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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第一部 ――神具の強奪者――
25/51

無敵の人3


 女子供を安全な防壁まで連れて行く。


 それからまた、何人かで街を回り、生き残った人々を救出……それを繰り返す。


 魔術や神術で建屋の中をくり抜き、魔獣たちの裏をかいて安全な経路を通る――


 そんな、逃げ切り人生を歩む大将の采配は、俺にはできぬ大したものだった。



「あとは、中央広場辺りか……

 あっちにはかなりの魔獣たちが集まっている。たぶん、何人か残っているはずだ。」


「あっちはキツイぞ! 異形の魔徒の能力もあるんじゃ!

 ――気づかれたら、やられてしまう。」



 俺の助言に、弱気な事を言う領主。


 そんな老人に、俺は作戦を尋ねた。



「どうする?」


「直線になるように、建物に兵士を隠しながら向かう。逃げる時は真っ直ぐに、攻める時は挟み打ちにできるはずじゃ!」



 ――なるほど、いい作戦だ。


 その作戦に従い、俺は前線を担った。


 中央広場に近づけば、上空にいる異形の魔徒と、夜に飛ぶ、鳥たちの姿が見えた。



 やつらはこちらに気づかない……というより、別の相手から目を離せない様子だ。


 ――鳥が落下し、建屋が破壊される。


 鳥を石のように重くして落とす――それが、異形の魔徒の能力らしい。


 だけど、その鳥が石になる前に、空から落ちて死んでゆく……下から石を投げつけられ、落とされているのだ。



 やっている人物は、魔獣たちの中にいた。


 大犬たちの大群を相手にして、なお上空にまで攻撃できる余裕のある、圧倒的な強者。


 莫大な神術エネルギーを放つ「人間」。


 ――おそらくは、マルス•カストロだ。





 そこは幸いと、救助を進めていく。


 大方の避難が済んだ頃、魔獣の群れが走って突進した先に、一組の親子の姿が見えた。


 ――親子を襲う魔獣たち。


 父親は武装しているが、腰を抜かして動けないでいる様子。


 俺は彼らを助けようと屋根を走った……が、魔獣が親子に迫る――間に合わない!


 俺がそう思ったところ、何人かの男たちが親子と魔獣の間に飛び出してきた……



「か、可愛い奥さん連れてんな!」


「こ、子だくさんだね!

 ま、毎晩やってんのかぁいい?」


「ギャ、ギャハハハ……

 や、やめろよ、ひっ、人妻は今から俺に惚れて、今晩よろしくするんだからよ!」


「あ、じゃ、じゃあ俺は娘だな!」


「お、お前、ロリコ〜ン、ハイ決定!」


「おい犬っコロ!

 ここは通してやらねえぜ!」


「俺たちは、仕事もねえ、家族もねえ。

 カツアゲで生きるだけのチンピラさ。――未来なんて無い、『無敵の人』だぜ!」



 ――飛び出してきたのはゴロツキたち。

 彼らは声を震わせながら、啖呵をきる。


 俺は戦わないスタイルだ……だけど、雑魚どもの声が気に障り、彼らの前に飛び出した。



 大犬一匹の喉を、魔黒竜の牙で突いて殺し、さらに、近くの二匹を打撃で吹き飛ばす。


 それから両手を広げ、雷撃を放った。


 ――左右片方ずつ、黒犬の頭に! その雷撃をさらに隣の犬の頭へと……



 雷撃は通常、最後は地面に落ちる……


 だが、俺は雷撃を放ち続け、次々に魔獣たちを雷撃に巻き込んでいく。



 ――落ちるな、落ちるな、落ちるな!



 両手から離れた雷撃は、大犬の群れ全てを通過しながら、複雑な経路を描いていく。



 ――繋がれ、繋がれ、繋がれ!



 見える黒犬の群れ全てを巻き込んで雷撃が輝き、二つの雷撃が繋がる感触が伝わった!



 ――流れ続ける(ライトニング)狂った雷撃(・サーキット)――



 そこで両手を力いっぱい合わせれば、雷撃は消えること無く、魔獣たちを襲い続ける!


 地上に雷が舞うような雷光に、黒犬たちは黒炭になっていった……



「す、すげぇ……」


「バ、バケモンだ……」



 雷撃を最大にまで高めた俺の神術に、ゴロツキどもは驚いている。


 実力の違いを見せつけて、雑魚どもには言ってやるのだ!



