負け犬の牙4
「ミリアン、俺があの亀をひきつけるから、スターリンの神具を回収しろ。
マリー、そこで全力の炎を用意していろ! ――撃つタイミングは……見てればわかる!」
マリーをミリアンの近くに降ろして、俺は二人に指示を出した。
「君は……アレを倒す気か!?」
「わかったぜ、ゼノ!
タイミングは見てりゃわかるんだな!」
それぞれの反応を見せる二人。戸惑っている方に、ハッパをかける。
「ミリアン、力が欲しいんだろ? いくぞ!」
――魔黒竜の牙を目指して走る。
横を通れば追ってくる大亀の……その目に雷撃を当ててやる。
怒って、俺を狙う大亀……好都合だ。
「ゼノ! 手にしたぞ!!」
魔黒竜の牙を回収……
そのまま走って大亀を引き寄せる俺の耳に、ミリアンの声が聞こえてきた。
――俺は大声で指示を出す。
「神具の壁を展開してみろ! できたら、この亀の手足か頭、どこかを斬ってくれ!」
「壁って、どうやったらいいんだ!?」
「知らん!!」
甲羅の周りを走りつつ横目で見れば、ミリアンはなんとか神具の壁を出した様子。
マリーの前には輝く光球ができている。
――ミリアンがこちらに来たというよりも、俺がミリアンに追いついた……
ミリアンは戦法を尋ねてくる。
「この怪物、あの娘の炎だけじゃ倒せんぞ。
私が神具でスターリンのように斬っていくか?」
「お前のスピードじゃ無理だ。」
「なら、どうする?」
そう話すとき、灰色の腕が見えた。
大亀が俺たちを狙い、その腕を振り下ろしてくる。
ミリアンは退いてかわしつつ、神具の壁を展開。――振り切ったサーベルは、大亀の勢いもあってか、その腕に傷を入れた。
紫の血を流す大亀の腕の傷に……
――そこに、魔黒竜の牙を突き刺した!
「ゼノ、これでいいか!」
「十分だ。逃げるぞ!」
魔黒竜の牙は刺したままで、俺たち走って逃げた。
――マリーの方には、白い光。
後ろには、闇が広がるのが感じられる。
「どういうことだ!? ゼノ!?」
走りつつ振り向いたミリアンは、驚きの声を上げる。
大亀の神術エネルギーが魔術エネルギーに変換され、魔獣に変わる姿を見たからだ。
『魔黒竜の牙』
人や家畜を襲い、魔徒や魔獣に変える小さな竜。
その小竜は、倒せば牙を一本だけ残す。
その牙は持っているだけで、魔獣に襲われない魔除けの力があった。
だが、この成竜の牙はそれだけではない。
神具の壁を消し去り、迷宮の神獣を魔獣に変える……そんな力があったのだ。
大亀が、完全に魔獣に変わった瞬間。
――マリーが叫んだ!
「このタイミングだろ、ゼノ!
――ぶっ飛べ、亀ヤロー!!」
――焼き尽くす太陽――
マリーの放った光球は大亀の顔に直撃!
亀の顔は一瞬で消し飛び、甲羅から出るその手足も炎へと変わった。
黒く魔術エネルギーに包まれた甲羅は、焦げて、また別の黒に、その色を変える……
迷宮最後の試練を、俺たちは攻略したのだ。
怪物を倒せば、地下九十九階の広場……その中央に、今まで無かった階段が出現する。
その階段を降りれば、そこが迷宮の最深部。
「すげー! なんか金ピカのがあるぜ!」
喜び飛び跳ねるふわふわツインテールは、中央にあったハンマーを手にした。
――宝石で装飾された、金のハンマー。
マリーは、その神具を持つことができた。
どうやら迷宮はマリーを「攻略者」と認めたらしい。
「マリー、それを渡せ。」
「なんでだよ、ゼノ? あんたは神具を集めてるんだろ? なら、魔神と戦う人間もいるだろう?」
――こいつ、そこは気づくのか。
「お前はダメだ。」
「だから、なんでだよ!?」
「神具がもし集まったとしても、神はもういないんだ。勝負にすらならないかも知れない。
――お前は若い。生きのびろ!」
死に場所を求める、もう終わった世代。
そんな俺たちは死ねばいい……だけど、この子たちは違うんだ。
「勝てなかったら世界が滅んじまって、一緒じゃねーのか?」
「――わからない。
でも可能性がある方に、お前は生きろ。」
「やだ! オレは戦う!
あんたの目的のためにオレを利用しろよ。
そういう『契約』だろ、ゼノ!」
――意志を宿した真っ直ぐな瞳――
その栗色の瞳で真っ直ぐに見つめられ、俺はマリーに逆らえない!
次を生きる世代が死んでは意味がない。
だけど……
――俺は、決断をする。
自分の目的のためにマリーに命令を……刻印を打つためにマリーの肩へと手を置いた。
「わかったマリー、魔神と戦え。」
「おうよ!」
――元気のいい、健気な返事。
そんな娘の肩に手を置いたまま、俺はその身体を引き寄せ……抱きしめた。
「魔神と戦え――だけど、おまえは若い。
負けそうになったら逃げるんだ!
絶対にお前は、最後まで生きのびろ!」
「お前、やっぱりオレのこと好きだろ!?」
――そうして、契約は結ばれた。
俺は神具二つと攻略者二人を手に入れ、この迷宮攻略は最高の結果になったのだ。




