迷宮の覇者1
夜も深いというのに、ギルドの周りには兵士が数名――気にせずに中に入れば、今度は偵察が動きを見せる。
「警戒されているようだな、ゼノ。
仲間への連絡に……行ったかな?」
サンゲンが、俺を見つけて声をかけてきた。
二名の偵察がいたが、ともに外へと出て行った……どうやら仲間を、呼びに行ったらしい。
「潜れそうかな?」
「問題無いと思うぞ。さっき『お前の仲間』が来て、ギルドマスターと話をしていた。銀の髪をした、男のような格好の、あの娘だ。」
「ティクトが?」
俺にはティクトが何をしに来たのかは、わからない。
とりあえず、サンゲンと二人受付に――
「とっ、特級冒険者二人のパーティー……」
受付の女性は判断に迷い、ギルドマスターの方を見て判断を委ねている……
「はい、ようこそ。特級のお二人に注意事項等の説明は必要ありませんね!」
――が、すぐに了承されたらしい。
その後は、ポーション徴収のための契約を、ギルドマスターと結ぶ手続きだ。
その時にギルドマスターの男が、俺に「かんざし」を、チラリと見せた。
あいつら……
どうやら女たちの手の中で、俺は、転がされているらしい。――根回しに感謝と感心をしつつも、彼女たちの腹は読めない。
しかし、俺は素直にそれに乗り、迷宮へと潜るしか、選択肢はなかった――
サンゲンと二人のパーティーだ。地下九十九階にでも、すぐに到達できるだろう。
だけど、この迷宮に潜るのには、ただ潜るだけではない……幾つかの目的がある。
「どうした? こんな所で立ち止まって?」
――サンゲンが、聞いてくる。
地下二十三階へと降りた階段のすぐ下で、俺は止まって、振り向いた。
上にあるエネルギーを感じれば、何名かの冒険者が下へ……こちらに向かって降りてくるのを、感じ取れる。
「ゾロ目の階の下でやる事といったら、昔から一緒じゃないのか?」
冗談半分で聞いてみたが、サンゲンはわからないという様子だ。
見れば思い出すだろうと、答えは言わずに待っていれば、階段から一人の男が降りてきた。
「お前だな、カミュ様を襲ったのは!
カミュ領最強のこの俺……がっ! げふ!」
俺は男に回し蹴りを決め、手刀で武器を落とさせた……その後は、ひたすら顔を平手で殴る。
「なっ!? ぎゃっ! や、やめ――」
「おい、ポーションを寄こせ。」
サンゲンと違い男の方は、迷宮の名物を知っていたらしい。
素直にポーションを差し出して、上の階へと去っていった――
「ごめんなさい! 殺されないでください!」
次に来たヤツにも、その次に来たヤツにも、俺は同じように対応をする。
そんな俺に、サンゲンは尋ねてくる。
「ゼノ、さっきから弱い者イジメなんぞして、どうしたんじゃ?」
「コイツらは俺を追って、我先にと入ってきた。単独なり少人数でな。このままさらに追ってくれば、迷宮で迷って、魔獣にやられて死ぬぞ。」
そう答えれば、サンゲンは納得した様子。
巨体で、筋肉ムキムキのスキンヘッドが、ニヤリと口角を上げて言葉を返す。
「なるほど!
ここで先輩冒険者から、若者に、冒険の厳しさを教えてやろうと言うんだな!」
「いやあああああああ!!!!!!」
「助けてくれえぇええええ!!!!!!」
その放たれる言葉だけで、やって来た冒険者たちは逃げていく。
フィリアを仲間にするのなら、彼女の仲間から被害を出したくは無い。
それにポーションは欲しいし、戦争回避のために、彼らの戦意や戦力は削っておきたい。
そんな考えからの行動だったが、黒マントの男と、厳ついスキンヘッド――
かなりヤバイ輩に見えた、ことだろう……
十数組からポーションを奪ったところで、フィリアが走ってくるのを感じ取る。
「次のやつは中々骨があるのぉ……
魔獣を瞬殺しながら走ってきとる。」
「あの子が俺の『お目当て』だよ。
魔神と戦う契約は交わしてある。後は、ここの神具を、あの子に手にしてもらうんだ。」
――フィリアの声が、聞こえてきた。
地下二十二階で、俺たちが「いじめた」ために、上に逃げた、仲間たちの介抱や、指示を行なっている様子だった。
「フィリア、終わったらついて来い!」
「ゼノ、そこにいるんですか!?」
そう、声だけで会話をしていたら、サンゲンが聞いてくる。
「女か?」
「そうだけど……」
「若い女か?」
「ああ、可愛い二十歳くらいの娘だ――げふ!」
――答える途中に、腹に衝撃が走る!
サンゲンが、俺の腹に拳を入れてきたのだ!
「な、何を……」
「先輩冒険者から、若者に、冒険の厳しさを教えてやろうと思ってなっ!!」
――それは、何の冗談かはわからない!
だが、いざ自分がやられてみると、それは、とても恐いものだった。
迷宮名物「洗礼」の恐ろしさを、俺は初めて、思い知ったのだ……




