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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第二部 ――覆った世界――
35/51

新しい住処3


 屋敷の一部屋で、俺は皆を待っていた。


「よお、ゼノ! おはよう!

 あのハゲのおっさんとこに行くんだよな?」


 マリーがやって来て……次いで、ミリアンとリリスもやって来る。


 今日は、俺たちと同じくこの領地に移り住んでいる、「達人」に会いにいく予定だ。


 彼女たちへ、「技」の伝授をしてもらおうと、サンゲンに、頼みに行く予定だった。



 マリーとミリアン、それとリリスが揃い、あとはガムを残すのみ――


 ガムの機嫌は、治っただろうか?

 サンゲンは、協力してくれるだろうか?


 そんなことを悩みながら最後の一人を待っていたら、子供たちが騒ぎながらやってきた。



「ジェノ〜、新しい子がいるよ〜」


「アタシと同じくらいの歳の女の子!」


「ゼノさん! また、連れてきたんですか!?」



 ――なんのことだろう?


 疑問に思いながら見ていたら、子供たちに囲まれて、黒髪黒目の美少女が現れる。


 ――たしかに、子供にみえる。

 昔とちっとも変わっていない、可愛いさだ。


 背が低い彼女は、長い黒髪をしていて、その真っ直ぐな髪が、床についてしまっている。


 だから俺は、彼女を抱き抱えながら、周りに、その正体を聞かせるように、会話をした。



「ガム! 髪が床についてるじゃないか。

 ――汚れないように、抱っこしてやろう!」


「子供みたく扱うんじゃないよ!」



 少女の正体に気づいて、ミリアンとマリーが近づいてくる。



「ガ、ガムなのか?」


「え! あのケバ女!?」



 驚く二人に、俺は自慢する。


「そうだぞ、ガムだ――可愛いだろ?

 ガムは化粧しない方が、すごく可愛いんだ。

 ――髪を結んであげよう。どんな感じにしようかな?」


 俺の発言には、マリーが乗ってくれる。



「マジで可愛いぜ!

 よーし、ツインテールにしてやろう!」


「いいな、ツインテール!

 ガムはどんな髪型にしても可愛いからな♪」


「やめろ、お前ら!

 私で遊ぶんじゃないよ!」



 ガムは怒り、暴れるが――無視。

 抱き抱えたまま、マリーに髪を結ばせる。



「マリー、もっと上から束ねないと髪が床についたままだぞ。」


「あ! だったらこのへんか?

 んで、こうやって輪っか作って……」


「遊ぶな! 私で遊ぶんじゃない!」


「いいなそれ! 可愛いな!」


「そうだろ? オレって天才だろ!」



 マリーはガムの髪をツインテールにし、それをさらに後ろで結んで、蝶のような形にする。


 ――結び終わったところで、ラナが来た。


「ラナちゃん、助けておくれよ!」


 ガムの声に応じ、ラナは無表情で、俺の前に立つ。――そして、ガムを受け取るように両手を伸ばし、少し早口で話し出した。


「私がガムさんの化粧を落とした。私がガムさんの髪の色を落とした。お風呂に入れた。髪を真っ直ぐに解いた。可愛い服を選んだ。私がやった、私が……」


 自分の功績を並べる、ラナ。


 ガムを抱く権利は自分にあるのだと、渡せと、俺へ迫っている!


 ――俺はそれに、逆らえない!!


 諦めて、ガムを差し出せば、ラナは愛おしそうに、ガムを抱きしめるのだ。


「ラナちゃん、あんたもかい!?

 私を子供みたいに扱うんじゃないよ!!」


 





