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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第一部 ――神具の強奪者――
23/51

無敵の人1


 迷宮を攻略した俺たちは、地下八十八階の扉から地上へと戻る。


 戻ると、ギルド内は人が少なくガランとした様子……受付の女性にポーションを渡しながら今の状況を確認する。



「――何があった?」


「魔獣の群れが現れたんです……。

 ゼノさんですよね? ガムさんから連絡があります。『北』から来た。『統率』されていると……」



 ――最悪だ。



「ゼノ、急いで合流しないと!」



 受付の言葉から状況を把握したミリアンは焦り、そう叫ぶ。


 その言葉に従い三人で壁門に……俺たちの出会ったあの壁門へと走り出した。




 紺色のツインテールを揺らして走りながら、マリーは尋ねてきた。



「何があったんだよ!?」


「魔獣の群れが襲ってきたんだ。」


「そんなの普通じゃねーのか?」


「おそらく普通の数じゃない。それに、特殊な魔獣もいるはず……やばいんだと思う。」


「あの受付のねーちゃん、そんなこと言ってたっけ?」



 説明が面倒に感じて、話題を少しずらす。



「マリー、俺は魔獣を倒すのは苦手なんだ。

 神具を持つお前が頼りだ! 頼むぜ!」


「お? おうよぉお!」



 宝石と金で輝く大きなハンマーを持ち上げて、マリーは明るい顔をする。


 それを見て、俺は少し後ろめたい。


 なぜなら最悪、マリーの故郷が危険に晒されている可能性もあるからだ……




『魔獣の群れは東から来る』


 魔獣が群れをなすほどに存在するのは、人の支配が解かれた東の地。だから普通、魔獣の群れは東の地から襲ってくる。


 最南のブブカ領、このグラッツ領、アムス領、俺の住むバティスタ領とカストロ領。


 これらが東の地との境界にある、危険な土地……


 もう一つ、最北には英雄の地セントール領があるが、あそこを危険とは言いにくい。


 その力で大陸の北東――東の地の北側までを支配し、魔獣たちを抑え込んでいる。



 魔獣の群れが北から来たと言うのなら、別の領地を通って来たということ。


 ここグラッツ領の北は商人の街アムス領。――そこに接するのは、スターリン領とバティスタ領だ。


 アムス領が東から襲われた可能性が一番高いだろう。


 だけど、さらに先……子供たちがいるバティスタ領さえ襲われたって可能性もある。


 西のマリーの故郷であるスターリン領は東の地と接しておらず、襲われた可能性は低いのだが、もう一つ懸念があった……


 ――その懸念をミリアンは口にする。



「異形の魔徒……どう絡んでいると思う?」


「アムス領には十分な金製武器と兵力があるはず……。組む可能性は低いと思うが……

 あそこを突破したとなると、かなりの数がいるはず……」



 もう一つの懸念……


 それは、異形の魔徒の存在だ。――魔獣を統率できるのは異形の魔徒。


 人の言葉を操るやつらの中には、言葉巧みに人を騙す者もいる。


 どこかの土地で異形の魔徒に騙され、手を組み、魔獣たちを引き入れた可能性……それを考慮する必要があったのだ。




 壁門を出れば、人と魔獣が対峙していた。


 人側は街の兵士に商会の兵士、ミリアンの仲間たちを合わせて二百人くらいか?


 門の前だけでなく、街を守るため広く陣形を組んでいる。


 対する魔獣側の方は数え切れない。


 黒い鹿や黒い狼の姿の魔獣たち……それが小高い丘を埋め尽くすように並び、見渡しても、終わりが見えないほどの数だった!



 だが、魔獣たちは暴れてはいない。ジッと丘の上から、機会を伺っている様子……


 ――俺は、目立つ髪型の女に声をかける。



「ガム、相当な数だな。」


「――ゼノ!

 無事ってことはスターリンを!?」


「神具持ちを二人、連れてきた。」


「二人!? ……ってことは、あの娘にも神具を渡したのかい?

 ――でも、今の状況には最良だね。」



「ウキャキャキャキャキャ!」



 ――話の途中。


 けたたましく甲高い鳴き声が聞こえた。


 見れば、腹を大きく膨らませた猿が一匹、丘から走り降りてくる。


 その猿に対し、兵士たちは炎や雷撃を一斉に放った……


 だけどその猿は素早く、左右に走りかわして、どんどんと街に近づいて来る。


 やっと雷撃が猿を捕らえた……そう思ったら、そこで猿は爆発!


 爆発で陣形が崩されて、そこに一気に魔獣たちが駆けて襲って来る!



「――続けぇええ!!」



 ミリアンの声がして、兵士たちが駆けて来た魔獣たちと応戦する。


 神具の壁を纏う黒髪の女戦士と紺のツインテール。――彼女らの活躍もあり、魔獣たちは押し返された。


 だけど、ほかの魔獣たちは参戦して来ない。


 丘の上を黒く塗り潰したままで……またジッと、俺たち人を見下ろしているのだ。



「本当に神具持ちが二人……

 ゼノ、あんな感じで攻められている。

 じわじわと攻めて、どこか壁を破壊したら、そこから攻める気だと思う。」


「爆発する猿か……

『能力』はあれだけか?」


「ああ、たぶん異形の魔徒は一体だけだ。

 だけど、あの魔獣の群れに隠れていて、見つからないし……倒せない。」



 ――そういうことか。



「なら、ちょうど俺が来たし、簡単だ。

 ――ガム、行くぞ!」



 そう言って俺はガムを抱き抱えて、思いっ切りジャンプした。



「な!? へ……?」



 とっさの俺の行動に、ガムは驚く。


 だけど次の猿が来る前に、さっさと勝負を決めておきたい。



「着地の衝撃を足で殺すから、もう少ししっかり捕まれ、ガム。」


「え? う、ん……」



 ガムに、俺の首をしっかりと掴ませる。


 背の低いガムを上半身で抱き抱えて、俺は魔獣たちの上空を飛んでいた。


 ――やはり魔獣たちはかなりの数。


 全体を見下ろしているのに、その数は全く把握できないくらいだ。


 ただ、左側を見れば、抜きん出た魔術エネルギーを発している存在がいる……たぶん、あれが異形の魔徒だ。


 ひざでしっかりと衝撃を殺しながら、一度鹿の魔獣の上に着地。そのままもう一度跳んで、その方向へと向かう――見つけた!!



