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氷河期ダンジョン  作者: 賽子ちい華
第一部 ――神具の強奪者――
1/51

プロローグ


 神が与えた試練の迷宮。その迷宮を一人の冒険者が攻略するという物語。


 これから君に話すのは、そんな……どこにでもあるありふれた物語だ。


 子供の頃に父は、俺によく、こんな話を聞かせてくれた。


「一人の青年が迷宮をゆく。」


 ――そんな一節から始まる夢物語。


 いや、夢物語のような現実の話…………





 ――一人の青年が迷宮をゆく。


 世界には五十の迷宮があって、それは、神が魔神との戦いに備えて創り出したものらしい。


 地下へ地下へと続くその迷宮へ……人は、冒険者たちは挑んでゆく。



 世界を救おうと志した青年がいた。


 彼もまた同じように、そんな迷宮へと挑んでゆくのだ。



 青年が初めて迷宮に踏み込むと、そこは薄暗く、先の見えない世界だった。


 まだ何も選択をしていない者にとって、全ては薄暗い。


 迷宮の石壁にはわずかな炎が灯っていて、青年はそれを頼りに進むしかなかったのだ。



 加えて、迷宮には怪物が潜んでいる。


 角の生えたウサギに巨大な狼。


 人の姿をした者さえも……怪物たちは牙をむき、青年へと襲いかかってくるのだ。



 迷宮に潜むのは、神獣(しんじゅう)だ。


 迷宮の一番最奥には、神の加護を受けた最強の武器……神具(しんぐ)が置かれている。


 そう、この迷宮は神が人に用意した試練。


 攻略した暁には最強の戦士になれる……そんな場所なのだ。




 ――青年は強かった。


 襲い来る怪物たちをその剣で退け、迷路に迷いながらも、薄暗い中を進んでゆく。


 だが、迷宮は深く深く、進むたびに体力も食料も無くなっていった。



 けれども神は、挑戦する者に小さな奇跡を用意している。


 青年はある場所で一息をついた。


 それは地下十一階。その階は今までと少し違う構造で、神獣たちもいなかった。


 その階は明るく、直線状の通路の先にすぐに下に降りる階段が見え……


 迷路とは無っていないのだが、通路の中央には左右への分かれ道があって、わかりやすい十字路になっているのだ。



 ここで青年は、迷わず左へと曲がる。


 左の通路を進めば小さな部屋があり、その部屋の右手には光のカーテン……オーロラの扉があった。


 逆の左手には石の台があって、青く光る液体の入った小瓶が置かれている。


 その小瓶はポーションで、飲めば飢えも渇きも消して、傷をも癒してくれる回復薬だった。


 逆にある光のカーテンは扉で、通れば地上へと戻れる不思議な扉となっている。


 青年は事前にこの場所の話を聞いていて、だから迷わずに、ここへと向かったのだ。



 青年は地上へとは戻らずに、ポーションだけを手にして元来た通路を引き返す。


 それから戻って十字路を直進。


 通路を進み、今度は反対の通路へと……


 突き当たったのは薄暗く広い場所で、石壁に囲まれた丸い空間だった。



 そこは、第一の試練が待つ場所。


 神官の姿をしたヒゲの長い老人が待っていて、長い剣を携えたその老人は、青年が剣を構えると襲いかかってくるのだ。



 ――剣と剣の撃ち合いが始まる。


 防ぎ切らなかった攻撃が、青年に痛みと傷を入れてゆく……


 青年は隙を見てポーションを飲んだ。


 そうして傷と体力を回復しつつ、老人と闘うのだ。


 老人の剣はとても強いが、それは殺人剣というよりも道場剣術。


 青年はまるで剣の師と鍛錬を積むように、老人と対してゆく……


 そう、全ては世界を救うための強靭な戦士を生むために用意された試練。


 そんな試練を一つ一つ乗り越えて、青年は強くなってゆくのだ。




 ――そして青年は老人を打ち負かす。


 死闘を終え、息を切らしながら、青年は倒れた老人を見つめていた……


 すると老人はゆっくりと起き、それから座り込み、青年を見つめ返した。


 そして、青年へと語るのだ。



「――強き者よ。お前に力を授けよう。

 魔の力魔術(まじゅつ)か、神の力神術(しんじゅつ)か、どちらか一つを選ぶがよい。」




『魔術と神術』


 それは傷を癒したり、炎や雷を生み出す超常の秘術――魔獣や神獣、一部の人間だけが使える不思議な力だ。




 青年は迷わずに、魔術を選択した。


 迷宮を進むごとに神獣たちは強くなる。


 神獣たちの弱点となる魔術を会得しなければ、この先を進むことは困難……そんな情報を知っていたからだ。



「――魔術だな。ではお前に魔の力を授けよう。」


 老人がそう言うと、青年は己の中から闇が……黒い光が溢れてくるのを感じる。


 同時にこの迷宮、そして、目の前の老人から、白い光が溢れているのが見てとれた。




『魔術エネルギーと神術エネルギー』


 魔術や神術を使えるようになると、その力の源となるエネルギーが見えるようになる。


 青年は新たに力を獲得したことで、世界を構築する、これまで見えなかった要素を感じ取る力までも手に入れたのだ。




 青年が気づくと、老人の身体全体に強く神術エネルギーが発生し、光るのが見えた。


 すると、老人の先ほどまでの傷が全て癒える。――老人は立ち上がり、青年に言った。



「神術は傷を癒す力を持つ。また、このように炎や雷を生み出せる。」



 そう言って手から炎や小さな雷を発生させ、青年に見せてくる。



「魔術で傷は癒せぬが、炎や雷は同じように生み出せる。また、氷や風も生み出せるだろう。」



 ――老人は青年を促す。


