新しい住処2
――話し合いを終えた夜。
屋敷の大きなテーブルで、来客二人を交えて食事を摂った。
ここに来てから子供たちは、食事も――何もかもが楽しそうで、食事の後の団らんも、賑やかな雰囲気に溢れていた。
「マリーさん、今日はどんなルールで鬼ごっこします?」
「お姉ちゃん、わたし、隠れんぼがいい!」
「おお!? じゃあオレが、鬼ごっこと隠れんぼの合体した、面白い遊びを教えてやるぜ!」
屋敷の主人マリーは、ガキ大将という感じで、一緒になって遊んでくれるので、子供たちは、とても懐いている。
「お姉さん、冒険の話、聞かせてください!」
「いいよ。じゃあ、私が初めて迷宮を攻略した日の話をしてあげよう。」
「え? この綺麗なお姉さん、冒険者なの!?」
来客の一人ミリアンも、優しいお姉さんという雰囲気で、子供たちに囲まれていた。
――だが、一人。
来客のもう一人、ガムだけは調子が悪いようで、入口側――テーブルの端に、ポツリと座って、なにか暗い雰囲気を出している。
たぶん、生理だろう。
朝の話し合いから、機嫌が悪かった。
食事もほとんど食べなかったし……
カラフルな髪に暑化粧のガムは、離れていても目立っているが、彼女に近づく者は、誰もいなかった……
「やっぱり、こんな大きなお屋敷に住めるなんて、ステキ!」
女の子の一人がそう言えば、マリーは気前のいい言葉を返す。
「ずっと住んでていいんだぜ!
ここは、オレとゼノの家だからな!」
そんなマリーの言葉に、俺は返した。
「泊まらせてもらってるのは、ありがたい。でも、ここは俺の家じゃない――その内に、出て行くぞ。」
「ええぇ!? わたし、ここがいい!」
「ボクも、このお屋敷がいいよお!」
「なんでだよ? お前、オレのこと好きだろ?
なら、ずっと一緒に住もうぜ!」
「地獄に落ちろ、地獄に落ちろ、地獄に落ちろ、地獄に落ちろ、地獄に落ちろ……」
子供たちやマリーとの、賑やかな会話の隙間から、呪いの言葉が聞こえてくる。
聞こえた方を見るが、その言葉を放ったガムが虚ろに下を向き、なんの反応も示さない。
生理がきついのか?
相当、イライラが溜まっているのか?
とりあえず、こういう時はそっとしておくのが良いだろうと、俺は無視を決め込んだ。
「おねーさんじゃないよ!
あたしがゼノさんのお嫁さんになって、どこか小さなおうちで、一緒に暮らすんだよ!」
「違う! わたしだよ!」
「違う、違う! アタシだよお!!」
「ゼノさんのお嫁さんは、私が……」
女の子の一人がそんなことを言い出したら、ほかの女の子たちが争いだす。
それに俺は、断りを入れた。
「俺は、誰もお嫁さんになんてできないよ。
歳も離れているし、死ぬかも知れない……」
「やだぁあ! ゼノさん、死なないで!」
「ゼノがおじさんでも、お嫁さんになるぅ!」
俺が死んだり、歳をとるくらいなら良いが……この子たちに、未来はあるのだろうか?
そう思った俺は、雰囲気に合わない言葉を放ってしまう。
「みんな、とにかく生きてくれ……なんとか足掻いてみるが、何も変わらなくて、今より酷い時代が来るかも知れない……でも、生きてくれ。」
――つい、本気になった。
「みんないい子だから、生きていればきっと、素敵な相手に巡り合える!
大切に想ってくれて、本気で守ってくれる……そんな人に出会えたら、その人のお嫁さんにしてもらうんだよ――」
空気を読まない言葉だったが、子供たちはみんな、真剣な顔で聞いてくれた。
そして、俺へと応援をくれるのだ。
「ゼノさん、魔神倒してね!」
「絶対、ゼノさんも勝って生き延びてね!」
「アタシが大人になるの見ててよ!」
「ゼノさん……私も……たたかう……」
「地獄に落ちろ、地獄に落ちろ、地獄に落ちろ、地獄に落ちろ、地獄に落ちろ! バカ……」
そこに、ミリアンが声をかける。
「君は子供たちを、とても大切にしているんだね。――君が東の地で暴れていたというのも、赤い髪の……ラナさんを、守りたかったからだろう?」
――守りたかった?
ミリアンの言葉には、違和感を覚えた。
違うな……。
あの頃の俺には、そんな余裕も無かった……
俺は正直に、その頃の気持ちを話す。
「違うよ、ミリアン。守るなんて、いいもんじゃない。俺は俺自身のために、ラナを失いたくなくて、ただ、必死だったんだよ……」
「地獄に落ちろ、地獄に落ちろ、地獄に落ちろ、地獄に落ちろ、地獄に落ちろ! 死ね……」
今度はマリーが、俺の顔を指でつつきながら、言ってくる。
「ケッ! お前、みんな大切なんじゃねーか。
どうせミリアンも、大切だぁあとか思ってんだろ、浮気者!」
その言葉もまた、違うと感じる。
俺はミリアン……俺の「同類」への気持ちを、ひねくれた言葉で表現した。
「はっ! こいつのことは、お前やみんなと違って、俺は大切になんて思っちゃいないよ!」
――悪いが事実だ。
俺はミリアンを見て、嫌味な笑みを浮かべながら、ハッキリと言ってやる。
「お前は、ほかとは違う――特別だ。
俺が死んだ時は、次はお前が跡を継いで、そして死ね! 一緒に地獄に落ちるんだ!」
――俺の本気の嫌味。
だけど、黒髪の美人は軽く流す。
優しい微笑みで、返すのだ。
「ああ、構わないよ。
――地獄に落ちよう、君となら……」
「ああああぁぁああああああ!!!!
死ねぇぇええ! 地獄に落ちろぉぉおお!」
――ガムが、激しい雄叫びを上げる!
ついに、壊れたのか……叫びながら、椅子から転げ落ちたガムは、解けた長いカラフルな髪を振り回し出したのだ!
崩れさった髪型の、異様な色をした髪には、かんざしという棘が沢山刺さっている……その姿は、異形の魔徒よりも恐ろしい。
――そんな怪物は、叫び出す!
「どれだけ罪を重ねるんだ! 大罪人がぁあ!
だから、あんたと一緒にいるのは、嫌なんだよぉぉおお!!!!」
「こわいよお!」
「うわぁああああ!!!!」
俺のこれまでの罪を問う、怪物。
その出現に子供たちは、テーブルから飛び離れて、部屋の端まで逃げ、身を寄せる!
チェッチェは黒い羽を生やして、部屋の中を飛び回って逃げていた!
――暴れ回る怪物が、落ち着いた頃。
ラナだけが無表情で、彼女にゆっくりと近づいて、その背中を優しく撫でた。
「ガムさん、お風呂、一緒に入ろう。
ここのお風呂大きいから、落ち着くよ。」
「ごめん、ラナちゃん……
――私、アイツを殺したい……」
「うん、気持ちはわかるけど、ダメ……」
そんな会話をしながら、ラナは、カラフルな髪の怪物を、部屋から連れ出してくれた。
大部屋には凍りついた雰囲気だけが残り、最近の楽しげな雰囲気は、――その夜、戻ってくることは無かったのだ……




