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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第二部 ――覆った世界――
38/51

新たな出会い3


 …………


「――い、痛いです!」


「す、すまない……」


「初めてにしたって、強引過ぎます!」



 …………


「もう一回だ。」


「ま、またやるんですか……」



 …………


「ひゃっ!」


「ゼノさん、フィリアはそこ敏感だから――」


「は、はい。気をつけます。」



 …………


「か、髪をそんな風に触らないでください!」


「だ、駄目なのか?」


「大丈夫ですよゼノさん、上手です。フィリアはただ、恥ずかしいんですよ。」


「お姉ちゃん、顔真っ赤ぁ!」



 …………


「み、見られながら……が、恥ずかしくて、堪らなくなってきたのですが……」


「ならフィリア、二人きりにしようか?」


「ま、待って、お母さん!

 ――あ、あなた! もういいでしょう?」


「すまない。もう一度頼みたいんだ。」


「――そんな……あっ……」



 …………





 ――うん、いい感じだ♪


「やっぱり可愛いな!」


 さすがに、これだけ回数をやっただけに、俺もマスターできたらしい。


 フィリアの姿を見れば、顔を赤らめているのもあって、とても可愛いらしかった。



「これだけやったのだから、私の質問には契約通り、嘘をつかずに答えてもらいますからね!」


「どうぞ、どうぞ、俺はもう満足だ♪」



 俺は、とても良い気分だった。


 いつになく口が滑りそうだが、それは、刻印のせいだろう――



「エリクサーは正規のルートで手に入れたもの――それは本当ですか?」


「ああ、そうだよ。」


「信じられません!」


「契約の刻印は絶対だ。心が逆らえない。

 じゃあ、もう一度、『三つ編み』を結ばせてもらおうか――ほら、逆らえないだろう?」



 フィリアは、俺の指示通りに座ってくれる。


 俺が三つ編みをマスターするために、髪を扱わせて欲しいという願いに、逆らえないのだ。



「迷宮を一日で潜れるというのは?」


「本当だよ――もう、見逃すって条件は破棄したから、試しに追ってくるといい。」


「……えっと、あなたはこうやって、魔神と戦う者を集めているのですよね?」


「まあ、だいたい……そう。」


「魔神の復活は誰に?」


「魔徒や異形の魔徒が、教えてくれる――それより、お前が知っていたことの方が、俺は驚いたのだが……」


「妹を呪いにかけた、悪魔が言っていました。」



 ――呪いにかけた悪魔だと!?


 予想外の情報に驚き、俺は髪を結うのを止めて、立ち上がる。



「石になる子供に……呪いを?」


「は、はい……あなたは、石になる子供を治してくれるという協会の関係者でしょ?」


「そうだよ……だけど、それは初耳だ。」



 石になる子供たちに、呪いを――

 脳裏に、あの白い女が思い浮かんだ。



「悪魔って、白い女か?」


「いいえ、違いますよ。見た目は紳士のような男でした――だけど、あれは人じゃない。」



 男か……やはり、異形の魔徒だろうか?


