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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第二部 ――覆った世界――
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最弱の世代1


 ――革命軍「多数派(ボルシェビキ)


 そう名乗る者たちに連れられて、俺は王都へ向かうことになった。


 彼らの目的は、神具持ちを殺せると噂がある俺を革命に巻き込むこと……話から、それは情報屋ティクトによる手引きらしい。



「――門が見えてきたな。

 こっからは別れて行動するが……ゼノ、おまえは俺と来い。検問を抜けさせてやる。」


 革命軍のリーダー、黒い長髪と無精髭がなんとも不潔な男ジョセフがそう言った。


 カミュ領の時点で散り散りにされている革命軍だが、ここでもまた分散するようだ。


 俺は、疑問に思っていたことを聞いてみる。



「マルス……あの盾の男に、だいぶ壊滅させられていただろ? 仲間をあのまま放っておいて良かったのか?」


「おまえはわかってねぇなぁ……もう、革命は終わってるよ。民衆にも兵士の中にも、俺たちは潜り込んでいる。多数をとった時点で、勝負はもう決まってんのさ。」


「神具を持つ女がいただろ?

 あの子が敵に回ったらどうする?」


「アレはおまえの女かい?

 あの娘なら問題ない。こっちに味方する兵士たちの話やあの娘の反応を見たら、まあ……、こっちの敵には回らんだろう。」



 ニヤニヤと、黒い髭の目立つ口で笑いジョセフはそう答える。


 この男からは魔術エネルギーも神術エネルギーも感じない……ひ弱な存在だと感じるが、何か、「人」というものを読む力に長けていた。



 それを確信できたのは、壁門での出来事だ。


 兵士たちの検問を待ち、百人近くが待っていて、それはもう列という言葉を超えて、簡易なテントなどが周りにあるくらいだった。



「あ! ゼノさんだ!」


「ジェノ〜!」


「みんなぁ、ゼノさんがいるよー!!」



 俺を見つけて集まって来たのは、バティスタ領のスラムに住んでいた子供たち……


 バティスタ領での騒動や、スターリン領、カミュ領などのクーデター騒動から、多くの人々が王都へと逃げているのだ。


 身分の保証の無い貧しい者たちは、なかなか門を通れない。


 あれから数十日が経っているが、裕福な者と違い歩いて来た者たちは、ここでも、今の今まで待たされているようだった……



「人気者だなぁ、ゼノ。」


「ゼノ〜、このおじさん、だぁれ〜?」


「おじさん!? 俺はまだ三十前だぜ!?

 なあ、同類! おまえと歳はたいして変わらねえんだ! 『お兄さま』と呼ばせてくれ!」



 ジョセフはそう言うが、俺にははっきり言ってどうでも良い……



「みんな、このおじさんはジョセフ。

『お兄さま』と呼んであげたら、お小遣いをくれるって言っていたよ。」


「おに〜さま〜♡」


「おにゅ〜しゃま〜〜♪」


「おい、ゼノ! コラ!!

 ちょっ……、よし、お小遣いはやれねーが、代わりにカッコいいヒーローの話をしてやろう!」



 子供たちに手を差し出され、困ったジョセフはそんな取引をする。――それに対して子供たちは、意外な反応を見せるのだ。



「カッコいいヒーロー? ゼノさんの話?」


「ジェノ〜、ジェノはヒ〜ロ〜。」


「なんだ? おまえがヒーローなのか、ゼノ?」


「そうだよ! ゼノさんは世界を救う、強くてカッコいいヒーローなんだよ!」



 その言葉に後ろめたい感覚はあるが、子供たちのキラキラした目には何も言い返せない。


 そんな困った俺の様子をジョセフは横目で見たが……何も言わず子供たちに向かい、大きな声で話し出した。



「今から話すのは、強いヒーローの話じゃない!

 一番弱い男が、世界を救う物語だ!!」


「弱いのに、世界は救えないよ〜。」


「そうだよ〜。」


「なんだおまえら、知らないのかぁ?

