表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第一部 ――神具の強奪者――
31/51

叶わぬ時代2


 領主バティスタの屋敷を囲む塀に登って、俺はその中を見渡した。


 ――もう雨は止んでいて、視界は良好。


 俺のエネルギー感知も良好で、屋敷の内部までもがはっきりと感じられる。



 戦況は拮抗状態、バティスタは中か……


 屋敷はセントールの兵士たちに包囲されている。だけど、屋敷の庭には味方側の死体が転がっているし、魔獣の姿も見えていた。


 セントールの兵士たちは、その辺の魔獣ならば軽く倒せるほどには強いだろう。


 だが、通常より強力な魔獣たちと、異形の魔徒たちの能力に、攻めあぐねている様子だった。



「――もう半日もこの状態っす。

 反対側からも魔獣がいっぱいやって来るもんだから、戦力が割れていたんすよ。

 でもなぜか、ゼノさん来てから、魔獣の発生が止まったらしいっす。

 ――今からが攻め時っすよー!」



 チェッチェを抱いたイースも塀へと登ってきて、隣で状況を説明してくれる。


 男の子を抱える若い騎士は、喋り方も相まって、なんとも頼りない感じだった。



「ゼノ、ぼくの服、かわいい?」


「ああ、かわいいよ、チェッチェ。

 イースと一緒におとなしくしておけよ。」


「うん!」



 服を着せてもらったチェッチェ。


 その黒髪を撫ぜれば、チェッチェは嬉しそうに笑ってくれた。


 その笑顔を見てから、俺はヒョイと塀から飛んで、屋敷の庭に降りたのだ。



「ゼノさん!? ど、どうするんすか!?」



 塀の上で、イースが慌てふためく。



「おい、お前! 堂々と入って、命が惜しくないのか!?」



 気づいた異形の魔徒が一匹、俺の前へとやって来た。


 全身を棘で覆われた、ヤマアラシのようなその魔徒は、人間味の残る顔でニヤリと笑う。



「ハハッ! お前、何を余裕ぶっている?

 屋敷を包囲しているからと、勝っているとでも思ったのか?」



 ――嬉しそうに笑う異形の魔徒。


 そいつは何か俺の「勘違い」を指摘するように、ニコニコと話し続けた。



「お前たちは、もう終わりなんだよ!

 気配は隠しているが、俺にはわかる!」


「な、なにがわかるんすかぁあ!?」



 後ろの塀の上でチェッチェを抱えたイースが、異形の魔徒の……その言葉に反応した。


 すると反応のいい聞き手に気を良くしたらしく、ヤマアラシの魔徒はイースにも聞かせるように話し出すのだ。



「特別な、我らの仲間が来ているのさ!

 そいつはな、強大な力を持っている!」


「ど、どんな力っすか!?」


「無限に魔獣を生み出す力!

 その黒羽根で、全てを切り裂く力!」


「スゲー、ヤバイじゃないっすか!」


「ああ、そうだ!

 我らでも扱えずに数人がやられた……

 だが、とうとう魔神様の配下たる役割に気づいたようだ!

 ――もう、すぐ近くに来ているぞ!」


「ぎゃああああ!!!!」



 ――その言葉にイースは悲鳴を上げる。


 チェッチェを抱いて塀の上であたふたしながら、青ざめた顔で叫んでいる。



「ゼノさん、やばいんじゃないすか!?

 なんか、メチャメチャやばいのが来てるらしいじゃないっすか!

 みんな! みんな、逃げるっすー!!」



 俺は慌てるイースに指示を出した。



「イース、大丈夫だ!

