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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第二部 ――覆った世界――
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生きるための強さ1


 ――それは、一瞬だった。


 俺に向かい突進をみせたマルスは、次の瞬間には俺の左側に屈んでいた。


 俺は右側に体を回して避けた形……


 それをマルスは読んでいて――マルスに読まれていることは、俺も想定していた。



 この青年は、信頼するに値する。

 だから俺は、フィリアを見捨てた。


 左側にいた彼女は、刀を抜こうとする姿のままで、その動きを固めていた。


 彼女が握った神具の刀――その持ち柄の頭を、マルスは片手で押さえている。


 目に見えないほど速いフィリアの抜刀。


 その抜刀より速い動きで、マルスは彼女の動きを止めてみせた。


「――お姉さんは、敵じゃないでしょ?

 武器は持たずに、動かないで欲しいなぁ。」


 そう呟き、マルスはその拳をフィリアの腹に入れる。


 そ軽装な装備を突き破り、かつ命を奪わない絶妙な力加減……


 相手の意識を瞬時に刈り取ったマルスは、そのまま彼女を支えて寝かせる動作とともに、押さえていた持ち柄を今度は握り……


 ――その刀を抜き取った。


 抜き取ると同時に、神具の壁を発動!


 体を回転させながら、マルスはその刀で、俺に向かい横薙ぎを放つ!



 ――!!


 それらの動作が一瞬だ。


 認識できた頃にはもう、俺は空中へと吹き飛ばされていた。


 ――浮いた体、背中にはサンゲン。


 サンゲンが俺を神具の壁で守ってはくれたが、マルスの一振りに、俺たちは吹き飛ぶ。



「本当に、神具の壁が破れたわ!

 ――ゼノ、お主が『そいつ』で防いでくれとらんかったら、相殺じゃあ済まんかったろう。」


 ――両腕に痺れ。


 言われて気づけば、俺は魔黒竜の牙を右手に持ち、左腕で支える形で防御をしていた。


 二重に防いでもこの威力……



 飛ばされている空中でマルスの方を見れば、彼は丁寧に、刀を鞘に戻している。


 フィリアを慈しむように、柔らかな動作で刀を彼女の腰に返すと、白く神術エネルギーを輝かせ、彼はそっと彼女に触れた。


 神術による回復術を使用しているようだ。


 同じように、クーデターに加担した街中の人間たちの意識を沈め、その後はああして、怪我を治していたのだろう。


 フィリアがまだ神具の壁を発動できない……そこを読み、その刀を奪う判断力。


 そして、それを返す余裕……


 ――あいつは称えるべき強者だ。


 着地した俺とサンゲンは、その強者に対抗するために、その優しさに甘えて動く!



 街の中、地面に突き立てられている金色の盾へと全力で走る!


 神具をマルスの手に戻さぬように、まずはその盾へとサンゲンが突きを入れた!


 ――が、その攻撃いなされる。


 巨大な盾は光の壁を発動させ、矛の攻撃を上空に逸らすように回転――サンゲンは勢いのまま、同じ方向へと流されてゆく……


 そして……


 まるで最初からそこにいたかのように、青い瞳の青年が、盾の下から姿を見せた。



 ――それはもう、瞬間移動だ!


 サンゲンの編み出した筋力のリミットを外す技術だと――原理はわかっていても規格外。


 だがそれは、知っている!

 マルスの動きは予想通りだ!


 読んでいた俺はすでに魔黒竜の牙を握り、走るそのままにマルスへと突進!――マルスに向かい、突きを放つ!


 ――マルスは目を見開いていた。


 それは攻撃への驚きと、神具の壁を破られる驚きから……だけど、その表情は力んだ顔に変わり、そこから――


 凄まじい速度で、剣撃が打ち下ろされる!


「――っつ!!」


 俺は歯を食いしばり、突進を攻撃の届くギリギリ手前で止めてみせた。


 あの髭面の男と同じ剣閃……一度喰らった経験が、反射的に体を動かしたのだ。



 剣を振り切り、態勢を戻そうとするマルス。

 そのマルスに、俺は全力の雷撃を放つ!


 だが、その雷撃は軌道を変える……


 マルスはすでに微弱な雷撃を張っていて、それに導かれ、俺の雷撃は逸れたのだ。


 無駄行動の俺を、マルスは青い瞳で睨んで、突きを放ってくるが、そこまでは読み通り。


 俺は右に――マルスの左側、巨大な盾体を預けるように、体をかわす!


 突きを避け切っても、魔黒竜の牙を縦に構えて、俺は防御の姿勢をとる。


 突きを放ち切った態勢から次の攻撃への繋ぎはほぼ無いが、マルスならそこから、横薙ぎを撃つと予想した。


 ――その横薙ぎを耐えられるか?


 だがそれでも、勝ちは確定している。


 俺への攻撃の隙にマルスの左後方から……空中で回り込んだサンゲンがマルスを狙う!


 その攻撃が決まれば、勝利だった……



 ……攻撃が来ない?


 予測した攻撃が来ずに、意識を腕からマルスに戻せば、マルスは外側に回転をしていた。


 裏拳のごとく剣をサンゲンの矛へと当てて、その突きを押し返して、弾いてみせた!



 サンゲンを弾き飛ばし、視線を戻す青い瞳に、恐怖を感じた俺は距離をとった。


「ゼノぉおおおお! そこで見ておれ!!」


 逃げた俺にサンゲンは叫んで、一人マルスに戦いを挑む。



 黄金の矛と盾、白く輝く二つの巨大なエネルギー……最強と最強がぶつかり合う。


 その戦いを、俺は必死に観察した。



 突きを打ち終わり右足のみに体重が乗っている状態からは、動くこと自体が困難……


 にも関わらず、体を外に回転させたマルスは、サンゲンを弾き飛ばすほどの攻撃を見せた。


 今も同じで、巨大な盾の逆に回り、リーチ差を生かした矛の攻撃を、マルスはコマのように体を回転させて、振り回した剣で弾いている。


 ――人間の動きじゃない。


 物理の法則は無視していなくとも、人体の動きを完全に無視している。



 それでも、観察していれば見えてくる。


 マルスは自身の足を軸にして……地に触れる度その地面をえぐる、バカみたいな重さの盾を振り、その反動で剣を振っているのだ。


 その動きを生み出すのは、全身の力。


 マルスの神術エネルギーは常にその配分を変えて、身体の各所で輝いている。



 マルスはサンゲン以上に、技を極めている。


 人の体の自然な動きを無視したトリッキーな動き、そこに至る発想、ありえない重さの盾を扱う力強さ、盾を持たぬ時の瞬間移動!


 そんな最強の男を見て、俺は思った……



 ――これはきっと(おご)りだろう。


 だが、この男にとって、俺は越えるべき壁のような気がする。


 神が残した最後の希望の、最初に倒すべき『悪』として、俺の存在はあるのではないか?


 そんなことを傲慢にも考えた。



 だから、俺は決めたのだ。


「――神具を奪うぞ! サンゲン!! 」


 そう叫び、魔黒竜の牙を持ち、マルスへと向かって構える!


 目の前の青年には、恵まれた才能と、若き日からの鍛錬、積み重ねられた強さがある。


 ただ生きてきた俺には、それを覆せるものはほとんど無かった……



 ただ生きてきた、その時間以外には――






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― 新着の感想 ―
[良い点] ぬうう! ついに最新話まで追いついてしまいました! マルス強い! まさに戰神マルス! ゼノがんばれ!
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