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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第一部 ――神具の強奪者――
30/51

叶わぬ時代1


 騎士の制服を纏ってはいるが、それは男ではなく美しい少女だった。


 寝そべる俺の顔に金色のポニーテールを垂らして、緑の瞳で見つめながら、優しい微笑みを浮かべている。



「ゼノ殿、目覚められて安心したよ。酷い怪我だったから……」



 以前カストロ領からの帰り道に、襲われた馬車に乗っていた貴族の娘……


 その彼女との意外な再会に驚き、俺は目が覚めた。



「ローゼン? なぜ、ここに!?」



 その質問には、別の人物が答える。


 遠くから少年のような明るく、耳障りな声が聞こえてくる。



「それは、私のおかげだよ!

 ――感謝してよね、ゼノ様!」



 起き上がって声の主を見れば、銀色パーマの少女が笑っている。



「ゼノ、ラナちゃんたちは無事だった?

 あの子たちなら逃げ隠れるだろうし、私よりも強いし……私じゃ何も出来ないから、援軍を呼びに行ったんだよ。」



 真剣な顔に戻して、そう心配する少女。


 守銭奴のティクトが俺の家族を気にしてくれるとは……



「お前がローゼンに……セントールに、援軍を頼んでくれたのか?」


「そうだよ。ラナちゃんたちは無事だよね!?」



 どうやら、ティクトはバティスタ領の異常を知って、セントールに助けを求めに行ってくれたらしい。


 ――だから、素直に礼を告げる。



「ラナやうちの子たちはみんな無事だよ。

 ありがとうティクト、助かったよ。」


「やめてよ、ゼノ、気持ち悪い!」



 俺の礼に体がかゆくなったようで、ティクトは体をかいている。


 ほっといてローゼンの方を見れば、座ったまま、裸の男の子の相手をしていた。



「オッパイ! オッパイ!」


「すまない……私はあまり大きくないし、ミルクもまだ出ないんだよ。」



 ローゼンに抱きつき、両手で胸を触る黒髪の男の子――名前はなんだったか?


 そんなカラスを、俺は叱りつける。



「マト! 女の胸は軽々しく触るものじゃない!」


「ちぇ! ゼノのケチ!」



 ローゼンはふてくされるトリの頭を優しく撫でながら、彼について尋ねてきた。



「異形の魔徒だから『マト』なのかい?」


「ヤダ! もっとかわいい名前がいい!」


「お前、異形の魔徒とわかっていて、その対応か? ――林の中で、俺が襲撃犯を見逃した時も黙っていたし……」


「ゼノ殿、私は貴方を信じている。

 貴方の『おこない』には意味があると、私は信じているんだよ。」


「アホか! だいたいあの時は初対面だろ?

 なんで、そんな簡単に信じられる!?」



 俺の疑問に、少女は微笑みだけで答える。


 マトは相変わらず、そんな少女にひっついている。



「トリ、そのお姉さんが腰にさしているのが、お前の弱点の神具だぞ!」



 この脅しにカラスはビビったらしい……俺の背中に隠れようと走ってくる。



「お姉さん、神具持ってるの?

 ――ぼくを殺すの?」



 ローゼンは微笑んだままで、腰にさす美しい宝剣に手をかけた。


 そして立ち上がりゆっくりと、こちらに近づいてくる。



「マト殿、貴方はゼノ殿の家族だ。ゼノ殿の家族は私の家族も同じ。

 ――私は家族を、殺したりしないよ。」


「お姉さんも、家族?」



 優しく頭を撫でる少女に、トリは安心したようだ。



「お姉さんも家族! ぼくの家族!

 ぼく、もっとかわいい名前がいいな! ローゼンお姉さん、名前つけて!」



 ローゼンは手をアゴに当て考える。


 ――そして、言った。



「マトマトというのは、どうだろう?」


「ちぇ! お前もセンス無しかよ!」



 カラスは怒って駆け出して、今度はティクトに飛びついた。


 銀髪パーマの少女はマトを抱きかかえて困った様子……胸を触られている。



「お兄さん、ぼくにかわいい名前をつけて。」


「お兄さんじゃなくて、お姉さんね。」


「え? お姉さんなの?」


「この可愛いティクトさんの顔を見なよ!」


「お姉さ……ちぇ! オッパイないな!」


「ゼノ、このガキ、殺していい?」



 ティクトの「殺す」という言葉に反応して、トリは殺気を発した!


 魔術エネルギーを解放しだしたカラスを止めるため、俺は魔法の言葉を言ってみる。



「マト、ティクトも家族だ!」


「え? このお姉さんも家族なの?」


「ぎゃははは! 私もゼノの家族だって!

 ゼノ様ぁ♪ 私は家族だよ♪ ご飯にする? お風呂にする? それとも……♡」


「このお姉さん、ほんとにお姉さんなの?

