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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第一部 ――神具の強奪者――
21/51

負け犬の牙3


 ――スターリンたちは戦っていた。


 相手は、貴族の屋敷ほどの大きさのある、亀の怪物……この迷宮、最後の砦だ。


 スターリンのみが前線で、女たちは術によるサポート。


 大亀の甲羅は元の色がわからぬほどに、神術エネルギーで白く輝いている。


 甲羅から出る灰色の手足や顔は、動物の肌というより鋼の印象が強かった。



 ――その見た目通りに高い防御力。


 スターリンは神具のサーベルで何度か甲羅を叩くが、意味は無い様子。


 マリーの炎も甲羅に当たってはいたが、全く効果は無いようだ。


 ――その突進も、まさに怪物。


 神具の壁を纏うスターリンさえも、大亀に突っ込まれれば吹き飛ばされている。


 スターリンは下敷きにされぬよう距離を取りつつ、亀の顔を狙っている感じだ。



 ――だが、亀にはもう一つ特技がある。


 スターリンの放った首への一撃は確かに効いていた。


 紫色の血と悲痛の顔を見せる大亀。


 だが、スターリンがもう一撃と振りかぶった時、亀はその頭を引っ込めた。


 頭と手足を甲羅に収め……その位置を入れ替えてから、再び出してくる。


 狙うべき頭から、避けるべき手足の一撃への早変わり。


 その特技に、フルアーマーを纏った男が、大部屋をグルグルと走り回されていた。



 重量による攻撃力と、高い防御力を兼ね備えた――そんな怪物。


 試練の中で迷宮は、神竜と地下九十九階の神獣にだけは、複数で挑むことを許可してくれるらしい……


 だが、エリクサーは一つだし、攻略者と判定されるのは一人だけだ。


 軍隊を率いて挑み、誰も攻略者と判定されなかったという噂も聞いたことがあるが……


 この大亀は軍隊を率いたとしても倒せるのだろうか?


 ――かつて、俺は逃げ出した。


 スターリンはたったの四人で、果敢に挑んでいる。


 標的がスターリンでなければ、今考えているこの作戦を俺は選ばなかっただろう……


 神具持ちといえども、この怪物を目にしたら逃げ出すと考えていたからだ。


 だけど、スターリンのあふれる自信。それに伴うだけの実力……それらを、俺は信じた。


 俺を「本物の負け組」と評した男は、間違いなしに、「本物の勝ち組」だ。



 ――怪物と怪物との戦い。


 人なる俺は階段の影に潜み、来たるべきチャンスを伺うのだ…………







 ――徐々に、大亀は攻略されていく。


 銅の鎧を着た男が、大亀のその鋼の肌をした首へと、一太刀入れる。


 その剣撃で血を吹いた大亀は、首を一度引っ込めて、その場所を変える。――スターリンの前に出した手足で、体ごと傾けるような重量感たっぷりの一撃を放つ。


 その攻撃に横槍……浮いた手足の下から氷柱が出現し、大亀にバランスを崩させた。


 スターリンの仲間の女が魔術で、カウンターを喰らわせたのだ。



 ――スターリンは走る。


 亀の頭を狙ってはいるが、隙があるなら、首でも手足でも剣撃を入れていた。


 動きを止めるのは、氷柱と炎の球。


 地面から生え、バランスを崩させる氷柱と、顔を襲う炎の球に、亀は目をつぶって悲痛な顔。


 その隙にスターリンは、攻撃を重ねてゆく。



 女たちへの的確な指示。

 ――前線での、力強い動き。


 怪物の突進を受け吹き飛ばされても、すぐに立ち向かっていく鎧の男。――その姿はまるで、神話に登場する英雄のようだった。



 ――大亀だって、神術を使う。


 その白く輝く甲羅から、全方向へと雷撃を走らせるのだ。


 だが、スターリンはその身体に纏った黒い魔術の壁で、全く効いていない様子。


 その防御力は驚異的なもの。


 スターリンはおそらく、魔術の壁を最大にまで強化している。


 マリーや俺の、最大限に攻撃へと特化させた神術でさえ、ほとんど効きはしないだろう……



 ポーションや神術で傷やエネルギーを回復するスターリンたち。――対して、身体から血を流し続ける、迷宮の主人。


 ――勝負はすでに明らかだった。




 ――俺に、あれができただろうか?


 ガムと二人で……おそらく無理だ。


 神具の二本狙い。一挙両得を狙う強欲さに、足元をすくわれることも考えていた。


 だがむしろ、この状況で無ければ、どちらの神具を手に入れることも叶わなかっただろう。


 浅はかな計画性を反省しつつも、舞い降りた幸運に、俺はニヤリと笑っていた――





 チャンスを伺う俺に動く時を教えてくれたのは、大亀の最後の抵抗だ。


 女たちの方向に、大亀は強く突進する!