 その子を抱いて下がっていろ!」


「大丈夫って、何で大丈夫なんすか!?」



 ――説明するのが面倒くさい。



「俺を信じろ、イース!」


「は、ハイっす!」



 俺の一喝に、イースは敬礼。――塀の外に飛んで、去っていった……





 ――異形の魔徒は、苛立った様子だ。  

 俺に、嫌味を言ってくる。



「お前はエネルギーを感知する能力が低いらしいなあ! 隠してはいるが、強大な魔術エネルギーが、お前の後ろに来ているぞ!」



 ――その嫌味にはカチンときた。



 唯一のとりえを否定され、俺はつい、言い返してしまったのだ。



「――見えていないのは、お前だよ!

 お前の天敵たちが、近づいてきているのを、お前が感じ取れていないんだ!」



 ――俺がそう言ったタイミング。


 一人の女騎士が飛び込んでくる。



「ゼノ殿! 大丈夫か!?」



 気丈な女の声がして、ローゼンが塀の中に飛び込んできたのだ。


 ――続いて、ウルゴさんも入ってくる。



「天敵ぃ? 女とヨボヨボの爺さんかぁ?」


「こちらが複数とは考えないのかねぇ……馬鹿が! アタイが思い知らせてやるよ。」



 ――敵側も声が二つに増えた。


 異形の魔徒がもう一匹……魔獣たちを引き連れやってくる。


 ――たしか「タコ」だったか?


 更なる侵入者に気づき集まったのは、空に浮く「海の生物」らしき魔獣たちだ。


 そして、その親玉のような異形の魔徒……



「神具持ちが一人だけ……お前たち、死ぬよ。」



 女の声で話すその異形の魔徒は、タコと呼ばれる海の生物に似ている気がする……


 そいつは全身に丸い部分があって、そこから黒い霧を噴射しだしたのだ。


 ――視界が闇に奪われる!



「おい! 全く見えんぞお!?」


「アタイに任せておきな!」



 ――敵側も、同じ状況らしい。


 ヤマアラシの魔徒は慌てた声……この状況を作り出したタコの魔徒が、任せろと答えている。


 闇の中でも音とエネルギー感知で、俺には相手の動きがある程度わかった。


 どうやら、空中のタコの魔獣たちも、この闇の中を動いているようだ。


 ――相手は複数で、視界も効かない。


 この闇に、俺もまた動きに迷っていた……



 ――そこに、老人の声。



「皆、ここはわしに任せて、動くな!

 ――ローゼン、剣を借りるぞ!」



 ウルゴさんの声。


 それに従い、俺は動かない。


 空から魔獣たちが近づいてきたが、到達する前に、神具の剣が討ち落とすのを感じる。


 闇の中でも正確に、敵だけを攻撃する。――俺にはできない芸当だった。




 黒い霧が、段々と晴れてゆく……


 視界には、斬られて落ちている魔獣たちと、斬り刻まれたタコの魔徒。


 ――ウルゴさんはそのまま、ヤマアラシの魔徒と戦っている。



「なぜ? アタイしか、見えない世界では動けないはずなのに……」

 


 ――倒れて瀕死の、タコの魔徒が呟いた。


 俺はナイフを抜いて、死に際のそいつの前にしゃがみ……そして、答えてやる。



「見えない世界で生きてきたのは、お前だけじゃないんだよ……」



 そう答えて、その異形の魔徒にとどめを刺したのだ……





「クソジジイが! さっさと死ねぇえ!!」


 ヤマアラシの魔徒は全身の棘を立てて、ウルゴさんと戦っている。


 棘の一本一本に、鋼の硬さがあるらしい。


 その間に数匹の更なる異形の魔徒と、魔獣たちが集まってくる。



「――神具持ちは爺さん一人か?」


「この女、人間のリーダーだ!」


「ここで、八つ裂きにしてくれる!」



 一匹が、武器を持たないローゼンに襲いかかる!――だけど俺は助けない。


 だってその攻撃は届かない……


 到達する前に、その一匹は吹き飛んだ。



「――こ、この力は神具!?」



 ――驚く、異形の魔徒の声。


 攻撃した主は塀の上……後ろから俺に声をかけてきた。



「ゼノ、無事かい?」



 背は低いが、カラフルな山のような髪型が目立つ女――ガムが声をかけてきたのだ。


 続いて若い娘が、叫び声と共に塀から飛び降りてくる!



