新たな出会い3
…………
「――い、痛いです!」
「す、すまない……」
「初めてにしたって、強引過ぎます!」
…………
「もう一回だ。」
「ま、またやるんですか……」
…………
「ひゃっ!」
「ゼノさん、フィリアはそこ敏感だから――」
「は、はい。気をつけます。」
…………
「か、髪をそんな風に触らないでください!」
「だ、駄目なのか?」
「大丈夫ですよゼノさん、上手です。フィリアはただ、恥ずかしいんですよ。」
「お姉ちゃん、顔真っ赤ぁ!」
…………
「み、見られながら……が、恥ずかしくて、堪らなくなってきたのですが……」
「ならフィリア、二人きりにしようか?」
「ま、待って、お母さん!
――あ、あなた! もういいでしょう?」
「すまない。もう一度頼みたいんだ。」
「――そんな……あっ……」
…………
――うん、いい感じだ♪
「やっぱり可愛いな!」
さすがに、これだけ回数をやっただけに、俺もマスターできたらしい。
フィリアの姿を見れば、顔を赤らめているのもあって、とても可愛いらしかった。
「これだけやったのだから、私の質問には契約通り、嘘をつかずに答えてもらいますからね!」
「どうぞ、どうぞ、俺はもう満足だ♪」
俺は、とても良い気分だった。
いつになく口が滑りそうだが、それは、刻印のせいだろう――
「エリクサーは正規のルートで手に入れたもの――それは本当ですか?」
「ああ、そうだよ。」
「信じられません!」
「契約の刻印は絶対だ。心が逆らえない。
じゃあ、もう一度、『三つ編み』を結ばせてもらおうか――ほら、逆らえないだろう?」
フィリアは、俺の指示通りに座ってくれる。
俺が三つ編みをマスターするために、髪を扱わせて欲しいという願いに、逆らえないのだ。
「迷宮を一日で潜れるというのは?」
「本当だよ――もう、見逃すって条件は破棄したから、試しに追ってくるといい。」
「……えっと、あなたはこうやって、魔神と戦う者を集めているのですよね?」
「まあ、だいたい……そう。」
「魔神の復活は誰に?」
「魔徒や異形の魔徒が、教えてくれる――それより、お前が知っていたことの方が、俺は驚いたのだが……」
「妹を呪いにかけた、悪魔が言っていました。」
――呪いにかけた悪魔だと!?
予想外の情報に驚き、俺は髪を結うのを止めて、立ち上がる。
「石になる子供に……呪いを?」
「は、はい……あなたは、石になる子供を治してくれるという協会の関係者でしょ?」
「そうだよ……だけど、それは初耳だ。」
石になる子供たちに、呪いを――
脳裏に、あの白い女が思い浮かんだ。
「悪魔って、白い女か?」
「いいえ、違いますよ。見た目は紳士のような男でした――だけど、あれは人じゃない。」
男か……やはり、異形の魔徒だろうか?
教会の子供たちにも、その親たちにも、そんな話は聞いていない……本当だろうか。
「妹は……石になる呪いは、エリクサーで治るのですか?」
「すまない。それはわからない。
少しずつ飲ませれば、段々と石化は治るのだけれど、しばらくしたら、耳からまた石化してしまうんだ。定期的にエリクサーを飲ませていたら、その間隔は段々と伸びてくる。
――だけど、完治したかはわからない。」
「そう、ですか……」
憂いを帯びた表情で眠る妹を見ながら、フィリアは、その……呪いをかけた悪魔に、会った時の話をしてくれた。
「気づいたら、悪魔は妹を抱き抱えてました。そして呪いのような言葉を言ったのです。
嫌な声、嫌な文言、今でもはっきりと、記憶に残っています――」
…………
――この子は、可哀想な子だ。
生き方も教わらず、知ることもできずに、ただ親の慰みとして生かされる。
だけど、この子は何もできず、何も与えられず、最後は重荷になって捨てられるよ。
死んでこの子は、人を滅ぼす存在になる。
神が与えし正義の刃で、この子の首を斬り落とせ――それだけが、この子を救う方法だ。
…………
聞かせてくれたのは、そんな言葉だった。
「呪いの子は、死んだらどうなるのですか?」
「それもわからないよ。
今のところ誰も……いや、一人ほとんど完治して教会を離れた子が死んでしまったのだけど、遺体すら見つかっていないんだ。」
チェチェ……
「悪魔が言った、『神が与えし正義の刃』――それはきっと、神具のことでしょう。
妹の首を斬るつもりはありませんが、神具を手に入れることは、妹を救う道の気がします。」
「俺は今、話を聞いて思ったのだが、その呪いをかけた悪魔を倒せば、もしかしたら……
それでも、呪いが解かれないのならば……」
「魔神を倒せば――」
「魔神を倒せば――」
考えの一致が、言葉として現れる。
二人で真剣に見つめ合っていたら、そのタイミングで、この重い空気を、クリスが、明るい少年の声で掻き消してくれた。
「お姉ちゃんとゼノお兄ちゃん、仲良しだね!
