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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第一部 ――神具の強奪者――
27/51

希望の幻影2


 想いふけっていたら、もう教会へと着いていたらしい……


 ――たくさんの黒犬の死体が並ぶ中。


 今は亡き神を祀る教会の白壁が悠然と立っていて、目に飛び込んできたのだ。



 ――教会の前には、知った男の顔。


 三俣の槍――神具を持ってそこに立つ、スキンヘッドの男が一人。



「あんた、どうしてここに!?」


「どうしてじゃないだろう!

 お主のせいで、わしはアムス領に居られなくなったんだろうが!」



 怒られて、自分の罪を思い出す。



「あ……す、すまない。」



 ――そうだった。


 この男に俺は、アムス領の領主から奪った神具を渡し犯罪に巻き込んだのだ。



「あんたが魔獣を倒してくれたのか?」


「とりあえず見える分だけな。」



 見える分……ゆうに、百匹は超えている。


 神術エネルギーを体内で渦巻かせることで運動能力を上げる技……


 それを教えてくれた達人だけに、この男の実力は相当なもののようだ。



「――ゼノさん!」



 少女の声が呼びかけてきた。


 緑の瞳を輝かせ、金色の髪の少女が駆け寄ってくる。



「リリス!」



 ――声の主はリリスだった。


 心配は安心に変わったが、それからすぐに、怒りが込み上げてきてしまう……顔が熱い。


 俺は勝手に出ていったリリスを叱りつけようと……



「――お主、その娘を怒るなよ!

 わしが来るまでここを必死に守ってくれていたのは、その娘だ。」



 ――俺が声を出す前に、達人が制した。



 それに従い言葉を飲み込む……


 すると怒りの熱さは消えて、今度は泣きたくなるような感覚に襲われた。


 だから思わず、少女を抱きしめたのだ。



「リリス、心配したんだぞ!」


「う、うん……」



 ――リリスと俺は抱き合った。


 彼女との再会と無事を喜んで……そうしてやっと、心が落ち着いたのだ。





 ――現状を把握するために、再びスキンヘッドの達人と会話をする。



「お主、感じておるか?」


「ああ、とんでもない魔術エネルギーだ……それに、『数』が増えている。」



 ここから見える、ある方向の先。


 そこに凄まじい魔術エネルギーが感じられる――あれは一体何なのか?



「数が増えているか……

 わしにはそこまでわからないが、確かに言われてみれば、それは確かかも知れん。」


「どういう意味だ?」


「あの方角から魔獣たちがやってくるんだよ……倒しても倒しても、絶えることなくな。」



 街中で魔獣が生まれている?――そんなことは、ありえない。


 だけど俺が感じている通りなら、そういうことになるだろう……




『魔獣の発生』


 魔獣は魔黒竜か魔徒が、動物を変身させて生み出している。


 異形の魔徒の中には大犬の魔獣のように、強力な魔獣を作り出す者もいる。


 しかしそれは組み合わせるか変身させるかで、新しく生み出してるわけじゃ無い。



 唯一、迷宮の中でなら魔獣は生まれるが、ここは地上――やはり、ありえない。



「ゼノ〜。」


「ゼノさん、教会の人たちはみんな無事みたいだよ!」


「スラムのみんなもいるけれど……」



 ――子供たちの声が聞こえた。


 遠くを睨んでいた俺は、目線と表情を変えて子供たちの方を見る。



「やはり、お主がゼノか?」



 子供たちを見た俺に、達人が尋ねてくる……そう言えば、名乗っても名を聞いてもいなかった。



「――すまない、名乗り損ねた。

 そう、俺はゼノだ……やはりって?」


「教会の……特に子供たちが、『ゼノさんがきっと来てくれる』と言っていてな。

 お主のことだろうと思っていたのさ。」



 俺は苦笑して、それから彼の名を尋ねる。



「えと、あんたの名前を聞いてもいいか?」


「わしは、サンゲン。よろしくな、ゼノ!」



 サンゲンと名乗った達人は、糸目で笑って俺の手を握りしめる。


 ――力強いその手は、温かなものだった。





 教会の中で逃げてきた知り合いたちと、互いの無事を確認する。


 スラムのリーダー的存在ゲバラの姿も、その中に見つけることができた。



「ゲバラさん、被害はどんな感じだい?」


「半分は……な。体の不自由な者や子供たちが……」


「そうか……」



 仕方の無いこと……気落ちしたゲバラの答えに、それ以上追求するつもりは無い。


 だけどどうしても一人、その安否が気になってしまう子供がいた。



「ゲバラさん、チェチェは?」



 ――このゲバラの息子、チェチェ。


 石になる病を患っていたが、このあいだ治って退院したはずだ。



「――チェチェは死んだよ。

 魔獣に襲われ瀕死だったチェチェを、俺は見捨てて逃げてきたんだ……」



 ――言わせてしまった。


 ゲバラは淡々と答えたが、きっと感情を殺している……軽率な質問を、俺は素直に謝った。



「――すまない、聞くべきじゃなかった。」



 ――ゲバラは自分を悪として答えた。


 だけど、それも仕方の無いことだ……


 助けられなかったのはこの父親のせいだけじゃない。――どうしようもないことなど、この世界には溢れている……





 教会にみんなを残して、俺は出かけようとしていた。


 あの方向――おそらく魔獣が生まれているその場所を、確かめに行こうと考えたのだ。



「ゼノ、行くのか?」



 出ていく俺を、ゲバラが見送りに来てくれた。



「ゼノ、これをお前に。」



 ゲバラは小瓶の入った袋を手渡してくる。


 中には緑に光る液体の入った小瓶……エリクサーが二本入っていた。前に教会で会った時に、ゲバラに渡しておいた物だ。


 それを見て、俺は身体が硬直してしまうのを感じていた……


 声が、うまく出せない……



「な、ぜ、こ、れが、ここにある?」


「使わなかったんだよ。お前が戦うために必要だろう? 持っていってくれ。」



 あっさりと言う、ゲバラ。

 使わなかった――バカかこいつは?


