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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第一部 ――神具の強奪者――
16/51

繋がる女たち2


 ツインテールを肩に担いで、街を歩く。


 柔らかな身体が露わな格好。


 触れれば暖かく、娘の持つ神術エネルギーの量が、格段に「大きい」ことがわかる。


 すれ違う人からは、人攫い(ひとさらい)かと白い目で見られた。――だが、俺は子牛を運んでいるような気分だ。



 ――俺はそのまま、娼館へと入る。



「――あら、ゼノ。

 あんたが女売りにくるなんて珍しい。」



 (かんざし)という髪飾りを無数に刺した、山みたいな髪型の女……この娼館の女主人ガムが、そう言って出迎えてくれる。



「そういうわけじゃない。ちょっと休ませてやってくれ。」


「冗談だよ。その辺のソファに寝かせてあげな。その格好だと客にイタズラされるから、あんたも側にいてあげなよ。」


「すまない。」



 ガムに促され、ツインテールの娘をソファへと寝かせてやる。


 確かに危ない格好だ……娘は紫の布で、胸と腰は隠している。


 だが、この豊満な身体なら、そこらの娼婦以上に男には魅力的だろう。


 指示通り俺は、彼女の頭側に腰を掛けた。



「――ガム、農家の人たちも普通に仕事していたみたいだけど、この領地ってクーデターがあったんじゃないのか?」


「『色無し』っていう、農民寄りの革命軍がクーデターに関わったのさ。

 だから領民にはむしろ望んだ結果……今だってうまく、治安も保たれているよ。」


「そうみたいだな。この店も繁盛しているようだ。」


「男はみんな好き者だからね。この商売にはなんの関係も無いよ。」


「商売には関係無いが、お前はこの一件に関わっているんだろ?」


「――!?」



 俺がそう言うとガムは、その厚化粧の白い顔を歪ませる。



「……まあね。構わないだろ?

 あんたとの『契約』とは、何の関係も無い。」


「いや、少し心配になっただけだ。」


「大丈夫だよ。食料やらの調達も、運搬も、今まで通りにできるからさ。」



 ――相変わらず強がりな女だ。


 俺は立ち上がって、ガムの前に立つ。



「ガム、無理はするなよ。お前に何かあったら、俺が困る。」



 そう伝えれば、背の低いガムは見上げるその目を見開いて、後ろに一歩退いた。


 そして、少しだけ声を荒げるのだ。



「あんたは相変わらず……!

 ほら、金製武器やらは持ってきたんだろ? さっさと渡しな! さっさとよ!」


「あら、ゼノさんだ!」


「キャ♪ ゼノさん来てるよ!」



 ガムの大声に、娼婦たちが集まってきた。



「ゼノさん、今夜はぁ、私がぁ……相手をしてあげるよぉ♡」


「私だよ私! ゼノさん今夜は私よね♡」


「すまない。嬉しい誘いだけど、アルやイザベラの『お母さん』に、手は出せないよ。」


「いぃや、アルはゼノさんが父親になったら絶対喜ぶね!」


「イザベラだってそうだよ!」


「いぃや、イザベラちゃんはゼノさんのお嫁さん希望だから、むしろ怒るって!」


「あんたたち! ほかの客も見てるんだ!

 はしゃぐのはおよし! 仕事に戻りな!」


「は〜い。」

「は〜い。」



 ガムの一喝で、娼婦たちは帰っていく。


 子供たちの近況を話したかったが、店が閉じた後にしておくか……



 ――落ち着いたところで俺は、持ってきていた金製の武器をガムに渡した。



「なんだい? このグニャグニャに曲がった小刀は? あんたが魔獣と戦うなんて珍しい。」


「――ああ、そいつは魔獣と戦ったんじゃないよ。バケモノみたく強い人間と戦って、使っちまったんだ。」



 カストロ領で出会った髭の男と戦った時に、全力の雷撃を通した小刀だ。


 曲がってしまっていたので、ガムは気になったらしい。



「あんたが苦戦する相手かい?」


「むしろ勝ったのが奇跡さ。それこそ、その男も金製の武器を使っていたけれど、クソ重い長剣だった。俺が持ち帰るのを諦めるほどだぜ。あんなもん扱える奴がいるんだな。」


「ふーん。殺した相手のことを、楽しそうに話すんだね。」


「少し会話をしたが……別の形で出会いたかった相手だったよ。」



 きっと時代が違っていたら、あの男とは友人になれていただろう。


 手にかけた相手にそんな想いを、俺は身勝手に描いていた……





 ガムに対価を払ったところで、俺も対価を要求する。



「じゃあガム、頼んだよ。」


「はい、確かに。いつも通りね。任せておきな。」




『娼館の主人ガム』


 この奇抜な髪型の女は昔、一緒に迷宮を攻略した仲間の一人だ。


 今はこのグラッツ領で娼館を営んでいて、それに、ここらの商人たちのまとめ役でもあるらしい。


 昔から気のいい女で、孤児院の食料調達などに協力してくれているのだ。





「――んあぁぁあ? ここはぁ?」


 ソファに寝かせていたツインテールの娘が目を覚ましたようだ。



「ゼノ、あの娘はなんなんだい?」


「俺もわからん。これから聞く。」



 俺はガムと、ソファに腰掛けうとうとしている娘の前に立った。


 そして、寝ぼけまなこな娘に質問をする。



「――お前、俺になんの用だ?」


「あ! 黒マント!

