繋がる女たち2
ツインテールを肩に担いで、街を歩く。
柔らかな身体が露わな格好。
触れれば暖かく、娘の持つ神術エネルギーの量が、格段に「大きい」ことがわかる。
すれ違う人からは、人攫いかと白い目で見られた。――だが、俺は子牛を運んでいるような気分だ。
――俺はそのまま、娼館へと入る。
「――あら、ゼノ。
あんたが女売りにくるなんて珍しい。」
簪という髪飾りを無数に刺した、山みたいな髪型の女……この娼館の女主人ガムが、そう言って出迎えてくれる。
「そういうわけじゃない。ちょっと休ませてやってくれ。」
「冗談だよ。その辺のソファに寝かせてあげな。その格好だと客にイタズラされるから、あんたも側にいてあげなよ。」
「すまない。」
ガムに促され、ツインテールの娘をソファへと寝かせてやる。
確かに危ない格好だ……娘は紫の布で、胸と腰は隠している。
だが、この豊満な身体なら、そこらの娼婦以上に男には魅力的だろう。
指示通り俺は、彼女の頭側に腰を掛けた。
「――ガム、農家の人たちも普通に仕事していたみたいだけど、この領地ってクーデターがあったんじゃないのか?」
「『色無し』っていう、農民寄りの革命軍がクーデターに関わったのさ。
だから領民にはむしろ望んだ結果……今だってうまく、治安も保たれているよ。」
「そうみたいだな。この店も繁盛しているようだ。」
「男はみんな好き者だからね。この商売にはなんの関係も無いよ。」
「商売には関係無いが、お前はこの一件に関わっているんだろ?」
「――!?」
俺がそう言うとガムは、その厚化粧の白い顔を歪ませる。
「……まあね。構わないだろ?
あんたとの『契約』とは、何の関係も無い。」
「いや、少し心配になっただけだ。」
「大丈夫だよ。食料やらの調達も、運搬も、今まで通りにできるからさ。」
――相変わらず強がりな女だ。
俺は立ち上がって、ガムの前に立つ。
「ガム、無理はするなよ。お前に何かあったら、俺が困る。」
そう伝えれば、背の低いガムは見上げるその目を見開いて、後ろに一歩退いた。
そして、少しだけ声を荒げるのだ。
「あんたは相変わらず……!
ほら、金製武器やらは持ってきたんだろ? さっさと渡しな! さっさとよ!」
「あら、ゼノさんだ!」
「キャ♪ ゼノさん来てるよ!」
ガムの大声に、娼婦たちが集まってきた。
「ゼノさん、今夜はぁ、私がぁ……相手をしてあげるよぉ♡」
「私だよ私! ゼノさん今夜は私よね♡」
「すまない。嬉しい誘いだけど、アルやイザベラの『お母さん』に、手は出せないよ。」
「いぃや、アルはゼノさんが父親になったら絶対喜ぶね!」
「イザベラだってそうだよ!」
「いぃや、イザベラちゃんはゼノさんのお嫁さん希望だから、むしろ怒るって!」
「あんたたち! ほかの客も見てるんだ!
はしゃぐのはおよし! 仕事に戻りな!」
「は〜い。」
「は〜い。」
ガムの一喝で、娼婦たちは帰っていく。
子供たちの近況を話したかったが、店が閉じた後にしておくか……
――落ち着いたところで俺は、持ってきていた金製の武器をガムに渡した。
「なんだい? このグニャグニャに曲がった小刀は? あんたが魔獣と戦うなんて珍しい。」
「――ああ、そいつは魔獣と戦ったんじゃないよ。バケモノみたく強い人間と戦って、使っちまったんだ。」
カストロ領で出会った髭の男と戦った時に、全力の雷撃を通した小刀だ。
曲がってしまっていたので、ガムは気になったらしい。
「あんたが苦戦する相手かい?」
「むしろ勝ったのが奇跡さ。それこそ、その男も金製の武器を使っていたけれど、クソ重い長剣だった。俺が持ち帰るのを諦めるほどだぜ。あんなもん扱える奴がいるんだな。」
「ふーん。殺した相手のことを、楽しそうに話すんだね。」
「少し会話をしたが……別の形で出会いたかった相手だったよ。」
きっと時代が違っていたら、あの男とは友人になれていただろう。
手にかけた相手にそんな想いを、俺は身勝手に描いていた……
ガムに対価を払ったところで、俺も対価を要求する。
「じゃあガム、頼んだよ。」
「はい、確かに。いつも通りね。任せておきな。」
『娼館の主人ガム』
この奇抜な髪型の女は昔、一緒に迷宮を攻略した仲間の一人だ。
今はこのグラッツ領で娼館を営んでいて、それに、ここらの商人たちのまとめ役でもあるらしい。
昔から気のいい女で、孤児院の食料調達などに協力してくれているのだ。
「――んあぁぁあ? ここはぁ?」
ソファに寝かせていたツインテールの娘が目を覚ましたようだ。
「ゼノ、あの娘はなんなんだい?」
「俺もわからん。これから聞く。」
俺はガムと、ソファに腰掛けうとうとしている娘の前に立った。
そして、寝ぼけまなこな娘に質問をする。
「――お前、俺になんの用だ?」
「あ! 黒マント!