 青年が見せてもらったようにイメージすれば、手からほとばしる魔術エネルギーを炎へと変えることに成功した。



「次は鎧か壁を生み出すのを意識してみよ。魔術は神術を防ぐ――逆もまた然り。」



 今度はそう言った老人は、小さな雷を発生させ、それを青年に向かい放ってくる。


 ――青年は、体に痺れを覚えた。



 だが、自分の中から溢れる闇を、魔術エネルギーを纏うようにイメージすれば、雷は遮断され、痺れを感じなくなっていく。



「スジが良いな……先を行け。

 さらなる試練が与えた力を、より強いものにするだろう。」



 そう言って老人は座り込んだ。


 青年は深々と老人に頭を下げる。そして、迷宮の、さらなる奥へと進んで行くのだ……




 たった一つの選択でも、見える世界は変わってくる。


 迷宮の石壁からは神術エネルギー――白い光が溢れ出ていて、薄暗かった迷宮が、青年の目には明るいものに変わっていた。



 ――だけど、困難は終わらない。



「教えを断ったのはお前だぜ!」


「俺達の誘いを断って、一人で潜ったことを後悔させてやるよ、新人さん!」


「冒険の厳しさを、その体に教えてやる!」



 神具を持つのを諦めて、他者を襲う人間の(くず)が、青年の前へと立ちはだかる。



「さ、三人いたんだぞ……クソ……」


「バカな! 一度目であのジジイを倒したのか!?」


「俺だって、魔術を使えるのに……」



 だけどそんな困難など、青年は新たな力をもって超えていく。


 そして青年は、更なる力を手にしていくのだ。



 地下二十二階、三十三階とゾロ目の階。


 そこには十一階と同じような構造と、同じような試練が待っていて、青年が試練を乗り越えれば、覚えた魔術をさらに強化することができた。



 また、そこにある光のカーテンを潜れば、地上へと戻れた。


 再び地下一階からの出直しとなるが、地上では新たな出会いが待っていた。



 薄い色の肌と髪をした優しい瞳の少女。



「あの……! 私、神様の力がいいと思って神術を選んだんです! そしたら、魔獣相手に役に立たないって、誰にも仲間に入れてもらえなくて!」



 選択の正しさは、その時々で違ってくるものだ。


 彼女を仲間とし迷宮へ潜れば、彼女の神術による癒しの力が、青年の大きな助けになってくれた。



 決闘を挑んでくる褐色の勝気な少女。



「くそー! アタイ馬鹿だから、あの『オウム』に騙された! 『神具使えない』んなら潜っても意味ねー! 八つ当たりだ!」



 地下四十四階には特殊な術を覚えられる代わりに、神具を使えなくなる選択肢がある。


 それもまた人を試す試験であろう……選んだ者に世界は救えない。


 自暴自棄に突っかかる彼女だったが、青年が打ち負かせば、仲間になるとついてくる。


 青年は幾つもの選択をし、己を強化し、仲間を増やし、仲間と共に強くなり……


 そうして、迷宮を進んでいくのだ。




 ――最後の試練。


 青年たちが地下九十九階までたどり着くと、そこは巨大な白い空間で、これまでとは桁違いに強い神獣が待っていた。



「コイツは桁が違うぜ……」


「力を合わせれば、必ず乗り越えられます!」


「アタイが氷で動きを止めてみせるよ!」


「私が常に回復術をかけ続けます!」



 だが、そんな強大な相手でさえも、青年は掴んできた力で、掴んできた絆で、その努力と才能で超えてゆく。


 青年は全ての試練を攻略し、攻略者(こうりゃくしゃ)となったのだ。




 地下九十九階、最後の神獣を倒せば、その広い部屋の中央に螺旋の階段が出現する。


 階段を降りれば、そこが迷宮の宝物庫だ。



「ここが、最深部……」


「すげー! 金ピカの武器がいっぱいだ!」



 ――地下百階は小さな部屋。


 だけど、そこにはいくつもの金製の武器が置かれていて、煌びやかに輝いていた。


 青年はその金製の武器の一つ……宝石に飾られ、青白く光る刃を持つ一本の剣に、青年は目を奪われた。


 それは、神術エネルギーにあふれた大剣(たいけん)


 その大剣は青年以外には触れることすらできない、不思議な力を持っていた。


 それが最強の武器――神具(しんぐ)


 迷宮の攻略者だけが扱える、魔神と戦うための最高の武器だ。




 ――青年はついに迷宮を攻略した。


 だけど青年には、更なる困難が訪れる。



「神具を手にしたようだな。国のために、それを渡してもらおう!」



 迷宮から出てきた青年たちを、国王軍がその宝を奪おうと取り囲む。


 人が努力して手にしたものを横から奪おうという、最低な行為だ。



「す、すごいです。そ、それが神具の力!」


「アタイも強くなったけど、アンタの力にはやっぱり敵わないね!」


「嘘だろ……これだけの人数を!?」


「精鋭ばかりを集めたのに!」



 それでも迷宮を攻略し、神具を手にした青年の力は圧倒的だった。


 襲ってきた国王軍を打ち負かし、青年は己の強さを国へと示す。


 すると青年は国に認められ、貴族の地位を与えられる。


 こうして青年は力も仲間も、富も、権力さえも手に入れたのだ。



 そうして迷宮を攻略した青年は、多くの女性に愛され、子宝に恵まれ、大切な家族を守りながら人生を過ごす。


 愛する者たちと幸せに……


 最期の時まで幸せに………………











 ――そして決戦の時。


 五十の迷宮は全て攻略されたが、決戦に攻略者たちは集まらず、神と人は敗北した。


 魔神が勝利した世界は暗い雲に覆われ、寒さと飢え、荒廃と恐怖の広がってゆく。



 そして現代(いま)――俺たちの時代が始まった。





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