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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第一部 ――神具の強奪者――
19/51

負け犬の牙1


 無惨に斬り刻まれた同胞たちの身体……


 スターリンたちが去った後、ミリアンの仲間たちのその遺体を一人づつ、地下十一階へと運び込んだ。


 そうしてる間にほかの遺体が魔獣に襲われぬように、見張りを頼めば、彼女は黙って指示に従ってくれた。



 ――その後は、共に地上へと戻った。


 黒ずくめの装いの長い黒髪の彼女を見て、多くの男たちが集まってくる。


 襲撃に失敗した報告や、死んだ仲間たちの遺体を運び出す手伝いの指示など……


 伝えれば、男たちは悲壮の色を顔に浮かべるが、見知らぬ俺の言葉を信頼し、手伝ってくれた。


 ――彼らも、ミリアンの仲間らしい。


 彼らもかなりの人数……だが、襲撃失敗で主力を失っている。


 スターリンが地上に戻った時、この人数でも足止めすら難しいだろう……


 そう考えていたところで知った顔がギルドへと入って来る。


 ――俺は、彼女に声をかけた。


「――やはり、お前も手を貸していたんだな。」


 カラフルに染めてから盛り上げた、山のような髪型に、何本もの(かんざし)を刺す……


 そんな変わった髪型が特徴的な、背の低い女。――娼館の主人ガムである。


 ガムはギルド内の者に声をかけながら、こちらへと歩いてくる。


 そして前に立って、見上げてきた。



「ゼノ……ミリアンを助けてくれたんだね。」


「悪いが、それ以外は助けられていない。

 お前、スターリンの実力を見損ねたな。」



 おおよその状況を飲み込んでいるであろうガムは、バツの悪い顔を浮かべる……


 そんなガムと少し話をして、俺も、関係性などの状況を飲み込んだ。


 ――それから、スターリンを殺すために、ガムに指示を出したのだ。



「ガム、手を貸してもらうぞ。」


「もしかして! 私も迷宮に潜るのか!?」


「――違う。

 お前には地上で見張り役を頼みたい。最悪、スターリンが地上に出たときに足止めをやってくれ。」


「そ、そうだよね……」



 常に冷静なこの女らしくない早合点に……そこから、シュンとした顔だ。


 迷宮に潜りたかったようで、昔、冒険者だった頃の気持ちが疼いたといったところか?