「どぉおりゃああああ!!!!」



 紺色のツインテールをした娘が、ハンマーの形の神具を振りかぶる!


 そしてウルゴさんと戦う異形の魔徒を、その棘の上から粉砕した。



「ウギャアああああ!!!!」


「どうだい、オレに惚れ直したか!?」



 ――断末魔を上げる異形の魔徒。


 してやったりと親指を立てる、肌を露出した娘……マリーが俺に言ってくる。


 ――話す間に今度は別の魔獣たちが……だがそれらを、黒髪の女が討ち倒す。



「――ミリアン、随分早いな。

 アムス領の魔獣たちはどうした?」


「君、マルスという青年に、私たちのことを伝えただろう?

 彼がね『ここは俺に任せて先に行け』と言って、私たちをこっちに向かわせたのさ。」



 ――なんだか死にそうなセリフだ。


 まあ、あのバケモノなら大丈夫か……



「し、神具持ちが、四人も……!?」



 ――異形の魔徒の一匹がひきつった声。


 そこにさらに、男の声がした。



「――悪魔よ、五人の間違いだぞ。」



 スキンヘッドの大男が塀の上で、その糸目でニヤリと笑っている。


 それを見てセントール家の二人は、意外な反応を見せた。



「サンゲン殿! どうしてこちらに!?」


「さ、サンゲン!? 久しいのお!!」



 ――知り合いなのか?


 呼ばれたサンゲンも驚いた様子だ。



「ローゼン様!?

 そ、その声は――ウルゴ様か!?」



 戦場で和気あいあいと、強者たちは再会を喜び合っている。


 ――勝負がどちらに転んだのか?


 それは、誰の目にも明らかだった……









 外は皆に任せて――バティスタの神具を奪うために、俺は屋敷の中に入っていった。


 黒髪のミリアンだけが援護にと、一緒についてくる。



「異形の魔徒は上、バティスタと一緒だ。」


「君の感知能力は相変わらずだな。

 ――ほかに、人はいないのかい?」



 神術も魔術も習得していない……そんな人間を感知することは、俺にも難しい。


 だが、魔獣や衛兵の位置から、おおよその予想はできる。



「二階に一組いて、衛兵や魔獣たちに守られていると思う……三階には異形の魔徒と、たぶんバティスタが……魔獣も何匹かいて……

 ――バティスタの家族たちも、そこに一緒にいるかもな。」



 ――俺はわかる限りのことを答えた。


 答えればミリアンは少し考えて、頼むように提案を言ってくる。



「異形の魔徒を倒す前に、魔獣たちを殲滅したい。」


「――言うと思ったよ。」



 異形の魔徒を倒せば、魔獣たちは人に襲いかかるだろう。


 屋敷に籠るのは、異形の魔徒に組みした貴族たち……だけどミリアンは、そいつらに情けをかける気なのだ。



「俺は先に三階に行く……お前は二階に。

 俺は魔獣や魔徒の相手は苦手だ。一応お前を待つが……余裕は無い。

 危なくなれば、遠慮なく殺すからな。」


「わかった!」



 少し意地悪な答えだったが、ミリアンは快く受け入れる。


 ――できる限り人を守る。


 戦況の中でできる限りをやる……そういったミリアンの信念が、俺に信頼と甘さを持たせるのだ。


 ――ただ、余裕が無いのは本当だ。


 チェッチェと戦った時のダメージは、まだ残っている。


 右手の指はまだ折れているようで、 相手から武器を奪うような技は無理だろう。



 ――バティスタには、死んでもらう。


 殺す以外に神具を奪う方法は、今のところ思い浮かびはしなかった…………



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