「とっとと親子を連れて失せろ、雑魚が!」


「ひ、ひぃいいいい!!」



 情け無い声を上げて、その場から逃げ去るゴロツキたち。


 久しぶりに全力を出したからか……俺はイイ気分を味わっていた。



 ――だけど、そこで殺気を感じる!


 上空の、異形の魔徒に気づかれたのだ!



「――さて、アイツを倒すしか無さそうだね……」


 小さく呟き、俺は中央広場に走った。


 子供たちの元へ急がねばならない……そんな大目的を忘れて、ゴロツキどもの挑発に軽率にも乗ってしまった……


 浅はかな俺はその代償を払いに、空を飛ぶ、異形の魔徒へと挑むのだ。





 中央広場には、黒犬の死体が山のように積まれている。


 青白い光――人を完全に覆い尽くすほど大きな盾のその縁に、神具独特の刃が輝いているのが見えた……


 そんな巨大な盾の形の神具を持ち、死体の山の頂上にいたのは、やはりマルスだった。


 マルスは大犬に鳥にと相手をしながらも、俺に気づいて声を上げた。



「――あ! あんたあの時の! あん時はよくも、罪をなすりつけてくれたな!」



 ――そういえば、そうだった。



「――許せ、マルス。

 それに今はそんな場合じゃない。あの上にいるやつをなんとかしたい。」



 そう返せばマルスは俺に近づき、背中を合わせて話してくる。



「いやいや、許せるわけは無いだろう?

 だいたいあんた、何で俺の名前を知っているんだよ!?」


「……お前が有名人だからだよ。

 あの高さのやつを、仕留める方法はあるかい?」


「あるならとっくにやってるよ……あ!

 だけど、あんたが協力してくれるなら、方法はあるかな!」



 マルスはこの危機的状況の中で、明るい声を放つ……そんな青年に俺は尋ねた。



「どんな方法だ?」


「俺が屋根に登って、ジャンプする。

 あんたを担いで、ジャンプするんだ。」



 ――何を言っているんだ、コイツは?



「そんで、あんたを投げるんだ。

 俺のジャンプだけじゃ届かなかったけれど、それなら、たぶんいけると思う。」



 ――は? 発想がおかしい!?


 反論しようとした俺だったが、すぐに……凄まじい力で掴まれ、抱き抱えられた。


 常識外の作戦を話したマルスは、さっそくと、それを実行に移してきたのだ!



「お、おい! 本気か、お前!」


「たぶんいけるって! さっきの雷撃はあんただろ? あれを当てりゃあ、あの魔獣だか魔徒だかわからんやつも一撃だろ!」



 嬉々として話す青年は一瞬で、三階建ての建物の屋根へ跳ぶ。


 そこから、すごい勢いで上空に飛んだ!


 そして……


 上空の異形の魔徒に向かい、俺を思いっきり投げ飛ばしたのだ!



「嘘だろ、あいつ!?

 ……ちゃ、着地はどうするんだ!?」



 ――吹っ飛ばされて慌てる、俺。


 それを冷ややかに見る、異形の魔徒の冷たい瞳が見えた。


 それに向かい雷撃を放とうとしたが、魔徒はあっさりと、さらに上空へと飛んでいく。



 ――失敗か?


 自身の落下が始まりそうと思った俺は、何か、気配を感じて下を見た。


 ――そこには、金の巨大な盾。


 神具を持ち、それを上空に向かい構えたマルスが、俺に向かって飛んで来る!



「――踏み台にして、飛べ!」



 盾を投げつけてくるマルスの声。


 俺は、その声にとっさながら反応する。


 巨大な盾を足場に、全力でジャンプ!


 逃げる異形の魔徒へと近づいた。――近づいたところで、全力の雷撃を放つ!



「ぐぁああああ!!!!」



 雷撃を浴びた相手は、叫びを上げる。――黒焦げになり落ちる、異形の魔徒。


 それを追って下を見れば、魔獣たちの魔術エネルギーが混乱して動き始める……指揮役が死に、統制が崩れたのだ。



 ――だけど、そこからは俺のピンチだ!



「高すぎじゃないか……」



 俺は、自身の中から沸き起こる寒気と、落下の風圧を感じとる!


 ――死ぬ! マジで死ぬ!


 カバンの中にエリクサーは一本ある……だけど、これは即死コースだ!


 足からなんとか着地すれば……そう思うが、落下の速度は増していく!



