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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第一部 ――神具の強奪者――
24/51

無敵の人2


 ――アムス領の高い防壁が見えてきた。


 もう夜の闇に包まれた時間にその壁を見て……俺は恐怖を感じて立ち止まる。


 今までに感じたことの無い莫大な量の魔術エネルギー。――おびただしい数の魔獣の気配が、防壁の中に溢れていた。



 門付近には人の倍はあろう大きさの、黒い犬たちが群れていて、人の出入りを阻んでいる。


 ここでも、魔獣たちが統率されているのは明らかだ。



 ――中の様子を伺うため防壁に飛び乗る。


 街の中には所々に、オレンジに光る炎が……それに、魔獣が放つ黒いエネルギー。


 ――街の中央。


 その上空には夜の闇の中でも目立つ、魔術エネルギーの塊が見えた。


 魔獣たちの大将である、異形の魔徒だろう……あの高さでは倒しようがない。



 幸い、防壁の上にまで魔獣はいなかった。


 ゆっくりとそこを歩き、街を観察する。


 この街の建物はどれもが高く、それが壁となって迷路のようになっている。


 その迷路の中に、魔獣たちに取り囲まれている兵士たちの一団を見つけられた。



 屋根を飛び伝ってそこへと近づく。――近づいたのは、声が聞こえたからだ。


 それは兵士や魔獣の声ではなく、老人のヒステリックな叫び。


 戦場の中で場違いな、力の無い老人が、屋敷の一つに向かい叫んでいた。



「今度は、お前たちの番だろう!

 戦いのための武器を差し出せ! 未来のために、その武器はあるのだ!」



 あれは……?


 以前このアムス領を訪れた時、広場で叫んでいた老人だ。


 そう思い出したところで、一匹の大犬の魔獣が老人へと襲いかかる!



 ――俺は雷撃を放つ!


 屋根から降りて老人の元へ……叫び続ける老人を抱き抱え、兵士たちの集団へ。



「あんた、死ぬ気か!?」


「うるさいわ!

 わしの人生はあの戦いで終わった! わしの未来など、この時代に奪われた!

 ――もう何も失うものは無い! 何を恐れる必要があるのだ!」



 ――とんでもない爺さんだ!


 そこらの魔獣を雷撃で一時後退させ、俺は兵士の一人に質問をする。



「ほかの兵士たちはどうした!?

 なぜ、これだけしかいないんだ!?」


「他領の商会の兵士たちは、さっさと街を捨てて逃げていったんだよ!

 それに街の兵団の幹部は、商会の推薦やら天下りで無能ばっかりだ! それに従ったやつらは魔獣に挟み撃ちにされて、ほとんど全滅しちまったんだ!」



 ――自壊じゃないか!


 呆気にとられる俺の腕で、老人は叫び暴れている。



「武器を差し出せ! 未来のために!」


「この爺さんはなんなんだ!?

 ――てか!! この爺さんなんとかしてくれ!」


「知らないよ!

 でも、言ってることは本当だ!

 そこの屋敷の中に、商会の幹部やら領主が金製の武器を持って立て篭ってる!」



 ――そういうことか。




『金製の武器』


 魔獣は普通の武器では中々死なない。


 だが神術か、金製の武器でトドメを刺せば、比較的簡単にその動きを止められる。


 金製の武器は魔獣との戦いにおいて、とても重要な品だった。




 ――兵士に老人を預ける。


 そして、周りの黒犬たちを打撃と雷撃である程度倒してから、二人に言った。



「金製の武器を奪ってきてやるよ。

 武器を奪って渡すのは――俺の趣味だ。」



 そう言って、俺はニヤリと笑顔を見せ……そして、屋敷に向かいジャンプしたのだ。






 ――跳んだ先は屋敷の三階。


 その窓をぶち破って、そこに飛び込む。


 部屋に人は無かったが、下の階に神術の使い手を感知して、そちらに向かってみた。



「――な、何者だ!?」



 金の短髪をした厳つい男が一人、部屋の前に立ち、部屋の中には老人数名が見える。


 部屋の中には給仕や兵士も何人かいて、戦中ながら、生活臭がそこにはあった。



「――なあ、あんた。そこで優雅に過ごしてる老人なんて守っている暇があるのかい?