「足止めといっても、正面からは戦うなよ。

 あの男……スターリンは強い。

 俺とお前が逃げ出した『あの大亀』を、おそらく倒せるだけの力がある。」



 ここの迷宮、九十九階の主…迷宮最奥を守る怪物を比較に出す。


 するとスターリンの強さが伝わったようで、ガムは表情を強張らせた。



「スターリンが外に出たのを感知したら、すぐに俺も地上に戻る。

 俺が戻るまでの時間稼ぎを頼みたい……だけど、無理はするな。

 ――お前の命の方が、ずっと大切だ!」


「う、うん……」



 念を押せば、ガムは素直な返事。


 地上の状況を整えれば、やることは一つ。



「ミリアン、ついてこい!」



 ガムに地上を任せた俺はミリアンを引き連れて、再び迷宮へと戻ったのだ。









 ――この迷宮には、潜ったことがあった。


 九十九階まで潜って、そこを守る神獣の強さに逃げ出したことも……


 だから迷うこと無く進むことができ、すぐに五十階に到達……スターリンたちを感知できる位置にまで追いついた。


 遺体を運んだり、地上の戦況を整えたり……そんなことに半日を要したが、その分を取り返す。


 それで急ぎ足を緩めて、尾行のための歩幅に切り替えたところで、ミリアンが尋ねてきた。



「なぜ、こんなに早く迷宮を進める?」


「前に潜ったことがあって、道を知っているからな。」


「なぜ、魔獣が襲ってこない?」


「『魔黒竜の牙』があるからだ。」


「魔黒竜?――あの、家畜を襲う小竜のことか?」


「――!? ミリアン、お前やっぱり『東』の出身か!」



 同郷の出だと嬉しくなって、俺は後ろを振り返る……ミリアンは驚いた顔をして、そんな俺を見ていた。



「あ、ああ。私は旧グノン領の出身だ。

 確かに魔黒竜は東でしか見ないからな。」


「俺はレナ金鉱の村の出なんだ。グノン領にまで魔黒竜は行っていたんだな。」


「――すまない、ゼノ。

 同郷の者に会えて嬉しいのは、私も君と同じだよ。だが、私も色々と状況を呑み込めていなくてね……

 ――状況とか、君の能力とか……」



 はしゃぐ俺をたしなめるように、ミリアンはそう言った。


 言われて落ちついた俺は状況を、ミリアンに伝えていく。



「まず、スターリンは二、三階下を移動している……わかるか?」


「君ほどエネルギー感知に優れていないが、ある程度はね。」


「スターリンを襲うのは九十九階。――前に俺はここの九十九階まで潜ったことがある。

 ここの(あるじ)はとんでもなく『デカい亀』だ。スターリンたちでも、かなり苦戦するはず……。――そこを叩く。」



 ――その後は尾行しながら昔話。


 時に魔獣と戦いながら、時に休みを取りながら……そんなスターリンたちを追うのは、余裕がある。


 立ち止まって、談笑するほどに……



「魔黒竜の牙に魔獣除けの効果があるのは知っている……だけど君のそれはやけに大きいし、魔獣にここまで近づいて襲われないのは、私にとっても異常だぞ。」


「ああ、こいつは成竜の牙なんだ。

 お前が知っているのは、猪くらいの大きさの幼竜だろう?」


「あれで子供なのか!?

