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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第一部 ――神具の強奪者――
11/51

帰る場所1


 ――意志を宿した真っ直ぐな瞳――




 家の扉を開けば、いつも同じく真っ直ぐに

俺を見つめる、青い瞳がそこにはあった。


 長く真っ直ぐ伸ばした赤い髪。


 白いシャツに、茶色いつなぎのスカート……いつもと変わらない姿で、迎えてくれる線の細い彼女。



「おかえり、ゼノ。」


「――ただいま、ラナ。」



 無表情で挨拶をくれる彼女に返事をする。


 出会ってから五年……


 少女はすっかり大きくなって、ソバカスもできる歳になったけれど、俺は彼女の笑顔を、一度だって見たことがない。



「おかえり、ゼノ〜」

「おかえり〜、ジェノ〜」

「ゼノ〜」



 ――こちらは笑顔の挨拶。


 ラナのスカートの後ろに隠れていた小さな子供たちも、一斉に迎えてくれる。


 帰ってきたと……そんな実感が湧く。



 ――俺の守るべき、家族の家だ。





 ラナは挨拶した後、突っ立ったまま俺の背後をじっと見つめていた。


 黒マントを掴んで後ろに隠れている、リリスを無言で見下ろしているのだ。


 みんなに新しい家族の紹介をしなければならないだろう。



「また、連れてきてしまった……

 リリスっていうんだ。みんな、今日からよろしく頼むよ。」


「リリス〜」

「リリスちゃん〜」

「リュリシュ〜」



 小さな子供たちは、すぐに歓迎ムード。


 ラナも小さくかがんで、リリスに目線を合わせてから、静かな声で歓迎してくれる。



「リリス、私はラナ。よろしくね。」



 そう言ってラナが手を伸ばすと、リリスはラナの手をとって、俺の背中から離れた。


 そしてラナに、その金色の髪を撫でられるのだ。


 無表情なのに子供に好かれる……ラナは不思議な娘だ。


 そんな彼女はリリスの頭を撫でながら、上目で俺を見て、伝言をくれる。



「朝、ティクトさんが来てた。」


「あいつが?

 どこで、俺の動きを掴んでるのやら……」



 そう話をしていると、後ろの片引き戸が開いて、少年のような声がした。



「あ、いたいた。やあ、ゼノ。待ってたよ。」



 ――噂をすれば……というやつだ。


 パーマのかかった銀の髪。


 少年のような顔に全く似合っていない、黒い口髭をつけた奴。



「ティクト、なんだその格好は?」


「え、このチェック柄のスーツ? 可愛いでしょ?」


「いや、そこじゃない……」


「あ! 新しい女の子だ!

 また、幼児誘拐をしてきたんだね♪」



 わざとかみ合わない会話をしながら、イタズラな笑顔で笑うティクト。


 相変わらず掴み所の無い……


 ティクトはリリスに興味を持った様子……ゴタゴタしそうなので俺はその流れを切りにいく。



「――ラナ、教会に行ってくるよ。

 だけど、エリクサーもポーションもあまり無いんだ。後で持って来てくれるかい?」


「いいけど……やっぱりそのボロボロのマント、何かあったんだね。」


「おや〜、ゼノ様が収穫無しで帰ってくるなんて珍しい!」


「ティクト、教会で子供たちを診たい。

 話は向かいながらでいいか?」


「ん? いいけど……」



 帰って早々だが、ティクトを連れて出かけることに……出かけようと横を通るが、パーマ頭はその瞳の方向を変えようとしない。


 何があるのかと後ろを見れば、リリスが不安そうにこちらを見ている。


 ――一人にさせるのも忍びないか?



「リリス、一緒においで。」



 だから、そう声をかけた。


 するとリリスは嬉しそうに、俺についてきてくれるのだった…………





 うす暗い空によく似合う、灰色の街。


 ティクトと話しながら教会へと向かう。



「ねえねえ、ゼノぉ。その可愛いリリスちゃんは、どこで誘拐してきたの?」


「カストロ領の貴族から貰ってきた。」


「えっ! 金髪のイケメンから?」


「――いや、丸顔の中年だ。」


「ああ、アジール・カストロかぁ……」


「よく知っているな。」


「殺しちゃったの?」


「――まあ、そんなところかな。」



 ティクトはこちらを見てニヤニヤ笑う。


 銀の髪に幼げな笑顔。それに似合わない口髭が、なんともムカつく顔だった。



「ゼノは、ほんとに貴族に容赦無いなぁ。

 アジール様は神具なんて持ってなかったでしょう?」


「………………。

 さっき、金髪のイケメンって言ってたな?