 ――街はもう、陥落しちまうよ?」



 俺は普段隠している神術エネルギーを、脅しのため全力で解放。


 そして、ゆっくりと近づきながら質問すれば、男は震えた声で答え出す。



「カ、カストロ領の商会のやつが、が、異形の魔徒と戦っている。

 そ、それさえ倒せれば、魔獣の統制が崩れて、ぬ、抜け、逃げ切れる可能性もある。」



 ――ある程度、状況を読めているな。


 男が状況把握していると踏んで、質問を、大事なを方へと変える。



「――あんた、魔獣たちは『どっちから』来たかわかるかい?」


「ば、バティスタ領からだ!」



 ――くそ! 急がないと!


 子供たちが危険に晒されている可能性が高まり、俺は強引なやり方を採る。


 急ぎ足で部屋の中に入っていく。



「な、何をしている!? その不審者をさっさとつまみ出さんか! ――ひぃいいい!」



 叫ぶ老人の群れに向かって、さっきまで話していた短髪の男を掴んで投げつける。


 そしてすぐに怯える老人たちに向かいダッシュして、老人の一人……領主の男の顔を二、三発殴って気絶させた。



「な、なんだ、お前!?」


「金製武器はどこにある?」


「――な!?」



 老人たちは答えない……でも、その目線の方向から場所はすぐに割れた。


 何袋かの厚手の皮袋を、部屋の端にいる兵士たちの後ろに見つけることができたのだ。



 ――今度はそちらにダッシュ。


 その辺の兵士たちを全て蹴り飛ばし、俺は皮袋を手に取る――重い!



「――そ、それをどうする気だ!?」



 老人たちは焦り、走り寄ってきた。


 そして必死に訴える。



「それは渡さんぞ! わしらの物だ!」


「バカか? 魔獣たちとの戦いのための武器だろう? 今使わず、どうするんだ?」


「それは戦いの後、商会を再興するために必要な大事な資金源だ! それが無いと、生き残ったとしても意味が無いんだよ!」



 そんな老人の訴えを俺は突っぱねる。



「ここにそれを置いていても、生き残れる可能性はほとんど無い!

 渡せば、お前らも、街の人たちも、生き残る可能性はグッと上がるんだ!」


「それはわしらの物だ!

 わしらは、『僅かな未来に賭ける』!

 幸福を目指し――『未来を選択』できるのが、『持つ者の権利』なのだ!」



 ――僅かな未来に賭ける……


 俺はその言葉にニヤリとする。

 かなり、好きな言葉だった。


 お礼に俺は右腰の金製ナイフ――刺すしかできない粗悪品を老人の肩に刺してやる。



「うぎゃああああ!!!!」



 刺された老人は叫びを上げ、別の老人が怒りの声を上げる。



「力があるからと好き勝手に……お前は他人から奪うのか! それでも人間か!」



 俺はその言葉に――返した。



「――未来は奪い合うんだよ。

 俺もあんたも、今はただの生き物だ!」





 ――外に出て、金製の武器を兵士たちに渡す。


 屋敷の中で老人たちを護衛していた兵士たちも加わり、戦況はとりあえず好転した。



 俺は、領主の老人を脇に抱えて歩く。


 兵士たちは隠れる街の人たちを見つけては、それを守るように囲み、歩いていた。



 ――金の短髪の男に質問をする。



「――逃げ切れると思うか?」


「この迷路のような街並みを利用して抜けれれば……戦える残兵やらも合流しているし、上手く指揮をできるやつがいれば……」



 ――人数が集まるのは悪くはない。


 だが、統制を乱せば危険ということか?


 俺は逃げ道を見つけるために屋根へ跳ぶ……その衝撃に、領主の老人が目を覚ました。



「ぐぎゃああああ!