 最弱ってのは、最強って意味なんだぜ!」



 ジョセフが語り出したのは、何も持たぬ男が成り上がっていく冒険譚……


 ご都合主義全開で、子供たちにつっこまれると、そこから無理矢理に話が広がっていく。


 主人公は貧しく、知識の無いものたちに担ぎ上げられ、――威張る権力者や、悪政を働く貴族たちを倒してゆく。


 所々に爽快な展開が挟まれる夢物語に、辛い待ち時間を過ごしていた、周りにいた大人たちすらも聞き入っていた……


 



 夕刻、一度日に一度だけ顔を見せる太陽が、その赤い光を輝かせている。


 ジョセフが語り終えた頃には、子供たちはいなかった。――人々の大半が門をくぐり、俺たちと十数名が最後の列を作っていた。



 俺たちの後ろは老人の集団であるが、先を譲ることはしない。――不親切というよりも、遠慮は要らないといったところだ。


 楽しげに団らんしている彼らは、かつての冒険者……強い魔術エネルギーを有しているし、蓄えたポーションを持っている。



「――『仲間を呼ぶ魔獣』を知ってるかい?」


 列に突っ立ち周りを見ていたら、ジョセフが急に訪ねてきた。



 仲間を呼ぶ魔獣と言えば、小動物の魔獣や迷宮で出現する液状の魔獣……いずれも、知能の低い弱い魔獣たちだ。


 俺が素直にそれらの名を答えると、ジョセフはニヤニヤとして返してくる。


「まあ、それも正解だが、もっとタチの悪い魔獣が、世の中にはいるんだぜぇ。」

 


 そんな話をしている内に、検問が俺たちの番になる。――若い二人の衛兵が、疑った顔で俺たちを見た。


 二人はジョセフに……そして俺へと、質問をする。



「そっちの男、おまえ職場は?」


「いや〜、俺は無職でして、なんとか王都で仕事を頂こうと、ここに来たんですよ〜。」


「おい、黒マント。おまえも無職か?」


「いえ、俺は冒険者で、王都の迷宮に潜ろうと……。この男とは旅の途中で知り合い、護衛を頼まれたんですよ。」



 事前の打ち合わせ通りにそう答えれば、衛兵たちは少し警戒を解き、蔑む顔で言ってくる。


「無職に冒険者……、『犯罪者予備軍』ねぇ。

 黒マント、ギルドカードを見せろ。その歳でそんな小さな神術エネルギーしか出せない弱小でも、カードくらいはあるんだろ?」


 俺はジョセフに目だけで確認をとり、了承を得てからカードを見せる。


 カードを見て衛兵たちは、驚き、そして警戒心を取り戻した。



「とっ、特級冒険者!?

 こいつ、怪しいぞ。盗んだ物かも知れん。」


「とっ、とりあえず取り押さえるか?」


「いや、でも、本物なら……」


「とっ……、とりあえず、仲間を呼べぇ!!」



 そうして何人かの衛兵が門の中から出てきて、俺たちを囲み始めた。


 それぞれに武器を構え危険な状況だが、ジョセフはニヤニヤとしたまま余裕の顔だ。


 確かに衛兵たちは俺の方に注目しているが、槍や剣の刃先に囲まれた状況……その、赤い夕日に照らされた顔には、不気味ささえ覚えた。




 ――ガツッと、ジョセフに槍が当たる。


 俺の首を抑えようとした槍だったが、衛兵の手は震えていて、それで隣のジョセフに柄が当たったのだ。


「う、うわぁああああ!」


 ジョセフはそのまま倒れ込み、怯えた動物のように後ろに這って逃げていく。


 怪我もしていないのに大げさな彼を見て、衛兵たちは追うことも無く、ただ、笑っていた。



 そして……逃げたジョセフは這いつくばったまま、後に並ぶ者たちに叫びを上げた!



「差別だぁああああ!!!!

 魔獣に襲われ、ここまで逃げてきたのに、王都は身分の無い者は追い返すらしいぞ!

 何もしてないのに、無職や冒険者は犯罪者予備軍だと……殴ってきやがった!!

 衛兵たちは俺たちを、差別し王都に入れないようにしているんだぁああああ!!」



 その叫びに衛兵たちは慌てたが、やっかいな相手を怒らせた。――大人しく並んでいた老人たちが、徒党を組んだ元冒険者に変貌する!



「いつまで待たせるんだ! この無能ども!」


「歳とってるからって、舐めるんじゃないよ!」


「さっさと通しな!!」



 魔術の壁を展開する老人たちに押し寄され、若い衛兵たちは手を出せない。


 衛兵である彼らより少人数で、かつて迷宮を潜り攻撃性の高い魔術を使う老人たちの強さを、彼らもわかっているのだ。




 俺たちはその隙を見て門を通った。――逃げ切り落ち着いたところで、俺は尋ねる。



「『仲間を呼ぶ魔獣』とは、あいつらのことか? ――それともおまえのことか?」


「何言ってんだよ、同類。おまえも世界を救うヒーローなら、俺も世界を救うヒーローさ!

 最弱ってのは、最強なんだぜぇ!!」



 ――笑う無精髭が憎たらしい。


 だけど、俺は素直にこの男についていった。





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