 お前の情報通り、迷宮に神具はあったようだが、そいつに先を越されたらしい。

 ――どんなやつなんだ?」



 そう聞くと、ティクトは手で金を要求するサインを示す。


 それに応え、俺はカバンから財布袋を取り出して丸ごと全てティクトに渡した。



「さすがゼノ様! 気前いい〜♪」


「お前が来たってのは、ほかにも神具の情報を持って来たんだろ? それで全部、話してもらうからな。」


「はいはい、お任せくださいゼノ様。」


「――まず、カストロ領の『マルス』の話だ。」


「あ♪ もう名前は知っているんだね。

 マルス様は、カストロ領にその人ありって言われる有名人だよ。」



 ここで急に――リリスの歩幅が乱れた。


 リリスもマルスという男を知っているのかもしれない……気になったが、ティクトとの会話をそのまま続ける。



「で? どんなやつなんだ?」


「あそこはさ、国と荒野の間にあるじゃん。

 だから領の周りには、魔物がわんさか出てくるし、盗賊団もいっぱい……だった。」


「――だった?」


「マルス様ってのは、それをほとんど一人で壊滅させちゃった英雄なんだよ。」


「はっ! バケモノだな!」


「神具持ちを狩るのが趣味のゼノ様に、バケモノって呼べるかは知らないけどね。」



 嫌味を放ち嬉しそうに微笑むティクト。


 俺は苦笑いしつつ、話題を変えた。



「神具持ちと言えば、ローゼンという女にあったな。お前、情報を売ったんだろ?」


「ローゼン様に会ったんだ! まさか!?」



 そう言って、ティクトは立ち止まった。



「殺しちゃったの?」


「――殺してない。むしろ助けた。」


「あぁ、良かった――ゼノ……」



 立ち止まるティクト。――薄茶色の瞳に、珍しく真剣な光を宿している。


 手を後ろで組んで、真顔でじっとこちらを見つめてくる。そして……



「ゼノ、ローゼン様を殺しちゃダメだよ。」



 そして、そう忠告をするのだ。



「なぜだ?」



 そう返せば、ティクトはその銀髪パーマをかいて、いつもの戯けた表情に戻る。



「ん〜。大切なお客様だからかな?」



 ――本心では無い。


 そう気づくも、追求はしない。



「そういえば……お前、ウルゴ・セントールの情報をローゼンに売ったらしいな。」


「そこまで知ってるって、ローゼン様と結構お話したんだねぇ。

 ――ゼノ様が貴族とお話♪

 あ♪ ローゼン様がタイプだったんだ!」



 茶化してくる笑った幼さな顔と、似合わない口髭が異様にムカついた。


 だから、話をやめて歩くのに集中する。


 リリスは相変わらず大人しく、マントを掴んでついてきてくれていた。



「ごめんごめん。ゼノはラナちゃん一筋だもんね〜。」


「悪いがお前のお喋りに付き合うのは飽きてきた。そろそろ本題の話がしたい。」



 俺は、隣を歩くティクトを睨んだ。


 俺も、リリスに睨まれた気がする。



「う〜ん、ウルゴ・セントールの話も聞きたいんだけど、まあ、自分で調べよう。

 今日はねぇ……神具のある迷宮の情報と、その迷宮に神具持ちが来るって情報を、持って来たんだよ。」


 神具のある迷宮と、神具持ち?――一挙両得な情報じゃないか!!


 そう思ってから気づくと、驚いた顔でティクトがこちらを見ていた。


 話を聞いて高ぶった俺は、どうやらニヤリと笑った顔になってしまったらしい。


 気づいて、手で口を押さえ表情を戻す……その仕草を見て、ティクトは言うのだ。



「――ゼノ、君はやっぱり『バケモノ』だ。」



 そう嫌味を言われたところで、もう教会の前まで着いていた。


 話を止めて、白壁の教会を見上げる。


 この中では、『難病』の子供たちが待っている……その子供たちの事を想うと、高ぶった気持ちはどこかへと消えていた。





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