「死ぬ! これは死ぬ! あいつのおかしな発想のせいで……発想!?」



 ――落下の中、俺は思いつく!


 マントを両手で広げ、落下するその風を受け、落ちるスピードを殺そうとした!



 ――名付けて、「ムササビの術」!



「無理だ……死ぬ!」



 ――やはり落ちていく俺の身体。


 俺のくだらない発想は何の意味も効果も無かった……


 ラナや子供たちを思い出し、俺は最期の時を覚悟した。



 ――その時、流星が見えた。



 暗い雲に覆われた世界で、稀に西の空に見える光の線――いや違う、マルスだ!


 マルスが流星のようなスピードで走ってくる……その神術エネルギーが見えたのだ!


 その光は輝きを増して、こちらに向かい飛んで来る!


 ――俺を空中で抱き抱えるマルス。



「がっ!」



 抱えられた瞬間、両腕の骨が折れる!


 ――痛みに苦悶する、俺!


 それを抱え、マルスは走りながら着地。


 そのまま走って屋根を伝い、防壁に一度乗って、さらに街の外まで飛び出した!


 そこでやっと……俺を地面へ降したのだ。





「――大丈夫かい?」


「大丈夫じゃねえよ!

 ……全身の骨が折れてるよ!」



 俺が怒り叫ぶと申し訳なさそうに、その青い瞳に、マルスは憂いの光を浮かべる。



「か、カバンから、緑の液体の入った小瓶を出して飲ませてくれ……」


「あ、ああ、わかったよ……」



 マルスは俺の頼みを聞いて、エリクサーを飲ませてくれる。



「こ、これエリクサーか!? よく、持っていたな!」


「お前は、神竜の部屋に入ったんだろ?

 ――持ち帰れなかったのか?」


「いや、さすがにあの竜は強くて、逃げる途中で飲んでしまった……

 ――って!? あんたは、何でも俺のことお見通しなんだな!?」



 そんな会話の間に、全身に秘薬の効果が回り、なんとか命の危機を脱したのだ。



「す、すまない……」



 元気さを失い、しおらしくなる青年……俺は言うべきことを言ってやる。



「――マルス、もう謝らなくていい。

 異形の魔徒は倒せた――俺は生きている。

 それで済んだ……いけると思ったら実行に移した。それを、間違いなんて思うんじゃない。」



 言えば、マルスはにこやかな顔に。


 そして、明るい声で言ってくる。



「あんた、師匠と同じことを言うんだな!」


「その、神術の渦を教えたやつか?」


「いや、これは隣の領主に教わったんだ。

 ――『シバ』って言ってな。あんたより少し年上の、剣の師匠さ!」



 ――明るく、嬉しそうに話すマルス。


 爽やかな青年には、あふれる才能と、豊かな発想が備わっている。


 英雄の器とは、こういう男なのだろう。


 コイツの師匠は楽しいだろうな……


 そんなことを思って立ち上がり、その英雄の卵に頼みごとをする。



「街の中で領民たちが逃げ回っている。助けてやってくれないか?

 明日には三人の神具持ちがやって来る……全員女だから、すぐわかると思う。そいつらと、この街を救って欲しい。」



 それにマルスは了承と質問を返す。



「いいけど……あんたは、どうするんだ?」



 ――どうするか?


 決まってはいるが、心は不安に溢れていた。――もう間に合わないかもしれない……


 だけど、ラナと子供たちの元へ……教会の子供たちの所へだって駆けつけたい。


 家族を……クッキーを半分くれた、優しいスラムの子供たちを救ってあげたい。



「――俺の街も危険なんだ。

 悪いが、そっちに行かせてくれ!」



 頼めば爽やかな青年は、爽やかな笑顔で言ってくれる。



「バティスタ領か……わかったよ!

 こっちが片付いたら、俺も助けに行ってやるよ!」



 マルスは笑顔で答えて、善は急げと跳んで、防壁の中へと戻っていった……


 ――感謝を持って、その背中を見送る。


 そして、俺もまたバティスタ領へと……家族と仲間の住む場所へと走り出したのだ。





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― 新着の感想 ―
[良い点] この回凄く面白かったです。 シリアス続きの中の唐突な癒し(?)が絶妙でした。 マルス……良いキャラしてます。彼みたいなちょっと憎めない人、好きです。 どうしても良かったと伝えたくて、最新…
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