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「今度はオニキス侯爵邸か……コニーが何を考えているかわらないよ」


帰り道に寄りたいところがあるからと解散しようとしたコニーだったが、アーヴィンに放してもらえなかった。近頃の不穏な騒動で心配しているのか、ここのところのコニーの学校の行き帰りはアーヴィンと一緒なのだ。

何とか同行することで折り合いをつけたものの、やはり理由は問い質されてしまう。


ここまで付き合ってくれるアーヴィンならいいか、とコニーは彼に素直に話すことにした。


「……パティ様がとんでもないことになる前になんとかしたくて」



王宮でのエリオット毒殺未遂事件からずっと登校していないパトリシア。アーネストもそうだが、そちらはアリサの周辺を彷徨いていたところを確認できている。そのため、今のコニーが最も動向を気にしているのは彼女だ。

一度は突撃を思いとどまったコニーだが、アリサの友人となって考えが変わった。ここまで巻き込まれたのだから、もう動くしかない。

アリサもパトリシアもいい子だとわかった今、どちらにも傷ついてほしくない。パトリシアが行動を起こす前に止めなくてはならない。



「今のコニーは自分から厄介事に巻き込まれに行ってるよ。それはわかってる?」

「わかってる……わかってるけど、やっぱりほっとけないし……」

コニーを心配してくれる周囲は止めようとするだろう。子ども同士のいざこざでは済まない。もっと大きな問題になっている。そんな中で一人苦しむパトリシアのことを、コニーは放っておけないのだから仕方がない。

「まあ……別に、僕はコニーのやりたいようにやったらいいと思ってるよ。コニーが困ったことになったら助けてあげる」

「アーヴィン……」

かわいい弟分の発言にコニーは感動した。こんな大人びたことを言う子だっただろうか?だが、コニーがやろうとすることを受け入れ、助けてくれるという言葉は嬉しい。何だかドキドキしてしまう。

そう、アーヴィンしかいない今なら、コニーを引き止める者はいない、というのもオニキス侯爵邸への突撃訪問を決断できた理由の一つだ。


「後でバレて怒られることからは助けてあげられないけど」


一転して、コニーは苦い顔でキュッと口を引き結んだ。

それこそ守ってくれ。


クリスティアンはまだいい。彼は優しい(甘い)ので、コニーが本当に反省していたらそこまで怒ることはないだろう。

母に知られた場合、淑女らしからぬ行動と判断されると、半日はお説教、最低でも一週間、下手をすれば一ヶ月以上の罰が下される。家同士の問題に発展したり、危険なことになってしまったら、父であるブラウン伯爵も黙っていないだろう。


「……まあ、安全面では大丈夫かな。ちゃんとついてきてるみたいだし」

コニーが待ち受ける未来を想像してやっぱり引き返そうかと頭を悩ませていると、アーヴィンが窓の外を見ながらぼそりと呟いた。

「何か言った?」

「何でもないよ」

コニーの問いかけに、アーヴィンはにっこりと笑顔を返した。

誤魔化されたことに気づかないコニーは、その笑顔はヒロインに見せてくれないかなと乙女ゲームの展開をことごとく受け流すアーヴィンを残念に思うのだった。




──そうこうしている内に、コニー達が乗った馬車が停車する。目的地に着いたようだ。





「お嬢様はどなたともお会いになりません」



オニキス侯爵邸の前でコニー達を応対したのは、壮年の執事だった。

パトリシアと会いたいと言って即座に返ってきた答えがこれだ。



「私はパティ様と同学年の学友なの」

「お嬢様がお会いになるとは伺っていません」

「しばらくお休みされていて心配なのよ」

「ご心配には及びません。少々お加減がよろしくないですが、問題ございません」

「お見舞いさせていただけないかしら」

「どなたともお会いにならないとのことです」

「……こちらはガーネット公爵子息のアーヴィン様よ」

「申し訳ございませんが、旦那様をお通しください」



厳格そうな執事は頑として動かなかった。

門前払いだ。文字通り、門の前で、取次ぐことなく、追い払われたのだ。取り付く島もない。

公爵令息もいるのに、度胸がある執事である。




「まあ、事前に何も伝えずに来たらねぇ」

「連絡しても、会わせてもらえないわよ。あの態度だと」


馬車を引き返したと見せかけて、コニーは目立たない所で停車させ、歩いて屋敷の周囲を回ることにした。アーヴィンは諦めないコニーに呆れながら、それに付き合って一緒に草むらを歩いている。


オニキス侯爵邸は周囲を屋根にも届きそうな程高い木に覆われている。これは外から中の様子が見えないようにする塀の代わりでもある。ぐるりと周囲を歩いていも、邸の様子を伺うことはできない。


「多分この辺りでいいと思うけど……あの木がいいかしら?」

「……本当にやるの、コニー……?」


アーヴィンの物言いたげな目に、コニーは不敵に笑って応える。



──子どもの頃の木登り経験を生かす時が来た。




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