「……ゼノさん、助けてあげて。」
抱きしめるリリスの小さな声。
――助ける?
貴族には死んでもらった方が助かるし、この人数の相手は無理というものだ。
ただ、隠れて見ているのがベスト……そう思ったが、リリスがそれを許さない。
――今度は大きな声で、リリスは叫ぶ!
「ゼノさん、お願い!」
その声に、林の中の襲撃犯たちが一斉にこちらを向いたのだ。
――ちっ!
木の間に一人、二人……全部で十五か。
そう数えなら、彼ら全員の位置と、それらへと向かう通り道を確認する。
その通り道に、木々の隙間を縫うように、俺は雷撃を走らせる!
遠距離かつ精度のいる神術――運良く相手の動きを止められた。
雷撃だけで倒れ込んでいる者もいる。
俺はリリスの元を離れ、ナイフを抜き、雷撃を通した道を、今度は自分が駆けてゆく。
そして木々に紛れる彼らを、後ろから襲うのだ。
不意打ちに、何もできない者。神術を放つも、木々に阻まれる者。この木々の中で長剣を抜き、自ら動きを鈍らせる者。
全員が、鍛え上げられた兵士というわけでは無いらしい。
近づきその顔を見れば、まだ若く、十代後半といった者も多い。
怯えた若い顔を見て殺すのをためらい、その若者たちを、俺は雷撃で眠らせた。
元軍人らしき男もいたが、一市民だろう青年が多かった。
潰れた国領、潰れた貴族領……それらの元兵士による革命軍。
そこに、平民の若者たちが取り込まれていく……そういった成り立ちか?
どうやら、自分たちが後ろから襲われる想定は全くしていなかったらしい。
大した相手にはならず、思いのほか手薄……実力者は街道に飛び出した奴らだろう。
戦い慣れしていない若者は雷撃で仕留めた。――戦い慣れしていそうな男は、その首をかき切った。
そうして俺は林の中を制圧。
そして、街道へと飛び出したのだ。
矢で肩を射られても、気丈に戦っているお嬢様が、俺を見て叫んだ。
「新手か!?」
街道に出て、馬車の四方を取り囲んでいた襲撃犯たちも、俺の方を向く。
俺は女だけを見てナイフを向けて、宣言してみせる。
「俺は、あんたの味方だよ。」
宣言にお嬢様は目を丸くしたが、笑顔を見せて返してくる。
「そうか、助かった!」
このお嬢様は、アホなのか?――俺を素直に信用したらしい。
だが、その緑の瞳は真っ直ぐで、俺が苦手な輝きを放っている。
――意志を宿した真っ直ぐな瞳――
他人をすぐに信用するお嬢様に呆れていたが、すぐに今度は驚かされる。
「は、ああああああああああ!」
お嬢様が叫ぶと、神術エネルギーが彼女を中心に膨れ上がった!
その膨れる光に襲撃犯たちは弾かれ、散り散りに飛ばされる。――神具の壁!?
このお嬢様、神具持ちか!
お嬢様の持つ長剣……その刃は青白く光り、柄は金製で、埋め込まれた宝石が見えている。――間違い無い!
女を殺して神具を奪うか?
怪我人を回復して体制を整えるか?
八人の襲撃犯のどれから倒すか?
――選択肢の多さに行動を迷う。
そこに、お嬢様が叫ぶのだ。
「林側の四人を頼む!」
――多いよ!?
そう思ったが指示に従い、体は林側の襲撃犯たちへと向かっていた。
――長剣相手にナイフは厳しいか?
一人目は上手く懐に潜り、左手で剣を持つ相手の右手を掴めた。――相手は驚いた顔のまま、俺に首を刺されて死んでいく。
すぐに、二人目の突きが飛んでくる!
その突き放たれた剣に、自分のナイフを滑らせながら相手へと近づく。
そして、相手の胸ぐらを掴み、首にナイフを突き立てた。
――三人目!
少し遠目で振りかぶる相手に、雷撃を当てる……そして真っ直ぐに、彼の心臓にナイフを突き刺した――その瞬間だ!
――四人目!
その突きが三人目の背後から、俺の顔面目掛けて飛んできていた――即死コース!
不意打ちに死を覚悟したが、その突きは急に軌道を変えて逸れていく――四人目の横っ面に、雷撃を伴ったナイフが刺さる!
――その不意打ちは……?
四人目の男にナイフを刺したのは、林から飛び出て来た、金色の髪の少女だった。
男はその攻撃に、地面へと倒れ込む。
必死だっただろうリリスは、しばらくその倒れた相手を見つめていた……
俺とリリスは共に息切れを起こしながら、ゆっくりと目を合わせる。
そして俺は、緑の瞳に礼を告げた。
「――リリス、助かった。」
そうすれば、少女はニコリと微笑む。
血と死体の中でも、その笑顔は爽やかに見えた…………




