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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第一部 ――神具の強奪者――
20/51

負け犬の牙2


 地下七十七階。そこで神竜の部屋に入ろうとしたら、ミリアンが慌てた声を上げた。



「無茶だ、ゼノ!

 一軍を率いてやっと一人が逃げ帰れるという相手だ。危険過ぎる!」



 そう拒むミリアンの手を引き、俺は光のカーテンをくぐる。


 ――くぐった先で、男の声がした。



「なんだ、女連れか?

 ここは、そういう宿屋じゃないぞ?」



 地下七十七階にある、白い空間。


 そこにいるのは、神無き今の世界で最も神聖なる存在――四本の翼を持つ白い竜……


 神竜が上空から語りかけてくるのだ。



「ゼノ、最近は女を連れているな。」


「……。エリクサーを貰いにきた。」


「ああ、そうか。お前はその扉から一回入っているからな。エリクサーは、そっちの女の分だな。」


「ど、どういうことだゼノ!?

 なぜ、神竜と話をしている!?」




『神竜』


 世界中全ての迷宮、その地下七十七階に繋がっている広大な白い空間。


 その白い空間に巣食う、雄大な白い竜。本人いわく、全ての迷宮の管理者らしい。


 エリクサーを守護し、侵入者を襲う。


 百人が防御に専念し、やっと一人が逃げられるかどうかの怪物……そんな風に、語り継がれている。




 ――上空にいる神竜に攻撃する術は無い。


 魔黒竜の牙が無ければ、俺も初めて会った時にやられていただろう……



 そんな神竜の恐ろしさを知るミリアンは震えていて、俺の手を握って恐る恐るついてくる……意外に可愛い。


 逆に神竜は可愛げなどあろうはずもなく、いつもの嫌味を浴びせてくる。



「ゼノ、神具と攻略者は集まったのか?」


「攻略者は、ここに一人。――神具は、この迷宮で手に入れる。」


「お! あの亀に挑むのか? あれは強いからな、お前死ぬな。――死ね。」


「その時はその時だ。」


「強がるんじゃない。お前は結果を何一つ残せず、何も残さず死ぬ。

 ――早いか、遅いかだ。」




 ――エリクサーを貰った後。


 俺は早く、この嫌味の降り注ぐ空間を出たかった……だが、出口の前で立ち止まる。


 珍しく、神竜が近づいてきたのだ。



 ――殺気は無い……


 が、一応、魔黒竜の牙に手を置く。


 神竜はその口をゆっくりと、俺の頭上にまで近づけてきた。――人間を簡単に呑みこめそうな、巨大な口。


 ミリアンは怖がって、ペタリと尻もち。恐怖で切れ長の瞳が丸くなっている。


 そんな黒髪の美人を見て、神竜は言った。



「なかなかの美人だな。」


「あんたに……人の顔の良し悪しなんてわかるのか?」


「わかるとも――お前は不細工だ。」


「俺はあんたを美しいと思うよ。」


「うるさいわ!」



 神竜はミリアンに興味があったらしい……俺以外の人間に、初めて声をかけた。



「――なあ、女。

 お前は世界を救おうと思うか?」



 ――震えて、座り込んでいたミリアン。


 だけどその問いに震えを止めて、表情を硬くし、立ち上がる。



「もちろんだ! 私は世界を救いたい!

 ――そのために私は生きている!!」



 ――少しだけ、沈黙が流れる。


 神竜はミリアンを品定めするように見て、それから俺に話し出す。



「――いい女だ。ゼノ、お前タイプだろう?」



 俺が何も答えずにいると、今度はその顔を俺へと向ける神竜……


 頭上で牙の並ぶ大きな口を開け、俺へと質問を投げてくる。



「なあ、ゼノよ。お前はこの女のように吠えないのか?

 自らの力で自らの手で、世界を救うと……吠えてみろよ。」


「世界って、どうやったら救えるんだ?」


「知らんな。」


「あんたが知らないのに、俺ごときが知っているわけがない。

 ――俺に、世界なんて救えないよ。」


「じゃあ、お前はどうする?」


「――俺は足掻くだけさ。少しでも可能性のありそうな方へ。それくらいしかできないよ……」



 そう答えれば、神竜は声を大にして、怒鳴り声を浴びせてくるのだ。



「進む方向が間違っていたらどうする!

 戦略も無く、先も見えず、独りよがりのお前は――結果を何も残せない!!」



 ――言われて、俺は黙っていた。


 神竜も黙って、俺を見ていた。


 そしてしばらくして、神竜は呆れたように、また上空へと帰っていったのだ……









 ――再び、迷宮を降りてゆく。


 階を下るほどに通路も部屋も大きくなり、魔獣も巨大に、強力になっていく。


 だが、魔黒竜の牙の効果で戦う必要はない。――俺たちは簡単に地下九十八階へと、たどり着いたのだ。


 その階の終わり……地下九十九階への階段がある部屋でミリアンは呟いた。



「何度見ても、おぞましい光景だな……」



 ――その石造りの部屋。


 そこはほかと違い平らではない。


 人の形をした凹凸が、天井、壁、床、それぞれを覆い尽くしている。


 床や天井には、それを斬った跡があった。


 今、下で戦うスターリンにとっても、それは苛立たしい光景だったのだろう……




『魔徒による迷宮の侵食』


 魔徒たちは迷宮に侵入して、神獣を魔獣に変えていく……そして最終的にはこの場所で、迷宮と一体化するらしい。


 こうなってしまえばゾロ目の階以外には、神獣ではなく魔獣しか生まれてこなくなる。


 ――これが、今の迷宮の形なのだ。




 ゴツゴツした人の形を踏みながら、地下九十九階へ続く階段へ……


 地下九十九階にはもう通路は無い……階段の下は、すぐに広い空間だ。


 俺たちはその階段の途中から、その空間を覗き込む。


 そこには、巨大な亀の神獣と、それと戦うスターリンたち……


 ――マリーの姿があったのだ。






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