 あれでも倒すのに相当大変だったぞ。成竜ならどれくらいのものなんだ?」


「そりゃあ、ヤバかったぜ。倒すのに、村全員の命と引き換えにするくらいにさ……」



 ――昔話は、続いてゆく。



「レナ金鉱の近くなら、神と魔神が戦った場所の近くだろう? ――君は、相当苦労したんじゃないのか?」


「別に俺たちの時代、『東の地』に生きていりゃ、そんなに変わらないだろう?」




『東の地』


 この大陸の東で、神と魔神は戦った。


 戦いは魔神が勝利し、そこから魔徒や魔獣が溢れることになる。


 戦死者、疫病、魔獣の被害……魔徒になるのを恐れた隔離。


 当時は差別や圧政を受けたものだ。


 だが、やがて治安は悪化し、革命やら魔獣の被害やら、俺に頭を殺されて統治は崩壊。


 今は、人の住む場所ではなくなっている。




「グノン領はどんな感じだったんだ?」


「――グノン領は、農業の土地だった。

 戦いに駆り出され、戦死者も多くてね。終戦後は各地から、修道士が小作人として派遣されてきてたんだ。」



 今でもそうだが、貧しい者は教会を頼り修道士となって各地に送られる。


 働き口の少ない地で、仕事をもらうのだ。



「私の親は地主だったが、地主たちは派遣された者たちを見下していたよ。

 逆に派遣された者たちも、私たちをよく思ってはいなかった。」



 ミリアンが語るのは、よくある話。


 結果がどうなったかは、お互いに知っていた……だけど俺は黙って聞いて、ミリアンは淡々と話し続けた。



「役人たちが食料を徴収しに来た時……

 誰々が食料を隠している。誰々はあそこに隠れている。そんな風に小作人たちは密告した。」



 あの戦いの後で一番被害を受けたのは農民だ。――作物はまともに育たず食料難になった世界で、略奪に襲われたのだ。



「それを口実に、役人たちは地主たちを殺していった。――私の家族もだ。

 その後、土地は国に奪われたが、小作人たちの立場は変わらない……奴隷のまま。

 本当の敵が誰なのかもわからずに、バカな家畜同士が敵対していたのさ……」



 そんな、よくある話……



「君は、どんな所で生きてきたんだ?」


「俺の村は隔離されて……」



 ――今度は俺の身の上話。


 ミリアンは黙って聞いてくれる。



「金鉱と冒険者の村だった。

 俺の親父もそうだが、故郷を出て、金鉱と迷宮に頼って暮らす、夫婦ばかりの村だった。」



 魔獣との戦いに備え、金は売れた。


 冒険者は今のように法や税に縛られず、取った物は全て手にできた。


 魔神が勝利するまでは、世界の誰もが憧れた、希望溢れる金色の土地……



「あの戦いの後、村の人間が魔徒に変わることを恐れられて、村ごと国に隔離された。

 村の外に出ることは禁じられ、武器は全て奪われ、残されたのはもう出ない金鉱と、魔獣のあふれる迷宮だけだ。」



 ――まだそれでも、子供の頃は良かった。


 親が貯めた金やポーションで、生活していけたからだ。



「俺が成人した頃には、もう詰んでいた。

 武器無く迷宮に潜っても、ポーション一個なら全て徴収だ……食う物が無い。」



 老いた両親――俺たち世代が支えなければならなかった……はずなのに。



「――仕事が無いんだ。

 外には出られない。獣を狩ろうとして魔獣にやられる。迷宮で野垂れ死ぬ……

 その中で運良く手に入った獣やポーションを、全員で分け合って生きていたんだ。」



 自分で言っていて、違和感を感じる。


 ――俺は、言葉を修正する。



「分け合う? 違うね、食い潰し合うんだ。

 少ない食料を食べるしかない。食べれば誰かが食べられない。

 無力さに生きる気力を無くして、引きこもったやつもいたよ……

 それでも心の折れていない者が、わずかな希望を抱いて外に出る――――」



 武器を持たず、魔獣の歩く森か迷宮に……


 怪我をして帰ってきた者には、今度は介護も必要になる。



「足に怪我をした母さん……それを支えられない、情け無い自分……

 俺は……俺たちは生きているだけで、互いに互いを苦しめるんだ!」


「――ゼノ、自分を責めるな。

 それは、君のせいじゃない……」



 声を荒げた俺を見兼ね、ミリアンが優しい声で落ち着かせてくれる。



「君は魔黒竜の話をしたとき、村全員の命を引き換えにしたと……言っていたね?」



 ミリアンは少しだけ、話題を変えてくれた。


 それは、村が「救われた」時の話だ。――俺は笑顔になって、その当時を語るのだ。



「よく聞いてくれた!

 捨てた金鉱でな、魔黒竜の幼竜が生まれる場所を見つけたんだ――皆、すぐにわかったよ。

『これを放置しちゃいけない』ってね。」



 魔黒竜の存在は、前々から知っていた。だが、成竜を見つけたのは初めてだった。


 今まで知っていたのが幼竜で、その幼竜を生んでいたのは……腐りかけたような……


 ――黒い竜。


 地面にデカい、アリジゴクのような穴ができていて、その中心に埋まっていたのだ。



「その成竜の殺し方を見つけた村のみんなは、協力して、そいつを退治しようと戦ったよ。――一人一撃、それで『終わり』さ。

 でもみんな喜んで、そんな片道の旅に出ていったよ。怪我をした者も、引きこもっていたやつも、家族も、友達も、全員な――」



 ――俺だけが……生き延びた。


 ミリアンは真っ直ぐな黒い瞳で見つめ、何も言わず聞いてくれた。理解してくれた。


 この女は「同類」――狂っているような、俺や、村の皆の気持ちをわかってくれる……


 ――ここで、必ず手に入れる。



「ミリアン、お前、神具が欲しいんだろ?」



 俺は交渉へと入る。



「ああ、そうだよ。ガムに聞いていたが、君は神具を集めているんだったね。」


「スターリンの持っている神具はお前にやるよ。――それなら殺された仲間たちも、うかばれるだろう。」



 ミリアンは真剣な目で、俺の言葉を聞いていた。


 その黒い瞳に、俺は大切な質問をする。



「なあ、お前は神具を持って何がしたい?」


「私は……私はこの世界を変えたい。

 力を持っても正義をなさぬ者を討ち倒し、『復活する魔神』を倒す!」



 やはりミリアンも、魔神の復活が近いことを知っていた……「異形の魔徒」から聞いていたのだろう。



「ゼノ、君はあの男から……神具を奪う自信があるのか?」


「もちろんだ。」


「あの男に、勝てるのか?」


「勝てる? 知らん……でも、確実に殺すよ。マリーを取り返さないといけないからな。」



 若いあの娘を、犠牲にはできない――「踏み台」になるのは俺たちだ。



「――ミリアン、契約しよう。

 スターリンのサーベルをお前にやる。お前は魔神と戦ってくれ。」


「もちろんだとも! 力を持っても正義をなさない者に、私自身がなろうはずもない。」



 ――答えるミリアン。


 交渉は成立し、俺はミリアンの肩に手を置いた。



「俺は契約の刻印を使える。つまりは神具を使えず、魔神とは戦えない。

 俺には家族がいる。あの子たちの『踏み台』に俺はなる。――お前は、俺の……

『踏み台の踏み台』になってもらうぞ!」



 そんな嫌味な言葉ですらミリアンは目を輝かせ、黒い瞳で真っ直ぐに見つめてくる。




 ――意志を宿した真っ直ぐな瞳――




「――それでいいよ、ゼノ。

 私は……君の分まで魔神と戦おう!」



 ミリアンは答えた。――答えた彼女に、俺は契約の刻印を施したのだ…………




 俺たち「同類」にとって、踏み台となることは不幸ではない。


 他人を犠牲に生きていくよりも、誰かの犠牲となって死ぬ方がマシだと……俺たちはそんな狂った思考の「同類」だ。



 ――ミリアンは、呟いた。


「――『踏み台の踏み台』。

 それを人は、(いしずえ)と呼ぶんだよ…………」



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