ゼノお兄ちゃんはお姉ちゃんのこと好き?」
そこで俺は、再びフィリアの後ろに座った。
栗色の髪を結いながら、その質問にどう答えようか悩んでいたら、手元の髪が動いた。
フィリアが首を少し動して、問うのだ。
「ど、どうなんですか?」
「え、好きだけど……」
「きゃあ! フィリアやったわね!」
「えぇえ!? お姉ちゃんのどこがいいのぉ?」
家族の騒ぎ立てる声を制するように、フィリアは怒鳴ったように、また質問をする。
「あなたとは会ったばかりでしょ!
どうせ若いからとか、顔とか、私は人よりちょっと胸が大きいから……体とか、そんなとこが好きだとか、言っているんでしょ!?」
――何を聞いてくるんだ、コイツは!?
しかし、契約の刻印に縛られている俺は、素直に――心のままに答えてしまう!
「顔も可愛いし、スタイルも綺麗だよ。でも、一番好きなのは性格かな。」
「ええ! お姉ちゃん性格悪いよ!」
「このハネッカエリがいいの? ゼノさん!?」
家族の否定に、フィリアはまた、怒鳴る感じで質問する――もう、やめろ!!
「わ、私の性格の、どこが、好きなんですか!」
「えと……あの会場で見た時、君は、負けず嫌いで頑張り屋だってわかったよ。
――だけど、勝ち抜くことを悲しいって思える、優しい心も持っている。」
「きゃあ! さっきゼノさんも言っていたけど、フィリアって、母親の私から見ても、『めんどくさい女』だけど大丈夫?」
「お母さん、何を言ってるの!!」
「そういうところも含めて、俺は好きだ――」
――フィリアが立ち上がった!
立ってこちらを振り向く時、結ぶ途中の髪が解けて、長い栗色の髪が揺れている。
「あなたは、何を言っているのです!!?」
「お前が、聞いてくるからだろう!
――お前の質問には嘘なく答えると、そう、契約しただろう!!」
「そ、そうでした……す、すいません。」
「最後にもう一回だ。結ばせろ。」
栗色の髪を左右から引っ張って、フワリと編み込めば、可愛い髪型の出来上がりだ。
出来上がった頃には夜も更けて、そろそろ迷宮に向かおうと、玄関に向かった。
「お世話になりました。」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。」
「ゼノお兄ちゃん、またね。」
クリスと母親は快く挨拶をくれたが、フィリアは装備を整え、叫んでくる。
「あなた、見逃すって契約をしておくんでしたね! ――私がここで、みすみすここで見逃すとでも、思っているのです!?」
――それでいい。
そのまま、迷宮へ追ってこい……
お前には、「攻略者」になってもらわないと、大事な、もう一つの契約が果たせない。
そう伝えようとして、外に出る直前に、俺は振り向いた。
「――フィリア!」
そして、そう呼びかけたら、フィリアは追ってくるその動きを止めた。
なんだか、固まってしまっている。
仲間を呼ぼうと、悩んでいるのか?
それでも構わないと、俺は伝える。
「迷宮で待っているよ。
フィリア、また後で――」
――そう伝えて、夜の中へ。
俺はギルドへと向かい、走り去ったのだ。




