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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第一部 ――神具の強奪者――
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導く者たち2


 ギルドを出た俺たちの後を、静かに、二人の男が追ってくる。


 ――国の偵察か? 貴族の偵察か?


 俺が再び迷宮に潜る時、奴らは追って来なかった……


 ならば、アジールたちとは無関係の、国の偵察なのだろうか?


 もしコンタクトを取ってくるなら、貴族の……あのアジールの関係者だろう。


 ――リリスのことを聞いてくるはずだ。




『偵察』


 冒険者は国にも貴族にも縛られない。それなのに武力を持った、危険な存在だ。


 集まれば、軍隊に匹敵する戦力にもなりえる。


 だから、組めるパーティーの数を法で定めているし、外部でそれ以上の集合体を作ることも禁じられている。


 そして、それらが行われていないか監視するために、国や貴族は、ギルドに偵察と呼ばれる監視役を紛れ込ませるのだ。




 外は暗い雲に覆われているが、黄色い光が差していた。


 ――唯一太陽が拝める、夕刻の空。


 俺はその黄色い景色の中を、リリスを連れて、ゆっくりと歩いてゆく。


 そして街はずれ……荒れた畑が広がる、人の無い場所まで歩いてきた。



「――おい、あんた!」



 聞き覚えのある男の声に呼び止められた。


 振り向くと、髭面の男が十歩ほど離れた位置から俺たちを見ていた。



「その娘はどうした?」



 そう尋ねてくる、あの時の男。――これで、アジールの関係者は確定だ。


 男の目を見てジリジリと退がりながら、俺は相手の戦力を分析する。――リリスはしがみついて、俺の動きに合わせてくれた。


 ――質問には、正直に答えてみせる。



「迷宮に二度目に潜った時、瀕死のアジールさん……この子の主人を見つけたんだ。

 それで、この子を頼むと預かった。」


「アジール様はどうした?」


「悪いが助けられなかった。もうポーションで回復を期待できる状態じゃあ無かったんだ。」


「そうか……お亡くなりになられたか。」



 ――髭の男のさらに後ろ。


 家屋に隠れた若い男はなんとかなる……


 隠れているのに自分の神術エネルギーも隠せていない、未熟な相手だ。


 ――だが、この男は強敵!


 俺より少し年上だろう……それでいて、白い神術エネルギーではなく、黒い魔術エネルギーを放っている。



 ――俺は一つ聞いてみた。



「なあ、あんたは何階まで攻略したんだ?」


「ん? 五十五階だ。」


「一人でかい?」


「ああ。」


「――ひゅぅ♪」



 ――思わず、口笛を吹いてしまう。


 この男は、バケモノだ!


 魔獣が闊歩する迷宮を、魔術を選択して単独で五十五階……戦っていい相手じゃない!


 俺は慎重に、髭の男に質問をする。



「なあ、俺はこの子を連れ帰る予定だ。どうしたら、見逃してもらえる?」


「その娘は構わんが、俺が興味があるのはあんただよ。――何を企んで、ここに来た?」



 少しずつ退がっているつもりだが、徐々に増す相手のプレッシャーに、むしろ、その距離を縮められているように感じていた。



「企む? 俺は冒険者としてここに来ただけさ。普通だろ?」



 そう答え終わる前に、髭面の男は剣を抜いて戦闘態勢に入る!


 俺はリリスを置いて、男へと突進!


 ナイフを抜きながら走る俺に、男の一太刀(ひとたち)が襲いかかる!


 俺はその剣撃をかわして飛んで――男の左目へとナイフを突き立てた。



 ――男の片目を奪うのに成功!


 ナイフは刺したまま手を離し、相手の頭に左手を置いて、それを支点にジャンプする。


 髭の男の背後をとっても振り返らず――そのまま、家屋に隠れた、もう一人の若い男へと走って行く。



「――ひっ!」



 俺の急襲に、若い男は引きつった悲鳴を上げ、戦闘に入ろうとする――だが、遅い!


 俺は腰にかけていた魔黒竜の牙を握り、若い男に体をかがめて突進した!


 そして、魔黒竜の牙を若い男の腹に刺す。


 腹からあばらを避けて心臓に刺さるように、――力一杯に突き上げる!


 右腕に人間一人分の体重が載り……上から血が降り注いでくる。


 若い男は俺の突進の勢いに体を宙に浮かし、口から血反吐を吐いて絶命したのだ……



 ――背後で、男の声がした。



「やるねえ。とんだネズミだ。

 どこの名のあるテロリストだい?」



 振り向けば、左目を潰された髭面の男が、リリスを人質に取って立っていた。



「あんたに人質が役に立つかわからんが、一応な……武器を置いてこっちに来るなら、解放しよう。」



 そんな男の要求に、俺は素直に従う。


 魔黒竜の牙をその場に捨てて、右の腰に刺していた小さなナイフも投げ捨てた。


 両手を上げてゆっくりと、男とリリスに向かって歩いてゆく……


 リリスは怯えや不安を見せず、ただ真っ直ぐに……緑の瞳でこちらを見つめている。




 ――意志を宿した真っ直ぐな瞳――




 近づく俺に、親しげに男は言った。



「意外だな……あんたは正義の味方で、俺は悪党ってところかい?」



 微笑み、軽口を並べる男に、俺も笑みを浮かべて言葉を返す。



「そういうわけでも無いが、俺たちの世代ならわかるだろう? 自分より下の世代を守りたいって、そんな気持ちがさ。」


「――まあな!」



 男はそう返事をしながら、脅しに使っていた剣をリリスから離して振りかぶった!


 男の射程圏内に入った俺に、強烈な一撃が落とされる――肩に、凄まじい衝撃が走る!


 ――その瞬間だ。


 雷撃の発生――リリスが全力の雷を、全身から放つ!


 ――その雷に、男の動きが停止する。


 俺は左肩から心臓にかけて、剣撃を浴びていた……


 だが、そのチャンスにかろうじて、感覚のある右手でカバンから金の小刀を抜き出し、男の喉笛へと突き立てる!


 ――俺は叫んだ!



「ぐ、らああああああああああああ!」



 叫びながら、ありったけの神術エネルギーを雷に変えて、男の喉に叩き込む。


 神術エネルギー。血液。全身の力。


 力を込めるほどに自分から、それらが抜けていくのを感じていた…………

 



 ――全てを使い果たした時。


 男はすでに死んでいて、膝を崩してそのまま倒れ込んだ。


 彼の喉に刺した小刀を支えに立っていただけの俺も、男の崩落と共に倒れ込む……



「――ゼノさん!」



 リリスが泣きながら、呼んでくれた。



「初めて……呼んでくれたね。

 よろしく……、リリス。」


「ゼノさん、死なないで!」



 泣き顔の――リリスの顔がボヤけてくる。


 ……意識が、朦朧として定まらない。



「いや! ゼノさん! ゼノさん!」



 ――このリリスの慌てぶり。


 俺はどうやら、相当やばい状態らしい……



 動く右手でなんとかカバンに手をやって、型違いの小瓶を探す。――そして、緑色の液体の入った小瓶を取り出した。


 その小瓶の蓋を口で開け、俺はニヤリと、リリスに微笑みかけたのだ。



「ゼ、ゼノさん……!」



 それを見て、少女の顔が笑顔になる。


 久しぶりに見せてくれたその笑顔は、とても可愛いものだった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 『契約の刻印』 やはりかっこいいですね! 以前読んだ時に6話で止まっていたのですが、今回また1話から読んでます! しかも感想欄を見てみると、似たような感想を書いてる始末! 成長しませんね…
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