生きるための強さ2
「――だいぶ顔色が戻ったじゃないか。
あの坊ちゃんをどうするか、決心はついたみたいだな。」
サンゲンはニヤリと笑い、そう言った。
「まあね。俺はただ、神具を集める……
強盗は強盗らしくしようと思うよ。」
汗だくの達人には、そう答える。
戦闘狂のサンゲンにとって、自分より強いマルスとの戦いは、さぞ楽しかったことだろう……
だけどその時間を、俺は奪ったのだ。
距離を取りながら、二人でマルスを囲む。
金の髪と青い瞳――それによく似合う巨大な黄金の武具を持つ騎士は、悪漢二人に囲まれて、ジリジリと街を移動する。
俺たちは両方向から攻撃はするが、それは踏み込みの弱い、ちょっかい程度の攻撃。
命を奪うには、命を奪われるだけの間合いに入らなければいけない……だけど、ただ相手の持ち物を奪うというだけなら、話は違う。
距離を確保してしまえば、トリッキーな動きは意味を無さない。
剣と盾のマルスには、遠距離の敵を仕留める手段も無いだろう……
時折、真っ直ぐな青い瞳が俺の心臓に痛みを与えてはきたが……戦況は俺たちに傾いた。
この状況を抜けるために、マルスには決断が必要だ。
俺はただ、そのタイミングを待つ……
建屋が密集しだす場所の手前――それを利用すれば俺たちを分断できる場所。
だけど、そうすれば逆に俺たちも逃げやすいそんな場所に、マルスを追い込んだ時、彼は意を決し、――動いた。
神具の壁を全開にしたマルスは、盾を構えてサンゲンに突撃を決行!
対して、十分な間合いのあるサンゲンは、壁を展開しつつも避けることを選択していた。
俺は、魔黒竜の牙を構えてマルスを追う。
俺が後ろから追いついてマルスの壁を砕けば、サンゲンからの攻撃が素通りになる。
――それで、勝利は確定だ。
その状況でマルスは、神具の盾を手放して瞬時に――攻撃先を俺へと切り替えた。
超高速の切り返しではあるが、その動きは読んでいる……
俺は方向を変え、その場から逃げる――
ここからのマルスの決断を、さらに俺は、確信を持って読み切っていた……
俺を追えばサンゲンが盾を奪うのは明白。
神具は二つ同時に持てば、壁が使えなくなるから戦うのに有利ではないが、ただ奪い、ただ逃げるだけなら、それでいい。
マルスが神具を取り戻すならば、また、同じ状況に……ちょっかいを出し続ければいい。
――俺か神具か。
どちらかを選ぶしか、選択肢は無い。
そしてマルスは、俺を選ぶ――その青い瞳はずっと俺を見ていて、逃げる俺を追ってきた。
「いけ! 俺はコイツを殺してから合流する!
サンゲンさん……俺が戻らなければ、神具は全て、あんたに託す!」
俺がそう叫ぶのを待たず、サンゲンは神具の矛を遥か遠くに投げ放つ。
それから珍しく、その青い瞳を見せて、俺を真っ直ぐに見つめたのだ。
――意志を宿した真っ直ぐな瞳――
「はっはっは! 託す? 笑わせるな!
託されたのはおまえだよ……ゼノ、おまえは誰にも託せない。知っているだろう?
『全て』を、揃えられるのはおまえだけだ!」
そう言ってマルスの盾を持ち、そうニヤリと笑い……矛を投げた方向へ逃げ去ったのだ――
今サンゲンを追えば、マルスは盾を取り戻せるだろう……だが、そうなったら、俺たちはまた、同じ状況を作り出す。
――撤退、人質、フィリアの神具。
それでも、マルスがこの状況を打開する方法はいくらでもあった。
彼の自由な発想ならば、その方法は浮かんでいる……だけど、それをマルスは選べ無い。
正しく教育を受け正しく育ち、正しい強さを手に入れたマルスは、俺の生み出した罠に、ただ真っ直ぐにかかることしかできない。
清く生きる若い青年は、汚く、ただ生き延びてきた俺の手の中で、踊るしか無いのだ……
神具を奪い去られたマルスは、負け惜しみを言い出す。
「別に神具は要らないよ……
俺はシバの仇である――ゼノ、あんたを殺すためにここに来たんだ。」
「知ってるよ、マルス。
でも確実に俺を殺すつもりなら、おまえはもっと別の選択をすべきだった。おまえは本当の命の奪い合いを知らない……
その甘い考えじゃ、俺に返り討ちにされてしまうよ。」
「そうかなあ? シバを殺したあんたの相手だ……なんでも知ってるあんたを殺すんだ。
二対一じゃ無理だっただろうし、返り討ちは覚悟してる。
あんたが俺よりも戦いを知っていることはわかってる……あんたが俺よりも強いことくらい、俺は知っているつもりだよ。」
そう言って、真っ直ぐな目をする若い騎士。
容姿は違うが、金製の剣一本を斜めに下げるその姿は、あの髭面の男を思い出させる。
あの男に勝てたのは、奇跡だった……いや、神なきこの世界では、奇跡は起こらない。
「マルス、俺は死ぬわけにはいかないよ。
おまえの師匠も、俺の命を狙ったから俺が殺した。俺の命を狙うなら――おまえも殺す。」
「あんたに目的があるのは知ってるよ。
だけど、シバはさ、俺にとって兄のように大切な人なんだ……いや、大切な人だった!
仇はとる! あんたを殺すよ、ゼノ!!」
身軽に、そして全力になったマルスの動きは瞬く間に、俺の視界から消え去った。
サンゲンの技、あの男の剣技、英雄の器。
この世界で奇跡は起こらない……積み上げらたもので、勝敗はほぼ決ってしまう。
「がっ、ぁああああ!!」
血を流し、悲鳴を上げて転がるマルスを見ても、深追いはしない。
この強敵を狩るために必要な手順を、俺はここから淡々と、――ただ、積み上げていくのだ。