 ありえないことを言う、ゲバラ。

 その澄ました顔を、俺は殴りつけた!



「バカか、お前は!

 なぜ、使わなかったんだ!?

 そのエリクサーで何人の仲間が、何人の子供が、――救えたと思っている!!」



 ――力としては本気じゃない。


 だけど、俺は本気で殴った……そして、聞くべき質問をしたのだ!



「チェチェは!

 チェチェはそれを飲ませれば、救えた命じゃなかったのか!?」



 ゲバラはその質問に小さく答えた。


 そうだよ、と……



「お前はそれでもリーダーか!?

 ――父親かぁああああ!!!!」



 ――その答えにはキレた!


 ゲバラの顔を何度も殴りつける!


 ついには地面に這いつくばるゲバラ……足元でクズが、何か言い訳をし出す。



「ゼノ、聞いてくれ……」


「なんだ! 言葉を選べよ。

 これ以上怒らせたら、お前を殺す!」



 ――本気で殺す!


 一人でも助かるように、そう思って渡したエリクサーをこいつは無駄にした!


 このバカな父親を、チェチェの元に送ってやる!



「――俺は……ただの男だ。」


「そうだよ! お前はリーダーでも、父親でもない! ただの、役立たずの男だ!」


「――だけど、チェチェは違った。」


「当たり前だ! お前なんかと一緒にするな!」



 クッキーを分けてくれた、チェチェの笑顔が浮かぶ……優しい子だった。


 きっとこのバカな父親よりも……俺よりも立派な男になったはずだ!



「ゼノ、チェチェは良い子だった。」


「そうだよ、優しい子だった!

 そんなお前の息子をお前は、見殺しにしたんだろう? エリクサーを、使わずに!」



 ゲバラは立ち上がって、俺を見た。


 そして悔いる様子なく、はっきりと答えてみせたのだ。



「俺は、チェチェを見殺しにした。

 エリクサーを飲ませず、見殺しに!」



 ――こいつ!!


 あまりの開き直りに、言葉を失う。


 そんな俺を、ゲバラは腫れ上がった顔で、真っ直ぐに見つめてくる。



「あの子を見殺しにしたんだよ、俺は!」


「どうして!? あの子はお前や俺よりも、ずっと生きる価値のあった子だ!

 どうしてそんな、お前の息子を……!」



 ――ゲバラは表情を変えない。


 真っ直ぐに……ただ真っ直ぐに、チェチェの面影ある黒い瞳で見つめている。



 ――ゲバラは、静かに語り出した。



「――チェチェが言ったんだよ。

『エリクサーは飲まない、エリクサーを使ってはダメ』だって……」


「何を言っている?

 お前、死んだ息子を言い訳に使うのか?」


「チェチェは、お前に憧れていたんだ……きっと、お前みたいな男になりたかったんだろう。」


「何を、言っている!!

 あの子は俺より、優しい子だ!!」


「そうだよ、ゼノ!!

 あの子はお前よりも優しくて、俺よりもずっと立派だったんだ!!」



 ――――!


 ゲバラは、俺の肩を両手で掴んだ。


 そして、真っ直ぐ俺を見て、叫び出す!




 ――意志を宿した真っ直ぐな瞳――




「だから、あの子は言ったんだ! エリクサーは使ってはいけないと! 自分が大怪我を負いながらも!

 石になる病の子を治すために……ゼノ、お前が『世界を救う』ために! 必要だから使ってはいけないと!

 ――そう、優しいあの子は叫んだんだ!」



 強い意志を宿した瞳で、ゲバラは俺にそう言った――その叫びに、圧倒される。



「う、嘘だ……」



 ――偽りだ。


 そうだとしても父親なら、息子を救う選択をするはずなんだ。



「ゼノ、言ったんだよ……

 俺よりもずっと立派な、優しくて強いあの子が、真っ直ぐに、俺を見て……」



 ゲバラの瞳は、涙が溢れていた。


 嘘の無い瞳で、俺に言ってくるのだ。



「俺はなぁ、ゼノ……逆らえなかったんだよ!

 優しいあの子の、あの意志を宿した――真っ直ぐな瞳にな!!」





 ――息ができない……


 黙る俺に、外からサンゲンの声がかけられる。



「――ゼノ! 魔獣たちと人の騎兵が、あの方向からやって来る!」



 その声を口実に、フラフラとゲバラから離れて、俺は外へと出ていった……


 遠くに黒犬の群れと、鎧の兵士を上に乗せた馬の群れが見えている…………




 ――外は、雨が強く降っていた。






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