さっきはよくも、やりやがったな!」
「お前が突っかかてきたんだろ。」
「あんたがオレを無視するからだ!」
「だからお前は、俺になんの用なんだ?」
そこで娘は何か思い出したように、その表情を変えて叫ぶ。
「そうだった!
あんたをオレの魅力でメロメロにして、オレの『復讐』を手伝わせるんだった!」
「ゼノ、この子バカだよ……」
「なんか言ったか! ケバ女!」
「――ケバ女!」
「ガム、気にするな。化粧取ったお前がどれくらい可愛いかは俺が知ってる。
だから今は、黙っていてくれ。」
「…………!」
――ガムを黙らせて話を進める。
「復讐って言ったな。誰にだ?」
「オレの父親にさ。」
「父親?」
「アドルフ•スターリン……あの男を殺すなら強ぇえ奴がいる。――一目見てわかったぜ!あんた、めちゃめちゃ強ぇだろ!」
「お前、領主の娘……貴族なのか?」
「貴族じゃねーよ!
あいつの子供なんて、沢山いんだよ!」
「復讐……捨てられた妾の子か?」
「そんな、いいもんじゃねーよ!
孕まさせれて捨てられた女が、スターリン領には山ほどいんだよ!」
「それで、母親の復讐がしたいと?」
「…………。まあ、そんなもんさ……」
明るく元気だった娘の栗色の瞳に、暗い色が映ったのを見てしまう……
彼女の復讐したいという想いは、嘘では無いのだろう。
まさか、俺以外にスターリンの命を狙っているやつがいるとは……
俺は驚いて、ただ娘を見つめていた。
「なあ、あんた。手ぇ貸してくれよ! 頼むよ!」
「――いいぞ。」
「……っ、マジかあ!」
俺があっさり了承したのに驚いたのか、娘はソファから立ち上がった。
紺色のツインテールがふわふわぴょんぴょんと揺れている。――それがとても、可愛いく思われた。
「やっぱりオレの魅力にやられてたな! お前、オレのこと好きなんだろ!? 可愛いって言ってたもんな!」
――立ち上がり嬉しそうに言う娘。
ラナと同い年くらいだろうか?
でも、ラナと違って、表情がコロコロ変わる――本当に可愛い奴だ。
「――確かに、可愛いな。」
そう答えれば、今度は赤らめた顔に娘は表情を変えていく。
娘の表情の変化を楽しんでいたら、ガムが呆れたように呟くのだ。
「――ゼノ、あんたは地獄に落ちるよ。」
――なにを急に? わかっているさ……
何の因縁も無い相手を殺す、自分の殺人。そのためにこの娘の復讐心を利用する。
罪に罪を重ねる行いに、俺は間違いなく地獄に落ちるだろう……
だが、使えるものは使わせてもらう!
この娘を利用する――俺はそう決意したのだ。
「俺はゼノだ。お前、名前は?」
「オ、オレはマリーだ!
オレの復讐に、あんたを利用されてもらうぜ――いいんだな!?」
「ああ、いいとも。なんなら、『契約の刻印』でも打ってやろうか?」
そう言って、俺は娘の肩に手を置いた。
「契約だ。アドルフ•スターリンを殺す。そのために協力する……それでいいな?」
聞けば、娘は真っ直ぐに俺を見て答える。
「いいぜ。あんたにはあんたの目的があんだろ?
オレはバカだからな! あの男を殺すためなら、あんたの目的のため、あんたの命令に従うぜ!」
――わかっているのか、いないのか?
その言葉に戸惑ったが、そのまま娘に契約の刻印を施し……その後で、俺は右手を差し出した。
「よろしくな、マリー。
――マリーか。可愛い名前だな。」
「お前、やっぱりオレのこと好きだろ!?」
そんな感じで握手する、俺とマリー。
「――地獄に落ちろ。」
――ガムがそう呟いた。
純粋そうな娘……
それを騙すこの俺は、地獄への切符をまた一つ……手にしたに違いなかった。