 なんじゃ!? なんで外に? なんでこんな高いところにわしはいるんじゃ!?」


「起きたか、領主様?

 街のみんなで、ここから逃げるぞ。」



 俺がそう言えば、領主は堰を切ったように不満をぶち撒け始める。



「はあ? バカかお前は!

 魔獣たちは良く統制されておる。逃げようとする人間を挟み殺すようにな!

 それをわからん無能幹部どもが!

 あいつら、戦術も街の構造も勉強せんで、いいようにやられよってからに!」



 自業自得だろう……


 そう思って、俺はツッコミを入れる。



「お前が雇い入れたんだろう?」


「経済の力で領地を治めるためだ!

 迷宮の無いこの領地で、東の地から守る兵力を集めるにはこれしか無い。」


「集めた兵力に逃げられたのに?」


「バティスタが異形の魔徒と組んで攻めて来るのはさすがに想定外だ!

 平時ならこれで問題無かったんだ!」


「異形の魔徒と組んだ!?」



 ――想定はしていたが、やはり想定外。



「そうだ! やつは異形の魔徒と組んだ!

 ああ、忌々しい! わしの『逃げ切り人生』の邪魔をしおってからに!」



 この街を放って、子供たちのいるバティスタ領に急ぐか……


 そうも考えたが、助けられる人々の中に小さな子供の姿を見てしまう……



「おいあんた、領主なんだろ?

 街の人たちを連れて逃げ、その間に助けが来て街を取り返せるなら、協力するか?」


「もしできたならな! 領地も領民も、わしの逃げ切り人生には必要だからな!」



 ――喰いついた!


 俺は情報を与え、交渉を開始する。



「しばらく耐えれば、グラッツ領から三人の神具持ちと、兵士たちがやって来る。

 俺がある程度魔獣を倒してやるから、それまで魔獣から逃げ回れ。」


「三人? それは本当か?」


「――本当だ。

 俺は今からあんたにある条件で契約の刻印を打つつもりだ。――だから、嘘はつかないよ。」


「逃げ回ると言っても……誰が兵士や領民を統制するんじゃ? 戦術を知り領民を統制できなければ、やつらに裏をかかれるぞ!」



 ――契約の内容を俺は領主に伝える。



「戦術もわかっていて、街の構造も良く知っている男を紹介してやる。

 その男を大将に据えて、その男に『命を懸けて』領民を守らせろ。ただし、そいつを大将にすれば、あんたはリスクを負うことになる。

 ――それが、契約の内容だ!」



 その内容に、領主は簡単に同意した。



「リスク? 金か? 構わんさ!

 わしは魔神との戦いから逃げた!

 この戦いからも、この時代からも逃げ切って、『逃げ切り人生』を決めてやる!」



 ――清々しい領主の答え。


 契約は成立したのだった…………





 ――契約の刻印を領主に施す。


 それから街を見渡して、状況を確認する。


 その後は下に降りて、兵士たちに領主を投げた。



「くっそ! 乱暴に扱いよってからに!

 お前、早く契約の男を紹介しろ!」



 叫ぶ領主は無視して、人々をなんとか指揮している金の短髪をした男を見る。



「おい、上手く指揮できれば逃げ切れる可能性はあるんだったな?」


「あんたがある程度は魔獣を蹴散らしてくれるのだろう?

 なら、なんとかなるかもしれないが……」



 そう不安げに答える男に指で指し示し、俺は指揮できる存在を伝えてやる。



「――そいつが大将だ。

『命を懸けて』領民を守ると契約の刻印を打ったから、信じて従ってやってくれ。」



 指を指された男は目を丸くする。


 だが、契約の刻印を打たれては、心がそれに逆らえない。


 ――覚悟を決めたように、男は叫ぶのだ。



「え……わ、わし? う、う、おま……く、くそがぁ! 皆の衆、わしについて来い! わしがお前らを、逃げ切らせてやる!!」



 アムス領の人々は領主を大将とし、魔獣たちに奪われた街で、逃亡戦を開始したのだ。





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