 教会の子供たちにも、その親たちにも、そんな話は聞いていない……本当だろうか。



「妹は……石になる呪いは、エリクサーで治るのですか?」


「すまない。それはわからない。

 少しずつ飲ませれば、段々と石化は治るのだけれど、しばらくしたら、耳からまた石化してしまうんだ。定期的にエリクサーを飲ませていたら、その間隔は段々と伸びてくる。

 ――だけど、完治したかはわからない。」


「そう、ですか……」



 憂いを帯びた表情で眠る妹を見ながら、フィリアは、その……呪いをかけた悪魔に、会った時の話をしてくれた。


「気づいたら、悪魔は妹を抱き抱えてました。そして呪いのような言葉を言ったのです。

 嫌な声、嫌な文言、今でもはっきりと、記憶に残っています――」



 …………



 ――この子は、可哀想な子だ。


 生き方も教わらず、知ることもできずに、ただ親の慰みとして生かされる。


 だけど、この子は何もできず、何も与えられず、最後は重荷になって捨てられるよ。


 死んでこの子は、人を滅ぼす存在になる。


 神が与えし正義の刃で、この子の首を斬り落とせ――それだけが、この子を救う方法だ。



 …………


 聞かせてくれたのは、そんな言葉だった。



「呪いの子は、死んだらどうなるのですか?」


「それもわからないよ。

 今のところ誰も……いや、一人ほとんど完治して教会を離れた子が死んでしまったのだけど、遺体すら見つかっていないんだ。」



 チェチェ……



「悪魔が言った、『神が与えし正義の刃』――それはきっと、神具のことでしょう。

 妹の首を斬るつもりはありませんが、神具を手に入れることは、妹を救う道の気がします。」


「俺は今、話を聞いて思ったのだが、その呪いをかけた悪魔を倒せば、もしかしたら……

 それでも、呪いが解かれないのならば……」


「魔神を倒せば――」

「魔神を倒せば――」



 考えの一致が、言葉として現れる。


 二人で真剣に見つめ合っていたら、そのタイミングで、この重い空気を、クリスが、明るい少年の声で掻き消してくれた。


「お姉ちゃんとゼノお兄ちゃん、仲良しだね!

 ゼノお兄ちゃんはお姉ちゃんのこと好き?」


 そこで俺は、再びフィリアの後ろに座った。


 栗色の髪を結いながら、その質問にどう答えようか悩んでいたら、手元の髪が動いた。


 フィリアが首を少し動して、問うのだ。



「ど、どうなんですか?」


「え、好きだけど……」


「きゃあ! フィリアやったわね!」


「えぇえ!? お姉ちゃんのどこがいいのぉ?」



 家族の騒ぎ立てる声を制するように、フィリアは怒鳴ったように、また質問をする。


「あなたとは会ったばかりでしょ!

 どうせ若いからとか、顔とか、私は人よりちょっと胸が大きいから……体とか、そんなとこが好きだとか、言っているんでしょ!?」


 ――何を聞いてくるんだ、コイツは!?


 しかし、契約の刻印に縛られている俺は、素直に――心のままに答えてしまう!



「顔も可愛いし、スタイルも綺麗だよ。でも、一番好きなのは性格かな。」


「ええ! お姉ちゃん性格悪いよ!」


「このハネッカエリがいいの? ゼノさん!?」



 家族の否定に、フィリアはまた、怒鳴る感じで質問する――もう、やめろ!!



「わ、私の性格の、どこが、好きなんですか!」


「えと……あの会場で見た時、君は、負けず嫌いで頑張り屋だってわかったよ。

 ――だけど、勝ち抜くことを悲しいって思える、優しい心も持っている。」


「きゃあ! さっきゼノさんも言っていたけど、フィリアって、母親の私から見ても、『めんどくさい女』だけど大丈夫?」


「お母さん、何を言ってるの!!」


「そういうところも含めて、俺は好きだ――」



 ――フィリアが立ち上がった!


 立ってこちらを振り向く時、結ぶ途中の髪が解けて、長い栗色の髪が揺れている。



「あなたは、何を言っているのです!!?」


「お前が、聞いてくるからだろう!

 ――お前の質問には嘘なく答えると、そう、契約しただろう!!」


「そ、そうでした……す、すいません。」


「最後にもう一回だ。結ばせろ。」





 栗色の髪を左右から引っ張って、フワリと編み込めば、可愛い髪型の出来上がりだ。


 出来上がった頃には夜も更けて、そろそろ迷宮に向かおうと、玄関に向かった。



「お世話になりました。」


「いえいえ、こちらこそありがとうございます。」


「ゼノお兄ちゃん、またね。」



 クリスと母親は快く挨拶をくれたが、フィリアは装備を整え、叫んでくる。


「あなた、見逃すって契約をしておくんでしたね! ――私がここで、みすみすここで見逃すとでも、思っているのです!?」



 ――それでいい。

 そのまま、迷宮へ追ってこい……


 お前には、「攻略者」になってもらわないと、大事な、もう一つの契約が果たせない。



 そう伝えようとして、外に出る直前に、俺は振り向いた。


「――フィリア!」


 そして、そう呼びかけたら、フィリアは追ってくるその動きを止めた。


 なんだか、固まってしまっている。

 仲間を呼ぼうと、悩んでいるのか?


 それでも構わないと、俺は伝える。


「迷宮で待っているよ。

 フィリア、また後で――」


 ――そう伝えて、夜の中へ。

 俺はギルドへと向かい、走り去ったのだ。






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