 スターリンは神具の壁を最大に光らせ、女たちを庇うように大亀と押し合った。


 しかし、押し返せるわけもない。


 女たちは悲鳴を上げ、魔術を使う女は下敷きに、マリーは吹き飛ばされていった。



 ――大亀の突進が止まった時。


 残った女はスターリンに駆け寄る。


 自らもダメージを受けつつも、吐血しているスターリンに回復術を使っていた。



 突進した大亀もまた、大移動が自らの身体にダメージを与えた様子。


 その動きが止まり、一時休戦に入る。



「アドルフ様、もう私の方はポーションがありません!」


「そうか……俺の傷を早く癒せ。」



 傷つき、弱々しい声のスターリンに、回復術を使い続ける女……女から、神術エネルギーが消えていく。



「アドルフ様、もう……」


「わかっている――だが、今が好機!

 最期の仕事をしてもらうぞ!」



 回復したスターリンはそう言うと、女を掴んで走った!


 向かうのは大亀の頭……大亀もまた迎え撃とうと殺気を走らせる!



「アドルフ様……何を!?」


「俺はな――『一人の方』が強いんだ!」



 スターリンは女を、大亀に向かい投げた。

 ――大亀は女を噛み砕く!


 その隙、スターリンは亀の首に飛びかかり、神具のサーベルを振り下ろしたのだ!



 それが致命傷……


 大亀の甲羅はその白い光を消して、濃い緑色を見せる。――その亀の首へスターリンは、勝利の一撃を放とうとした……



 ――今だ!!!!


 魔黒竜の牙を左手に持ち、俺はスターリンに向かって全力で走る!


 スターリンは気づいて、すぐに構えた。


 神具の壁を白く展開するスターリンに、俺が狙うは、サーベルを持つ相手の右手。



「――お前は! 神具の壁が?」



 スターリンは顔を左手で防御……だが、俺が狙うのは右脇の下だ。


 フルアーマーの隙、戦いで溶解している部分に、魔黒竜の牙を全力で刺す!



「く、そ……!」



 牙を刺し、その胸元まで入ってきた俺を、スターリンが悲痛な顔で見下ろしてくる。


 その口髭を狙い、右手の平で掌底打ち!



「あっ! あっ! ああ!」



 自分でもこんな声が出るのかと思う。


 俺は叫びながら、見上げるスターリンの髭面を、何度も打ち続ける。


 ――鼻の折れる感触。


 ――歯の折れる感触。



「くそっ! くそっ!」



 スターリンは右手のサーベルで俺の左足を刺し、左手で俺の頭を殴ってくる。


 だが、懐まで入っている俺への攻撃は、腰が無くただ痛いだけだ。


 くらりと……


 スターリンが怯んだところで、少し下がって両手で相手の得物……神具を掴んだ。



「渡すかぁああああ!!」



 脇に牙が刺さったままで、神具の壁を展開できないスターリン。


 神具を奪われまいと俺が掴んでいる右手に左手も添えて、必死に抵抗をみせる。



 ――頭に衝撃が走る!


 その口髭を血で染めるスターリンが、俺の頭に頭突きを入れた!


 俺は神具を掴んでいた手を離してしまい、よろけて倒れる。――その隙にスターリンは、ポーションを飲んで回復する。



「ポーションを残していないとでも? 残念だったな、こそ泥――悪巧みは失敗だよ!」



 スターリンはそう言いながら、脇の魔黒竜の牙を抜いて投げ捨てた。


 俺は立ち上がりながら「青い」液体を飲み干しつつ、スターリンから距離をとる。


 ――エリクサー丸々ひとつだ! 頼む!



 スターリンは神具の壁を展開。


 俺は空になった両手で雷撃を放つも、スターリンは追加で魔術の壁を展開し、防御に入る!


 ――この黒と白の壁がこの男の強さだ。



「大した威力だが、俺には効かんぞ!

 勝てると思ったのか『負け組』がぁあ!」



 そう叫ぶスターリンに雷撃を放ちながら、俺は言葉を返した。



「『本物の負け組』の俺が『本物の勝ち組』のあんたに勝てるわけが無いだろう?

 あんたに突き立てる『牙』なんて、最初から持ち合わせちゃいないんだよ!!」


「何を……!?」



 ――後ろで輝き出す白い光。


 それに気づいて、スターリンは後ろを振り向いた……その気の緩みに、雷撃が魔術の壁を通過する――痺れて、よろけるスターリン。


 それを見て、俺は全速力で逃げ出した!



「うああ、ぁああああ!!!!」


 逃げる俺の後ろから、男の悲鳴が聞こえてくる……バンバンと怪物が、その重量で床を叩く音が聞こえる。


 口に投げ入れたエリクサーにより完全復活した大亀が、スターリンを押し潰す!


 振り向けば、そこには光輝く大亀と、床に散らばるスターリン「だった」もの。


 走る先には、肌を露出させた娘がいた。



「マリー、やったぞ!」



 そう叫びながら、俺はその娘を回収し、肩に担いでそのまま走る。



「やっぱり、オレが見込んだ男だ!

 あのクソオヤジ、死にやがった!」



 肩の上でツインテールがはしゃぐ。


 まずは一匹……怪物の一匹を倒すに成功したのだ!





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