 さっきはよくも、やりやがったな!」


「お前が突っかかてきたんだろ。」


「あんたがオレを無視するからだ!」


「だからお前は、俺になんの用なんだ?」



 そこで娘は何か思い出したように、その表情を変えて叫ぶ。



「そうだった!

 あんたをオレの魅力でメロメロにして、オレの『復讐』を手伝わせるんだった!」


「ゼノ、この子バカだよ……」


「なんか言ったか! ケバ女!」


「――ケバ女!」


「ガム、気にするな。化粧取ったお前がどれくらい可愛いかは俺が知ってる。

 だから今は、黙っていてくれ。」


「…………!」



 ――ガムを黙らせて話を進める。



「復讐って言ったな。誰にだ?」


「オレの父親にさ。」


「父親?」


「アドルフ•スターリン……あの男を殺すなら強ぇえ奴がいる。――一目見てわかったぜ!あんた、めちゃめちゃ強ぇだろ!」


「お前、領主の娘……貴族なのか?」


「貴族じゃねーよ!

 あいつの子供なんて、沢山いんだよ!」


「復讐……捨てられためかけの子か?」


「そんな、いいもんじゃねーよ!

 孕まさせれて捨てられた女が、スターリン領には山ほどいんだよ!」


「それで、母親の復讐がしたいと?」


「…………。まあ、そんなもんさ……」



 明るく元気だった娘の栗色の瞳に、暗い色が映ったのを見てしまう……


 彼女の復讐したいという想いは、嘘では無いのだろう。


 まさか、俺以外にスターリンの命を狙っているやつがいるとは……


 俺は驚いて、ただ娘を見つめていた。



「なあ、あんた。手ぇ貸してくれよ! 頼むよ!」


「――いいぞ。」


「……っ、マジかあ!」



 俺があっさり了承したのに驚いたのか、娘はソファから立ち上がった。


 紺色のツインテールがふわふわぴょんぴょんと揺れている。――それがとても、可愛いく思われた。



「やっぱりオレの魅力にやられてたな! お前、オレのこと好きなんだろ!? 可愛いって言ってたもんな!」



 ――立ち上がり嬉しそうに言う娘。


 ラナと同い年くらいだろうか?


 でも、ラナと違って、表情がコロコロ変わる――本当に可愛い奴だ。



「――確かに、可愛いな。」



 そう答えれば、今度は赤らめた顔に娘は表情を変えていく。


 娘の表情の変化を楽しんでいたら、ガムが呆れたように呟くのだ。



「――ゼノ、あんたは地獄に落ちるよ。」



 ――なにを急に? わかっているさ……


 何の因縁も無い相手を殺す、自分の殺人。そのためにこの娘の復讐心を利用する。


 罪に罪を重ねる行いに、俺は間違いなく地獄に落ちるだろう……


 だが、使えるものは使わせてもらう!


 この娘を利用する――俺はそう決意したのだ。



「俺はゼノだ。お前、名前は?」


「オ、オレはマリーだ!

 オレの復讐に、あんたを利用されてもらうぜ――いいんだな!?」


「ああ、いいとも。なんなら、『契約の刻印』でも打ってやろうか?」



 そう言って、俺は娘の肩に手を置いた。



「契約だ。アドルフ•スターリンを殺す。そのために協力する……それでいいな?」



 聞けば、娘は真っ直ぐに俺を見て答える。



「いいぜ。あんたにはあんたの目的があんだろ?

 オレはバカだからな! あの男を殺すためなら、あんたの目的のため、あんたの命令に従うぜ!」



 ――わかっているのか、いないのか?


 その言葉に戸惑ったが、そのまま娘に契約の刻印を施し……その後で、俺は右手を差し出した。



「よろしくな、マリー。

 ――マリーか。可愛い名前だな。」


「お前、やっぱりオレのこと好きだろ!?」



 そんな感じで握手する、俺とマリー。



「――地獄に落ちろ。」



 ――ガムがそう呟いた。


 純粋そうな娘……


 それを騙すこの俺は、地獄への切符をまた一つ……手にしたに違いなかった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 『アドルフ•スターリン』 何という無茶しそうな名前! 暴君の匂いがぷんぷんしますね!
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