 それから、サンゲンの元へと向かった。


 ラナから取り戻したガムを抱っこし、歩いていたら……リリスが見ていた。


 それを見るや、ガムは何も言わず、俺の腕から飛び退いて、離れる。


 リリスに、譲ってあげているのだ。


 隙をついて抱きついてきたマリーを投げ捨てれば、リリスは恥ずかしそうに寄ってくる。


 抱き抱えれば、顔を赤らめ嬉しそうに、首に手を回して、抱っこされるのだ。



 一人で先を歩く、蝶の形の黒髪。

 彼女の後ろ姿を見ながら、俺は思う。



 ガムはいつも、誰かのために生きている。


 娼館の主人をしながら、商会の頭も務め、迷宮にも潜る冒険者。――彼女は娼館の女たちを、病気や、外の社会から守っていて、その上、孤児院も助けてくれている。


 革命を起こすと言っているが、それだって自分のためでは無く、民衆なりのためだろう。



 ――彼女は、自分のために生きない。


 彼女が「わがまま」を言う姿を、俺は一度だっ

て見たことがない。


 たまには、「わがまま」を言うくらいに、自分のために生きれば良いのに……




 ――リリスが急に飛び降りた。



「サンゲンさん、おはようございます!」


「おお、リリスか! おはよう。」



 ボケっと歩いていたら、目的地に着いてしまっていたらしい……目の前には、糸目をした大男が立っていた。


 まだ早い時間に関わらず、サンゲンは外にいて、そのスキンヘッドを汗だくにしている。


 朝から、修行に勤しんでいたのだろう。


「どうした、ゼノ?

 女たちを引き連れて……自慢か?」


 この顔ぶれが揃うのは久しぶりなので、俺は改めて互いを紹介することに。



「サンゲンさん、今日はあんたの技を、みんなにも教えて貰いたくてやってきたんだ。

 改めて紹介するが、黒髪の彼女がミリアン、紺の髪のコイツがマリー……」


「神具を手にしておるな――お前と『魔神と戦う契約』を交わしているのだろう?」


「ああ、そうだよ。」



 答えて、さらに紹介を続ける。



「こっちの小さいのが……わかるかな?」


「確かガムだったな――気配でわかるよ。

 派手な化粧を取ると、子供のようだな。」



 言われてガムが不機嫌な空気を醸し、サンゲンは話題を変えてくる。



「リリスにも技を教えるのか?」


「できれば……あんたの許可が下りればだけど。」


「その子はお前が思う以上に、わしが強くしたいと思っていたよ。」



 あの一件で俺が到着するまで、リリスとサンゲンが、教会を守って戦ってくれていた。


 その時の縁だろう……サンゲンはリリスを気に入っているようだ。



 今度はサンゲンをみんなに、「ウルゴさんから聞いた面白い話」を交えて、紹介する。



「改めて紹介するが……この人が俺に、『技』を教えてくれたサンゲンさんだ。

 神術エネルギーを体内に巡らせ、運動能力を上げる技――それを編み出した張本人。

 聞いた話だが、昔、迷宮を各階全部の神獣を倒しながら潜っていたらしい。

 そんな『イカレタバケモノ』――達人だ。」



 ニヤリと笑って紹介すれば、皆驚き、サンゲンに恐れをなした顔だ。


 それを面白がっていた俺だったが、すぐ、に皆と同じ顔になってしまう……


 ――冷や汗が、走る。


 急にサンゲンがプレッシャーを……普段は隠している、その力を解放し、殺気のようなものを浴びせてきたのだ。


 彼はそれから、俺へと問を投げかけた。


「――ゼノよ。

 お主、アムス領で大観衆の中から神具を盗み、わしに渡したな。逃げ切れる勝算はあったのか?」


 ――急な質問。


 俺に技を教えてくれる時も、この男は同じように質問をしてきた。


 きっとまた、あの時と同じように試されているのだ。――これが「技」を教わるための試験ならば、ちゃんと、答えねばならない。



「あんたが技を教えてくれたから、俺は逃げ切れると思ったし、あんたなら確実だと……」


「お主、教会に魔獣と騎兵の一軍が襲ってきた時、一人で飛び込んだな――勝算は?」


「異形の魔徒さえ倒せば、あの軍は崩れると考えた。それに、あとの魔獣は、あんたの強さなら、なんとかなると思ったんだよ……」



 答える度にサンゲンはプレッシャーを増し、また、質問を投げかけてくる。


「神具を持つ者は、それだけで、土地を一つを得られるほどの……一軍に匹敵する強さを持つ。

 中には、わしより強い者もいるだろう……お主はそれでも、全ての神具を集めるのか?」


 強い口調で、サンゲンは聞いた。

 きっと、俺の覚悟を聞いているのだ。



「ゼノ……神具を全て集めても、魔神を倒せるという保障はないのだぞ。それこそ先の戦いで、ウルゴ様たちは魔神の恐怖の前に、戦うことすらできなかった……それに、魔神と双璧をなす神は、もういない――奇跡はもう起こらない。

 神具を集めることも、魔神と戦うことも、過酷な上に、勝算は低いだろう。

 それでも、お主はやるつもりなのか?」



 上から、達人のプレッシャーが降り注ぐ……まるで、神竜と対峙している時のようだ。



 ――俺は目を閉じて、深く息を吸う。



 魔神に負れ傾いていく世界で、人々は、現実を――「今」を大切にした。


 富を持つ者たちは未来を捨て、力を持つ者たちは未来を奪い、そうして、世界は保たれた。


 ――犠牲にされたのは、子供たちだ。

 