「ガム、いたぞ。

 猿の群れの中に……黒いのが一人。」



 魔獣の群れの中にポッカリと穴が開いていて、そこにヤツはいた。


 腹を大きく膨らませた茶色の猿たちの中心に、長い黒毛の猿のような魔徒。


 そのすぐ近くに着地しガムを降ろすと、心配したようにガムは聞いてくる。



「ゼノ、どうするんだい?」


「お前はそこで待っていろ!」



 魔獣の群れの中だが、ガムならば心配ないだろう。


 問題はあの猿たちの爆発だが、おそらく大丈夫と、俺は踏んでいた。



「――なんだあ、お前は!?」



 ――高い、男の声。


 背の低い、黒い体毛を長く垂らした魔徒が、俺に気づいて聞いてくる。


 だが俺は、それに構うことなく突っ込んで、聞いてきた魔徒の顔を殴りつけた!


 ――倒れ込む異形の魔徒。


 その背中を取ってうつ伏せに抑え込み、俺はナイフを振り上げる。



「仲間は?」


「知らんな……ぎゃああああ!!!!」



 俺の質問に答えないその背中に、躊躇なくナイフを突き立てる。



「どこかの領主と組んだのか?」


「お前に答える……ぎゃああああ!!」



 両肩を刺して腕を動かなくし、今度は立ち上がって腰を踏みつける。


 異形の魔徒は敗北を認めたのか、俺の尋問に答えはせず、――力強く叫んだ!



「やってくれるな、人間がぁあああ!

 道連れだ、死ねぇええええ!!!!」


「――そうか、じゃあな。」


「え……?」



 周りの猿たちの腹が大きく膨らみ出す……異形の魔徒は自滅を決めたらしい。


 それに気づいて、俺はガムに向かってダッシュした。――目の前で止まって、両手を広げてガムを迎える。



「もう一回、行くぞ。」


「う、うん!」



 苦労していた魔徒をあっさりと制圧し、ガムは嬉しそうに俺に抱きつく。


 俺はまた、ガムを抱えてジャンプした。



「ガム、神具の壁を張れ!」



 そう命ずれば、ガムの張った神具の壁が俺たちを包み込む。


 それから俺は見下ろして、だいぶ離れた猿たちに雷撃を撃った。



 ――猿たちは一斉に爆発!!


 異形の魔徒や周りの魔獣を巻き込んで、大爆発が起こったのだ!



「いっちょあがりだな!」



 俺がそう言えば、ガムは耳元で小さな声……



「ゼノはやっぱり凄いね……」



 そのまま二回ぴょんぴょんと跳んで、ミリアンの側へと……


 ――ガムを降ろして、作戦を話す。



「これで、厄介な異形の魔徒も死んだ。

 統制の取れてない魔獣たちなら、神具持ち三人もいりゃ、なんとかなるだろ?」


「だ、大丈夫と思うけど……ゼノ、さっきの技は?」



 ガムは俺の大ジャンプが気になったらしい……そう言えば、伝えていなかった。



「ここに来る前、アムス領でスキンヘッドの達人に会ったんだ。その達人に教わったんだよ。

 ――今度、ガムにも教えてやるよ。」


「ほ、ほんとに!」



 子供のように喜ぶガム――可愛らしい。


 そう言えばさっきから可愛らしい……昔はこんな風だった。


 いつの頃からか変な化粧をしだし、娼館の主人に収まる頃には髪型も変わってしまった。


 何もしなければ、本当に「子供のように」可愛いやつなのに……



「――ゼノ、これからどうする?」



 凛とした声で、黒い瞳のミリアンが尋ねてきた。



「俺は先にアムス領に行く。

 お前はここの魔獣たちを倒しきって、その後はアムス領に向かう気だろ?」


「もちろんだ。」



 ――ミリアンはわかりやすい女だ。


 人を守るという一点で、ブレることの無い行動力を持っている。



「もしかしたらアムス領を素通りして、俺はバティスタ領に向かうかも知れない。」



 それには、ガムが返した。



「ラナちゃんたちが心配だからね。」


「――状況がわからない。

 ミリアン、もしスターリン領が襲われていたら、マリーを助けてやってくれないか?」


「君の家はバティスタ領なのだろう?

 愚かと思うかもしれないが、もし両者が危険なら、両者を救うよう私は努力するよ。」


「ゼノ、そん時は私がそっちに行くよ!」



 ミリアンとガムに協力的な言葉をもらい、少し安堵する。――それでも、急がねば……


 子供たちが危ないかもしれない……


 その不安を払拭するためにも、俺は先を急がねばならなかった。


 魔獣の群れと、それと戦う紺色のツインテールを見て、俺は決意を固める。



「じゃあ、先に行く。マリーを頼んだ。」



 そう言って答えは聞かず、俺は魔獣の群れに向かって走り出す。


 魔獣たちを相手にしないで、その群れの中をさっさと駆け抜け……向かうのはアムス領。――そしてその先、バティスタ領に。



 子供たちの家へと走ったのだ…………






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