断罪の使徒2
領主カミュの処刑は執行され、ギルド内はクーデター成功で、歓喜に沸いていた。
しかし……俺の目は、外からの脅威に気づいていた。
「ゼノ、お主なら、外で何が起こっておるのかを――見えておるか?」
「兵士たちが倒されていることしか……」
サンゲンも気づいているようで、質問をくれるが、俺にも良くわからない。
おそらくは、街を制圧している革命軍たちが倒されていっているのだが、その倒している相手の気配がわからなかった。
「さあ、神具狩り! 俺たちと一緒に来いよ!
――神具持ちどもを殺ってくれ!!」
無精髭の男が、声をかけてくる。
気安い感じのロン毛の男は、とても怪しく思えたが、それでも彼に、俺は忠告をした。
「さっさと逃げた方が良い……と思うぞ。」
「いやいや、もう外も……この領地は俺たち『多数派』が制圧した。あとはこっちに組みしない兵隊さんたちを、殺っちまえば終わりだよ。」
そう笑って言いつつ、男は鋭い黒目を、まだ混乱して動けずにいるフィリアへと向けた。
誰と誰が争うべき状況なのか?
その判断はつかないが、俺はとにかく外が気になった。
「フィリア、しっかりしろ。革命軍はともかく、外でお前の仲間たちもやられているぞ。」
「ど……どういうことですか?」
――俺が真剣だったからだろう。
ほかの者たちも、俺の言葉をある程度は信用したようで、何人かが外の様子を見に行く……
――そして、その気配が瞬時に消える。
「こりゃあ、やばいのが来とるのぉ……」
呟き、ニヤリと笑う達人も――
フィリアの反応を伺う兵士たちも、嬉々として笑っていた革命軍の者たちも……それぞれに警戒心を増していく。
――その中を通り、俺は外へ。
見渡した街には、武器を持つ人間たちが、何十人と倒れていた。
「ああ、やっぱりあんたがいたんだね。」
――聞き覚えのある、爽やかな声。
今、その瞬間に、倒れた人間たちの間から、白地の制服を着た、金髪の青年が現れる。
彼は歩きながら、俺に声をかけてきた。
青年の向かう先には、巨大な金色の――神具の盾が、地面に立っている。
「マルス……」
爽やかに笑う青年へ、俺は笑みを返せない。
なぜなら、青年の持つ金色の剣を、見てしまったからだ……
それは、神具では無い。
飾り気の無い、一太刀の剣。
金製で、重く、鋭い――その重量も、その斬れ味も……俺の知っている剣だった。
「生きてる! みんな、手を貸して!!」
「お前、何者だあ!?」
兵士たちや革命軍の者たちは、倒れた仲間たちの側に走る。
倒れた者たちからは僅かながらのエネルギーが見えていて、――死んではいない。
「武器は……持たないでくれるかな?
一応俺は国側の人間だけど、武器を持って無いやつには手を出さないよ。」
マルスは、目の前から一瞬で消え去る。
そして、武器を構えた者たちだけ――その意識を瞬時に刈り取り、そう話す。
その動きは速すぎて、ゆっくりと歩き、話す姿しか、記憶に残らないほどだ。
俺は両手を広げ、サンゲンやフィリア――ギルドの中にいる者たちを制した。
マルスと、話をしたかった……
「マルス、久しぶりだな。
アムス領では、助けてくれてありがとう。」
「バティスタ領はやばかったらしいけど、あんたの守りたかったものは守れたかい?」
「全部とは言わないが、なんとかな……お前のおかげだよ。」
「そうか……良かったって、言って良いかな?」
――優しい笑顔をするマルス。
俺は、こいつの屈託ない笑顔と、青い瞳が好きだ――それを、俺は自分自身で……
「マルス、お前はここに用があって来たんだろ?」
「うん、そう。――後ろのおじさんとお姉さん、どっちも神具持ちみたいだね?
ここの神具を奪いに神具持ちが来てるから、助けて欲しいって言われてさ。どっちが、神具を奪いに来たやつなのかな?」
「それはこのおっさんの方だよ、マルス。」
「相変わらず、あんたは何でも知っているね!
もう一つ、知りたいことがあってね……うちの領地の迷宮で、俺の伯父が死んだんだ。」
「――それで?」
「伯父さんは迷宮に潜る時に、護衛以外に特級冒険者の『ゼノ』ってやつを雇ったらしいんだ。」
「そいつが、お前の伯父さんの死と、関係があると……」
「う〜ん、ちょっと違うかな?
伯父さんが死んだのとも、関係はあるんだろうけど、俺がそいつに用事があるのは、別の理由だよ。」
マルスは手をアゴに当て、悩んだポーズ。
武器を持った人間と、その殺気溢れる街の中で、場違いな雰囲気を醸し出す。
「――俺の師匠がさ、殺されたんだ。
街外れの場所でさ、喉と片目を潰されて、雷撃で焼き殺されていた……たぶん、その『ゼノ』ってやつが関係していると思うんだ。」
「お前の師匠ってのは、その、金製の剣の持ち主だった男だろ……?」
――俺の言葉に、青い瞳が曇る。
それでもマルスは笑顔を作り、明るい声で話してくれる。
「すごいな、あんた! 本当に何でもお見通しだ! そうそう、この剣は師匠の形見なんだ!」
「師匠の名前は?」
「『シバ』って言うんだ。知っているのかい?」
「いや、名前までは……。髭面で、俺より少し年上で、ほがらかに笑う――強い男だった。」
「そうなんだよ。あの強い師匠を殺したって考えると、さっきの伯父さんが雇った特級冒険者の『ゼノ』ってやつが怪しいと思うんだ。」
「――そいつが、このギルドにいると?」
「そう……たぶん、特徴から『神具狩り』って呼ばれているやつと同一人物で、そこの神具持ちのおじさんと、一緒に迷宮に潜ったやつだと思うんだ――受付で、確認しようかと思ってね。」
「その必要は無いよ……マルス。」
「おい、お主!!」
「あなた!? どうする気ですか!?」
サンゲンとフィリアが、心配して肩に手を当てて止めてくれる。
だけど俺は、マルスとの会話を続けるのだ。
「もしかして、あんたはそいつも知っているのかい?」
「ああ、知っているよ。」
「すごいな! あんたに知らないことは無いんだな! なあ、やっぱり……シバを殺ったのは、その、『ゼノ』ってやつなのかな?」
笑顔のままで、隠していた神術エネルギーを解放し、マルスは臨戦態勢に入る。
「こりゃあ、バケモンだのぉ……」
「事情は知りませんが……でも、あなたを守ります! ――後で説明してくださいよ。」
二人も臨戦の構えだが、俺は別に、三人を戦わせる気は無かった。
――だけど、言わなければならない。
俺の好きなその瞳を曇らせて、真っ直ぐに見つめる青年に、俺は全てを告げるのだ。
「お前の師匠を殺したのは、『ゼノ』。
――そいつで間違いないよ、マルス。」
「ありがとう。あんたの言うことなら、間違いないだろう……。じゃあ、あんたなら、その『ゼノ』ってのがどこにいるのかも知っているかい?」
――俺は一呼吸してから、答える。
「もちろん、知っているよ、マルス。
お前の師匠を殺した『ゼノ』は、俺だよ――」
――その瞬間。
流星は、俺へと向かい、飛んで来た。