 ――やっぱり、オッパイないよ?」


「ティクトは胸なんて無くても、とても可愛い女の子だよ。」


「ゼノ、マジキモいからやめてよね!」



 俺たちが言い争っていたら、部屋に二人の男が入ってきた。



「あ! ゼノさん、目覚めたんすね!」


「なにやら賑やかじゃのう?」



 金の短髪をした青年騎士と、ボロをまとった白髪の老人。



「イース、久しぶりだな。

 ――ウルゴさん、なんでまた、そんなボロボロの格好のままなんだ?」



 ローゼンの部下イースと、彼女の祖父であり、英雄として名高いウルゴ•セントール。


 イースは笑顔で答えてくれる。


 ウルゴさんは、質問の答えを返してきた。



「ゼノ殿、ボロはのぉ……昔の英雄は、今は静かにスローライフを送りたいんじゃ。」



 ――その答えには苦笑する。


 笑いながら、ウルゴさんの頭を見て、俺は一つ発見をした。



「だいぶ体が回復してますね――髪も!」


「皆が気を使って、いいものを食べさせてくれるものでなぁ……髪は嬉しいのぉ。」



 以前よりフサフサになった白髪を触り、濃い緑の瞳で、笑っているウルゴさん。



「ねえ、ゼノ〜。あの二人も家族なの?」



 カラスの質問には俺より先に、二人が答えた。



「俺はゼノさんの弟っす! 弟子っす!」


「おお! わしはおじいちゃんだぞ〜。」



 ――いつからだ?


 ノリのいい二人に、戸惑う俺……それをよそに、トリは二人に近づいた。


 ジャンプしてイースに抱かれ、隣のウルゴさんにおねだりをする。



「おじいちゃん、かわいい名前つけて!」


「わしに? クロゾウとかどうじゃ?」



 ――一瞬、空気が凍った。


 応えてくれたウルゴさんを無視して、カラスはイースにおねだりをする。



「お兄さん、かわいい名前つけて!」


「俺っすか? クロウとか?」


「ちぇ! 厨二病かよ!」



 ――わがままなマトの態度。


 それに怒ったのはティクトだ。



「ゼノ、このガキ生意気だよ!

 ちぇっちぇちぇっちぇ、舌打ちばかっりだし、名前なんて『チェッチェ』でいいよ!」



 ティクトのテキトーな言葉。


 それにマトは意外な反応を示す。



「チェッチェ、かわいい!  ぼくの名前!」



 ――いいのか、それで?


 でもチェッチェはその名前が気にいったらしい……とても嬉しそうに、笑ったのだ。









 ――バティスタ領の中心街。


 ローゼンたちはすでにそこを制圧していて、魔獣はおらず、領民は集められている。



「ま、魔神がもうすぐ復活するんだ!」


「し、仕方なかったんだ!」


「生き残るには、魔徒に組するしかなかったんだよお!」



 言い訳、命乞い、混乱の声……


 叫ぶ領民たちの前に、騎士である少女――ローゼンは立った。


 神具の長剣を天に掲げ、集められた人々に呼びかける。



「セントール家は復活する魔神と戦う! 世界を魔神の手にさせはしない!

 ――信じてくれ! 我々を! 未来を!」



 ――その気丈な声に、誰もが注目。


 注目の中でも堂々と、少女は人々に呼びかけ続け、彼らの導き手となるのだ。



「――誰も罪には問わない!

 魔徒たちの手からは、我々が守ろう! セントールに来るなら拒みはしない!

 だから安心して、もう魔徒たちに惑わされないでくれ!」



 少女は声を張り上げ、自分は味方だとはっきり伝えて、人々を受け入れる。


 ――その姿は、次世代のリーダーだ。


 少女だからと侮る者などいない……彼女こそ英雄の地セントールを継ぐ者だと、誰もが認めたことだろう。





 ローゼンの姿に見惚れていた俺に、ティクトが話しかけてくる。



「ねぇ、ゼノ。ローゼン様はきっと、魔神と戦ってくれると思うんだ。貴族だけど味方だよ。」


「あいつは味方だ……わかっているよ。

 ――だけど、あの子は戦わせたくない。あの子には、次の時代を生きてほしい。」



 ――それは正直な俺の気持ちだ。



「ゼノ、ローゼン様好き過ぎない!?

 さっきは口移しでポーション飲ませてもらっていたし、どんだけの仲なの!?」



 ティクトは驚いた顔で言ってくる。


 俺は一々答えない……からかわれる前にその場所からは立ち去った……









 ――なぜ?


 なぜ神具は――「力」は……、持って欲しくないやつばかりが持っているのだろうか?


 俺は「交換」する。


 神具を奪い、別の持ち主へと……命を懸けられ、捨てられる人間へと。



 魔獣たちに守られた屋敷……


 そこに立て籠もる領主バティスタに会いに、俺は向かう――神具を奪うそのために!






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