 何も持たない子供たち……あの頃の俺たちに、大人たちは富を与えず、力を与えず、未来を掴む力を与えなかった。


 ――そうしてまた、人々は繰り返す。


 魔神が再び復活した時、犠牲にされるのは、何も持たない子供たち……その、「未来」だ。



「過酷さとか勝算とかは、どうでもいい。――俺は世界に『未来』を奪われ、『今』を奪われた……


 ――子供たちを、同じ目には合わせない。


 持っているやつらから『今』を奪い、子供たちに『未来』を渡す。それは、ほんの少しでも、僅かでも関係無い! ――だってこれは、生存競争でも、正義の戦いでも無く、ただ……!


 俺自身の、世界への『復讐』だからな!」



 ――俺の素直な答え。


 それで、合格だったのか?


 答えてサンゲンを睨んでいたら、彼はプレッシャーを緩めて、ニコリと笑ってくれた。


 そして、協力的な言葉をくれるのだ。


「よかろう。お主が望むなら、この技も教えるし、神具を集めることにも協力しよう。ただし……」


 糸目の男は言葉を溜め、真顔に戻して言ってきた。


「お主、さっきわしを『イカレタバケモノ』と呼んだな――それを取り消せ。」



 意外な条件……怒っているのか?


 確かに、目上の者に使う言葉では無かった。

 だから俺は、素直に詫びを入れた。



「すまない、失礼な言葉だった。

 謝るよ。だから協力して欲しい……」


「ん? ああ、別に謝って欲しいわけじゃない。

 ただ、お主の口から出た言葉を取り消して欲しいのだよ。」


「え? うん、取り消すよ。

 さっきの言葉は取り消す――すまない。」



 そう返せば、サンゲンは言うのだ。


「お主にはわからんだろうがな……

 本物の『イカレタバケモノ』と比べれば、わしなど、可愛いものなのだよ。」


 もっと強いやつがいる、という意味か?

 ――マルスとか?


 考える俺を、サンゲンは見ている――その顔はとても嬉しそうに、笑っていた……








 サンゲンの協力を取り付け、技の伝授を頼んでから、俺は、カミュ領に向かうことにする。


 話では、カミュ領が、ここスターリン領に攻め込んでくるらしい……


 どうせなら、準備が整う前に叩き、ついでに、神具を奪おうと考えていた。


「――じゃあ、いってくるよ。」


 そう言って去ろうとする、俺の黒いマントを、小さな手が掴んで止めた。


「ゼノが、教えてくれるって言った……」


 蝶の形に結ばれた黒髪が、――うつむいて、俺を引き止めながら、呟くのだ。


「ねぇ、ミリアン、ゼノは言ったよね?

 グラッツ領が魔獣に襲われた時、私に『ゼノが』教えてくれるって、言ったよね……」


 ガムの質問に、ミリアンは答える。



「あ、ああ。たしかに聞いたよ。

 今度教えると、そう言っていた。」


「いや、俺が教えるとは言ってない。

 それにカミュ領へは早めに行った方がいいし、教えるならサンゲンの方が……」



 そう諭そうとしたら、ガムが叫んだ!


「『ゼノが』教えてくれるって言ったもん!

 私に教えてくれるって、言ったんだもん!」


 黒い瞳を潤ませ、子供のように駄々をこねるガム――だが俺は、彼女に言い返す!



「『わがまま』言うなよ!

 わかるだろう! さっさとカミュ領に……」


「ゼノ!!」

「ゼノ!!」

「ゼノさん!!」


 ガムを叱ろうとした俺の言葉……それを全員が、声を揃えて止めてくる!


 そして、それぞれ全員が、「俺が悪い」と言ってくるのだ!



「ゼノさんが悪い! ガムさんは悪くない!」


「そうだぞ、ゼノ! ケバ女が可哀想だ!

 こんなに可愛い子、いじめんなよ!」


「君はあの時、約束をした……約束は、守らなければいけないよ。」


「ゼノ、『刻印』は無くとも、契約は守れよ。

 ――お主なら、なおさらな。」



 全員を敵に回して、俺は完全に敗北する。



 ――結局、それから三日の間。


 俺は付きっきりで、達人の技をガムに、教えることになったのだ……





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