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「コニー。帰りましょう」


クラスが別れてしまったスザンナがわざわざ隣のクラスまでコニーを迎えに来た。今日の新入生は授業がなく午前中で終わりだが、アーヴィンは生徒会に呼ばれているらしく、コニーと話したそうにしながらも急いで教室を出ていってしまった。他にクラスメイトの中で特段親しい友人がまだおらず、特に用事もないためさっさと帰ろうとしていたところだったので、コニーは喜んでスザンナの元へ向かった。

「クリスティアン様に連絡したら、入学式の後に用を済ませてお待ちになるとおっしゃっていたから、馬車乗り場に行きましょう」

そうだ。この後、コニーにはクリスティアンとスザンナの事情聴取が待っているのだった。

コニーとしては信頼する二人に前世のこと等を話してもいいと思っているが、不安もある。もしも信じてもらえず、頭がおかしいと判断されてどこかへ療養と称して隔離されたらどうしよう。あるいは信じてもらえて、前世の知識をどうにかしようと研究施設へ送られることになったりしたらどうしよう。

コニーが悶々としながらもスザンナに引っ張られて歩いていると、ふと玄関ホールが目に入った。コニーがいるのは二階で、ホールの辺りが吹き抜けになっているのだ。そこには下校中の新入生が多く見られるが、コニーの目は階段から駆け降りて外へ急ぐアリサと、逆に外から中へ入ってきたクリスティアンを捕らえていた。



これはもしや、またしても攻略対象との遭遇イベントか!


──ヒロインはすれ違い様、ハンカチを落としてしまう。それを拾った優しそうな青年。

そこから始まる二人の物語……。



簡潔に妄想を終えたコニーは立ち止まり、食い入るようにアリサとクリスティアンを見つめた。

すると、実際にアリサはハンカチを落とし、気づいたクリスティアンが呼び止めた。

「やっぱり……」

コニーはこの世界をはっきり覚えていないが、知っているのだ。ここがゆいが遊んだことのある乙女ゲームの世界なんだ、と──度重なる妄想の実現に、コニーはそう結論付けてしまった。

だからといって当初の予定通り、自分が何かするわけでもない。状況的にクリスティアンやアーヴィンは攻略対象っぽいが、コニー自身は二人のトラウマになっていないはずだし、ヒロインのクラスメイトではあるが彼女と仲の良い友人になっている様子が想像できない。よって、自分はモブだろうと考えたコニーは少し気が楽になった。一先ず自分や周りに危害が及ばないよう行動し、後は静観して乙女ゲームを楽しもう。

「ほら、コニー。クリスティアン様がお待ちだわ。行くわよ」

スザンナに引っ張られ、コニーはまた気が重くなりながら連れていかれたのだった。



「コニー!初日お疲れ様」

にこやかに手を振るクリスティアンの背後には、同じく笑顔のエリオットがいた。柱の陰になるように立ち、前にはクリスティアン、他の方角にはそれぞれ護衛が付いて王太子を警護している。居合わせた生徒達は立ち止まって遠巻きに見るか、横目に見ながら足早に立ち去る……要するに、とても目立っている。

「……お兄様。何故、殿下がここに?」

「コニーを待つ間応接室で話していたのだけれど、コニーを迎えに行くと言ったら、ついてこられた」

「友人の妹に会ってみたくてね」

そう言って、エリオットはコニーの前に進み出て、クリスティアンと並んだ。

「お兄様は王太子殿下とお友達だったのですか?」

コニーが面食らっていると、クリスティアンが笑みを溢しながら説明してくれる。

「学園でずっとクラスメイトでね。有り難くも、親しくさせてもらっているんだ」

「クリスの武術は大したものだからな。学園内で彼の隣にいれば護衛要らずだ」

「おや、目的はそれだったか」

クリスティアンと笑いあっているので、エリオットの発言は冗談だとわかる。

「しかし……クリスの腕は信用しているが、いかんせん優しすぎるな。もっと他人に厳しくしてもいいんだぞ?」

「……はぁ」

「あ、私は別だ。引き続き、優しく、甘やかし気味で頼む」

エリオットが茶目っ気たっぷりに言うと、クリスティアンはハハッと声を出して笑う。本当に仲の良い友人のようだ。

驚くコニーに対して、隣に立っているスザンナは知っていたのか、知らずに顔に出さず驚いているのが、表面上はしれっとした顔でいる。それに気づいたコニーも慌てて表情を引き締める。エリオットの後ろにいた護衛の一人が噴き出しているので、手遅れかもしれないが。……ぽかんとした間抜けな顔を見られていた。お母様にはしたないと怒られる。

「おっと、女性レディーを放ったらかしにしてすまない。改めて、“クリスの友人”のエリオットだ。よろしく」

恭しくお辞儀をしたエリオットは、あくまでクリスの友人であることを強調した。王太子だからと堅苦しくすることはないという意思の表れだろう。その意図を汲み、コニーも臣下の礼程ではないが、丁寧にお辞儀をして挨拶をする。

「はじめまして。クリスティアンの妹、コンスタンティン・ブラウンです」

「その友人のスザンナ・マキュリです」

エリオットはコニーとスザンナが挨拶している間、真っ直ぐ二人を見つめていた。

「コンスタンティン嬢、スザンナ嬢。入学おめでとう」

コニーはキラキラの王子スマイルを間近に受け、眩しさにクラクラした。

「今日は唐突にすまなかった。本当に一目会ってみたかっただけだから、私はここで失礼するよ。……学年は違うが、弟のことをよろしく頼む。何かあれば、クリスを通じてでいいので教えてほしい」

わざわざコニー達に頼む程、エリオットはアーネストのことを気にかけているようだ。

美形で、明るくて茶目っ気があり、弟想いなんてどこの王子だ!うちの王太子か!

コニーは内心トキメキながら、ぐっと堪えて淑女らしく控えめに微笑む。

「承知いたしました。心に留めておきます」

「ありがとう。それでは、クリス。また」

「ああ、気をつけて」

エリオットは手を振って、護衛を引き連れ、颯爽と去っていった。

ほんの僅かな時間の邂逅だったが、嵐のような怒濤の展開だった。

「さて、僕達も行こうか」

エリオットを見送ったクリスが振り向き、コニーの腕を取る。

「スザンナ、連絡ありがとう。いつも妹が世話になって申し訳ない」

「とんでもないですわ、クリスティアン様。コニーは大事な友人ですから。それに、お陰で飽きることがありませんもの」

クリスティアンと微笑みを交わしながら、スザンナもコニーの空いてる方の腕を取る。

「……お兄様?スー?」

「落ち着いた場所でゆっくり話をしようか、コニー」

「もうごまかしや待ったはなしよ」

どうやら二人は、コニーから納得がいくまで徹底的に話を聞く気のようだ。

こうして逃げ場を失ったコニーは、引き摺られるようにしてブラウン家の馬車に乗り込むのだった。


……そこまでしなくてもいいのに!



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